小説War of the Spark: Ravnica外伝その4

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小説『War of the Spark: Ravnica』の外伝に当たる掌編シリーズ第4話が公式サイトで公開された。

『War of the Spark: Ravnica—Desperate Operatives』(英語原文版)
War of the Spark: Ravnica—Desperate Operatives
Rat, Kaya, and Teyo race to bring the guilds of Ravnica to the table for Ral Zarek's Operation Desperation.
日本語和訳もアリ
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外伝掌編4話の解説

小説『War of the Spark: Ravnica』の出来事をラット(アレイシャ・ショクタ)の視点から語り直す掌編連載4話。

小説本編で言う所の第33章~第42章の範囲をカバーしている1。各ギルドの協力を取り付けるために交渉任務に就いた一行。ケイヤに随行するラット、テヨ、ニッサたちは…。

今回の見どころは何と言っても、ラットの『ある秘密』が明かされること。今までなんとなく違和感を覚えていたであろうラットの台詞や、彼女にまつわる周囲の反応の諸々の伏線…。

小説本編を未読の人にとっては、ラットとの出会いはこの連載が初めてになるので、今回の種明かしは驚きと納得の回になるのではないだろうか?



あまりにも気になって仕方がなかったところ

先々週と先週の外伝の2話と3話のときはスルーしたけれど、今回の4話では和訳を読んでいて引っ掛かってしまう文章が多かった。原文ではそんなことないのに…。

いくつか抜き出して解説する。

「自分の役割として私が想定していたのは」なんてことは書いてない

第4話の書き出しに堂々と書かれていたせいで、かえって私が見過ごしていた明らかな誤訳がこれ。

Finding a way to recruit the Azorius Senate—with its evil-dragon-collaborating guildmaster, Dovin Baan—and to contact House Dimir—with its mysterious shapeshifting guildmaster, Lazav—was assigned, I suppose, to other volunteers.
自分の役割として私が想定していたのは、悪いドラゴン直属のギルドマスターが支配するアゾリウス評議会へ向かう道を探すこと。それと謎の変身ギルドマスター、ラザーヴのディミーア家との接触方法を見つけてあげることだった。
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

無駄な語句や挿入を取っ払って単純化すると見えやすい。

Finding a way to recruit Azorius and to contact Dimir was assigned to other volunteers.
アゾリウスを勧誘する方法と、ディミーアに接触する方法を見つけ出すのは、他の志願者に割り振られた。

このことをラットは「I suppose(たぶんそうだ)」と見当を付けたという文章である。訳し直すとこうなる。

アゾリウス評議会(悪のドラゴンに協力するギルドマスターのドビン・バーンがいる)を勧誘する方法を見つけること。そして、ディミーア家(神秘のシェイプシフターのギルドマスターのラザーヴがいる)と接触する方法を見つけること。そっちの方は他の志願者に割り振られた、と私はにらんでる。

公式和訳版は、そもそもなぜラットがアゾリウスやディミーアに関する仕事を割り振られると思えるのか、ラットとの縁なんて全く書いてないギルドだのに。

「ケイヤ様は自分がそう言われたって思った」なんて書いてない

最終的にニッサが離脱する決断をする理由となる「一番初めの」すれ違いの部分。

Miss Revane, who generally said very little—or next to nothing, really—seemed impressed enough with the speed of our progress to actually speak a few words. “You know the city well,” she said to Mistress Kaya, who was right behind me. I think Mistress Kaya thought Miss Revane was talking to me, so she didn’t bother responding. For my own reasons, neither did I.
レヴェインさんはすごく無口で、全然喋らないって言ってもよかった。けど私達の進む速さに感心したみたいで、少しだけ喋ってくれた。「街をよく知っているのね」って、私のすぐ後ろのケイヤ様へ。ケイヤ様は自分がそう言われたって思ったみたいだけど、返答はしなかった。私も個人的な理由から返答はしなかった。
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

原文と照らし合わせるとすぐおかしい部分が分かる。ニッサが話しかけた相手は「me」すなわち「ラット」だ。話しかけられたのが自分じゃないから「she didn’t bother responding(ケイヤはわざわざ返答をしなかった)」となっててもおかしくはない。

ケイヤ様は私がそう言われたって思ったみたいなので、わざわざ返答はしなかった。

翻訳し直そうとこうなる。ケイヤがニッサを邪険にして無視したのではなかったことが分かっていただけるだろう。

ここの場面は、小説本編の第33章に相当する。本編ではケイヤ主観視点の章になっているので、ケイヤの思考が確認できる。ケイヤにとってこの状況は、「ニッサはラットと全然目を合わせようともしてないくせに、この時は先頭に立つラットに『街をよく知っているのね』と話しかけた。ラットは少し気が散らされたように見えたがニッサに返事をしなかった」と捉えている。ケイヤからすれば、ずっと無視されてきた相手からいきなり声をかけられても、ラットの返事したくない心情は理解できるな、となるわけだ。

ラットはラットでこういう行き違いは慣れっこなので何もしないことを選んだ。返事しても知覚されないので無駄だから。

一番割を食ったのがニッサ。同じ任務に就いた仲間には話しかけても無視される。この後も、テヨが「アレイシャはどこだ?」と気付いて「アレイシャって誰?」と尋ねる。もう一度尋ねても誰もまともな回答をしてくれず、ケンタウルスのボルボがやってくるやセレズニアからは拒絶される。だから「私はギデオンの所へ戻る」と1人離脱する。

ニッサの「私はうまく会話できる気が全くしない(I’ve never been very good at talking.)」という言葉は、セレズニア相手だけではなく、仲間に対して向けられた悲しい決別だ。小説終了後にはラットの件の誤解が解けているといいのだが…。

ラットは「自然と見てくれたことに」驚いたわけではない

ラットは友人ヒカラの頼みを受けて、『自分の特殊な性質』を利用し、ここ最近はラル・ザレックにつきまとって探りを入れていた。ラルとケイヤは一緒に行動していることも多かった。ラルは他の大勢と一緒でラットを知覚できない。だから、当然ケイヤもそうだと思っていたのに、今日になったら知覚できていることが判明した。

…という、これまでの前提があっての次のシーンだ。

“That’s why I’m surprised you didn’t notice me.”
「だから私驚いたんです、ケイヤ様が私に気付きすらしなくて、自然と見てくれたことに
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

すごく変な文章…。「見てくれた」と言うフレーズにはラットからケイヤへの謝意が込められている。この一文だけでも、この前後を含めた会話の流れで見ても変だ。

原文を直訳調に解釈すればこんな感じだ。

「(いままでザレックの尾行をしていたのに)あなた(ケイヤ)が私に気づいてなかったことに、驚いているんです。」

ケイヤはラットが見えているのに、なぜ今まで気づいた素振りがなかったのか、それがラットには不思議で驚いている。それに対してケイヤの返答は、私はラヴニカ現地民じゃないから、ラットとその他のラヴニカ人と区別する必要性を感じていなかった。つまり、その他大勢と同じ自分にとって意味のない人物の1人だと思っていた。

そう言う話。驚いた理由が違う。原文に謝意の含みなどなかったし、ケイヤがラットに注意を払わなかった理由も言ってしまえば、ラットが価値ある人物に見えなかったから、という謝意より憤慨を抱かせるものだ。

だから、その次のシーンでは、ラットは大げさにラットに詰め寄って、ケイヤはごめんねと謝って、それを許して一件落着となる。

“And there was no way you could know you weren’t supposed to be able to see me, so you never mentioned it. Or even said hello!”
“Yeah, well, I am sorry about that.”
“Yeah, well, I do forgive you,”

ラット→ケイヤ「私を見えないのが普通のことだなんて、あなたが知る余地なんてなかった。だから、(姿が見えてますよ、と)わざわざ言うこともありえなかった。でも、挨拶くらいしてよ!(そうしたら、もっと早く私のことを見れるって気付けたのに)」
ケイヤ→ラット「(その他大勢と同じだと思ってたから、無視してしまって、挨拶もしないで)ああ、うーん、ごめんなさい。」
ラット→ケイヤ「ああ、うーん、許したげる。」

こういうやり取りになってる。

ということで、「自然と見てくれたことに」、驚いたわけではない。



指示語が飛び交う難解な文章

次にここの部分。なぜ指示語が飛び交うこんな難解な文章になってしまっているんだろう…。

きっと、ご自分で思うよりも新しいことを受け入れやすいんだと思います」
「ああ、俺は新しい物事に対する偏見とかは全然持っていない、と思う」
「そうじゃなくて、そうでありたいって思ってるんですよ。けどそれを信じてなくて、でもその自分こそが自分。変なことじゃないですよ?」
公式和訳から抜粋

ポイント
「それを信じてなくて」←「それ」とはどれ
「その自分」とはどういう自分

A=「新しい物事に対する偏見とかは全然持っていない」と置き換えて、和訳文章をそのまま意味を取ると次のようになる。

「『あなたは自分がAであると考えている』じゃなくて、Aでありたいと思っているんですよ。けどAを信じてなくて、でも『理想はAでありたいが実際はAを信じられない』自分こそが自分。変なことじゃないですよ?」

つまり公式和訳の文章は、ラットからラルに対して

偏見を持たないことがラルの理想だが、偏見を持ってしまっている、そういう自分を受け入れろ。そういう矛盾した自分は変なことじゃないよ。

…って文章になっていると読める。

この和訳はおそらく「きっと、ご自分で思うよりも新しいことを受け入れやすいんだと思います」ここを受けて、「偏見を持ってないという思い込みを捨てて、ありのままの自分を受け入れれば、『より新しいことを受け入』られる」という解釈に繋げていると推測した。「Isn’t that strange?」を普通に「それは変ですよね?」と訳さないで「変なことじゃないですよ?」とわざわざ変えていることからもこの推測が正しいと思える。

でも原文はこういう意味ではない

原文はこう

You’re more open to new things than you think you are.”
“I think I’m very open to new things.”
“No, you don’t. You want to be. But you don’t believe you are. But you are. Isn’t that strange?”
英語原文から抜粋

この一連の会話の中で「think(do)」と「be動詞」は一貫して同じ意味で通されている。言葉の対応がはっきり明確。ゆえにラットの台詞で省略された部分を補うことが簡単にできるので、こうなる。

“No, you don’t (think you are very open to new things). You want to be (very open to new things). But you don’t believe you are (very open to new things). But you are (very open to new things). Isn’t that strange?”

では、以上を踏まえて意味を取る。言葉の対応を意識して、「think(do)」は「考える」で統一する。「be動詞」の方は「be open to new things」なので「オープンである」と置き換える、とこうなる。

あなたは自分で考えているより新しいことに対してオープンな人間ですよ。」

「俺は自分が新しいことに対してオープンな、まさにそういう人間だと考えているよ。」

「うそ、あなたは自分がオープンだなんて考えていない。オープンになりたいって考えてる。でも、あなたはすでにオープンである、それを自分で信じていない。けど、あなたはすでにオープンな人間なのに。これって変じゃないですか?」

長めになったけれど、言葉を補って訳してみた。

ラルさんは自分で言ってるほど自分がオープンな人間だなんて信じてないし、オープンになりたいとは思っているけど、実際はオープンな人間なんだから、すなおに自分のことを認めてあげた方がいいと思うんだけどな。

少女に対して慰めの言葉をかけたら、逆に自分のことを見抜かれて忠告までされてしまって、ラルは口をあんぐり、それを眺めるケイヤがニヤニヤ…。

意味がぜんぜん違うのがこれで分かってもらえるだろうか…?



ラットは説得で「そんなに問題はない」なんて言っていない

ゴルガリの女王ヴラスカの援助の申し出を、ラルはすぐに拒絶した。ケイヤも拒絶しようとするが、そこでラットが思い直せと割って入った場面だ。当初の目的を個人的な事情で断るのはおかしいからだ。

“We need the Golgari; she rules the Golgari, so we don’t have a lot of options.
「ゴルガリが必要なんですよね! ヴラスカ様がゴルガリを支配してる、だったらそんなに問題はないはずです
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

原文は「we don’t have a lot of options」だから「私達には選べる手なんて多くはない。」となるので、こんな感じになる。

私達はゴルガリが必要なの。彼女がゴルガリの支配者。だったら選り好みしてる余裕なんてもうないでしょ。

ここは単純に誤訳なのだが、和訳版のラットの台詞ではケイヤの心は動くわけはない。個人の気持ちのこじれに対して、「そんなに問題はないはず」なんていったって埒が明かない。

だから、ラットはケイヤに対して言葉をぶつけて、ギルドマスターとしての立場と、いま遂行中の任務へと頭を切り替えさせている。

「本当にそうなら」とはどういう意味?

“My friend Rat wants to know why you came back. She’s inclined to trust you because Hekara considered you a friend. Then again, I was inclined to trust you once, too . . .
Phrasing it like that wasn’t likely to give us any useful answers,
「私の友人、ラットはあなたが戻ってきた理由を知りたがっている。ヒカラがあなたを友人として見ていたから、あなたを信用したがっている。本当にそうなら、私も今一度あなたを信用してもいいかもしれない……
そんなふうに言っても、いい答えはもらえそうになかった。
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

「本当にそうなら…信用してもいいかもしれない」の「そうなら」ということはどういうことか。ここの文の流れから「ヒカラがヴラスカを友人として見ていた」ことが「そうなら」に該当することになるが、つまり、ケイヤは今まで「ヒカラがヴラスカを友人として見ていなかった」という認識だったことになる。これは事実に反するだろうし、仮にそうだったとしても、何故ヒカラがかつて友人と見ていたことが、もう一度ヴラスカを信用してもいいと心変わりをする判断へと結びつくのか?ケイヤはヒカラの意見には無条件で従う人物なのか?筋が通らない。

「Then again」は「一方で、その反面、思い返せば」とか、そんな意味合い。

「私の友人、ラットはあなたが戻ってきた理由を知りたがっている。ヒカラがあなたを友人として見ていたから、あなたを信用する気になっている。あの頃の私が信用する気になってたように……
そんなふうに言っても、いい答えはもらえそうになかった。

こういう感じの会話ではないか。そりゃいい答えは返ってこない。

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