ニューカペナ:路上芸術家、エラント

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路上芸術家、エラント(Errant, Street Artist)カードセット「ニューカペナの街角」収録の伝説のクリーチャー・カードである。

本記事ではエラントの基本的な設定、親族(結婚相手と親)を解説する。そして、記事の後ろ半分はエラントの設定にある不可解さについて考察している。

追記(2022年4月28日):エラントがイラスト内で描いているマークが貴顕廊であることを見落としていたのでその点を追記した。また、短編作者による見解コメントを発見したので、その件も節を新設して追記した。

路上芸術家、エラントの解説

Few know her face, but everyone knows her work.
彼女の顔を知る者は滅多にいないが、彼女の作品は誰もが知っている。
引用:路上芸術家、エラント(Errant, Street Artist)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

路上芸術家、エラント(Errant, Street Artist)はニューカペナの人間女性。

カード名の二つ名と、イラスト、フレイバー・テキストを見るに、エラントはスプレー的な装置で街中に絵を描き残す、かなり有名なグラフィティ・アーティストである。イラストの描写から察するに、おそらく何らかの魔法か装置の助けによって、垂直の壁を歩くことが可能である。



路上芸術家、エラントの登場ストーリー作品

路上芸術家、エラント(Errant, Street Artist)

特別イラスト版の路上芸術家、エラント(Errant, Street Artist)
公式カードギャラリーより引用

路上芸術家、エラント(Errant, Street Artist)短編The Family Man公式邦訳版)に登場している。

この短編では貴顕廊一家のナンバー2である吸血鬼アンヘロ(Anhelo)の愛娘であるとされ、常夜会一家のトルーズ(Toluz)の娘であるパルネス(Parnesse)と、一家の垣根を越えた結婚をした(同性婚)。

エラントの母親セレナ(Serena)はすでに亡くなっているが、彼女の外見は母親譲りの薄い褐色の肌1と、父親と同じ豊かでウェーブのかかった髪2をしており、父アンヘロは折に触れセレナの面影をエラントの姿や立ち振る舞いに見ている。

一方、エラントは父アンヘロが仕事関係で大事な約束を度々破ってきたことに失望をしていたが、結婚式には必ず間に合わせるとの約束を守ってくれたことで感情のしこりはほどけたようだ。

ちなみに短編の公式和訳版において、エラントは母親に「気迫もまた」そっくりだと書かれているが、原文にはそんな意味は全く無くただ冥福を祈る言葉が記されているだけである。つまり明らかな誤訳なのだ。

路上芸術家、エラントの不可解な親族設定

エラントの親族関係は上述した通りだ。父親はアンヘロ、亡き母はセレナ、結婚相手はパルネスで、義母がトルーズである。

この親族だが実は設定がかなりおかしい。私の見たところでは、エラントとパルネスの設定がどこかで入れ替わってしまったとしか思えないのだ。

理由を挙げていこう。2つある。

理由1:親族の種族と所属一家の確認

まずはエラントと親族たちの種族と所属一家を確認しよう。

路上芸術家、エラント(Errant, Street Artist)

路上芸術家、エラント(Errant, Street Artist)
公式カードギャラリーより引用

エラントは人間の女性だ。短編によると、アンヘロの娘であり、かつ一家の垣根を越えた結婚と語られていた。エラント自身が貴顕廊の正式な構成員であるかは定かではないが、立場としては貴顕廊一家の身内として扱われている。また、貴顕廊一家は黒中心の青黒赤であるが、エラント自身のカードの色は青なのでゲーム的にも問題はない。その上、通常版イラストでエラントが壁に描いているマークは貴顕廊のものだ。

アンへロとセレナの種族と所属一家

画家、アンヘロ(Anhelo, the Painter)

画家、アンヘロ(Anhelo, the Painter)
公式カードギャラリーより引用

アンヘロは吸血鬼の男性だ。貴顕廊一家のナンバー2であり、自身のカードの色も青黒赤とピッタリ合致している。

セレナの種族と所属一家は語られていない。

父親が吸血鬼だが娘のエラントは人間であり、種族が異なっていることに留意しておかれたい。

パルネスの種族と所属一家

繊細な筆、パルネス(Parnesse, the Subtle Brush)

繊細な筆、パルネス(Parnesse, the Subtle Brush)
公式カードギャラリーより引用

パルネスは吸血鬼の女性だが、所属一家の方に明らかな問題がある。

短編では、常夜会一家のトルーズの娘であり、一家の垣根を越えた結婚と語られていたので(エラント同じ理由で)パルネス自身も常夜会一家所属であると考えられる。

ところが、カードを見ると色は青黒赤で、テキスト欄には貴顕廊一家の透かしが描かれている。つまり、カードでのパルネスは貴顕廊一家所属なのだ。

短編とカードで設定に齟齬が生じている。

トルーズの種族と所属一家

賢明な車掌、トルーズ(Toluz, Clever Conductor)

賢明な車掌、トルーズ(Toluz, Clever Conductor)
公式カードギャラリーより引用

トルーズは人間の女性だ。短編では常夜会一家所属だったが、カードの色は白青黒でテキスト欄には常夜会の透かしが描かれており、どのソースでも常夜会一家所属で固定している。

親族の種族と所属一家の不一致

以上まとめる。

  • アンヘロとエラントの父娘は、父が吸血鬼で娘は人間と種族が違う。
  • トルーズとパルネスの母娘は、母が人間の常夜会だが、娘は吸血鬼の貴顕廊であると、種族と所属一家の色がバラバラである。

ゆえに、娘同士を入れ替えるだけで種族も所属一家の色もごく自然な形に収められるのが理解できると思う。

アンヘロの娘がパルネスなら吸血鬼同士で、青黒赤の貴顕廊の所属となる。そして、トルーズの娘がエラントなら人間同士で、所属一家の色の問題も起こらない。こういうことだ。

種族と所属一家の他にもう1つ、入れ替わったと考えられる理由が挙げられる。次の節ではアートに注目してみよう。



理由2:親族のアートの確認

エラントたちが扱うアートの種類に注目すると傾向の偏りが見える。

エラントは上述の通りグラフィティ・アーティストなので、壁にスプレーで絵を描く(おそらくゲリラ的に無許可で)。

パルネスは解説記事によると肖像画家で、特に吸血鬼を顧客としている。イラストでも肖像画を描いている。

アンヘロはカード名の二つ名が「画家」であるが、実際に従事している仕事は貴顕廊の美術館や博物館の管理者・学芸員である。裏の顔としては芸術的な嗜好を凝らした暗殺者でもある。

エラントのストリート・アートに対して、パルネスとアンヘロには洗練された伝統的でハイソサイエティな雰囲気を私は感じた。それに前者はあまり貴顕廊が取り扱いそうにないアートに思える(貴顕廊は歴史の保護者でもあり、短編では貴顕廊の美術館は近代美術はまだ守備範囲外と取れる会話もされていた)。

鉄道関係者のトルーズとグラフィティ

賢明な車掌、トルーズ(Toluz, Clever Conductor)

特別イラスト版の賢明な車掌、トルーズ(Toluz, Clever Conductor)
公式カードギャラリーより引用

さて3人を確認したところで、残りのもう1人、トルーズに視点を移したい。

トルーズは短編作中では常夜会の構成員であったが、カードの方では鉄道の車掌を仕事としている。カード名の二つ名は「賢明な車掌」であり、イラストの彼女は光る切符のようなものを手に持ち、その背後には路線図がディスプレイされ、さらに通常版イラストでは奥に列車が見えている。

これらの情報からはトルーズとアートとの関係性は読み取れないが、ここでは鉄道関係者という点が重要だ。

カードセット「ニューカペナの街角」はマフィア・ギャングものをテーマにしていて、1920年代のアメリカ的な要素がふんだんに盛り込まれている。その時代のグラフィティ・アートはと言うと、鉄道員らが列車に描いた「Bozo Texinoという文字を添えた帽子をかぶった顔」が知られている。つまり、モチーフの時代では、グラフィティは鉄道と関係があったのだ。

トルーズが鉄道員で、エラントはグラフィティ・アーティストだ。鉄道とグラフィティが接続されるなら、トルーズとエラントも結び付けられる。親子関係を持たせるには丁度良い雰囲気付けであるように感じないだろうか?

親族とアートのまとめ

以上をまとめると、アンヘロとパルネスは貴顕廊的な伝統的で洗練されたアートで括られる。一方、鉄道とグラフィティの関係性から、トルーズとエラントには繋がりが見える。

このようにアートの視点から見ても、種族と所属一家の色と同様にこの2組にまとめられるのだ。

不可解な親族設定の結論

したがって、もしエラントがトルーズの娘で、パルネスがアンヘロの娘であったとしたら、種族・所属一家の色・ア-トの傾向の全ての面にある矛盾や違和感が解消されて、非常に自然な形に収まるのだ。

考えるほどにエラントとパルネスは本来は逆だったに違いないと思えてくる。短編の制作過程かどこかでエラントとパルネスの立ち位置が入れ替わったか名前が取り違えられたかして、そのまま訂正されずに(あるいは気付かれずにスルーされたまま)公開されたのではないか、と私は強く疑っている。ホントのところどうなのか?

ウィザーズ社は今からでの2人の設定を入れ替えても良いと思うのだけれどな。



追加情報:短編作者の見解

この記事を投稿した後に、短編The Family Man公式邦訳版)の作者K. Arsenault Riveraが、パルネスが吸血鬼でエラントがそうではない点に関して質問を受けて回答しているコメントを発見した(リンク)。

質問者はパルネスが吸血鬼であるがエラントが吸血鬼ではないことに触れ、パルネスは義父アンヘロと同じ道を選び貴顕廊一家に加わったのかと尋ねた。作者K. Arsenault Riveraによると、パルネスの才能は貴顕廊のような人々にとってそうそう無視できないものであるため、パルネスは貴顕廊に参加することにしたように思えるとの旨を回答した。また、アンヘロはエラントのためにもパルネスから目を離さないだろうし、同様にトルーズも娘から目を離さないだろうこともコメントしている。

つまり、短編作者の見解としては、種族・所属一家にある矛盾や違和感に関しては短編以後に起こった変化として吸収可能なものだと考えているようだ。

この線で考えるなら、パルネスは結婚後に貴顕廊に入る際に吸血鬼となったことになる。また、エラントが人間なのはニューカペナでの「吸血鬼性」は親から子に遺伝する類ではないか、母セレナが非吸血鬼の人間であったため人間として生まれた、などの説明付けが考えられる(ただし、公式は吸血鬼性の遺伝について何も明確な解説を出していない)。

取りあえずは説明はつけられそうではあるが、ウィザーズ社公式からの明確な情報がほしいものだ。

さいごに

エラントの四方山話はこれでおしまいだ。

先日やっとニューカペナの街角の伝説のキャラクターたちの解説記事が公開されたのだが、いつもは全員解説されるのと違って、今回は伝説のキャラクターの2/3程度だけが解説されるに留まっていた。本記事のエラント、そしてトルーズは解説から取りこぼされた側のキャラクターとなる。短編にも登場したキャラクターなのだから2人には解説する情報は既にある程度はあるわけで、それをスルーしたことには正直今でも不満である。

公式な解説が無かったキャラなのでこうして記事化して情報と疑問をまとめておく価値はあるだろう、そう考えて生まれたのが本記事だ。これで一応当初目的は達成できただろうか?

では今回はここまで。

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