西方荒野(Western Wastes)と長城(Great Wall)はドミナリア次元の地名である。
小説Jeditで登場した場所であるが、長城の方はカードセット「レジェンド」収録のエンチャント・カード「Great Wall」が基になっている。
西方荒野と長城
西方荒野(Western Wastes)と長城(Great Wall)はドミナリア次元西ジャムーラ亜大陸の南方の地名である。
どちらも2022年7月現在で地図上の位置が不確定であるが、本サイトでは西ジャムーラ亜大陸の南西端一帯を占める砂漠が「西方荒野」であり、この砂漠と針葉樹林帯アルボリア(Arboria)との境界線が「長城」である、と考えている(そう考える理由と考察は別記事で)。
西方荒野の解説
西方荒野(Western Wastes)は人を寄せ付けない一面の不毛の大地だ。
この地では、生命を育める川とその2、3マイル以内を除けば、どこを見ても砕けた頁岩1の丘や、橙色の砂の曲がりくねって崩れた小峡谷2やらばかりだ。潅木すらほとんどなく、羊や山羊の食む草がない。つまり、水も緑もなく、動物もおらず、その上、鉄や宝石も採れず、何も見るべきものはない土地なのだ。
西方荒野に足を踏み入れる者などまずいない。遊牧民は、登攀不能な崖が西への道を阻んでいるとの古代の伝説を信じており、この地を不吉な場所と見做して敬遠している。この伝説の崖の正体が長城である。
長城の解説
長城(Great Wall)は西方荒野とアルボリア(Arboria)の境界線となる人工的な断崖である。長城の下の砂漠が西方荒野で、登った上の大地がアルボリアの森である。
長城は200フィートを越える高さ(数百フィートとの記述もある)にそびえ立ち、北から南に西方荒野を取り巻くように見渡す限り何マイルも続いている。長城の上のアルボリアの森は遠目では緑の苔のような層に見える。
近づけば長城は、自然の断崖ではない人工の石積みの建造物だと判明する。壁には所々薄らと白く雪が積もっている。カードの「Great Wall」のイラストと全く同じだ。
長城は完全な垂直に切り立っているわけではなく、大きな石の塊が段ごとにわずかに奥にずらされ、いくぶん傾斜をつけて積まれている。積み重ねた石の塊は、黒い筋の入った花崗岩で、差し渡し19アームスパン3を越える大きさがある。
登攀不能な壁
長城は伝説でも語られるように、到底普通の手段では登攀できるものではないようだ。これはカードの「Great Wall」が持つ「平地渡りを無効化する」機能を反映した設定であろう。
ロバラン傭兵団は宿敵ヨハン(Johan)を追跡して西方荒野を旅してきたが、ヨハン一行の痕跡はこの長城のところで消失してしまった。一行がどうやって超えて行ったかは不明だが、何らかの魔法かグライダーのような飛行機械を用いたのではないかと推測された。
ロバラン傭兵団の方は、ここまで同行してきた協力者ハゼゾン・タマル(Hazezon Tamar)の魔法に頼ることになった。ハゼゾン・タマルの転移(Shifting)は、ロバラン傭兵団を長城の上まで一気に瞬間移動させた。こうしてヨハンの追跡を続けることができたのである。
長城の建設者と起源
長城は明らかに人の手による建造物ではなく、神のごとき存在か類稀なる魔術師にしか作れないものだ。しかし建設者が何者かは作中では明らかにされなかった。
長城の起源は氷河期よりもはるか昔に遡る。ハゼゾン・タマル(Hazezon Tamar)の見立てでは、何万年もの歴史4があという。その分析が正しいならば、長城は神話時代かそれよりも古いものとなる。
ちなみに、何年も前から海外有力ファンサイトなどで、「長城の建設者はプレインズウォーカーの可能性がある」といった内容でさも小説中の記述であるかのように記載されたり語られたりしている状況がある(あった)のだが、作中ではプレインズウォーカーとの関連性など書かれてはいない。
MTG世界では初期の頃から「(旧世代の)プレインズウォーカーは神のごとき存在だ」とか、「他者からは神と見做されることがある」などという公式な記述や描写は存在していたものだ。
しかし、だからといって「神といえばその正体はプレインズウォーカーだ」とは言えやしないのだが、ファンの中にはそう決めつけてしまう誤謬がしばしば見られる。困ったことに、かなり昔から根強く残っているのだ。
悠久の壁
Neither its appearance nor its temperature varies as the years pass, an eternal testament to the forces that shaped Dominaria.
どれだけの歳月が経とうとも、その姿も温度も変わらない。ドミナリアを形作った勢力の永遠の印。
引用:悠久の壁(Amaranthine Wall)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
悠久の壁(Amaranthine Wall)はカードセット「ドミナリア」に収録されたクリーチャー・カードである。
このカード自体が「長城」と直接的な関連が示されているわけではないのだが、私はフレイバー・テキストを一目見た時から長城を想起してしまったものだ。
ドミナリアを形成した何らかの勢力あるいは力が、このような悠久の時を経ても不動の壁を生み出したのだ。その在り方はまさに「長城」に通ずるものではないだろうか?カードセット「ドミナリア」は歴史をテーマとして、ドミナリア次元の過去への回帰を強く意識してデザインされている。だから、これには制作者の意図が込められているように思えてならないのだ。
ちなみに、カード名で「悠久の」と訳された「Amaranthine」について。「Amaranth」は「(伝説上の)萎まない花」のことで、「Amaranthine」で「その花のような」という意味となる。実在の花に「アマランサス」があるが、これはその伝説の花の名から命名されたものだ。アマランサスは紫系の花である。ここでカードのイラストを見ると、地面には一面に咲いたアマランサスの花が確認できる。つまり、カード名の「Amaranthine」は「悠久の」という意味だけでなく、そのまま「アマランサスの」という含みも持たされているのだ。きっとイラストのアマランサスは萎むことはない伝説通りの花なのではないか?
トリビア:クレイトン・エマリィの「転移」
ついでに、長城を乗り越えるために使われた魔法について解説しておこう。
転移(Shifting)は、小説Jeditの作者クレントン・エマリィ(Clayton Emery)のMTG作品で登場するプレインズウォークの初歩とされる移動魔法である。
MTG初めての小説三部作であるグリーンスリーヴズ・シリーズ時点で出て来る用語であり、MTGストーリー作品でも最古の部類の設定といえるものだ。だが、「転移」はほとんど忘れ去られたか無視されて久しい。
その理由を説明すると、プレインズウォーカーの設定は黎明期とは違った方向に深掘りされ、最終的に単なる次元移動の魔法を使う術者ではなくなり、生来の才能として次元移動が可能な存在だと設定が固まった。そうした流れの中で、転移も含めた諸々のクレントン・エマリィ設定は振り返られることが無く埋もれてしまったのだ。
しかし、この十数年というもの丹念な過去作品の検証をしたヴォーソスたちによって、歴史に埋もれていた設定に再び光が当てられるようになってきた。2018年のカードセット「ドミナリア」の頃までには、ウィザーズ公式スタッフですら「大修復以前の過去にはプレインズウォーカーでなくとも次元移動できる魔法的な手段が存在していた」とずっと無視されてきた過去の設定を認めるまでになっている。
私の個人的な考えだが、クレイトン・エマリィの「転移」は旧時代の次元移動魔法に至る前段階の魔法として、十分に設定的な整合性が保てるはずと信じている。
さいごに
これにてドミナリア次元の西方荒野と長城にまつわる解説はおしまいである。
では、今回はここまで。
西方荒野と長城の関連カード
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