前回に続いてカードセット「兄弟戦争」の時系列検証を行う。
第2回目は兄弟戦争の正史、小説The Brothers’ Warの後編である。
追記(2022年10月29日):第24章のドラフナについての記述の間違いを訂正し、サルディア山脈のドワーフの反乱を書き足した。
追記(2022年11月21日):第28章で「ハービンの年齢26歳」という記述の見落としを発見。これにより第28章はAR55年に確定した。以上を記述に反映済み。
第3部の時系列情報
小説の第17-29章が第3部である。
第3部はAR29-57年の期間の出来事であり、始まりがAR29年、終わりがAR57年、それぞれその年の出来事を描いている。
ただし、第1部、第2部とは異なって、後半の10年間余りの期間がざっくりと飛ばされている。実はこの範囲には過去のストーリー作品のエピソードがいくつか当て嵌まるのだが、その辺との関りが省かれてしまっているのだ。
では以上を踏まえて、各章ごとに細かく情報を拾って行く。
第17章
年代:AR29年
物語の舞台:ミシュラの工廠(ミシュラ陣営)
p.247 クルーグ陥落から1年。
この1年間ウルザの所在が不明。ミシュラがアシュノッドに独自研究と工房の使用を許可する。
第3部の初めのこの章をAR29年、第2部の最後をAR28年とすると、作中の描写と合致して時系列が破綻無く収まる。クルーグ陥落AR28年が完全確定する。
第18章
年代:AR31年
物語の舞台:ウルザの搭(ウルザ陣営)
p.255 クルーグ陥落3年後、タウノス、カイラ、ハービンがウルザと合流(AR31年)。
p.255, 261 ハービンは陥落の翌年、モンスーンの雷雨の嵐の中、ジョリリン郊外で誕生(AR29年)。現在時点で2歳半。(ハービンの年齢は重要情報。後の章の時系列特定に必須)
p.255 タウノスは逃走生活の2回目の冬に、最初の粘土像2体を製作。
p.260 ウルザがタウノスに箱にしまった沢山のパワーストーンを見せる(後の章の時系列特定に必須)。
第19章
年代:AR30年以降
物語の舞台:コイロスの洞窟(ギックス陣営)
ギックスはコイロスの洞窟内にいて、配下のギックス派を動かして情報を収集している。
p.266 ギックスは兄弟の石の方角を感知できる。2つの石はここ数年(in the past few years)はほとんど動いていない。
ギックスがドミナリアに来てからthe past few years経過したことになる。つまりAR30年以降のいずれかの時点の出来事と考えられる。また、その期間ウルザは塔、ミシュラは工廠(宮廷)から動いていないと確認できる。
第20章
年代:AR29?-32?年
物語の舞台:ミシュラ陣営(アシュノッド)
アシュノッドが人体改造器を開発・実用化。アシュノッド指揮下で、人体改造器とミシュラ製のドラゴン・エンジン、そしてファラジの部隊がコーリスへ侵攻。コーリスはウルザ側から提供されたヨーティアの兵や粘土像を部隊に組み込んで対抗した。
アシュノッドはファラジの部隊の反発にあって敗退。ミシュラに作戦失敗を報告すると、次の任務としてサリンスへの使節として派遣される。
第21章
年代:AR33年夏
物語の舞台:テリシア市(第三の道陣営)
p.279 クルーグ陥落から5年後の夏、テリシア市にロランが到着し、第三の道が創設(AR33年夏)。
p.285 アシュノッドによるサリンスとの高圧的な交渉はすでに決裂した後で、ファラジ・サリンスの戦争が迫る。
p.286 スミファの歌魔導士はまだ中立。
第22章
年代:AR36年
物語の舞台:アルガイヴ(ウルザ陣営)
アルガイヴ・コーリス連合王国が成立。王族の婚礼式典。ウルザが連合王国の最高工匠卿・護国卿になる。
p.294 第18章の「ウルザがタウノスに箱にしまった沢山のパワーストーンを見せる」は5年前の出来事とあるため、AR36年と導き出せる。
第23章
年代:AR36?年
物語の舞台:コイロスの洞窟(ギックス陣営)
ギックスが各勢力の近況報告を受ける。
サリンスの戦争。スミファの歌魔導士はミシュラ陣営に下った。ファラジ帝国はトマクルに遷都する。
前後にある第22章と第24章がAR36年なので、報告自体はおそらく同年中の出来事であるが、報告された各地の状況はより古い可能性がある。
第24章
年代:AR36年
物語の舞台:テリシア市(第三の道陣営)
p.301 ドラフナはラト=ナム大学とテリシア市を行き来していたが、ハーキルは一度もラト=ナムには戻らなかった。
p.301 ロランがテリシア市に来て3年間経過(AR36年)。
p.303 スミファの歌魔導士は同盟の誘いを断り、現在ミシュラ陣営に属している。
第25章
年代:AR43年以前
物語の舞台:ファラジ帝国(タウノス、アシュノッド)
この章の現在時点でタウノスはファラジの捕虜となっている。
アルガイヴ・コーリス連合王国とファラジ帝国との戦いを回想。
【回想ここから】
コーリスの殉教者の虐殺を契機に連合王国の世論は攻勢に傾く。
ファラジのヨーティア占領の凋落が始まって2年の戦いでヨーティア奪還。
トマクルへの進軍。戦闘。この際にタウノス捕虜となる。【回想ここまで】
タウノスはトマクルの牢でアシュノッドの尋問を受ける。アシュノッドの協力でタウノス脱獄。
アシュノッドの裏切りが発覚しミシュラに追放される。アシュノッドはトマクルからテリシア市方面に出発。
ミシュラはギックス派の進言を受けてテリシア市攻撃に動き出す。
第26章
年代:AR43年
物語の舞台:戦場(ウルザ陣営)
逃走するタウノスがウルザと無事に合流する。脱獄してからどれだけ経っているかは不明。
p.327 ハービン14歳(したがってAR43年)。羽ばたき飛行機械の操縦士を希望しているが、これまでウルザは許可しなかった。タウノスとの会話によりウルザの考えに変化の兆しがみられる(以降のいずれかの時点でハービンに許可を出す)。
p.328 ミシュラ軍がテリシア市へ進軍始めたとウルザに報告入る。
第27章
年代:AR43?-44?年
物語の舞台:テリシア市(第三の道陣営)
テリシア市が陥落寸前。
p.329 現時点より1年を超える前に、ファラジ軍がテリシア市圏内に到達し最初の戦いが起こる。領土を荒らしたがテリシア市を落とせず撤退。
p.329 2回目の攻撃は前回の翌年春、ファラジ軍は攻城戦の準備をして再襲来する。
p.330 1回目と2回目の攻撃の冬の間にテリシア市は準備を整えていた。
p.330 包囲状態で何ケ月も続いた。
p.330 現時点で、ハーキルが戦死。象牙の塔の大院長は行方不明。ギックス派が裏切ったことで一気に大勢が変化した。
p.332 ロランはアルガイヴの友人からの手紙で、何か月も前にサルディアのドワーフが反乱を起こしたと知った。ウルザはそれにかかりきりになっていると推測された。
p.334-336 ひと月後、テリシア市を脱出したロランはコルガン山脈でゴーゴスの酒杯ともどもアシュノッドの手中に落ちる。
前章での進軍報告後、同年中にテリシア市にファラジ軍到来とするなら、AR43-44年の出来事となる。進軍が年を跨いだならAR44-45年。ただし後者の場合、テリシア市が戦闘準備する猶予が生まれると考えられるためその線は薄いか。
第27章と第28章の間
年代:AR45?-55?年
物語の舞台:テリシア各所
およそ10年間が小説で詳細が語られていない空白期間になる。
この空白期間とその前後数年を含めた間に、少なくとも以下の出来事が発生している(発生順は不明)。
- サルディアのドワーフ王国の滅亡。
- スミファが廃墟となる(詳細は小説Song of Timeの範疇)。
- 兄弟の攻撃によってラト=ナム大学が廃墟となる(詳細は小説Final Sacrificeの範疇)。
- テリシア大陸西岸地域での戦い(小説Dark Legacyと短編Defenderで言及)。
- アシュノッドがアルマーズに移住。
コミックでのタワリルの裂け谷の戦いに相当する戦闘が実際に発生していたとするなら、その可能性があるのはこの期間中になる。
第28章
年代:AR55年
物語の舞台:アルゴス島
p.337-338 ハービンがアルゴスに漂着。
p.338 ハービンは12年間(a dozen years)、羽ばたき飛行機械操縦士として任務に就いていた。14歳ですぐに操縦士の任務に就いたと仮定すると43+12=55でAR55年。したがって、ハービンのアルゴス到来はAR55年以降でAR57年以内のいずれかの時点となる(任務に就くまでのタイムラグの可能性)。
p.339 ハービンは現在26歳。AR29年誕生なので29+26=55でAR55年と確定。
p.343-344 漂着後5日目、ハービンは羽ばたき飛行機械を応急修理してアルゴスを離陸。(p.343で4日目とありp.344で離陸)
p.344 ハービン離陸から3ケ月後、グウェンナは海岸を監視し続けており、これまでにアルゴスに他の上陸者はいない。
第29章
年代:~AR57年(少なくとも章後半のミシュラ宮廷のシーンはAR57年)
物語の舞台:テリシア各地
p.346 ハービン帰還。ウルザにアルゴスを報告。
p.347 現時点での東方沿岸連合国の国土の荒廃状況。
p.350 トマクルの現状。大気汚染が深刻だがまだ健在。
p.351 アルマーズが内乱状態。
p.352-354 ギックス派がミシュラに重用されており、肉体の機械化について教示すると、ミシュラは側近のハジャルを下がらせて興味深く耳を傾ける(AR57年)。この章より後でミシュラは肉体を機械化する。
第4部の時系列情報
小説の第30-34章が第4部である。
第4部はAR57-63年の期間の出来事であり、始まりは第3部から続いており、AR63年最後の大晦日(12月35日)ぴったりで終わる。
第4部は、第3部後半の10年と同じようにかなり大雑把に時間が飛ばされて進行する。アルゴス島での最終決戦は要点となるエピソードしか語られていない。
各章ごとに細かく情報を拾って行く。
第30章
年代:AR57年~?
物語の舞台:
p.357-358 ギックスは密偵の報告によりウルザのアルゴス発見を把握する。兄弟をアルゴスに集めて始末するために両陣営に虚実織り交ぜた情報を放つ。(前章からの直近の出来事なのでAR57年)
以降の出来事(第30-32章)の発生した年代と期間、順番は曖昧な部分が多く特定にまで至れない。
アルゴス陣営:
p.358 グウェンナらが組織的に海岸を監視。ティタニアの指示で侵略者に対応する体制。
p.359 ハービンとタウノスら連合王国の軍がアルゴスに上陸。すぐに森林伐採開始。
p.360 グウェンナは緊急事態と判断して、中央からの指示が帰ってくるのを待たずに迎撃態勢を整える。
ミシュラ陣営(アシュノッド):
p.361 これまで何年もかけて(many years)、アシュノッドはゴーゴスの酒杯の秘密を解き明かした。現在の住居はスミファの廃墟から離れた所。
p.361-362 トマクルからのニュースをアシュノッドが知る。ウルザのアルゴス発見の報を受けたミシュラがゼゴンで船団を建造中、との旨。3か月以上は古いニュースなので既に出港した可能性がある。アシュノッドはアルマーズからゼゴンに出発。
ウルザ陣営:
p.362-363 ウルザに、ミシュラがアルゴスの情報をつかんだとの報告。この時点で既にアルゴスにタウノスとハービンが向かった後。ウルザ自身もアルゴス行きを決意。
第31章
年代:AR?年
物語の舞台:アルゴス島
ハービンとティタニアの会談。決裂。
アシュノッドのアルゴス上陸。ハジャルからファラジ帝国とティタニアの交渉はすぐに決裂したことを聞く。ミシュラと対面しゴーゴスの酒杯を研究した成果を語るも、興味を持たれなかった。この時ミシュラは機械改造済み。
この1章の中に納まっているため、出来事が続けざまに短期間に発生している印象を抱かせるものの、そうとは限らない。
第32章
年代:AR?~63年12月30日
物語の舞台:アルゴス島
ミシュラ軍はウルザ軍まで7日の位置。
p.389 今から5日後、この年の最後の日が決戦日。
ギックスが最終決戦の直前にコイロスからアルゴスにゲートを開いて瞬間移動。
第33章
年代:AR63年大晦日(12月35日)
物語の舞台:アルゴス島
第32章と第33章の間にプロローグの出来事が発生
大晦日の夜明け前から戦闘開始。
アシュノッドとタウノスの秘密会談。ゴーゴスの酒杯をタウノスに託し、アシュノッドはギックスの襲撃で死亡。
第34章
年代:AR63年大晦日(12月35日)
物語の舞台:アルゴス島
p.395- 最後の日。ウルザとミシュラの決闘からゴーゴスの酒杯起爆まで。終戦。
エピローグの時系列情報
年代:AR64年
物語の舞台:テリシア各所
ギックスの僧侶がコイロスに集結しギックスの片腕を発見。修復。ファイレクシアに去る。
プレインズウォーカーとなったウルザがタウノスの棺を開いてタウノスを蘇生。(小説Planeswalkerでは終戦およそ5年後と記述。矛盾)
さいごに
以上で小説The Brothers’ Warの全範囲をチェック完了した。
兄弟戦争の後半は時間が飛び飛びで進行していて不明瞭な部分が多かった。次回は、他のストーリー作品中で語られた兄弟戦争期のエピソードの時系列と時代を検証することで、不明瞭な空白期間を埋めていくことにする。
では、今回はここまで。
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