「Sylvan Paradise」つまり「森の楽園」はカードセット「レジェンド」収録のインスタント・カードである。
このカードのイラストは、ドミナリア次元のラノワール・エルフの王国の1つ「リアシル(Riashil)」だと考えられている。また、本来このイラストはレジェンド収録の別のカードと対として描かれたものであったが、そのことはあまり知られていないようだ。
今回はこの森の楽園から話を広げ、ラノワールのエルフェイム「リアシル」の解説を行い。最後には森の楽園と対となるもう1つのカードと比較して考察を行っていく。
森の楽園の解説
「Sylvan Paradise」こと「森の楽園」は好きな数のクリーチャーをそのターンの間、「緑に変化させる」という効果のあるインスタント・カードである。他のカードとのシナジーがないとは言わないが、初出のカードセット「レジェンド」当時でさえほとんど意味のある効果ではなく、何もしないのと同義のカードであった。
一方、ストーリーや設定面ではどのような扱いだろうか?このカードのイラストは公式サイト記事Encyclopedia Dominiaの掌編Still Waters, Deep Rootsの挿絵に用いられていた。この掌編はドミナリア次元にあるラノワールのエルフェイムの1つ、リアシル(Riashil)を舞台にしていた。そのため、このカードはエルフェイム「リアシル」を描き出したものと考えられている。
ラノワールのエルフェイム「リアシル」
ドミナリア次元のラノワール(Llanowar)の大森林は、エルフの王国エルフェイム(Elfhame)が支配している。AR4560年現在、エルフェイムは7つ存在する。
エルフェイムの1つがリアシル(Riashil)だ。
リアシルは1997年頃に発表された掌編Still Waters, Deep Rootsで登場した後は長い間言及されることはなかったが、約20年後の2018年に発行された設定集The Art of Magic: The Gathering – Dominariaで他のエルフェイムと共にかなり詳しい解説が行われた。同年、ドミナリアを舞台にD&Dを遊ぶルールPlane Shift: Dominariaでも、ラノワールのエルフの項目でリアシルは説明された。
リアシルが登場した回数はごく少ないが、設定は色々と詳しく作り込まれている。情報を拾い上げてまとめてみた。
リアシル気質
リアシルのエルフは温和な気性で孤立主義かつ平和主義である。また、エルフェイムの中で唯一、大規模農業を営んでいる。
プレインズウォーカーで学者のテイジーア(Taysir)1によると、リアシルは大昔からラノワール・エルフが有している内気で寡黙な性質を最も色濃く反映しており、氷河期以前のラノワール・エルフ文化に最も近いかもしれないという。
一般的にラノワールのエルフは余所者嫌いで、侵入者に対して非常に攻撃的なことで有名だ。だが、平和主義のリアシルは遥か昔に武器を手放し「宣誓の樫(Oak of the Oath)」の根元に埋めてしまっている。
リアシルの支配領域
エルフェイムのリアシルは、ラノワールの大森林地帯の中でも「陽光の差す谷間」や「林床2でも外縁のあまり密集していない地域」に居住しており、「森の中の開けた場所」に村落を形成する。リアシルの支配領域の具体的な位置や範囲は分からないが、南の境界はモエン川(Moen River)に接している。
有用な材木は常に貴重な資源なので、リアシルの家は地面を掘って建てることが多い。こういった住居は部外者の目では発見しにくいものだ。
リアシルのエルフは、自分たちの領域は神聖であり、フレイアリーズ(Freyalise)の保護下で最も聖別された地であるとみなしている。
リアシルと同じように、ラノワールの森の地面に支配領域を持つエルフェイムが「スタプリオン(Staprion)」だ。スタプリオンの方は地面でも、森の内部の薄暗い地域に暮らしていて、リアシルの領域とは被ることはない。
スタプリオンは遊牧生活で階層社会を形成し、軍事で強く敵対的な気質である。住む場所だけでなく、あらゆる面でリアシルとは水と油である。
リアシルの社会
リアシル社会は小規模で略式の民主主義である。何らかの裁可を仰ぐ必要が生じたなら、村の意見を取りまとめた代表者が共同体の権威である評議会へと訪れる。伝統的に、代表者には母親が同伴することになる。母親は発言しないが、もし代表者が村の利益を損なうような失敗を犯したなら、無言で頭に拳骨を落とすのだ。
リアシルの農業
大抵のラノワール・エルフは狩猟と採集の生活を送っているが、リアシルは大規模な農業を行っている。
リアシルの農地は、高所から見下ろせばらせん状に植わった作物の広がりだと分かる。だが、農具で耕した人間の耕作地をイメージしていると、側まで近づいてもその存在に気付くことは難しい。
リアシルが生産する農作物によって、エルフェイムのルアダッハ(Ruadach)やロリダール(Loridalh)の膨大な人口は支えられている。
掌編Still Waters, Deep Roots
リアシルが初登場した掌編Still Waters, Deep Rootsはエルフの少年フィン(Finn)の説話を子供たちに語るという物語だ。要約して紹介しよう。
昔々、少年フィンは「どうしてエルフはリアシルを離れてはいけないのか?」と疑問を抱いていたが、「リアシルは最も神聖な地である」という長老たちの答えに満足していなかった。長老たちはフィンが愚かな態度を改めるまで辛抱強く待つことにした。
ある時、フィンは南の境界のモエン川にまで旅をした。対岸に若い人間の姿を見つけたので、声をかけ疑問をぶつけてみた。すると、人間から手招きを返されたため、旱魃で浅くなったモエン川を渡って会いに行った。期待を込めて再び質問すると、人間が大きな袋を開いてみせた。中を覗き込んだフィンは袋に押し込められて、それっきり帰ってこなかった。
こうしてフィンは辛抱強く待たった場合よりも、ずっと早く答えを得ることができたが、それはおそらく望んでいたようなものではなかった。根を深く張るには静かな水が不可欠である。3激流で流されるのは愚者だけ、賢者はそうならないのだ。フィンの説話からリアシルの子供は学び取るのだ。
掌編は要約するとこのような物語であった。孤立主義のリアシルらしさがよく表れている。
迷える魂
Her hand gently beckons, she whispers your name–but those who go with her are never the same.
彼女の手が優しく差し招き、唇があなたの名をささやく–だが、彼女と共に行ってしまったら、ただでは済まない。
引用:迷える魂(Lost Soul)のフレイバー・テキスト(基本セット第4版再録以降の短いバージョン。最初のレジェンド版はもっと長い)
上が英語原文。下が和訳製品版
迷える魂(Lost Soul)はカードセット「レジェンド」収録のクリーチャー・カードである。カード名および「スピリット」のクリーチャー・タイプを持つことから、死後に彷徨っている霊魂だと思われる。
カードのイラストに目を向けると、イラストを担当したRandy Asplund-Faithによれば、森の楽園と迷える魂の2枚は1組で対として描かれたものだ。森の楽園と迷える魂のイラストの女性は同一人物をモデルとしていて、2つのイラストは「生」と「死」で対比となっているのだという。(出典)
そう言われてみると、女性は確かに似ている。それだけに限らず、森の楽園は小川の向かって左に女性がいて、空は明るく、周囲は緑にあふれている。一方、迷える魂の方は女性が小川の右側、曇り空であり、倒木や立ち枯れしたような木々が不気味だ。女性の頭から全身を覆っているのは死に装束だろうか?
迷える魂をラノワールのエルフとして解釈する
以上のように、イラスト担当者は2つのイラストを「生」と「死」のテーマで描き上げていたものだった。ラノワールは意識しておらず、ラノワールとの関連付けは明らかに後付け設定である。
だが敢えて、後付け設定の面から迷える魂を解釈することも可能だ。森の楽園をリアシルのエルフの生者の世界と捉えた場合、迷える魂は死後のエルフの彷徨える霊魂ということになるだろう。
また、2枚のイラストを生者の世界は1本の川によって、対岸の死者の世界と隔てられている、と捉えるとどうか。ここで少年フィンの説話を思い返せば、エルフェイムを離れて川を渡って対岸に行ってしまったら、もう再び戻ってこれない。フィンは対岸の人間の手招きに従って渡河したが、迷える魂もフレイバー・テキストではこちらに来るように招くのである。この類似にはリアシルの死生観が伺えるようだ。
この観点から、さらにもう1種類のカードの存在が思い出されてくる。
ラノワールの死者
Just as leaves fall from the branches of a living tree, so too do the dead leave the elfhame.
生きている木の枝から葉が散るように、死者はエルフェイムから姿を消していく。
引用:ラノワールの死者(Llanowar Dead)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ラノワールの死者(Llanowar Dead)はカードセット「アポカリプス」収録のクリーチャー・カードである。死後にアンデッドのゾンビと化したラノワールのエルフである。
フレイバー・テキストによると、ゾンビとなったエルフはエルフェイムから離れていくというのだ。ここでは「川を渡る」ではなく、「生きている枝から葉が散る」ことにたとえている。死後の世界の住人となればエルフェイムを離れてもう戻ってはこれない、という点では同じと言える。
ラノワールには(あるいはリアシルには)、こうした「エルフェイムの外に死者の世界があり、死者は生者を手招きして連れて行こうとする。死者となったら、死後の復活は起こらない」という一貫した死生観があるのではなかろうか?
さいごに
今回もカードセット「レジェンド」の1枚のカードを発端にして、色々な方向に話しを広げ過ぎてしまったようだ。
ラノワールの死生観に関しては、妄想にすぎると思わないでもないが……。こういうのこそが本サイトらしい売りだと思っている。
では、今回はここまで。
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