カード紹介:影の乗り手とドミナリアのダウスィー族

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影の乗り手(Shadow Rider)カードセット「ウェザーライト」に収録されたクリーチャー・カードである。

影の乗り手は人型種族ダウスィーである。今回はドミナリア次元のダウスィー種族について検証したい。

影の乗り手の解説

In its world of complete darkness, it has no shadows to fear.
彼らの世界は完全な闇。恐るべき影さえ存在しない。
引用:影の乗り手(Shadow Rider)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

影の乗り手(Shadow Rider)

影の乗り手(Shadow Rider)
データベースGathererより引用

影の乗り手(Shadow Rider)は、ドミナリア次元を故郷とする人型種族ダウスィー(Dauthi)の騎手である。

ダウスィーは、ファイレクシア人による次元転移によってドミナリア次元からラース次元へとさらわれた種族として知られている。しかし、次元転移が失敗したため、ダウスィーは次元の狭間に捕らわれ、ラース上では半実体の身体となってしまった。さらに、これが契機となって、ラースのダウスィー全体が完全な狂気に陥ったのだ。(→詳細は記事ラース:種族の起源を参照のこと)

一方、ラースに引き込まれずにドミナリアに残ったダウスィーが存在した。次元転移から何世紀も経ったAR4204年、ドミナリアのダウスィーの子孫を描いたのがこのカード、影の乗り手(Shadow Rider)なのである。



ドミナリアのダウスィー種族

ダウスィー(Dauthi)とはいかなる種族であるのか、どのような土地を故郷としているのだろうか?

ラース次元に引き込まれた後のダウスィーについてはテンペスト・ブロック(主にカードセット「テンペスト」)で詳しく触れられている。では、ラースにさらわれて狂気に陥る前、ドミナリア次元に居住していた元々のダウスィーはどうだったのだろう。ドミナリアのダウスィーについて調べてみた。

ダウスィーの外見的特徴

ダウスィーの大将軍(Dauthi Warlord)

ラース次元のダウスィーの1例
ダウスィーの大将軍(Dauthi Warlord)
データベースGathererより引用

ダウスィーを描いたカード・イラストは複数あるものの、外見的特徴はやや統一性に欠ける。ドミナリア次元のダウスィーを描いたイラストは、影の乗り手1枚しかない。ラース次元のダウスィーは半実体化しており、おそらくその影響で姿が変異している(黒光りした体表やより怪物的な容貌に)。

影の乗り手に描かれた緑の肌の姿が本来のダウスィー種族なのだろうが、ラースもドミナリアも関係なく種族的な特徴を抜き出すなら、むき出しの歯茎と鋭い牙を持つ怪物じみた外見の人型種族とは言えそうだ。

ダウスィーの精神性や社会

ダウスィーの精神性や社会構成はどうなのだろう?

実はダウスィー側からの言及が全く存在していない。ダウスィーが何を意図して行動しているのか、どういった社会を構築しているのか、現時点では正確なところは不明だ。

だが、設定集アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-によれば、ダウスィーは通常でも狂気すれすれの種族であったようだ。また、サルタリーは厳しい信仰と強い社会組織を持つことから正気を保ち、それがないサラカスは狂ってきているとの記述がある。ラースのダウスィーは完全な狂気に蝕まれているので、元々、強い信仰心や社会基盤は持っていなかったと考えられる。

敵対種族のサルタリーからの評価は当然辛らつで、ダウスィーは生まれに拠らずにジャッカルのような奴らだ1とか、代価さえもらえば殺人すら高貴な行いになると信じている2とかいった具合だ。



ダウスィー・サルタリーの種族間戦争

サルタリーのチャンピオン(Soltari Champion)

敵対種族サルタリーの1例
サルタリーのチャンピオン(Soltari Champion)
データベースGathererより引用

公式雑誌Duelist誌#20に掲載された記事A Dark Corner of the Multiverseおよび小説Bloodlinesによると、ダウスィーは小都市国家サルタリー(Soltari)と種族間戦争を起こしていた。この戦争には、両種族の中間に位置した別種族サラカス(Thalakos)も否応無く巻き込まれていた。3種族の戦争中にファイレクシアによる次元転移が起こってドミナリアから消失した。おそらくAR3210-3285年の間のどこかで発生した出来事である。(→詳細は記事ラース:種族の起源のサルタリー・サラカス・ダウスィーの項を参照)

ダウスィーの故郷

ダウスィーの故郷はどのような場所で、ドミナリアのどこにあるのだろうか?

ダウスィーの国は、小都市国家サルタリーの隣国にあり、両国に挟まれた位置にサラカスがあったが、次元転移で消失したことは判明している。

ダウスィーは廃墟の下の完全な闇から現れた

In its world of complete darkness, it has no shadows to fear.
彼らの世界は完全な闇。恐るべき影さえ存在しない。
引用:影の乗り手(Shadow Rider)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

影の乗り手のフレイバー・テキストによると、ダウスィーの住む世界は完全な闇であり、光が差さないために影すらできない。

他のカードのフレイバー・テキストにもダウスィーの国のヒントがある。カードセット「テンペスト」のダウスィーの匪賊(Dauthi Marauder)である。

“The dauthi came from beneath the ruins one night, and the darkness cast them in the best possible light.”
–Soltari Tales of Life
ダウスィーどもはある夜、廃虚の下からやって来た。彼らにはおあつらえ向きの闇夜だった。
–サルタリー物語
引用:ダウスィーの匪賊(Dauthi Marauder)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

ダウスィーの匪賊(Dauthi Marauder)

ダウスィーの匪賊(Dauthi Marauder)
データベースGathererより引用

サルタリーの物語によると、ダウスィーはある夜に廃墟の下から出現した。また、ここでも闇とダウスィーとの親和性が語られている。

2つのフレイバー・テキストから分かることは、ダウスィーの故郷は廃墟の下の完全な闇の世界である。つまり、ダウスィーはドミナリアの光も差さないほど地下深部に生息する種族だと考えられる。

地下種族であるとするならば、ファイレクシアの次元転移後でもダウスィーだけはドミナリアに残っている事実に説明がつけられる。地表で戦争をしていたダウスィー、サルタリー、サラカスは次元転移に巻き込まれたが、地下深くに生息するダウスィーは助かったのだ。

テリシア地方の可能性

ダウスィーの故郷の位置は不明である。記事や小説を調べてもダウスィー、サルタリー、サラカスが隣国であること以外の位置情報は確認できない。

ではあるが、可能性を1つだけ(根拠が薄い仮説なので折り畳み表示にする)。

1つの可能性

テリシア(Terisiare)は右端真ん中あたりの群島
現代ドミナリア全体地図
公式サイト記事より引用

ウルザ(Urza)がテリシア地方ガルメニーに滞在した期間にサルタリーの消失の噂を耳にしたことから、テリシアかそれに近い地方であった可能性はある。当時のテリシアでは、ファイレクシア人ギックス(Gix)が率いる潜伏工作員の活動が活発であったので、次元転移の実験場に選ばれた、というのは幾分もっともらしいように思える。

何の証拠もないのだが、取りあえずの可能性としてここにメモを残す。



ダウスィーの生き物

ダウスィーの世界の生き物が3種類だけ確認できる。馬、ジャッカル、精神裂きである。

ダウスィーの馬

影の乗り手(Shadow Rider)

影の乗り手(Shadow Rider)
データベースGathererより引用

影の乗り手のイラストには、ダウスィーの馬が描かれている。目は吊り上がり、口には牙が生え、先が二叉に割れた長い舌を持つという、恐ろしげな外見をしている。

ダウスィーの傭兵(Dauthi Mercenary)

ダウスィーの傭兵(Dauthi Mercenary)
データベースGathererより引用

ダウスィーの傭兵(Dauthi Mercenary)のイラストの馬(?)はより狂暴な姿の怪物だ。口の両脇から長い牙が伸び、前脚は太くがっしりと筋肉質だ。元からこういった生き物であったのか、ラースの次元の狭間で変異した結果なのか分からない。

ダウスィーのジャッカル

ダウスィーのジャッカル(Dauthi Jackal)

ダウスィーのジャッカル(Dauthi Jackal)
データベースGathererより引用

ダウスィーのジャッカル(Dauthi Jackal)は肉が削げ落ち骨がむき出しになったような姿をしている。このカードはラースの次元の狭間に捕らわれた後のものであるから、ドミナリアでは元々こういった姿ではなく、変異した結果であるかもしれない。

ダウスィーの精神裂き

ダウスィーの精神ドリッパー(Dauthi Mindripper)

ダウスィーの精神ドリッパー(Dauthi Mindripper)
データベースGathererより引用

ダウスィーの精神裂き(Dauthi Mindripper)は前後に2つの顎を持ち、鋭く尖った鉤爪を持つ2本の腕が生えた異形の生き物である。胴体はしわが寄り、細かい毛が部分的に生えていて、芋虫や蛆虫にもやや似ている。

見るからに普通の生き物ではなさそうだ。顎の形状が上記のジャッカルにも似ているので、ジャッカルをベースに改造した人工生物であるかもしれない。

このカードに触れるなら、カード名の有名な誤訳に触れておかなければならない。和訳製品版の名称は「ダウスィーの精神ドリッパー」であるが、原文の「Mindripper」つまり「mind(精神)」+「ripper(引き裂くもの)」を、「mind(精神)」+「dripper(したたるもの・水滴が落ちるもの)」に間違って訳しているのだ。カードのメカニズムは手札破壊つまり精神への攻撃を表現したものなので、精神を「ripper(引き裂くもの)」なのが明白で、「dripper(したたるもの・水滴が落ちるもの)」という解釈は成り立たない。それに「dripper」では「d」が1文字足りない。

影の乗り手のクリーチャー・タイプ

最後に影の乗り手(Shadow Rider)のカードに戻って今回は話を終わりにする。

影の乗り手はカード上のクリーチャー・タイプは「騎士」のみである。設定通りならば「ダウスィー・騎士」でなければならないはずだ。

影の乗り手のように古い時代のカードは、クリーチャー・タイプが1種類のみという方針でデザインされていたが、現在は複数のクリーチャー・タイプが持てるように改正されて久しい。古いカードは折を見て適切なクリーチャー・タイプに修正が行われている。

ではなぜこのカードには設定が反映されていないのか?ウィザーズ社は設定に気付いていないのだろうか?

答えは公式サイト記事Oath of the Gatewatch Update Bulletin—Oracle Textにあった。

The creative team tells me there’s actually some evidence that it really should be a Dauthi, but nothing on the card really tells you that.
クリエイティヴ・チームは(影の乗り手が)ダウスィーであるべきだという証拠を実際に私に教えてくれた。しかし、このカードには全く皆にそれを示すものがない。
引用元:記事Oath of the Gatewatch Update Bulletin—Oracle Text
上が英語原文。下が私家訳

設定上はダウスィーである証拠は確認したが、ダウスィーのクリーチャー・タイプにはしない、というのだ。なぜならカードにはダウスィーと示す証がないからだという。

とんでもない!カードのイラストはダウスィーを意図して描いたものなのだから!

影の乗り手のカードの担当者は「ピート・ヴェンタース(Pete Venters)」である。

公式雑誌Duelist誌#20に掲載された記事A Dark Corner of the Multiverseで、影の乗り手がダウスィーだと証言しているライターは誰か?ピート・ヴェンタースである。

そして、当時のMTGの設定情報を統括していたコンティニュイティ部門の担当者は誰か?それもピート・ヴェンタースその人である。

当時の制作者に対するリスペクトがない裁定には激しい憤りを覚えてならない。

ということで、今回は終わり。

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  1. ダウスィーのジャッカル(Dauthi Jackal)のフレイバー・テキスト
  2. ダウスィーの傭兵(Dauthi Mercenary)のフレイバー・テキスト