今日早朝からカードセット「団結のドミナリア」の連載ストーリーがスタートした。
公式和訳版も同日公開されている(リンク)。毎度のことながら変な誤訳が散見される。ほぼ同時公開なんて焦らないで十分に内容を吟味して、間違いの少ない状態で公開してほしいものだ。
第1話を読書した雑感をメモする。
追記(2022年8月13日):いくつか項目を追加するなどした。
第1話公式リンク
Episode 1: Echoes in the Dark
メインストーリー第1話:闇のこだま
第1話雑感
第1話を読んでの雑感を思いつくままにザックリと書き記していく。
原文を引用する際には「基本的に英語原文だけ」にするつもりだ。公式和訳版は日本語の言い回しがしっくりこなかったり、しばしば誤訳して内容がおかしかったりするので、引用するたびにその辺りを指摘するのが面倒なのだ。
それはそれとして、これはどうかと思う誤訳の場合は気が向いたら指摘する。
カーン
カーン(Karn)はゴーレムのプレインズウォーカー。第1話の主人公。
前回ドミナリア次元が舞台となったカードセット「ドミナリア」において、新ファイレクシアに対する秘密兵器ゴーゴスの酒杯(Golgothian Sylex)を入手していた。
コイロスの洞窟
コイロスの洞窟(Caves of Koilos)はドミナリア次元テリシア地方新アルガイヴ島にあるスラン時代(9500年ほど昔)の遺跡だ。
かつてドミナリア次元とファイレクシア次元とを結ぶ次元門があった場所で、洞窟の複合体だ。これまでの何千年もの間に何度も発掘や調査が行われているが、カーンは改めてコイロスを発掘調査している。
新ファイレクシアに対抗するキーアイテム「ゴーゴスの酒杯」の研究と、すでにドミナリア次元に到来した気配のある新ファイレクシアに関する手掛かりの調査が目的のようだ。
ゴーゴスの酒杯
ゴーゴスの酒杯(Golgothian Sylex)はスラン時代の遺物。
AR63年(およそ4500年前)にウルザ(Urza)が使用して大破壊を引き起こし、アンティキティー戦争を終結させた。ドミナリア氷河期の原因でもある。
カーンはコイロスを発掘して、ゴーゴスの酒杯に関するスラン帝国期の研究記録を発見した。
酒杯の起源
A Thran artifact, most said—but he had his doubts. It was Karn’s belief that this device came from farther fields than simply the past.
スラン製アーティファクトというのが大方の見方だったが–彼は疑っていた。この装置は単なる過去(のスラン帝国)からでなく、(スランよりも)もっと遠い土地から来たものだと思っていた。
上がEpisode 1: Echoes in the Darkの引用、下が私家訳
ゴーゴスの酒杯の起源は不明だ。
大方の主張ではスラン帝国の遺産だという。
小説Planeswalkerによると、ウルザはスラン製だと断定している。1しかし、ウルザの断定はあまり信用できないものだ。ウルザがゴーゴスの酒杯を手渡されて使用したのはその日のうちでかなり短い間の出来事である。酒杯のスラン文字すらよく記憶していないほどなのに、スラン製だと断定してしまっているのだ。それに同小説中のウルザは限られた情報で断定した後に読みを外している場合も少なくはない。
小説The Brothers’ Warによれば、アンティキティー戦争期にゴーゴスの酒杯が発見されたのは、かつてスラン帝国があったテリシア中央から東部より遠く離れた北西部のロノム氷河であった。酒杯にはスランだけでなくファラジやスミファの文字が記されており、帝国を撃ち滅ぼす目的の装置だとの文言も書かれてあった。こういった事情を鑑みて、スラン帝国打倒用の装置だったと見做す説もある。カードセット「ドミナリア」期の公式Podcastでもこの説が紹介されていた。ちなみに、個人的に私はこちらの説を支持している。
酒杯はウルザ製作ではなかったのか?
カードセット「ドミナリア」の連載ストーリー時に、カーンは「ウルザがファイレクシアを倒すために酒杯を作った」との旨を語っていた。少なくとも、ウルザがアンティキティー戦争で使用した酒杯は古代の発掘品なので、明らかに誤りだ。
しかし、カーンが発見し現在所有している酒杯がウルザ製である可能性は否定できない。ウルザが後に酒杯のレプリカを作った、とすればつじつまが合うからだ。生涯を通してファイレクシアと戦ったウルザならば、酒杯を武器として研究し再現しようとするのは自然なことだ。
補足。小説Planeswalkerによれば、ウルザがアンティキティー戦争で使用した酒杯は、放出した力に呑まれて消えた2とのことだ。もしここで完全に消失しているとすれば、他の作品に登場する酒杯は当然別の酒杯となる。
酒杯に記された文字
Its inky characters seemed to move under his worktop’s light, transforming from Thran to Fallaji to Sumifan. The vessel’s wide, bowl-like mouth seemed to call to be filled—with, according to the Sumifan, the memories of the land.
真っ黒な文字は作業台の照明の下で、スラン語からファラジ語そしてスミファ語へと変化するように見えた。この容器のボウルのような広い口は、満たせと呼び掛けてくるようだ。スミファ語で記されたところによると、土地の記憶で満たせと。
上がEpisode 1: Echoes in the Darkの引用、下が私家訳
この内容はほとんど小説The Brothers’ Warからの繰り返しになる。
酒杯にはスラン文字(Thran glyphs)や古代ファラジ語(ancient Fallaji)、スミファの歌記号(song-markings)やその他の文字や記号(解読不法なものも含む)が記されていると語られていた。
「土地の記憶(the memories of the land)」で満たすことで、酒杯は終わりをもたらすという件も同小説中のものだ。
酒杯の人物像!?
作業台の明かりの下、黒い人物像は動き、変化していくようにも見えた。スランからファラジへ、そしてスミファへ。鉢のように広いその口は、満たしてくれと呼びかけているようだった――スミファの伝承によれば、大地の記憶で満たす。
公式和訳版メインストーリー第1話:闇のこだまより引用
前節で取り上げた部分は、公式和訳版では誤訳にまみれている。
「人物像」と訳されている「characters」はこの文脈では「文字・記号」のことだ。小説The Brothers’ Warの方でも、「characters」と表記して「文字・記号」を示していたので、もしこの件の出典元になる本作の内容が頭にあるなら、「人物像」という誤解釈はできないだろうと思うのだが……。
次に「スミファの伝承」と訳されている原文は「the Sumifan」つまり「スミファ語」である。「人物像」と解釈を間違った綻びがここでも現れている。
可能性の話。
ゴーゴスの酒杯のカードイラストに複数の人の姿が描かれているため、それで翻訳担当陣が「characters」を「人物像」と誤解釈してしまったのでは?と、私はフォロワーから指摘を受けた。この視点は確かに一定の説得力がありそうだ。
とは言っても、文脈上「characters」が「人物像」になるのはやっぱりおかしい。
ローナ
ローナ(Rona)は第1話の悪役として登場したドミナリア人女性。初出はカードセット「ドミナリア」であり、カード化がされ、簡単な設定も公開されている。
トレイリアのアカデミーで魔術を研鑽した工匠だが、ミシュラ一派というカルトのメンバーでもあり、古代のファイレクシア知識の探求を行っている。歴史上のファイレクシアン・デーモンの法務官ギックスに強く惹かれ、ローナも自身の肉体を機械改造して完成を目指している。
今回ストーリー第1話では、新ファイレクシア次元からドミナリア次元に来訪した法務官シェオルドレッドの副官となっている。コイロスの洞窟内の侵略準備基地で従事し、カーンに立ち向かった。
この第1話段階ではまだ完成したファイレクシアンではなく、部分的に機械化されているにすぎないが、カーンとの戦いで破損・負傷した片目や脚を機械修復して改造度を上げている。ストーリー終盤にはどこまで完成に近づけるのだろうか?楽しみにしたい。
ローナの口調
公式和訳版では、ローナのシェオルドレッドに対する口調が一定していない。「これ」呼ばわりしたかと思えば、敬意を表したりといった具合。特段意味もなく言葉遣いをブレブレにされると、キャラクター像がぼけてしまう。困ったものだ。
ローナの武器
公式和訳版ではローナの武器は「剣」と訳されているが、原文は「グレイヴ(glaive)」だ。いわゆる「剣」=「ソード(sword)」とは違う武器である。
ローナはトレイリアの学生か?
公式和訳版では、ローナは「トレイリアの学生」と訳されている。
しかし、原文では「トレイリアのローブを着た女性」とか「トレイリアン(the Tolarian)」とかとしか書かれていないので、「学生」という含みは特に読み取れない。ローナが一人前の「工匠」や「魔術師」である可能性は十分にある書き方なのだ。むしろ「学生」に制限して解釈できるほどの情報はこの第1話にはない。
また、前回のカードセット「ドミナリア」期の公式解説文も確認したが、ローナが学生だと示す内容は見つからなかった。
以上から言えることは、ローナはトレイリアのアカデミー所属を示す服装の人物ってことだけだ。
ミシュラ一派
「ミシュラ一派」と味気なく訳された「The Society of Mishra」は、ストーリー作品では恐らく今回が初登場となる組織だ。
ウルザよりファイレクシアに感化されたミシュラこそが正しいと信ずるカルトで、肉体の機械化を行う者たちである。
構成員の着衣が灰色ローブだというのも今回明かされた新情報だ。
シェオルドレッド
囁く者、シェオルドレッド(Sheoldred, Whispering One)は新ファイレクシアの黒の法務官。ここ最近のカードセットで順番に登場してきた5人の法務官の4人目だ。
第1話時点のシェオルドレッドは次元移動による肉体の有機部分損傷を修復中である。ドミナリア現地のローナらミシュラ一派を配下として既に侵略に向けた計画を進めてしまっているようだ。
カードセット「団結のドミナリア」では新バージョンでの2回目のカード化がされることだろう。
「測っており」ではない
Teams of splicers scaled a dragon engine to repair it, so small that their welding torches seemed like white stars against the engine’s metal skeleton.
接合者の一団が修復のためにドラゴン・エンジンの寸法を測っており、彼らのあまりに小さな溶接の炎は白い星々のように金属の外骨格に輝いていた。
引用:上がEpisode 1: Echoes in the Dark、下が公式和訳版メインストーリー第1話:闇のこだま
「scaled」を「寸法を測っており」と訳しているが、明らかに間違いだ。
動詞の「scale」には「(天秤などで重さを)量る」という意味はあるものの、この文章の場合は「よじ登る」「(はしごなどで)登る」という意味である。
仮に「寸法を測る」(あるいは「計量している」)と解釈したとしても、なぜか計測作業ではなく溶接をしているため、描写が矛盾してしまう。読めば違和感を覚える作文だ。
したがって、この文章の本当の内容はこんな感じになる。ドラゴン・エンジンによじ登った接合者たちは、溶接作業を行っているのだが、巨大なドラゴン・エンジンに比べるとその溶接の白い光はあまりに小さく見えた、というのである。
訳ブレする「門船」
連載ストーリー第1話には「portal ship」が登場しており、これまでの公式訳は「門船」であったが、第1話の公式和訳版では「ポータル船」と訳されている。つまり、訳語がブレているのだ。
第2話以降でも「ポータル船」となっているので、今回の連載ではそれで通す方針なのだろう。
ローナによる毒親カーン批判
“You’d kill them, wouldn’t you,” Rona said, “for reaching for perfection.”
「お前がミラディン人を殺したようなものだろう。完成へと到達するために」
引用:上がEpisode 1: Echoes in the Dark、下が公式和訳版メインストーリー第1話:闇のこだま
カーンはローナから向けられる悪意の理由を問い、それにローナが答えるという場面がある。その2人のやり取りの中に出てくるのが上記の台詞だ。
公式和訳版では、この台詞の発言者が誰か不明瞭だ。カーンとしてもローナとしても何か不自然な内容と口調なので、どういう流れなのか当惑する反応もあった。
原文を確認すれば、明確にローナの言葉だと書かれているし、内容にしても公式和訳版とのずれを感じる。
「あなたは彼ら(ファイレクシアンになったミラディン人)を殺したいんでしょう、ねえ」とローナは言った。「完璧を目指すあまりにさあ」
私なりに難しいながらも日本語化して見たが、こんな雰囲気じゃないだろうか。この前後も含めて、ローナはカーンをいわゆる「毒親」と見做して責めているのだ。
一連のローナの言い分を私なりに汲み取ってみたのが以下になる。
ミラディン人はファイレクシアンに変化してカーンの下から巣立つことができた。これは素晴らしい出来事だったのに、カーンは親のくせして自分の思う完璧な姿と違うから子供であるファイレクシアン(元ミラディン人)を殺したくなったんだ。メムナークの場合も生み出したものの、ほったらかしで親として導いてやらなかった。カーンはそういう毒親で、ローナは我慢がならないのだ。
ローナがカーンに向ける悪意の理由を、私はこのように解釈した。
プレインズウォーク妨害
第1話の最後では、カーンを待ち構えていたファイレクシア側により生き埋めにされてしまう。古代の次元間ファイレクシア技術の低級な干渉によりプレインズウォークを封じられてしまい。圧し掛かる重量に身動きできず、誰かが助けに現れるのを待つしかなくなってしまった。
プレインズウォークを妨害するなんて、ファイレクシアの技術はそんなことも可能なのか?との反応もあるだろうが、これは過去のストーリー作品で既に描写されていたものだ。例えば小説Planeshiftでは、ファイレクシア次元が物語の舞台の1つとなるが、流石に旧世代の本拠地だけあってそこでは大規模な妨害装置の存在が語られていた。今回はそこまで高度でも大規模でもないが、同じ理論に基づく旧世代技術を利用したのである。