カードセット「兄弟戦争」の「注目のストーリー」カードを並べて、ストーリーの流れを初めから結末までを紹介したい。
「その4(最終回)」である本記事では「過去時間軸」編の続きからである。最終決戦の地アルゴス島での戦い、酒杯爆発による終戦、そして戦後を垣間見て「注目のストーリー」終了となる。
※ 本記事での「注目のストーリー」の順番は本サイトの独自の判断で並べたものである。ウィザーズ公式のものではないのであらかじめ注意されたい。
追記(2022年11月21日):カードに抜けがあるとの指摘を頂いた。確認して撃ち落とし(Shoot Down)を追加した。ご指摘に感謝。
追記(2022年12月29日):運命的連携(Fateful Handoff)での戦争最後の日の時系列に関して一部正確でなかったため修正した。
過去時間軸ストーリー
カードセット「兄弟戦争」の過去時間軸の「注目のストーリー」カードは、アンティキティー戦争期から暗黒時代初期に渡る兄弟戦争と戦後の余波を描くものだ。
ほとんどが小説The Brothers’ Warに基づいた名場面であり、小説から努めて忠実に抜き出している。
撃ち落とし
Gwenna stayed her hand only once, to save young Harbin’s life—a mistake she would never repeat.
若きハービンの命を救うため、グウェナはただ一度だけ手を止めた――二度と繰り返さないだろう過ちであった。
引用:撃ち落とし(Shoot Down)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
AR55年、ウルザの息子ハービンがテリシア大陸南東沖の豊かなアルゴス島の存在を発見した。
アルゴス島はテリシア東海岸からすぐ近い位置にあったのだがこれまでは人の目から隠され続けてきたのだ。この海域は今まで常に天候が不順で見通しが利かず、海岸線を離れて沖に出た船は無事では済まなかった。おそらくそれ故にテリシア東南の海は「Shielded Sea」つまり「遮蔽海」と呼ばれていた。
長年(まず間違いなく何世紀も)、こうして誰にも見られず、立ち入ることを許さなかったアルゴスがとうとう見つかってしまったのだ。兄弟戦争でテリシア全土の資源が根こそぎにされ、戦火で破壊されたことで、あるいはアルゴスの自然の化身ティタニアも影響を受けて弱体化し、島を隠していた嵐もまた勢力を減じたのかも知れなかった。1
ハービンはアルゴス島に不時着した際、島の掟を運良くも破ることなく行動したため、飛行機械を修理して無事に帰還できた。グウェナはハービンの第一発見者であり、監視担当者であった。彼女は無益な殺生をすることなく、鳥のようなものでやって来た侵略者(ハービンのこと)が去ったことに安堵した。アルゴスの長老達もグウェナが下した判断を適正なものだったとしたのだが、妙な胸騒ぎが抑えられなかった。そして後にグウェナはハービンを生かして帰したことを後悔することになった。
撃ち落とし(Shoot Down)のフレイバー・テキストはグウェナの失敗と後悔を物語るものだ。ただし、イラストで矢が命中した飛行機械はハービン機ではなく別の機体だ(グウェナは矢を射かけることもなく、ハービンに存在を気付かれることすらなかったのだ)。
荒涼たる収穫
Once the brothers discovered the pristine island of Argoth, the war came down to who could plunder it faster.
兄弟が自然のままのアルゴス島を発見した時点で、戦争はどちらが早くそれを略奪できるかに変わった。
引用:荒涼たる収穫(Wasteful Harvest)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ハービンのもたらした発見の報によって戦場はテリシア本土からアルゴス島に移動することになった。
アルゴスの未着手の豊富な資源を求めて、ウルザとミシュラの両陣営は島に殺到し略奪を始めた。アルゴスの化身で代表であるティタニアとの交渉は両陣営ともに成果を結ばずに決裂した。
荒涼たる収穫(Wasteful Harvest)が描くのはそういった状況下で先を争って収奪する両軍の有様である。イラストでは伐採した木々を運搬するウルザ側の自動機械だ。
森林の目覚め
“We expected the Argothians to stand their ground. We didn’t expect the ground itself to stand.”
–Myrel, Shield of Argive
「アルゴスの地の民が抵抗するのは予測していた。アルゴスの地そのものが抵抗するのは予測していなかった。」
–アルガイヴの盾、ミュレル
引用:森林の目覚め(Awaken the Woods)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
森林の目覚め(Awaken the Woods)は、略奪者に対してティタニアの大地そのものすら抵抗する姿を表現したものだ。
兄弟戦争のアルゴス戦は、カードセット「アンティキティー」と「ウルザズ・サーガ」の各種カード(主に緑)で語られていたが、動く樹木のツリーフォークを始めとして様々な自然の存在が参戦していた。特に休眠エンチャントというメカニズムには、魔法的な力で森や大地から急にクリーチャーが現れるような雰囲気が持たされており、幾分このカードと似てはいるように感じる。
個人的に正直な感想としては、このカードが「注目のストーリー」扱いなのは疑問ではあるが、アルゴスが総力を挙げて激しく抵抗する描写は1枚は必要だったのかもしれない。それならばティタニアやグウェナのような伝説のキャラクターを絡めた場面を選べばいいのにな。
運命的連携
“Get the sylex to Urza at any cost. Tell him to fill it with memories of the land.”
–Ashnod, to Tawnos
「いかなる代償を払ってでも、酒杯をウルザに渡して。彼に伝えるの、それをかの地の記憶で満たしてと。」
–アシュノッドからタウノスへ
引用:運命的連携(Fateful Handoff)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
島の反対側からそれぞれ上陸して、進軍してきた両軍本隊はAR63年最後の日に激突した。これが兄弟戦争の最終決戦であった。
その日の早朝、タウノスとアシュノッドは2人だけの秘密会合を開き、こうなってしまった現状を振り返って語りそれぞれの陣営に戻った。そして最後の戦いの幕が明けると、デーモンが乱入してきた。ファイレクシアの法務官ギックスその人である。
ギックスの能力によって両軍の機械が敵味方のお構いなしに暴走し、殺戮と破壊を始めた。もはやウルザ軍もミシュラ軍もなく、生身の者たちが初めに斃れると、機械同士が互いに攻撃し合っていた。混乱する戦場でタウノスとアシュノッドは何とか合流できたのだが、ギックスに見つかってしまった。
運命的連携(Fateful Handoff)はその緊急事態での出来事だ。
アシュノッドはゴーゴスの酒杯をタウノスの手でウルザに絶対に渡すようにと命じると、彼女のトレードマークで主武器であるゼゴンの杖を握りしめてギックスに単身立ち向かったのだ。酒杯を託されウルザの下に走るタウノスの耳には、アシュノッドとデーモンの戦う声が聞こえた。
小説The Brothers’ Warでは、ここがアシュノッドの最後の出番となる。次にギックスが出てくる場面では、血にまみれており、明言はされていないがアシュノッドの敗北と死を暗示していた。
アシュノッドとタウノスは敵同士のままに何度もすれ違いつつも、わずかな隙間に心を通じ合わせ、そして決して共にあることを許されず死が2人を永遠に引き離した。
……とそう理解していたのだが、カードセット「兄弟戦争」の連載ストーリー、過去時間軸第2回では、アシュノッドは生き延びており、タウノスと再会を果たして2人で学校を開いていたのだ。少なくともそう匂わせる表現がされていた。この展開は随分都合のいい後付けかもしれないけれど、私には救いだと感じられた。
勇壮な対決
“You’ve let yourself grow old, and your light it dimming. Shall we talk one last time, or must I slay you now?”
–Mishra, to Urza
「おまえはその身を老いるに任せた、その光はか細くなった。最後にもう一度話そうか?それとも今、殺したほうがいいか?」
–ミシュラからウルザへ
引用:勇壮な対決(Epic Confrontation)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
勇壮な対決(Epic Confrontation)。ウルザとミシュラは最終決戦の戦場で再会したが、周囲には誰もおらず、兄弟の一騎打ちとなった。
フレイバー・テキストは、小説The Brothers’ Warからの完全な引用である。
陰惨な実現
Mishra was gone–all that remained was a machine wearing his face.
ミシュラは死んだ–残ったのは、彼の顔を着けた機械だけだった。
引用:陰惨な実現(Gruesome Realization)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ウルザは弟への憎悪と愛をマイトストーンの破壊の力として放ち、それを受けたミシュラが谷に落ちていく瞬間、機械化された身体が露わになった。ウルザは本当の弟は機械に取り込まれ既に亡くなってしまっていたのだと悟った。陰惨な実現(Gruesome Realization)はその場面だ。
この時、ウルザの中で本当の力が目覚めに気付いた。プレインズウォーカーの灯が点されかけていたのだ。
と、そこにタウノスがやって来た。
ウルザの酒杯
タウノスはウルザの下まで辿り着いた。そしてウルザに語った。ファイレクシアのデーモンがいたこと、アシュノッドに託された酒杯を渡し土地の記憶でそれをみたせと言われたことを。ウルザは大地や酒杯の声が聞こえているかのように感じた。
ウルザの酒杯(Urza’s Sylex)は、このとき彼が手にしたゴーゴスの酒杯である。
ウルザはすぐさまタウノスを退避させた。身を守れる避難所にすぐにときつく命令した。タウノスが去ると、ミシュラが落ちた谷間から機械の駆動音が響き、接近してきた。その正体はドラゴン・エンジンの頭部に、自分の下半身を融合させた機械の弟の異形の姿だ。
ウルザはゴーゴスの酒杯を起爆させた。
多元宇宙と共に
酒杯の爆発は、アルゴス島を吹き飛ばし、圧倒的な暴力に世界は悲鳴を上げた。ウルザ自身も酒杯の放つ力に呑まれ、兄弟の2つの石はウルザの両目に嵌り込むと、灯が点火しプレインズウォーカーに覚醒した。神のごときの能力への目覚めが、酒杯爆発からウルザを生き残らせた。
多元宇宙と共に(One with the Multiverse)はウルザの点火を表現するものだ。
カードセット「兄弟戦争」の連載ストーリー過去時間軸第5回では、この灯の点火の瞬間に、ウルザはいつともどことも知れぬところにおいてタイムトラベルしたテフェリーと対面し会話を行った。テフェリーはウルザがファイレクシアと戦い続ける未来を告げ、酒杯を起動させた瞬間について尋ねた。ウルザがこの会話を覚えていられるのか問うと、テフェリーは記憶に残らないだろうと答えた。
プレインズウォーカーの灯がウルザを完全に新たな存在に作り変えると元の時間が動き出した。
停滞の棺
Tawnos built it to be absolutely impermeable to any force inside. Luckily it worked for any force outside as well.
タウノスは、中に入れたどんな力も絶対に染み出ないようにこの棺を作った。幸いなことに、それは棺の外の力に対しても有効だった。
引用:停滞の棺(The Stasis Coffin)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
停滞の棺(The Stasis Coffin)はタウノスの造った機械だ。
タウノスは、ミシュラを無害化して拘束するためにこの棺を制作した。事ここに至っても尚、ウルザは弟を殺すことはできないだろう、と先読みして設計した装置であった。
酒杯爆発の際、タウノスはこの棺の中に自分で潜り込み破壊から身を守ったのだった。
このカード自体はカードセット「アンティキティー」収録のTawnos’s Coffinと設定上は同じものであり、ストーリー作品の描写に沿うようにリデザインした最新バージョンである。
災厄の痕跡
The sylex’s blast had razed the land, leaving behind only snow and sorrow. Urza stood alone in the sudden silence.
酒杯の爆風は大地を滅ぼし、ただ雪と悲しみだけが残った。突然の静寂の中、ウルザはひとり佇んでいた。
引用:災厄の痕跡(Calamity’s Wake)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
災厄の痕跡(Calamity’s Wake)は酒杯爆発により破壊された世界を描くものだ。
イラストは、プレインズウォーカーのウルザが荒廃したドミナリアでタウノスの棺の前に居る。フレイバー・テキストは爆発直後のウルザを語るものだ。
各種ストーリー作品を整理すると、ウルザがタウノスの棺を発見して開き、蘇生させるのは爆破から5年後のAR69年になる。したがって、爆破直後に棺の前にウルザがいるこのカードの状況はストーリーとは異なるものとなるため、象徴的に描いたカードということになる。
ウルザはタウノスと短く会話すると、多元宇宙へと旅立っていった。2人の会話は小説The Brothers’ Warにあるが、カードセット「兄弟戦争」の連載ストーリー過去時間軸第5回ではほぼ引用という形で再話されている。
カイラの再建
Anyone can destroy a continent. Few have the vision to rebuild one.
大陸を破壊するのは誰にでもできる。だが、再建の構想を有する者はわずかだ。
引用:カイラの再建(Kayla’s Reconstruction)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
カイラの再建(Kayla’s Reconstruction)は、戦後のアルガイヴ首都ペンレゴンの復興に尽力するカイラ・ビン=クルーグを示したものである。生還したタウノスも協力したのだった。
この時期のカイラについてはこれまでは漠然とした情報の断片があったのみだった。けれど、カードセット「兄弟戦争」では、連載ストーリー過去時間軸の第1回と第2回において具体的かつ詳細に初めて語られることになった。
兄弟戦争はすでに起こった過去の物語であった。そのために、戦後は魔術や工匠術が弾圧される暗黒時代となり、ドミナリア全体が氷河に閉ざされたおよそ2500年間の氷河期へと繋がり、世界中の多くの文明や血脈が断たれ滅んでしまうと決定している。ペンレゴンもヨーティアも再興することなく滅ぶのだ。
にも拘わらず、カイラの再建のカードには、前を向いて進もうという決意と意志がある。カードセットのストーリー終着点にここを選んだのは正解だったろう。近年の現実世界を思うに、戦争の災禍や暗い世界情勢でお終いにするのは生々しくて重い。カードゲームくらいは輝きを見せて欲しいのだ。
さいごに
これにて「注目のストーリー」全カード分を取り上げ完了である。最後までお付き合いいただき感謝する。
では、今回はここまで。
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