アルボリア(Arboria)はドミナリア次元の地名で、西ジャムーラ亜大陸の針葉樹林帯である。
この土地の元となったカード「アルボリア(Arboria)」はカードセット「レジェンド」収録のエンチャント・カードだ。小説Jeditでストーリー作品に登場して冒険の舞台となり、ドミナリアの地名であると定まった。
追加編集(2022年8月6日):本記事後半にあったアルボリア以南の地図の検証作業が冗長だったため、本記事上から削除し、別記事として独立させることにした。
追記(2022年8月19日):2023年のカードセット「ドミナリア・リマスター」で再録が決定し、正式な和訳カード名「アルボリア」と新規のフレイバー・テキストとイラストを獲得した。それに合わせて記事を再編集すると共に、新情報を追加した。
追記(2022年12月8日):カードセット「ドミナリア・リマスター」の公式カードギャラリーが公開されたため、該当するカード画像をそちらへのリンクに差し替えた。また、アルボリア周辺地図を本サイトで検証したより詳細なものへと変更した。
アルボリアの解説
アルボリア(Arboria)はドミナリア次元の西ジャムーラ亜大陸に南北に広がる針葉樹林帯である。この一帯には松(pine)が群生しており、別名「松の森林(Pinelands)」とも呼ばれている。名前通りに松がほとんどのようではあるが、少ないながらもカバノキ(birch)の存在も確認できる。
遥かな昔、星界からの恐怖(Cosmic Horror)の宇宙船が墜落しており、この地の住人や歴史に影響を及ぼした。かつてのアルボリアでは、夜になると星界からの恐怖によって発生した植物的怪物スパズム(Spuzzem)が徘徊していた。スパズムに殺された犠牲者は内臓がすっかり無くなっていた。
カードのイラストでは、棘のびっしり生えた巨大植物の怪物が人を襲っている。これは再録版(以下参照)イラストでも同様である。小説Jeditの描写を見るに、スパズムのような植物的怪物を描いたもののようにも思えるが、再録版はより後の時代と考えられるため、アルボリアには松の他に巨大な人喰い植物もある程度生えていると思われる。
アルボリアの主要な住人として、松の民(Pinefolks)とピクシーが確認できる。
アルボリアと周辺地理
アルボリアの西はジェイマ海(Jaema Sea)に面する沿岸地域である。北西の丘陵はドミナリアのキスキンの故国アムローヘイブン(Amrou Haven)だ。アムローヘイブンより南部沿岸はおそらくノスリ湾(Buzzard’s Bay)こと嵐海岸(Storm Coast)と思われるが、地理情報が少なくかつ曖昧なので、どこからどこまでがノスリ湾なのかは不明確だ。
アルボリアの北の大砂漠(The Great Desert)はヴィーアシーノやドラゴンが住まう土地と知られている。アルボリアの東に広がる世界最大規模の大山脈地帯は(カードセット「団結のドミナリア」前の現在では)正式な名称が不明である。
アルボリアの南東の向こうにはスクールヴィア砂漠(Desert of Sukurvia)がある。
スクールヴィアの西には西方荒野(Western Wastes)という別の砂漠があり、西方荒野とアルボリアとの境界には長城(Great Wall)と呼ばれる超常的存在が築いたとされる人工的な巨大壁が伸びているとされる。私の推測ではアルボリアの南西部一帯が西方荒野である。ただし、小説Jeditの記述ではそうなっているとは素直に読むことが出来ない。この地理情報の不一致に関しては別記事で改めて取り上げる。
ドミナリア・リマスターのアルボリア
アルボリア(Arboria)は2023年のカードセット「ドミナリア・リマスター」で再録される。正式な和訳カード名「アルボリア」を獲得し、新規のフレイバー・テキストとイラストも与えられた。
情報の出典元(初報)は、公式記事The Next Year of Magic from Wizards Presents、および、公式ツイッターの日本語版画像(リンク)である。
ドミナリア・リマスターの通常版アルボリア
As the world steeled itself for the New Phyrexian invasion, the heart of the Pinelands awoke, and a new maro-sorcerer strode forth to join the fight.
世界が新たなるファイレクシアの侵攻に備える中、松の森林の心が目覚め、新しいマローの魔術師が戦場へと歩み出した。
引用:アルボリア(Arboria)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
このアルボリア(Arboria)はカードセット「ドミナリア・リマスター」の通常版イラストだ。
フレイバー・テキストによれば、時代設定は新ファイレクシアによる侵略戦争の直前であり、アルボリアの心が覚醒して新たなマローの魔術師(Maro-Sorcerer)が出現し、戦いに参加するつもりのようだ。
まず時代設定は、カードセット「団結のドミナリア」がAR4562年設定なので、それと同時期と考えられる。
そして、マローの魔術師(Maro-Sorcerer)とは、ドミナリア次元の森林に顕現する自然の化身たる精霊である。どうやらアルボリアには初めてマローの魔術師が現れたようだ。イラストの植物に囲まれた人型の存在がそうなのであろう。
最後に、アルボリアの別名「Pinelands」がフレイバー・テキストで初めて言及され、更に「松の森林」と初めて公式に訳された。これまで本サイトでは「松の国」と訳してきたが、今後は(あまり良い訳とも思えないものの)この公式訳「松の森林」を採用することとする。
ドミナリア・リマスターのボーダーレス版アルボリア
“I have never before felt to unwelcome in a forest.”
–Jolrael
「森の中でここまで気持ち悪い目にあったのは初めてだ。」
–ジョルレイル
引用:アルボリア(Arboria)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
このアルボリア(Arboria)はカードセット「ドミナリア・リマスター」のボーダーレス版イラストだ。フレイバー・テキストも別のものが用意されている。
フレイバー・テキストの発言者は西ジャムーラ亜大陸北部にあるムウォンヴーリー・ジャングルのドルイドであるジョルレイル(Jolrael)だ。彼女はアルボリアを訪れたことがあるようだが、珍しいことに、この森には歓迎されなかったようだ。
ジョルレイルはAR36世紀頃の誕生と本サイトは考えているが、その時点で小説Jedit(AR3334年設定)よりも1世紀以上後の時代となる。したがって、このイラストとフレイバー・テキストは、どんなに早く見積もってもAR36世紀かそれ以降の様相を描写していることになる。
アルボリアの歴史とエピソード
伝説に語られるような何千世代もの昔、アルボリアはジャングルであり、そこに暮らす古代アルボリア人1がほとんど裸で過ごせるほどに高温な気候であった。
この土地に星界からの恐怖の宇宙船が墜落した。落下地点はクレーターとなり、その地下の絶望洞窟(Caverns of Despair)には墜落を生き残った星界からの恐怖が眠り続けていた。古代アルボリア人は地下洞窟に眠る恐怖を「泣き叫ぶ神(Crying God)」として崇めた。
星界からの恐怖は液体状の琥珀物質を分泌していた。この琥珀物質は、摂取した者を植物的な怪物スパズム(Spuzzem)に変貌させる性質を有していた。古代アルボリア人の中には、何らかの儀式かあるいは生け贄としてこの琥珀物質を取り込んで、スパズムに変えられた者たちが存在した。作中では、神酒(Nactar)と信じて飲んだのではないか、とも推測されていた。
泣き叫ぶ神の崇拝は、古代アルボリア文明内でどの程度の規模で行われていたのかは定かではない。一部のカルト教団であったかもしれないし、より一般的な宗教だったのかもしれない。
古代アルボリア人の文明はどこかの時点で途絶え、彼らの泣き叫ぶ神とスパズムも歴史の表舞台から姿を消し、人知れず地下で眠り続けた。
小説の記述を考慮するに、アルボリアに起こった気候の変動や植生の変化は、おそらくはドミナリア氷河期によってもたらされたものであったろう。氷河期到来により古代アルボリア文明が滅亡し、氷河期終焉後に現在の針葉樹林帯アルボリアの様相が定着したとみるのが自然な流れに思える。あるいは、アンティキティー戦争のゴーゴスの酒杯による大荒廃が直接的な滅亡の原因であった可能性もある(アーボーグの黒豹人と同様に氷河期を待たずに短期間で衰退した可能性)。
氷河期終焉から3世紀ほどが経った時代(AR33-34世紀)、この頃には既にアルボリアは針葉樹林帯であり、松の森林とも呼ばれていた。住人である松の民は狩人や罠猟師として暮らし、氷河期後に栄えたノスリ湾(Buzzard’s Bay)と交易を行っていた。
この時代には、星界からの恐怖のクレーターの上には城が建築されていた(この城の起源は不明瞭。古代アルボリア時代の遺跡である可能性もある)。小説Jeditの60年前(AR3274年)、城の主が地下に隠されていた星界からの恐怖を発見した結果、主は城を放棄して去り、松の民はアルボリアに居場所を失うことになった。そうなった経緯が不明瞭だが、絶望洞窟のスパズムが再び活性化して森を徘徊するようになったことが最初の原因と考えられる。
その後、吸血鬼ショークー(Shauku)が現れて城の新たな主となり、星界の恐怖の保存とその秘密の探求に着手した。ショークーはコロンドール大陸で徴募したアクロン軍団兵(Akron Legionnaire)と、夜間に森をうろつくスパズムによってアルボリアを支配下に置いた。
こうして松の民やピクシーの姿が消えてしまったアルボリアは、以来数十年に渡って立ち入るべからざる危険な土地と認識されるようになった。ノスリ湾では不死の魔道士が城に住み着いたらしい、とも噂されていた。
小説Jedit現在(AR3334年)、アディラ・ストロングハートが率いるロバラン傭兵団と小説主人公ジェディット・オジャネン(Jedit Ojanen)が絶望洞窟に侵入したことで、ショークーやその配下との間で戦いが発生した。
絶望洞窟での一連の騒動が引き金となって、星界からの恐怖が覚醒してしまった。星界からの恐怖は自身の居場所にめがけて自殺的な隕石雨を降らせ、城一帯と地下は廃墟となった。ショークーはアルボリアを去り、雇用主を失ったアクロンの軍団兵の生き残りたちはコロンドールへと帰って行った。
ロバラン傭兵団もアルボリアを旅立ち、東南のスクールヴィア砂漠地方に帰還するのだった。ただし、ロバラン傭兵団の一員であったジャスミン・ボリアル(Jasmine Boreal)はアルボリアの松の民の下に居残り、この森のドルイドとなることを選択したのだった。
小説Jeditを含むレジェンドサイクル1小説三部作はAR3334-3336年の時代設定で、アルボリアは他のストーリー作品では登場したことがない。ジャスミン・ボリアルがこの地のドルイドとなった後、どのような歴史を辿ったのかはほぼ不明である。
新ファイレクシアの侵略戦争が迫る中(AR4562年と推定)、アルボリアの心が目覚め、新たなマローの魔術師が出現した。このマローは戦いへと赴くつもりのようだ。
アルボリアの住人
この節ではアルボリアの住人である知的種族を取り上げる。
かつては星界からの恐怖(Cosmic Horror)やスパズム(Spuzzem)が存在したが、先述の通り星界からの恐怖は隕石雨で自決したため現在のアルボリアの住人ではない。
また同様に、星界からの恐怖を調査する目的でショークー(Shauku)とその配下のアクロン軍団兵(Akron Legionnaire)が逗留していたが、こちらもすでに撤退している。
松の民
松の民(Pinefolks)は人間の部族だ。狩人や罠猟師として暮らしており、ノスリ湾(Buzzard’s Bay)と交易を行っていた。
先述した経緯により星界からの恐怖とショークーの脅威にさらされ、松の民は衰退してアルボリアから数十年間姿を消していた。小説Jedit現在の3年前頃(AR3331年頃)にはノスリ湾人によって再び存在が確認されていた。
作中で名前の判明している松の民は3名いる。まず女性族長のマグファイア(Magfire)、その兄弟のトーリオン(Taurion)、そして戦士のキイェノウ(Kyenou)である。この3人と少数精鋭は、ロバラン傭兵団の協力の下で共に絶望洞窟に乗り込み戦った。
ショークーとの戦いが終わった後、恩義を返すためトーリオンとキイェノウの2名はロバラン傭兵団に参加してアルボリアを旅立った。その反対にジャスミン・ボリアル(Jasmine Boreal)は松の民のドルイドとなることを選んだ。
小説Hazezon(AR3336年)では、ヨハンとの決戦にマグファイアら松の民も駆けつけロバラン傭兵団側に加勢していた(ただし、ジャスミン・ボリアルの言及はなかった)。
松の民の媚薬
松の民のエピソードとして媚薬(Love Philter)の一件がある。
ロバラン傭兵団は宿敵ヨハン(Johan)を追跡して、ヨハンの目的地であるショークーの居城を目指していた。その旅路でアルボリアの松の民と接触し、協力を取り付けることに成功したのだ。ロバラン傭兵団はヨハンを追い詰める協力者を、松の民はショークーの脅威に立ち向かう味方を得た。
そしてロバラン傭兵団は松の民の歓待を受けたのだが、どうにも皆の様子がおかしい。度を越して性的な興奮を覚えて自制が利かなくなってきたのだ。
ロバラン傭兵団頭目のアディラ・ストロングハートは族長マグファイアに詰め寄った。すると、密かに媚薬を盛ったと悪びれもせずに明かしたのだ。松の民は近い関係同士で子を成すことが多くなってしまうため、異邦人が訪れた際には外の血を部族に取り入れる必要があるというのだ。媚薬を用いて強制的に性交渉を持つのが狙いだ。
精神が強靭なアディラさえ理性を失い、あわや乱交が始まらんとしていた時、近くで松の民の死体が2つ発見されて騒ぎとなった。スパズムの仕業だ。宴どころではない。こうして媚薬騒動は有耶無耶となった。
個人的に媚薬の一件について
この節では、松の民と媚薬のエピソードに関して、私の個人的な意見を書く。
松の民は衰退していて、外の血が必要という事情は分かる。因習として旅人と性交渉を持つという理屈も理解はできる。だがなぜ事情の説明もなく、騙して媚薬を用いた乱交を選ぶのだ。松の民の女性と旅人の男性の組ならまだ分からないでもないが、ロバラン傭兵団のケースを見ると女性も否応なしだ。万一妊娠したらアルボリアから離れられなくなるというのに、松の民はそのリスクを相手に課しても平気なのか?
しかも、真相を暴露するマグファイアはアディラ・ストロングハートを誘惑しているように見える。アディラもマグファイアも女性であるので、この2人の間に子は成せない。つまり、部族に外の血を取り入れるという最低限の正当性すら、ここで捨てているのだ。
松の民は普通なら、悪玉ショークーに虐げられて主人公たちに協力して敵に立ち向かう無辜の人々、という役回りのはずだ。どうしてこんなエピソードを差し込んだのだ?レジェンド・サイクル1小説三部作では、穴埋めのミニエピソードかな?と感じるものと沢山出くわすことになるのだが、これはその中でも最悪である。
この件に関しての個人的な意見・感想はここまででお終い。
氷河期テリシアの松の民
カードセット「アイスエイジ」には松の民と同名のドライアド種族「Folk of the Pines」が収録されている。ドライアドは樹木の精霊的な存在で、女性のみの種族である。これらの特徴はアルボリアの松の民とは合致しないため、単に同じ名称を持つ別の種族だと見做してよさそうだ。
ピクシー
アルボリアのピクシーは松の民と友好関係を結んでいる種族だ。
体の大きさは人の前腕程度でウサギやモグラの毛皮の服を着ていて、鳥が囀るような独特な言語で松の民とは会話をしていた。ドルイドのジャスミン・ボリアル(Jasmine Boreal)も含む、ロバラン傭兵団のメンバーにとっては未知の言語であった。
作中には名前付きのピクシーが2名登場。体の小さい方がセイクリッド・ツリー(Sacred Tree)で、大きい方がピースフラワー(Peaceflower)である。
コボルドと炎のスプライト
ショークーの城の地下に広がる絶望洞窟には、コボルドや炎のスプライト(Fire Sprites)も住み着いていた。洞窟の外には出歩くことは好まず、そのために松の民はロバラン傭兵団と共に絶望洞窟に侵入するまでそれらの存在に気付いていなかった。
小説に登場した名前付きのコボルドは、ドッグ・イヤーズ(Dog Ears)、ピンク・アイ(Pink Eye)、ビスケット・トゥース(Biscuit Tooth)、プリンス(Prince)である。彼らはショークーにより空から落ちてきた神(星界からの恐怖)を守るよう言い含められていたようだが特に忠誠心があったわけでなく、ロバラン傭兵団と松の民に協力した。
コボルドたちはショークーを黄婦人(Yellow Lady)と呼んでいた。その理由はショークーは黄色い(Yellow)からだという(黄色人種という意味合いなのかよく分からない。ショークーはフェメレフ出身と設定されているので黄色人種ではないと思われるのだが……)。
コボルドと炎のスプライトに関するより詳細な情報はこちらを参照のこと。
さいごに
これにてドミナリア次元アルボリアにまつわるネタ語りはおしまいである。
では、今回はここまで。
アルボリアの関連カード
カードセット「レジェンド」関連のリスト