イニストラード:窓からの放り投げ

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窓からの放り投げ(Defenestrate)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」に収録されるインスタント・カードである。

これはあの「プラハ窓外放擲事件」のカードだ。

独特の由来を持つ英単語のカードが今度収録されることになったので、今回記事で取り上げることにした。また、フレイバー・テキストの和訳製品版の文章内容にはおかしな点があるので検証している。

窓からの放り投げの解説

The chaplain would perhaps have found some small comfort had he known that the replacement window would be named in his honor.
司祭の魂を鎮めるために、取り替えられた窓にはその名誉を讃えて彼の名がつけられた。
引用:窓からの放り投げ(Defenestrate)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

窓からの放り投げ(Defenestrate)は飛行を持たないクリーチャーを破壊する機能を持っている。カード名通りに高い窓から相手を放り投げて落下死させてしまうのだ。

このカードの英名「Defenestrate」は歴史うんちくネタや小話によく使われる変わった単語だ。ラテン語の「de-(外に)」と「fenestra(窓)」から成る合成語で、「Defenestrate」の1語だけで「(誰かや何かを)窓から放り投げる」という意味がある。

ちなみに、言葉の由来は「プラハ窓外放擲事件」として知られる歴史事件である。かなりざっくり説明すると、現在のチェコのプラハでは、地位のある者が窓の外に投げ落とされて殺される歴史的事件が複数回(2回あるいは3回とも)発生していて、戦争の契機ともなったことがあるのだ。

このように「Defenestrate」はたった1語で「窓から放り投げる」を言い表せるのだが、用法が限定され過ぎていて使い勝手がよいわけでもなく、その上、歴史な由来もあって、非常に個性的な単語として有名なのだ。

次節ではフレイバー・テキストの内容を確認する。和訳製品版の文章がおかしいのだ。



窓からの放り投げのフレイバー・テキスト

The chaplain would perhaps have found some small comfort had he known that the replacement window would be named in his honor.
司祭の魂を鎮めるために、取り替えられた窓にはその名誉を讃えて彼の名がつけられた。

今度は、窓からの放り投げのフレイバー・テキストに注目してみよう。

和訳製品版の文章がおかしいのだ。端的に言えば誤訳している。

和訳製品版のフレイバー・テキスト

「司祭の魂を鎮めるために、」とあるので、これが理由となって「取り替えられた窓にはその名誉を讃えて彼の名がつけられた。」と繋がる。

つまり「司祭の魂を鎮める目的で名前がつけられた」という作文なのだが、こういう物語は原文には無い文脈だ

フレイバー・テキストの原文を読み解く

ではフレイバー・テキストの英語原文を読み解いていこう。

The chaplain would perhaps have found some small comfort had he known that the replacement window would be named in his honor.

まず前半部「The chaplain would perhaps have found some small comfort」は、「あの司祭は(もし××だったなら)気分も少しは晴れていたかもしれない」と、こんな意味合い。

もっとざっくばらんな言い方をすれば「過去のある時点でもし例の司祭が××だったなら気分は少し良くなってかもしれないよな…知らんけどさ」と現在の視点からのコメントとなっている。

では、どうだったら気分が良くなったのかというと…文の後半に答えがある。

後半部分「had he known that the replacement window would be named in his honor」は、「現在は、取り替えられた窓に司祭に敬意を表して彼の名前がつけられている。もし、そういう将来を彼があの時点で知っていたとしたら……」と、こんな意味合いである。

以上をまとめて考える。

「あの例の司祭」とはこのカードで窓から投げ捨てられている人物である。そして、司祭の死後に新しく取り替えられた窓には彼になぞらえた名前がつけられた。

「司祭に敬意を表して(in his honor)」名づけられたとなっているが…いやいや言葉通りの意味ではないだろう。

フレイバー・テキストの文章は、司祭が窓から放り出された時に、あなたがぶち破って落とされた窓に将来あなたの名前がつけられますよ、そう分かったなら(もうすぐ落下死するけど)気も晴れてきたでしょう…みたいなブラックな笑いが含まれている。「敬意を表して」も皮肉であろう。

フレイバー・テキストを訳し直した

では、確認した情報を踏まえてフレイバー・テキストを訳し直してみたのがこれだ。

司祭の心も少しは軽かったかもしれんよな。のちのち自分に敬意を表された名前が新しく取り替えられた窓につけられると知ってたらさ。

歴史的事実として自分が落とされた窓に名前が残されている…これは決して敬意を表されるような名誉ではないだろう。

和訳製品版の語るように「鎮魂のために名前をつけられた」という可能性は全く無かったとは言えないが、でも原文にはそういうことまでは書いてはいないのだ。それでは翻訳の領分を越えた創作になってしまう。これが和訳製品版の一番の問題点だ。

以上で、フレイバー・テキストの検証はおしまいとなる。最後の節では、このカードと他の次元について、そして今後の再録への希望について少し語る。



さいごに:ラヴニカ次元にて

窓からの放り投げ(Defenestrate)は先述の通りに「プラハ窓外放擲事件」に由来している。

有名な言葉だったので、そのうちカード化されても不思議じゃないな…と私も前々から思っていたものだ。だが、実際にカード化されてみて驚いてしまった。

というのも、カードが収録されるのがホラーがモチーフの「イニストラード次元」であったからだ。どうして「ラヴニカ次元」じゃないのか!?

「ラヴニカ次元」は大都市の次元だが、そのモチーフの中には、プラハのあるチェコの要素も多分に含まれているのだ。だから、「プラハ窓外放擲事件」のカードはラヴニカが最もふさわしいはずだった。そう思い込んでいたのだ。

しかし、冷静になって考え直してみると、イニストラードは東欧や中欧の雰囲気を持つ次元なので、チェコの逸話が採用されるのは不思議ではなかったのだ。

まあ、読みを外すのは私にはよくあることなので、気にしないことにしよう。将来ラヴニカ再訪時に再録されたら、私の心も少しは軽くなるかもしれないけれどね。





……と、諦めていたところで、ウィザーズ社クリエイティブ部門のイーサン・フライシャー(Ethan Fleischer)が私と同じようなヴォーソスの落胆に嬉しい回答をしてくれた。今度ラヴニカ次元に戻った時には、窓からの放り投げを再録する可能性はあるよ、と。(出典

フライシャーはヴォーソスの扱いが上手すぎる。では今回はここまで。

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