ドミナリア史:レギオンの検証

スポンサーリンク

「オタリア・サーガ」の時系列検証、第2回目は小説Legionsである。

小説Legionsは同名のカードセット「レギオン」に対応する作品であり、オタリア・サーガ後半のオンスロート・ブロックの真ん中の時期を扱う物語である。

前回記事はこちらに。

ドミナリア史:スカージの検証
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のオタリア・サーガについて、時系列情報を調査して年表作成を行う。第1回目は、カードセット「スカージ」を小説Scourgeをベースに検証する。

追記(2023年3月26日):地名和訳を変更した。「エローシャ」→「エローシア」に。

追記(2023年4月4日):一部の誤記を修正した。

追記(2023年6月22日):オタリア・サーガは全体で「5年間」ではなく「6年にわたる」との旨への変更など一部記述を修正した。

小説Legionsの検証

フェイジ(左)VSアクローマ(右)

小説Legionsは少々時系列の読み解きに困難が伴う。しかし、十分に妥当な範囲内で整合性が取れた解釈が可能である。

小説Legionsの時系列検証では、全体の長さがなるべく短くなるように計算をした。前回検証した小説Scourgeと違って、本作はきっちり何か月間と確定できる書き方になっていない。しかし、オデッセイ・ブロックとオンスロート・ブロックはAR4305年からAR4310年の6年にわたるので、この枠内に上手く全部を収めるには短く計算せざるを得ないのである。

また、前回の小説Scourgeの回とは記事の構成が異なっていることに留意されたい。本記事では初めに各章ごとの検証を済ませた後に、全体を通した流れを見ることになる。

※ 検証の過程が前回よりも複雑なため、物語の詳しい内容にはほとんど今回は触れられなかったことをあらかじめ断っておく。



時系列表の表記法

悪夢戦争の終戦を起点とし「0」と置く。終戦の翌日からを「戦後1か月目」とし、アルガイヴ暦の1か月すなわち5週で全35日が経過するごとに「2か月目」、「3か月目」……と小説のお終いまで続ける。

例えば、作中で「悪夢戦争から2か月が経過した」と表現されていた場合は、本記事では「(戦後)3か月目」と書くことになる。

この月の区切りは、ドミナリアの実際のアルガイヴ暦とは関係はない。本記事では、悪夢戦争終戦を「0」に仮定して置いているが、実際の悪夢戦争がAR何年何月何日と定まったならば、その分だけ時系列を補正する必要が出てくる。

検証の三分割

本記事では、小説Legionsを前半・中盤・後半の3つに分割して検証を行った。

前半は「第1章から第8章」となる。悪夢戦争の終結から、聖域に主要登場人物が一堂に会する第8章まで、である。

中盤は「第9章から第26章」となり小説の半分以上を占める。フェイジの妊娠期間を示すもので、妊娠から出産までの全18章だ。

後半は「第27章から第31章」だ。フェイジの出産後の最後の戦いと、魔法の化身カローナの再誕という作品の結末までが含まれる。

前半検証:第1章から第8章

怒りの天使アクローマ(Akroma, Angel of Wrath)

怒りの天使アクローマ(Akroma, Angel of Wrath)
データベースGathererより引用

第5章の検証

第5章の聖域の場面:
開店した金ピカ魔道士の酒場では、友人とビールを飲むザゴルカが、働き詰めだったこの6か月間は茶で十分だったけれど今日の労いの酒は格別だ、との旨の思いを抱いている。したがって「戦後7か月目」だと分かる。また、この時点でフェイジは聖域に移住済みであった。

第5章のトポスの場面:
こちらに視線を移すと、ブレイズの治療に4か月かかったとある。第2章でブレイズがアクローマに保護された時に戦後2か月が経過していたことから、完治時点で「戦後7か月目」と考えられる。

したがって、この第5章は全て「戦後7か月目」と定まる。

第7章の検証

第7章の大闘技場の場面:
大闘技場からフェイジが去って2か月、ザゴルカが去って8か月が経過したと書かれている。前者は、フェイジが聖域に旅立った時点を指す。後者は、ザゴルカを含む陰謀団軍が大闘技場からトポスに出陣した時のことで、悪夢戦争より当然前の出来事である。

大闘技場からの移動距離を考える。小説三部作を通して聖域よりもトポスの方が遠いような描写が散見されるが、それは聖域のあるコーリアン断崖から北東の砂漠にトポスが位置するので、大闘技場から一旦北西にある聖域を中間地点として利用すると遠くなってしまうのが理由だ。しかし、ザゴルカの出陣は聖域発見前であるため大闘技場からわざわざコーリアン断崖を経由する理由が無く、そのまま砂漠を北進してトポスを目指したと考えられ、これで移動時間が短縮される。

ここではフェイジとザゴルカの目的地までの移動時間を大体同じ1か月間としておく(他の部分との兼ね合いでも1か月が丁度いい)。すると、第7章の大闘技場の場面は「戦後8か月目」と置ける。

同時に以下の時系列も特定できる。

第2章の大闘技場の場面:
フェイジの出発を描いた第2章の大闘技場の場面は「戦後6か月目」となる。

第4章の聖域の場面:
第4章最後でフェイジは聖域に到着するが、これは「戦後7か月目」と導き出される。第5章の酒場の場面より少し前の出来事に置くこととなる。

小説Onslaughtの陰謀団軍出陣:
陰謀団軍(ザゴルカ)の出陣は前作の小説Onslaughtの範疇になるが、これは「戦争の1か月前」になる計算だ。

第8章の検証

第8章の聖域の場面:
第8章の聖域の場面では、フェイジ、ザゴルカ、アクローマ、ストーンブラウが一堂に会し、4人の時系列が一旦揃えられる。

フェイジの昇降機の建設期間が最低でも2か月間であることが読み取れるが、フェイジは聖域到着直後から建設を進めてきたと考えて、この第8章を最速の「戦後9か月目」と置くことにする。同第8章冒頭には短いトポスの場面があるが、アクローマが聖域に移動する前として同じ「9か月目」としておく。

これで第1章から第8章までは「悪夢戦争から9か月目」の期間と定められた。

前半部残りの検証

クローサの英雄、ストーンブラウ(Stonebrow, Krosan Hero)

クローサの英雄、ストーンブラウ(Stonebrow, Krosan Hero)
データベースGathererより引用

第8章までで、まだ検証していない残りの場面の時系列を検証していこう。

第3章の聖域の場面:
この3か月間かけての聖域での初収穫との旨が記されているため、「戦争4か月目」である。

第3章のストーンブラウの場面:
同第3章には他に、クローサに帰ったストーンブラウが3か月間滞在した後にカマールと対話して見限り、聖域に戻る場面がある。

第5章(7か月目)で、ストーンブラウが聖域に到着していることから、移動時間に1か月間以上はかかると見積もって「2か月目から5か月目」の期間内の3か月間と推定した。

第7章の聖域の場面:
第7章の聖域は、前後で第4章(7か月目)と第8章(9か月目)に挟まれており、この期間内ならいつでも成り立つ。

残っているトポスの場面:
これで埋まってないのは第4章、第6章、第7章のトポス関係だ。第4章で、アンマンのアンブラがアクローマから裏切りアンマン2人組の捜索を命じられる。第6章時点で、アンブラは実りない捜査に数か月を費やしており、トポスの宮殿内でポータルを発見して2人組を追ってエローシアに移動し、第7章はその続きとなるエローシアのドタバタとなる。

つまり、第4章のトポスが「3か月目から7か月目までのいつか」、第6章のトポスは「その数か月後で9か月目までのいつか」、第7章のエローシアは第6章からの続き、となる。

第6章以降を揃える

検証結果の先出しになるが、第9章以降は「同じ章はほぼ同時期に発生する出来事」と解釈して破綻なく収まっている。

小説前半部は、場面ごとに時間の進み方が大分バラけていたのだが、作品全体ではそうではないのだ。同じ章の内容は同じ時期の出来事であった方が自然だと私は感じるので、できれば前半部でも揃えたいものだ。

そこで見直すと、第7章の各場面は現状で、大闘技場が「8か月目」、聖域が「7か月目から9か月目のいつか」、エローシアが「9か月目までのいつか」と検証できているが、全て「8か月目」にきれいに揃えてはどうだろうか。そう置いてみると、第9章のエローシアの場面と諸々の時系列が上手くハマるのである。個人的な好みを差し込んでしまうが、第7章は全て「8か月目」の出来事と揃えてよさそうだと判断した。

とすると、第7章の直前の第6章も同じ「8か月目」と置けるので、第4章は「3か月目から6か月目のいつか」となった。

前半検証の結果

以上で、小説前半「第1章から第8章」の時系列検証は完了だ。

第1章:終戦
第2章:トポス(3か月目)、大闘技場(6か月目)
第3章:聖域(4か月目)、ストーンブラウの行動(2か月目から5か月目の内の3か月間)
第4章:トポス(3か月目から6か月目のいつか)、聖域(7か月目)
第5章:7か月目
第6-7章:8か月目
第8章:9か月目



中盤検証:第9章から第26章

触れられざる者フェイジ(Phage the Untouchable)

触れられざる者フェイジ(Phage the Untouchable)
データベースGathererより引用

中盤の検証範囲は、フェイジの妊娠から出産までの11か月間である。フェイジとザ・ファーストが結ばれ子を宿したのは「第10章」で、出産は「第26章」である。

検証は以下の手順で行っていく。

  • ステップ1:妊娠が「戦後何か月目か」を特定する。
  • ステップ2:「妊娠何か月」という記述を拾って、各章を時系列に並べていく。
  • ステップ3:時系列を基準にその章からどれだけ前あるいは後かが読み取れる記述を拾って、時系列に加える。この手順を可能な限り繰り返す。

ステップ1

フェイジの妊娠が語られた第10章が「戦後何か月目か」を特定する。

フェイジが大闘技場に到着し妊娠した第10章において、ストーンブラウは慎重に移動して1か月かけてトポスに到着した、との旨の記述がある。フェイジとストーンブラウは第8章において同時に聖域を出発していることから、第8章(9か月目)の1か月後で第10章は「戦後10か月目」となる。

第9章では聖域の場面で、フェイジが出発してから1か月と記されており、第9章と第10章は同時期の「戦後10か月目」になる。

備考:
「フェイジは聖域から大闘技場までの移動に1か月かかる」と考えるのがかなりもっともらしいと分かるので、前半部の第7章の検証において「フェイジとザゴルカの目的地までの移動時間を大体同じ1か月間」と仮定したのはそのまま受け入れられる。

ステップ2

「妊娠何か月(N months pregnat)」という記述を拾って、各章を時系列に並べていく。

拾えた記述は以下の通り。第15章:妊娠4か月、第17章:5か月、第22章:9か月、第25章:11か月、第26章:11か月・出産

注意:
第15章で、フェイジが「妊娠4か月(four months pregnant)」と書かれると同時に、ザ・ファーストが「4か月間(For four months)」フェイジの殺害を試み続けていると記されている。このことから、作中の「妊娠Nか月(N months pregnat)」という表記は、「第10章からNか月経過」と同義だと分かる(第10章を、妊娠1か月「目」と数え初めるのではない、ということ)。
第9-10章:10か月目(妊娠)
第15章:14か月目(妊娠4か月)
第17章:15か月目(妊娠5か月)
第22章:19か月目(妊娠9か月)
第25-26章:21か月目(妊娠11か月・出産)

一旦まとめると現時点でこうなる

ステップ3

陰謀団の総帥(Cabal Patriarch)

陰謀団の総帥(Cabal Patriarch)
データベースGathererより引用

ステップ2の時系列を基準として各章を検証する。章からどれだけ前あるいは後かが読み取れる記述を拾って、時系列表へと書き加える。この手順を可能な限り繰り返す。

第11章の検証

第11章のエローシアの場面では、第9章の出来事から1か月経過と読み取れるので、「戦後11か月目(妊娠1か月)」となる。

ここでエローシアからのアンマンたちの時系列を振り返ると、第9章は第7章から2か月間が経ったとの内容が認められるため、第7章(8か月目)、第9章(10か月目)、第11章(11か月目)と整合性が取れていると確認できる。前半部検証において「検証結果の先出し」として第7章を「8か月目」に揃えた裏付けがこれで取れた。

第12章の検証

第12章には、フェイジとザ・ファーストは2か月共に大闘技場で暮らしている旨があるので、「戦後12か月目(妊娠2か月)」だ。

第13、14、16、17章の検証

第13章では、トポス軍による聖域に対する包囲戦は2か月間続いていると確認できる。包囲戦は第11章から開始されたので、第13章は「戦後13か月目(妊娠3か月)」だ。

第15章は14か月目(妊娠4か月)であるが、フェイジとアンマン3人の対戦は先月の出来事と記されている。つまり、その対戦が発生した第14章が「13か月目(妊娠3か月)」となる。

第13章と第14章のトポスの場面は連続していることから、第13章は第14章と同じ「13か月目(妊娠3か月)」で破綻はない。

また、第14章では、トポスにてアクローマが「無限靴箱」に突入している。アクローマが消息不明となって、第16章は2か月経過との旨が確認できるので、第16章は第17章と同時期の「15か月目(妊娠5か月)」になる。

第18章の検証

第18章は、第17章の最後の出来事からたった2日後から始まるが、それから時間が進み、アクローマが消息不明になってから3か月近くになるとの記述が出てくる。第18章は「15か月目(妊娠5か月)」以内に収まるものの、最後は「16か月目(妊娠6か月)」の直前になると考えられる。

第19、20章の検証

大闘技場(Grand Coliseum)

大闘技場(Grand Coliseum)
データベースGathererより引用

第19章では、聖域からストーンブラウが去って1か月とある。ストーンブラウが去ったのは、第18章での「アクローマが消息不明になってから3か月近くになる」という記述よりも後に起こっているので、「16か月目(妊娠6か月)」のほとんどはストーンブラウが去ってからの1か月間としてほとんど消費されたはずだ。第19章の出来事は「戦後16か月目から17か月目(妊娠6-7か月)」に発生している幅を取るのが無難だ。

第20章では、第17章の最後でブレイズを誘拐したアンマン3人組が大闘技場に到着する。移動には少なくとも1か月はかかっていると読めるが、イクシドール信者として洗脳されたブレイズの扱いに難儀しての旅であった。そして、この章の最後のアクローマの場面は明確に第19章の後の場面である。以上を考慮に入れて、第19章と同じように「戦後16か月目から17か月目(妊娠6-7か月)」に発生している幅を取って置けば問題はない。

第19章と第20章の多くの出来事がほぼ同時期に発生しているものの、一番最後に発生した場面は第20章の最後のパートだ。

第21、22章の検証

第21章では、ストーンブラウが第19章のトポスのローカス宮殿を発ってからの長い旅路で十分に考える時間を持てたとの旨の表現がされて、聖域から東に向かう難民団に遭遇したりなどして、最後にようやく聖域に戻っている。移動時間も込みで「戦後18か月目(妊娠8か月)」の出来事と置くのがよいだろう。

第22章(戦後19か月目)で、フェイジは聖域に到着し休息に入った。続く第23章は、フェイジは丸1か月間休息したと記されているため、「戦後20か月目(妊娠10か月)」となる。

第21章と第22章を見比べると、フェイジがトポスから聖域まで帰還するまでにほぼ同時に出発したストーンブラウよりも大分時間がかかっているが、身重の上に重傷を負った状態でイクシドール信者から身を隠しながらの移動だったためである。

第24章の検証

第24章ではフェイジは聖域から大闘技場に出発している。上記の検証で、フェイジは聖域から大闘技場までの移動に1か月がかかっている。とすると第24章は移動時間を考慮して、第23章と同じ「戦後10か月目(妊娠10か月)」と置くことになる。

中盤検証の結果

以上で、小説中盤「第9章から第26章」の時系列検証は完了だ。

第9-10章:10か月目(妊娠)
第11章:11か月目(妊娠1か月)
第12章:12か月目(妊娠2か月)
第13-14章:13か月目(妊娠3か月)
第15章:14か月目(妊娠4か月)
第16-18章:15か月目(妊娠5か月)
第19-20章:16-17か月目(妊娠6-7か月)
第21章:18か月目(妊娠8か月)
第22章:19か月目(妊娠9か月)
第23-24章:20か月目(妊娠10か月)
第25-26章:21か月目(妊娠11か月・出産)

後半検証:第27章から第31章

カマールのドルイド的誓約(Kamahl's Druidic Vow)

カマールのドルイド的誓約(Kamahl’s Druidic Vow)
データベースGathererより引用

第27章から最終第31章までは最後の決戦という大きなストーリーの流れでまとまっている。各陣営の軍がアヴェルー市(聖域)に集結して戦い、ドミナリアの魔法の化身カローナの予期せぬ再誕という結末を迎える。

アヴェルー市に集結して戦闘が開始されるまでは、各陣営の時間の進み方にはバラツキが見られはするとはいえ、第27章から第31章までをひと纏まりに捉えると特に混乱するほどではない。

第27章から第31章の検証

検証は、フェイジと彼女が出産した神霊クベールの動きを読み取ることで、結末までの概ねの時間が把握できる。

第27章では赤子状態のクベールが週末までに軍を編成せよと命じている。第28章ではクベールは誕生から経った数日しか経っていないが、同章後半では聖域の北側にアクローマ軍、南側にフェイジ軍が到着している。第28章中で進軍する時間(フェイジの移動は1か月かかる)が経過して、次の月に切り替わっているはずだ。

第29章から最終第31章は聖域を戦場とした戦争を描いている。

第28章から程なく開戦とすると、「悪夢戦争の戦後22か月目」に第28章後半から最終第31章までが発生して、カローナの再誕で本書は終幕となる。

第27-31章:21-22か月目



小説Legionsのノイズの除去

以上で小説Legions全体の時系列を通して確認し終えたのだけれど、これで完了ではない。

小説Legionsには、時系列を混乱させる2つの矛盾した記述、いわば時系列の「ノイズ」が存在しているのだ。これまでの検証過程ではその「ノイズ」を敢えて無視してきた。

時系列検証の最終段階として、この「ノイズ」情報を解消する。整合性の取れない時系列記述をなんとか解釈して問題解決するのだ。

ノイズその1:「3年間」発言

怒りの天使アクローマ(Akroma, Angel of Wrath)

怒りの天使アクローマ(Akroma, Angel of Wrath)
データベースGathererより引用

We’ve been your neighbors these three long years, and yet only now do we get the chance to be neighborly.
私たちはこの3年間の長きにわたって隣人同士でしたが、今ようやく隣人としての自覚を持つ機会を得られたのです。
引用:小説Legions第13章、下は私家訳

これはアクローマの発言の一部である。

イクシドール不在の国トポスは、アクローマが代理統治者となって立て直された。アクローマは悪夢戦争の終結後にオタリア大陸中の諸勢力と友好関係を結び、陰謀団とは大陸を二分する対抗勢力にまでなったのである。

第13章において、アクローマはトポスのローカス宮殿に同盟勢力の指導者たちを招いて歓迎の宴を催した。そこで上記の「この3年間の長きにわたって」という発言が出てくるのだ。

「3年間」発言の問題点

アクローマの「3年間」発言によれば、隣人関係が3年間も続いているとの含みであるが、これはおかしい。

トポスとの同盟が3年間になると読んでも、トポスが創造されてから3年経過したと読んでも、どちらも成り立たないからだ。

トポスの同盟は悪夢戦争後からでせいぜい1年程度の繋がりに過ぎず、「3年」はどう見ても長すぎる。そもそも、イクシドールがトポスを創造してすらまだ3年も経っていないのだ。

仮に、トポスが3年前に創造されたとしよう。小説Onslaughtでイクシドールがトポスを創りそれから2年が経過し悪夢戦争で、戦後の小説Legions第17章でここまで1年で合計3年だ。小説Legionsはこのあと半年ほどあって、続編の小説Scourgeは全13か月が加わると、オンスロート・ブロックは全部合わせて4年半となる。そして、これの前にオデッセイ・ブロックのストーリーが上乗せされて……オタリア・サーガの6年間を軽く超えてしまうのだ。

どうやっても「この3年間の長きにわたって」発言は辻褄が合わせられないのである。あるいは小説Scourgeでのカーンの「カマールと共にあるミラーリを通して『5年間』見てきた(すなわち、オタリア・サーガは6年にわたることを意味する)」発言の方を捨てて、こちらを取ってオタリア・サーガを10年近くに引き延ばすしかなくなるだろう。1

ノイズその2:「1年前の戦争」

クローサの英雄、ストーンブラウ(Stonebrow, Krosan Hero)

クローサの英雄、ストーンブラウ(Stonebrow, Krosan Hero)
データベースGathererより引用

A year before, they had fled the Nightmare War and sought sanctuary. Now, their Sanctum was spewing them forth.
1年前、人々は悪夢戦争を逃れて、聖なる避難所を求めた。今、聖域は人々を放り出したのだ。
引用:小説Legions第21章、下は私家訳

こちらはストーンブラウのモノローグである。

コーリアン断崖の「聖域」は神霊アヴェルーの転生体として覚醒し、住人たちは再び住む場所を追われた難民となってしまった。ストーンブラウは砂漠を東に進む難民団と出会って、聖域の始まりを想起したのである。

「1年前の戦争」の問題点

ストーンブラウが悪夢戦争を1年前と表現した。その問題点は、第21章時点で戦争から1年では短すぎることだ。

本記事での私の検証では、第21章は「戦後18か月目」つまり「1年半」である。これは小説Legionsの期間を「全体の長さがなるべく短くなるように計算」するという基本方針の上で出した数値なので、1年半よりもっと多く2年近く経過していると読むことだって十分にできる。

それに加えて、上述したノイズその1の「3年間」発言が上乗せされて滅茶苦茶になるのだ。読者が第17章の方を「戦後の同盟関係が3年になる」と受け取って読んでいたとすると、第21章で「実は戦後1年しか経っていない」と出てくるのだから(2年過去にタイムスリップしたぞ!?)。

ノイズを除去する解釈方法

では、ノイズの存在と問題点を確認できたので問題を解消してしまおう。

「3年間」発言の解釈

アクローマの祝福(Akroma's Blessing)

僧侶たちにとって、彼女は神からの贈り物だった。彼女にとって、彼らはフェイジと戦うための戦力でしかなかった。
アクローマの祝福(Akroma’s Blessing)
データベースGathererより引用

まずアクローマの「この3年間の長きにわたって」発言であるが、これは「アクローマの嘘」だ。同盟勢力の指導者たちを前にして、ぬけぬけと虚偽の歴史を語っているのである。

実のところ、アクローマが構築したイクシドール陣営の同盟関係とは健全にはほど遠いものだ。

イクシドールは悪夢戦争時の戦力として「使徒(disciple)」と呼ばれる青白く光る小さな鬼火のようなクリーチャーを沢山創り出した。イクシドールの使徒には、思考探査などの能力が備わっていた。

戦後にアクローマは使徒を別の用途に利用した。大陸中に使徒を放って、人々の精神に幻視を植えつけるなどして洗脳しイクシドール信者に変えていったのである。小説の主要登場人物でも、ブレイズとストーンブラウのように使徒の洗脳を受けて一時期イクシドール信者になっていた者もいるほどだ。

第17章のローカス宮殿で歓待されていた指導者たちも、同様に使徒の洗脳の影響下にあると考えておかしくはない。アクローマが嘘を吐いてもそれに気付けないか、嘘の違和感を流してしまうのだ。

という状況であるから、アクローマは指導者たちに対して実際よりにも長い隣人関係にあると虚偽のイメージを植えつけ、より堅固な同盟関係にあると信じ込ませたのだ。

洗脳を背景にしたアクローマの嘘」これが「3年間」発言に対する私の解釈だ。

「1年前の戦争」の解釈

次がストーンブラウの悪夢戦争が1年前と言うモノローグの件だ。こちらは「悪夢戦争は去年」と解釈する。

第21章は本記事での検証では「戦後1年半」と導き出せている。悪夢戦争が「去年」の出来事だったならば、「1年半前」の出来事でも少し大雑把に「1年前」と表現したとしても、ぎりぎり許容範囲内になるだろう。

「1年前の戦争」の解釈の検証

以上の解釈を踏まえると、第21章はその年の7月から12月のどこかで、悪夢戦争は前年の1月から6月のどこかに置くのがベストである。

果たしてオタリア・サーガ5年間内にそれを成立させることは可能なのだろうか?

前回の検証で、小説Scourgeは「AR4309年からAR4310年にかけての13か月間」の出来事であると確定している。では、仮にAR4309年12月初めからAR4310年12月いっぱいまでと置いてみる。

本記事の時系列検証結果を当てはめて、小説Legionsの22か月分はAR4308年2月初めからAR4309年11月いっぱいまでにはめ込むことが可能だ。

これで悪夢戦争はAR4308年1月中の出来事になり、第21章はAR4309年7月になる。

なんと!驚くことにレギオンとスカージが年表内に整合性を保ったまま収まってしまった!?



レギオンの時系列検証のまとめ

カードセット「レギオン」を小説Legionsをベースに時系列を詳細に検証した。基本方針として、全体をなるべく短い期間内に収めることを目指した。

その結果、小説Legionsは悪夢戦争の終戦から22か月目までの期間の物語であり、その間の月ごとにどの章が対応しているかまでかなりの確度で見当をつけることができた。

悪夢戦争の終戦を「0」と置き、戦後何か月目になるのか、そしてフェイジの妊娠期間が何か月になるのかを以下の時系列表にまとめた。

第1章:終戦
第2章:トポス(3か月目)、大闘技場(6か月目)
第3章:聖域(4か月目)、ストーンブラウの行動(2か月目から5か月目の内の3か月間)
第4章:トポス(3か月目から6か月目のいつか)、聖域(7か月目)
第5章:7か月目
第6-7章:8か月目
第8章:9か月目
第9-10章:10か月目(妊娠)
第11章:11か月目(妊娠1か月)
第12章:12か月目(妊娠2か月)
第13-14章:13か月目(妊娠3か月)
第15章:14か月目(妊娠4か月)
第16-18章:15か月目(妊娠5か月)
第19-20章:16-17か月目(妊娠6-7か月)
第21章:18か月目(妊娠8か月)
第22章:19か月目(妊娠9か月)
第23-24章:20か月目(妊娠10か月)
第25-26章:21か月目(妊娠11か月・出産)
第27-31章:21-22か月目

小説内で矛盾する時系列情報であるノイズには、本サイト独自の解釈を示して整合性を持たせることができた。

ノイズを除去する過程で、レギオンとスカージの発生時期を特定できた。

AR4308年1月:悪夢戦争

AR4308年2月からAR4309年11月:カードセット「レギオン」(小説Legionsの22か月間)

AR4309年12月からAR4310年12月:カードセット「スカージ」(小説Scourgeの13か月間)

さいごに

以上でオタリア・サーガの時系列検証の2回目、小説Legionsの検証を終了する。検証作業で終わってしまい、詳しい物語やキャラクターに触れられなかったのが残念だ。

本記事は取りあえずの暫定公開とする。

オタリア・サーガの時系列検証の関連記事

ドミナリア史:スカージの検証
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のオタリア・サーガについて、時系列情報を調査して年表作成を行う。第1回目は、カードセット「スカージ」を小説Scourgeをベースに検証する。
  1. 別々の作者が小説を書いて矛盾が生まれたのならまだ事情が分かるのだけれど、小説Onslaught小説Legions小説Scourgeもオンスロート・ブロック小説三部作は同じJ・ロバート・キング(J. Robert King)が書いているんだよなぁ……。