甘歯村(あまばむら:Sweettooth Village)はエルドレイン次元に存在する、お菓子モンスターの住まう不気味な見捨てられた街である。
今回は、カードセット「エルドレインの森」で登場した甘歯村とお菓子モンスターを取り上げる。
追記(2023年10月6日):甘歯村の敵として虚ろの死体あさり(Hollow Scavenger)を追加した。
ワールドガイドはMTG30周年記念展示で特別公開されていたが撮影不可のため、私は個人的に要点をメモしておいた。メモと記憶に頼っているので、正確さという点では完全とは言えない。あらかじめ了承していただきたい。
甘歯村の解説
甘歯村(あまばむら:Sweettooth Village)は僻境のダンバロウに存在する不気味で、放棄された街1である。
このお菓子の村はジンジャーブレッドや砂糖衣、飴、その他のお菓子やデザートで構成されており、凶悪なお菓子モンスターが徘徊している。
道なりに撒かれた飴などのお菓子に誘われていくと、甘い香りの漂う甘歯村へと辿り着くことになる。ここへ迷い込んだ飢えた旅人は恐ろしいモンスターの餌食となってしまう。
可愛いお菓子の道も、空腹を刺激する甘い香りも、犠牲者をここへ誘き寄せる罠なのだ。
甘歯村は童話「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の家と人喰いの魔女をアレンジして、村自体が人喰いのお菓子モンスターの住み処とした場所だと言える。
童話「ヘンゼルとグレーテル」との比較は以下の記事を参照のこと。
甘歯の意味
「甘歯」と訳された「Sweettooth」だが、普通は「sweet tooth」の2語1組で「甘いもの好き・甘党」を意味する言葉である。
ここ「Sweettooth Village」は「(一見すると)甘党のための村」でもあり、「甘いお菓子自体が歯を持つ村」でもあるという、両方の含みが感じられる。
それゆえに公式和訳は「甘党村」でなく「甘歯村」と直訳調に訳したのではないか、と推察される。
甘歯村の起源
甘歯村とお菓子モンスターがどのように始まったのか、確かなことは誰も知らない。
ただし、ある強力な魔女がお菓子モンスターを使い魔として創造したと考えられている。そうしたものがかつて存在していたとしても、現在の甘歯村は放棄され、誰の支配下にもない。
公式スタッフQ&A
Discordでの公式スタッフによるQ&A(有志によるログへのリンク)では、甘歯村のお菓子モンスターと魔女に関する質問と回答が行われた記録が残っている。Roy Graham、Harless Snyder、Natalie Kreiderが回答者。
また、Roy Grahamは、甘歯村に生きた魔女が住んでいたとしても、それはずっと昔のことでもう食べられてしまっている、との回答をした。ところが、実際にはカードとして甘歯村関係の魔女が存在しているため、回答と状況が食い違っている。甘歯村では魔女ですらそう長くは無事では済まないという意味かもしれないし、あるいは、Roy Grahamは甘歯村を創設した始まり魔女のことを意識して話していたのかもしれない。
この手のスタッフQ&Aのようなリアルタイムのやり取りというものは、内容の確認や編集を加えた後で公開される公式記事やPodcast、動画に比べるとどうしても内容にあやふやなところが出てしまう。仕方がないところだ。
甘歯村の関連カード
ここからは甘歯村に関連するカードを1つずつピックアップして見ていくことになる。
まずこの節では、甘歯村という「場所」に関連したカードだけを紹介する。
後の節では「お菓子モンスター」や「お菓子の魔女」、「甘歯村の敵」と順番に取り上げることになる。
甘歯村へようこそ
甘歯村へようこそ(Welcome to Sweettooth)はカードセット「エルドレインの森」に収録された英雄譚エンチャント・カードである。
このカードのイラストとメカニズムを見ると、1人の子供がキャンディーの道標(Candy Trail)を辿って進み、最後に恐ろしい甘歯村に到着するという流れのストーリーになっている。
キャンディーの道標
“Look! Another one! Who cares what Mother said? We’ll be home before she gets back.”
–Daniela, Edgewall youth
「見て!またあったよ!ママの言いつけなんて知らないわ。ママが帰ってくる前に戻ればいいんでしょ?」
–エッジウォールの少女、ダニエラ
引用:キャンディーの道標(Candy Trail)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
キャンディーの道標(Candy Trail)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたアーティファクト・カードである。
こういったお菓子が撒かれてできた道が子供たちを甘歯村にまで誘い出すようだ。
こちらの記事も参照のこと。
菓子の復讐の夜
菓子の復讐の夜(Night of the Sweets’ Revenge)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたエンチャント・カードである。
甘歯村に夜の帳が下りて、いつもは食べられる側のお菓子たちが復讐するために動き出す……といった雰囲気のカードだ。
お菓子モンスターの関連カード
甘歯村のお菓子モンスター関係のカードを取り上げる。
お菓子モンスターはクリーチャー・タイプ「ホラー」が設定されており、クリーチャー・カードでないイラストにも登場している。
カード名は言葉遊びになっていることが多く、それに応じた和名を与えられている。
不気ミント
If the sugary abominations of Sweettooth Village were ever under someone’s control, that time is long past.
甘歯村の甘い化け物が何者かに仕えていたとしたら、それは遠い昔の話だろう。
引用:不気ミント(Mintstrosity)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
不気ミント(Mintstrosity)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
カード名の「Mintstrosity」は、「ミント」の「Mint」と、「怪物」を意味する「Monstrosity」を合成させた言葉遊びだ。和名の方も「不気味」と「ミント」で「不気ミント」と造語してる。
フレイバー・テキストでは、お菓子モンスターの創造主であった魔女の存在を仄めかしている。
襲クリーム
Too much sugar is bad for your health.
糖分の摂り過ぎは身体に悪い。
引用:襲クリーム(Scream Puff)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
襲クリーム(Scream Puff)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
カード名は「叫び」の「Scream」と、「シュークリーム」の「Cream Puff」の2つを合わせた言葉遊びである。和名は「シュークリーム」に音を合わせて「襲クリーム」としている。
貪る甘味大口
貪る甘味大口(Devouring Sugarmaw)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。出来事は夕食の献立(Have for Dinner)だ。
クリーチャーのメカニズムとしては古式ゆかしい奈落の王(Lord of the Pit)の系譜にある。アップキープに食事を要求して、腹を空かせると言うことを聞かないのだ。
出来事の夕食の献立は、人間トークンと食物トークンを1つずつ生成する。この巨大お菓子モンスターがアップキープに食べる予定のものという含みである。
貪る甘味大口にはショーケース・フレームの特別デザイン版も存在している。
眠らずの小屋
眠らずの小屋(Restless Cottage)はカードセット「エルドレインの森」に収録された土地カードである。
このお菓子モンスターは動き出すお菓子の家だ。
イラストを見ると、眠らずの小屋はぽつんと1軒で建っており、周りは甘歯村の中ではなく、荒れたダンバロウの沼地に思える。しかし、この小屋は自分で動けるため、甘歯村から出てきたお菓子モンスターの1種である可能性は以前として残っている。
こちらは特別版イラストの眠らずの小屋だ。
このイラストの方がお菓子の家らしさが伺える。お菓子の包みのような鮮やかな白と赤の縞模様の脚で、こうやって甘歯村の外に繰り出していくのだろう。
こちらの記事も参照のこと。
がぶりんご飴
“Don’t you mean ‘poisonous’? There’s no such thing as a venomous—AGGHHH!”
「それを言うなら『毒入り』だろう?毒を持つりんごなんて……うわあああ!」
引用:がぶりんご飴(Candy Grapple)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
がぶりんご飴(Candy Grapple)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたインスタント・カードである。
カード名は「取っ組み合い・格闘」を意味する「Grapple」と、「リンゴ」の「Apple」の言葉遊びだ。有毒な牙を持つリンゴが噛みつく様は、和名の「がぶりんご飴」が上手くハマっている。
フレイバー・テキストは、食べたら死んでしまう「毒入りの(poisonous)」リンゴを前提に話し始め、「有毒な(venomous)牙を持つ噛みつく」リンゴに襲われて悲鳴を上げる、という流れだ。英語原文は同じ毒を持つという意味でも違いのある「poisonous」と「venomous」の2語でクスリとさせる。公式和訳版の方は何とか再現するよう苦心が見られる。
シュガーラッシュ
“I smell frosting. Ready your weapons!”
–Greta, Scourge of Sweettooth
「砂糖衣の匂いがする。みんな、武器を構えて!」
–甘歯村の断罪人、グレタ
引用:シュガーラッシュ(Sugar Rush)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
シュガーラッシュ(Sugar Rush)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたインスタント・カードである。
カード名の「シュガーラッシュ(Sugar Rush)」とは、「糖分の過剰摂取によって一時的に興奮状態になること」である。しかし、このカードの場合は、砂糖(シュガー)の怪物の突撃(ラッシュ)という言葉遊びになっている。
フレイバー・テキストの解説はこちらの記事を参照のこと。
食物トークン
これはカードではないが、カードセット「エルドレインの森」の食物トークンの中には甘歯村のお菓子モンスターに似た不気味なイラストのものがある。
お菓子の魔女
この節では甘歯村に関連した魔女たちのカードを紹介する。
甘歯村の魔女
“Try some pie! Your brother helped make it, and he really poured his heart into it.”
「パイを召し上がれ!あなたの弟にも手伝ってもらってね。文字通り心を込めてもらったのさ。」
引用:甘歯村の魔女(Sweettooth Witch)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
甘歯村の魔女(Sweettooth Witch)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
甘歯村のお菓子の家に住む魔女だ。
ただし、上述した公式スタッフのQ&Aや不気ミント(Mintstrosity)のフレイバー・テキストを考慮に入れると、この魔女は甘歯村を創り出した魔女その人でもないし、現在の村の主でもない。
ガムドロップの毒殺者
ガムドロップの毒殺者(Gumdrop Poisoner)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。出来事はお菓子の誘惑(Tempt with Treats)だ。
「ガムドロップ」とは、砂糖をまぶしたゼリー状の飴やグミの1種のこと。この魔女はガムドロップを撒いてお菓子の道を作り出し、子供たちを誘き寄せ捕まえようとしているのだろう。
現在、キャンディーの道標(Candy Trail)はこういう魔女の手で作られているのであろう。しかし、この魔女も甘歯村の魔女(Sweettooth Witch)と同様に、甘歯村の始まりの魔女ではないことになる。
ガムドロップの毒殺者にはショーケース・フレームの特別デザイン版も存在している。
こちらの魔女は自分自身も半分お菓子モンスターのような姿に変貌している。
甘歯村の敵
ここまでは甘歯村とその仲間を取り上げてきたが、この節では甘歯村の敵を取り上げていこう。
甘歯村の断罪人、グレタ
甘歯村の断罪人、グレタ(Greta, Sweettooth Scourge)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。
グレタはエルドレインの森版「ヘンゼルとグレーテル」のグレーテル役だ。彼女は甘歯村に正義の裁きを下そうと活動する魔女狩り師だ。
詳細は以下の記事を参照のこと。
堅いクッキー
堅いクッキー(Tough Cookie)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたアーティファクト・クリーチャー・カードである。
不気味な甘歯村のお菓子モンスターが悪玉であるのに対して、同じお菓子系クリーチャーのジンジャーブレッドマンは善玉寄りの立ち位置で描かれている。
イラストは、甘歯村のお菓子モンスターに取り囲まれても毅然と立ち向かうジンジャーブレッドマンだ。
カード名の「Tough Cookie」は、そのまま「噛み砕けないほど硬くなったクッキー」のことでもあるが、転じて「意志や肉体がタフな人物」「頑固者」「扱いが面倒な人」といった意味合いでも用いられる。
小村の大食い
小村の大食い(Hamlet Glutton)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
この緑の巨人はお菓子の家を屋根からむしり取って、バリバリ食べている。お菓子の魔女や甘歯村としてはたまったものではない。
虚ろの死体あさり
虚ろの死体あさり(Hollow Scavenger)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。出来事はパン屋への襲撃(Bakery Raid)だ。
大きな悪い狼(Big Bad Wolf)は甘歯村だって襲いに来る。
イラストでは、この狼は赤紫の粘液を滴らせた角のような何かを齧っている。イラストを担当したMichele Giorgiは、これがキャンディ・モンスター(すなわち本記事における「お菓子モンスター」)だと証言している(出典)。
狼が踏みつけているものは、斃れたお菓子モンスターの頭に見える。狼が齧り取ったのは赤と白の島縞の角。茶色がジンジャーブレッドで白い部分は砂糖衣、赤紫の粘液はジャム、狼の前足が置かれた手前にある2つの丸い部分は目、そして画面の奥側に見えるのが投げ出された手足ではないか?
獲物がお菓子モンスターだというのなら、背景の家々は甘歯村のお菓子の家だ。
ベルーナ・グランドスコール
ベルーナ・グランドスコール(Beluna Grandsquall)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。
イラストでベルーナが足置きにしているのはお菓子の家である。
雲の上のストームケルドに住む巨人、ベルーナ・グランドスコールはエルドレイン中の様々な宝を蒐集している。宝の「救出」をしているつもりの雲巨人にとっては、お菓子の家だろう何だろうとお構いなしなのだ。
さいごに
甘歯村(あまばむら:Sweettooth Village)とお菓子モンスターの解説は以上でおしまいだ。
一応記事にまとめられたけれど、実は内容に不安が残っている。MTG30周年記念展示で「エルドレインの森ワールドガイド」を読んでメモを取ってきたわけだが、迂闊にも甘歯村とグレタについてはほとんど現場でメモをしてこなかったのだ。後から思い出しながら記録したが後の祭りだ。
だから、本記事には記憶頼りの正確性に疑問のある記述が残ってしまった。現場でのメモでないから、自分でも確かにこう書かれていた、とまでは言い切れないもやもやがある……。後生だから、ウィザーズ社は公式な背景解説記事を一刻も早く挙げて、このもやもやを晴らして欲しい。早く記事を!
では、今回はここまで。
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