虫たかり(Vermiculos)はカードセット「ミラディン」収録のクリーチャー・カードである。
ある朝、起き抜けにこの「虫たかり」のことを思い出した。
「虫たかり……あれはどんな生き物だったんだろう?得体が知れない名前の生き物だったなぁ。」
こうしていったん気になり出したら仕方がなくなってしまった。
今回はミラディンに生息する虫たかりこと「ヴァーミキュロス」について取り上げる。
虫たかりの解説
Mirrodin’s artificial environment requires its own predators, scavengers, and senseless forces of nature.
ミラディンの人工世界には、餌食や屍肉あさり、無分別な自然の力が必要だ。
引用:虫たかり(Vermiculos)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
虫たかり(Vermiculos)こと「ヴァーミキュロス」は金属の人工次元ミラディンに生息するクリーチャーである。
細長い紐のような赤味がかった体で、全体は透明な粘液状のものに包まれており、一方の末端部に口があり、細長い舌を伸ばしている。
クリーチャー・タイプが「ホラー」なので普通の生物とはまた違ったおどろおどろしい側面を持っているはずだ(ミミズとか蠕虫の親戚みたいな姿にはホラーっぽさはあまり感じないとはいえ)。
「虫たかり」は正しい名称か?
「虫たかり」という和訳製品版カード名にはどこか違和感がある。
「虫たかり」という名前からすると「体中に虫がたかっているクリーチャー」を連想してしまうが、イラストは全くそんなことはない。むしろこのカード自体が「蟲」である。
英語名を確認すると「Vermiculos」である。英語の「害虫・害獣」を意味する「vermin」に似ている。
この名前は「vermi-(虫)」+「-culus(小さいもの)の複数形の-culos」に分解してみると、「小さな虫のようなものたち」くらいに解釈できる。
それで、調べてみると「vermiculus」はラテン語の「(特に腐った物を食べる)蟲や蛆虫」や「朱色染料の材料となる臙脂虫(えんじむし)・コチニールカイガラムシ」といった含みの言葉だと見えてきた。ミミズやシラミのような生き物を指しても用いられているようだ。ちなみに、英語の「vermilion(朱色)」は後者の意味合いの末裔に当たる。
このカードのイラストは明らかにそういう「蟲や蛆虫」の仲間である。
ということは、このカードは「虫にたかられている生き物」ではなく、その反対に「餌にたかる虫」の方だったのだ。道理で違和感のある名前だったはずだ。これで和名の「虫たかり」は主体と客体がひっくり返った間違いだと明らかになった。
誤った翻訳名称を用い続けるのは本サイトの流儀ではないので、以後はこのカードが描く生き物を「ヴァーミキュロス」と呼ぶことにする。
ヴァーミキュロスのフレイバー・テキスト
このカードはカード名だけでなく、フレイバー・テキストの方も和訳が奇妙である。
具体的に指摘していこう。
Mirrodin’s artificial environment requires its own predators, scavengers, and senseless forces of nature.
ミラディンの人工世界には、餌食や屍肉あさり、無分別な自然の力が必要だ。
その1:ミラディン独自の
まず1つ目の奇妙な点。原文にある「its own」が和訳版では欠落している点だ。
「Mirrodin’s artificial environment requires(ミラディンの人工的な環境は必要とする)」という冒頭から始まっているが、では「何を必要とする?」というと「its own」つまり「ミラディン次元独自のpredators, scavengers, and senseless forces of nature(が必要だ)」と文は続いていく。この含みが抜け落ちてしまっている。
その2:餌食でなく捕食生物
2つ目の奇妙な点は「predators」のところだ。「捕食生物」を指す言葉だが、何故か和訳版では「餌食」に置き換わっているのだ。「食べる側」から「食べられる側」に正反対になっている。なぜこんな改変したのか全く分からない。
その3:無分別な自然の力
3つ目は「無分別な自然の力」と訳された「senseless forces of nature」だ。「無分別な自然の力」とは難解な言い方になっている。これはどういった意味なのだろう?
この文は、ミラディンの人工環境が必要とする独自のものがあるという流れで、具体的に必要なのが「捕食生物(predators)」、「腐食生物(scavengers)」そして「senseless forces of nature」だと提示する。「捕食生物」は「生きているものを殺して食べる役割」で、「腐食生物」は「すでに死んでいるものや排泄物などを食べる役割」である。どちらも「食べる側」だ、ならば並列する「senseless forces of nature」も同じだろう。
「forces of nature」は「自然界の何らかの力や勢力、集団」といった含みがある。そして、その中でも「senseless」なものだという。「senseless」は「無意味・無駄・無益・非常識」など幅が広くて解釈が難しい。
ここで「食べる側」の視点で向き合ってみると、「捕食生物」も「腐食生物」も生き物を食べることで自然へと返すサイクルを成すものだ。それに対して「senseless」=「無意味・無駄」と見るとどうだろう?サイクルを(一見)成さない類の生き物が当てはまる。例えばシラミやノミ、カイガラムシ、寄生虫などは餌を殺しもせず栄養のおこぼれを食べる「自然界の無駄な勢力」と言えるのではないか。
訳し直してみた
以上のように解釈をし直して、フレイバー・テキストを訳し直してみた。
ミラディンの人工的な環境では、独自の捕食生物や腐食生物、そして自然界の無駄な集団が必要とされる。
ミラディン次元は特殊な世界である。そもそも「人工の次元」というだけに終わらず、「金属の世界」という性質をも備えている。そして、この金属次元に生息する生き物もまた、金属を身体に取り込んだ特殊なタイプなのだ。
それゆえ、このフレイバー・テキストは、普通世界の生態系とは異なった在り様がミラディンの世界にはある、その視点から語られている。人工的な金属世界に適合した金属化した生物が生息しており、普通の世界と同様に食う食われるの関係を築いている。捕食生物や腐食生物も確かに重要であるが、他の生き物のおこぼれにあずかるヴァーミキュロスのような取るに足らない無駄な(無駄に見える)存在も、ミラディンの自然界には必要なのだ。
カードのメカニズムを解釈
ヴァーミキュロスは捕食生物や腐食生物と違って、餌となるものを平らげることはなくそのおこぼれを食べている。その線でフレイバー・テキストを解釈をしてきた。
では同じ理屈でカードのメカニズムを読み解いてみる。
まずカードのメカニズムを確認すると、アーティファクトが1つ戦場に出るたびにターン終了時まで+4/+4の修正を受ける。呪文のコストが5マナで、基本のパワー/タフネスは1/1とスタッツは悪い。だが、アーティファクトを沢山出せるなら一時的にどんどん巨大なサイズになる爆発力のロマンが秘められている。
金属世界ミラディンではアーティファクトは食物となり得るものだ、アーティファクトが戦場に出るとは、ヴァーミキュロスに餌が放り込まれた状況に他ならない。餌に群がり貪ってヴァーミキュロスはその数を増すに違いない。しかし、捕食生物や腐食生物と違って、そのアーティファクトをすっかり食べてしまう程ではない。
餌が出るたびにヴァーミキュロスは食べて群れは大きくなる(+4/+4)。だが、餌のアーティファクトはそのまま戦場に残される。この解釈は成り立ちそうだ。
おしまいに
今回は「虫たかり」とは何ぞや?このカード名はそもそもどんな意味か?フレイバー・テキストが語るミラディンの世界の様相は?そんな所を考えてきた。
「虫たかり」という和訳は誤りで、この「ヴァーミキュロス」はむしろ「たかる虫」の方であった。金属世界の人工環境では、普通の世界とはまた異なったこの世界独自の捕食生物や腐食生物、その他の取るに足らない蟲などが必要とされる。ヴァーミキュロスは第3のカテゴリーだ。
「私の個人的な解釈では」という但し書き付きではあるけれど、1枚のカードからもミラディン世界の特異性が窺い知れるように、細部を注意深くデザインされていると感じられた。これは僥倖だった。
ヴァーミキュロスに関して掘り下げるネタはもう尽きてしまった。最後にミラディンの環境下における捕食生物を紹介して〆としたい。
On Dominaria, a scavenger. On Mirrodin, a predator.
ドミナリアではゴミあさり。 ミラディンでは猛獣。
引用:エイトグ(Atog)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
普通の世界と金属世界では環境で必要となる生き物が異なるものだ。また、同じ生き物でも環境が変わればその役割も変わることになるだろう。
エイトグ(Atog)はドミナリア次元では餌の金属を漁って生きる「腐食生物」だったが、金属豊かなミラディン次元では獰猛な「捕食生物」へと変わったのだ。
「環境が人を変える」とはこのことか!?では今回はここまで。
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