兄弟戦争:ファラジの先兵

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ファラジの先兵(Fallaji Vanguard)カードセット「兄弟戦争」収録のクリーチャー・カードである。

このカードの和訳製品版はフレイバー・テキストが完全に誤訳している。そこを中心に解説しよう。

追記(2022年11月27日):ファラジの先兵と対となるヨーティアの戦術家(Yotian Tactician)に関する記述を加えて再編集した。

ファラジの先兵の解説

“The Burnished Banner will show the Warlord that the Suwwardi Marches belong to the Fallaji!”
「スワルディの行進はファラジのものと、『輝く軍旗』が証だてる。大将軍よご覧あれ!
引用:ファラジの先兵(Fallaji Vanguard)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

ファラジの先兵(Fallaji Vanguard)

ファラジの先兵(Fallaji Vanguard)
データベースGathererより引用

ファラジの先兵(Fallaji Vanguard)はファラジ帝国の軍団である。

小説The Brothers’ Warでは、ファラジの兵士は磨かれた真鍮製の幅広の兜1あるいは帽子2、重々しい肩飾り、装備を身につけている。そして、歩兵の武器の中に曲刀や槍が確認できる。これらはこのカードのイラストの武具と合致しており、小説に忠実な装束デザインがされていることが伺える。



ファラジの先兵のフレイバー・テキスト

“The Burnished Banner will show the Warlord that the Suwwardi Marches belong to the Fallaji!”
「スワルディの行進はファラジのものと、『輝く軍旗』が証だてる。大将軍よご覧あれ!

フレイバー・テキストの和訳製品版は、対立するファラジとヨーティアの領土問題を全く理解していない作文で、完全な誤訳だ。

ファラジの先兵のフレイバー・テキスト:確認

まず、「スワルディの行進」と訳してしまった「the Suwwardi Marches」だが、これは地名である。この「Marches」は、「行軍・行進」を意味する「march」の複数形とは別の言葉、「境界・国境」のことである。つまりスワルディ境界」と訳されるべき地域で、ヨーティアの北、ファラジの大砂漠との間の一帯である。

次に、「大将軍よご覧あれ!」で文章が締められているが、これはファラジとヨーティアの関係を知っていれば絶対にあり得ない。このフレイバー・テキストでの「大将軍(The Warlord)」とは、ヨーティア国の王の称号を示している。カイラ・ビン=クルーグの父が「大将軍」その人であり、ファラジの仇敵である。ファラジの兵が仇敵の大将軍にへりくだって「ご覧あれ!」なんて言うはずないのだ。

最後に、「輝く軍旗(The Burnished Banner)」とは、カードセット「兄弟戦争」の統率者デッキの製品名と同じである。ミシュラ陣営をテーマにまとめられたデッキ名は、どうやらスワルディ族の旗印であったようだ。ちなみに小説The Brothers’ Warには登場しない、新設された設定となる。

以上を踏まえて訳し直してみた。

ファラジの先兵のフレイバー・テキスト:再翻訳

「この『輝く軍旗』が大将軍に見せてやろう、スワルディ境界はファラジのものだと!」

かつてヨーティアの大将軍がまだ若かった頃、ファラジのスワルディ族の領土を攻め落として支配下に置いた。先祖の土地を追われたスワルディ族は苦難の年月を余儀なくされることになった。ヨーティアはこの境界地域を「剣境界(The Sword Marches)」と名付け、それ以降、奪還しようとするファラジとの小競り合いが起こることになった。

当時の長王の曾孫の代になるとスワルディ族は盛り返した。曾孫の代の長王は側近ミシュラとドラゴン・エンジンの力の下に、ファラジ諸部族を帝国へと統一することに成功する。

以上のような背景の下で、意気盛んな帝国軍が先祖伝来のファラジの土地を取り戻せ、仇敵ヨーティアの大将軍に報復しろ、と檄を飛ばしているのだ。

ヨーティアの戦術家

“Time for the Iron Alliance to remind the qadir’s army how inhospitable the Sword Marches can be.”
「今こそ鐵同盟が、剣の行進がいかに厄介かを長王の軍勢に教えてやるのだ。」
引用:ヨーティアの戦術家(Yotian Tactician)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

ヨーティアの戦術家(Yotian Tactician)

ヨーティアの戦術家(Yotian Tactician)
データベースGathererより引用

ヨーティアの戦術家(Yotian Tactician)カードセット「兄弟戦争」収録のクリーチャー・カードである。このカードはファラジの先兵(Fallaji Vanguard)と対になるデザインだ。

ただ、こちらのフレイバー・テキストも内容がおかしくなっている。

ヨーティアの戦術家のフレイバー・テキスト

“Time for the Iron Alliance to remind the qadir’s army how inhospitable the Sword Marches can be.”
「今こそ鐵同盟が、剣の行進がいかに厄介かを長王の軍勢に教えてやるのだ。」

ファラジの先兵で指摘済みだが、「剣の行進」と訳されてしまった「the Sword Marches」は本来は「剣境界」という地名である。ファラジ側が「スワルディ境界」と呼ぶ地域と全く同じ場所を示しており、ここを巡って両国は領土問題で長年にわたって揉めてきた。

また、「鐵同盟(The Iron Alliance)」とは、カードセット「兄弟戦争」の統率者デッキの製品名と同じで、ウルザ陣営の何らかの同盟を示している。ミシュラ側の「輝く軍旗」と対なのだ。しかし、輝く軍旗の方は『』括りなのにこちらはそうではないので、和訳には対応関係の意識が無かったらしい。

「今こそ『鐡同盟』が、剣境界がいかに非情な土地かを長王の軍勢に思い知らせてやるのだ。」

ヨーティア側から見た鏡写しとなっている。

兄弟戦争はしばしば、ウルザとミシュラの兄弟が互いの石を巡って起こした戦い、とざっくりと語られる。しかし、実際には兄弟が関わるずっと以前から、ヨーティアとファラジには根深い領土問題があり両国民には悪感情がくすぶっていた。戦争の規模が拡大した直接の切っ掛けも兄弟の与り知らぬところにあり、ウルザもミシュラも共に時代の流れに呑まれ、引き返せなくなってしまったのであった。



さいごに

カードセット「兄弟戦争」の収録カードもどんどん判明し、全公開ももう間近だ。その反面、このカードのような和訳のほころびも目に付くようになってきた。わくわくとげんなりが交互にやってくるので、ちょっとしんどい。

その後、収録カード全公開も完了し、2種類のカードが対になっていると確認できたので、本記事にはその旨を追記できた。

では、今回はここまで。

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