カードセット「エルドレインの王権」とカードセット「エルドレインの森」の「眠れる森の美女」モチーフのカードをまとめた。
追記(2023年9月19日):カードセット「エルドレインの王権」時点での「眠れる森の美女」をモチーフに含むカードに関して言及した。
追記(2023年9月27日):オビラの剣が「眠れる森の美女」の糸車のアレンジ・デザインだという旨を加筆した。また先日、公式記事Ten Stories Tallが公開されて10種類のアーキタイプの簡単なストーリー解説が行われたが、「眠れる森の美女」アーキタイプには特に真新しい情報追加はなかったので、こちらに関する変更はない。
眠れる森の美女の解説

エルドレインの森版「眠れる森の美女」夢見る決闘者、オビラ
エルドレイン次元は騎士とおとぎ話をイメージした世界だ。その中には「眠れる森の美女」をモチーフとしたカード群が含まれている。
カードセット「エルドレインの森」の青黒のアーキタイプは「眠れる森の美女」をモチーフしてデザインされている。伝説のキャラクターのオビラが眠れる森の美女役だ。
また、セット全体を見ると、「エルドレインの森」の背景世界は、忌まわしき眠りの呪いに侵されて人々が永久の眠りに落ちてしまっているというものだ。童話「眠れる森の美女」のバリエーションの中には、主人公の王女だけでなく王国中が眠りに落ちる展開のものがある。その点から言って、「エルドレインの森」のセット全体に「眠れる森の美女」の要素があるとも解釈できそうだ。
「エルドレインの王権」の「眠れる森の美女」
カードセット「エルドレインの王権」において、童話「眠れる森の美女」の要素は垣間見ることができる。とはいえ、「眠れる森の美女」特有とまではいえずもっと一般的で、童話のあるある要素として吸収されるものだ。
公式記事において、童話「眠れる森の美女」との関連を示されているカードを3種類取り上げよう。
魔法の眠り
魔法の眠り(Charmed Sleep)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたエンチャント・カードである。
童話において、魔法の呪文や薬、呪いで眠らせてしまう、時には目覚めることのない永久の眠りに落とす、といった描写は定番の一つであろう。このカードのイラストでは、巨大なドラゴンと思える生き物が魔法で眠らされている。
公式記事Eldraine Check, Part 3では、このカードと真実の愛の口づけ(True Love’s Kiss)を絡めた上で「眠れる森の美女」に紐づけて語っている。次の真実の愛の口づけも参照。
真実の愛の口づけ
“Be careful, dear. Some people deserve their curses.”
–Marawen, barrow witch
「気を付けるんだよ、お嬢さん。中には呪われて当然の者もいるのだから。」
–墳丘の魔女、マラウェン
引用:真実の愛の口づけ(True Love’s Kiss)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
真実の愛の口づけ(True Love’s Kiss)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたインスタント・カードである。
これも童話の定番をカード化したもので、真実の愛の口づけは呪いに囚われ(たり、時には死し)た愛しい人を甦らせる鍵となって描かれるものだ。
公式記事Eldraine Check, Part 3によると、魔法の眠り(Charmed Sleep)を解くエンチャント破壊効果のカードとして当初はデザインされたので、アーティファクトのガラスの棺(Glass Casket)は壊せなかった。だが、真実の愛の口づけが「眠れる森の美女」を助けられるのに、「白雪姫」は駄目というのはおかしいとなって、アーティファクト破壊効果も持たされることになったのだという。また、制作陣はお決まりのパターンを覆すのが好きなので、イラストは女性からキスをして男性を解放するものにしたとのこと。
糸車
“Though long forgotten, the wheel continued to turn, spinning fate from a dusty attic.”
–Beyond the Great Henge
「もう誰も覚えていなかったが、その糸車はずっと回り続け、煤けた屋根裏から運命を紡いでいた。」
–グレートヘンジを超えて
引用:糸車(Spinning Wheel)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
糸車(Spinning Wheel)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたアーティファクト・カードである。
公式記事Eldraine Check, Part 3によれば、このカードも複数の童話の要素で構成されたものだ。童話「眠れる森の美女」の王女を眠らせた糸車を原型としてデザインは始まり、後から童話「ルンペルシュティルツヒェン」の金を作り出す糸車の要素が加算された。前者はクリーチャーをタップさせる効果(タップは眠りを表現するのによく用いられる)に、後者はマナ生産能力として再現されて実装された。
このカードの場合は、童話「眠れる森の美女」の糸車が原型なので、上述した2種類のカードよりも「眠れる森の美女」との関係性が深いと言えるかもしれない。
次はエルドレイン再訪時のアレンジが効いた「眠れる森の美女」を紹介しよう。
「エルドレインの森」の「眠れる森の美女」
カードセット「エルドレインの森」では、「眠れる森の美女」は青黒のアーキタイプのモチーフとなっている。
主人公の王女役はハイフェイの姫、オビラ(Obyra)である。
ただし、エルドレインの森版「眠れる森の美女」は大幅なアレンジが加えられている。
これまでの回と同じく「眠れる森の美女」でも、個別のどのカードがストーリー上でどういう役割や関わり合いをどの順にしたのか、あるいは、物語の結末がどうなったのか、というところまではワールドガイドは触れていない。
オビラの物語
ハイフェイの王タリオンの娘、オビラ姫は類稀なる剣の使い手であった。数千年にわたる修行の末、オビラは超人的な強さとスピードを身に着けていた。
AR4562年、エルドレインは次元外から新ファイレクシアの侵略を受けた。タリオンは魔女三姉妹の協力を取りつけ、忌まわしき眠りの魔法をかけた。侵略軍は紫色の魔法の靄に取り巻かれると、目覚めぬ眠りに落ちていった。こうして、エルドレインはファイレクシアの撃退に成功した。
ところが、戦後になっても三魔女は忌まわしき眠りを解除しようとしなかった。世界を救った眠りの魔法はどんどんと広がり、次元住人をも蝕む眠りの呪いへと変わった。
オビラも忌まわしき眠りに囚われた1人であった。
今やオビラは夢遊状態で僻境を徘徊し、剣の手合わせをする相手を探しているのだ。眠ったままで目も開いていないというのに、オビラの剣技の恐るべき鋭さは以前と変わらず、近づいたお付きの侍女たちにも斬りかかる始末だ。ただ、幸いなことに彼女の優しい人柄も変わっていなかったのである。
タリオンは忌まわしき眠りを解くために、有望な者に三魔女退治のクエストを課して送り出した。世界を蝕む呪いが解かれれば、眠りに落ちた多くの人々と共に、娘オビラもまた元に戻るはずであった……。
「眠れる森の美女」の関連カード
ここではカードセット「エルドレインの森」で、オビラの物語に関わるカードを取り上げる。
実は紹介するカードは4種類だけと少ない。このセットの青と黒にはオビラの同族であるフェアリーや、眠りの呪いにまつわるカードが多く含まれてはいるのだが、オビラの物語には直接的な関係がないのである。
夢見る決闘者、オビラ
Obyra sleepwalks through the wilds, hunting for worthy opponents.
オビラは僻境の中を夢遊状態で歩きながら、手合わせに相応しい相手を探し続けている。
引用:夢見る決闘者、オビラ(Obyra, Dreaming Duelist)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
夢見る決闘者、オビラ(Obyra, Dreaming Duelist)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。
オビラはハイフェイの王女で、恐るべき剣の達人だが、優しい人物だ。
ワールドガイドには、オビラは無類の決闘者であり、数千年間の数え切れぬ修練1を積んだことで、既に超人的な強さとスピードを身に着けている、との旨が記されている。
オビラはエルドレインの森版「眠れる森の美女」における主役を担っている。忌まわしき眠りの呪いの影響を受けて、目覚めぬ眠りに落ちてしまったが、夢遊状態で僻境をうろつき、決闘相手を探すのだ。
エルドレインの森版「眠れる森の美女」は、茨のトゲに囲まれて大人しく寝ていてくれず、剣の切先で刺しにやってくる。

エルドレインの森版「眠れる森の美女」夢見る決闘者、オビラ
オビラの剣は、糸車の紡錘(ぼうすい:spindle)に似せた形にデザインされている。
童話「眠れる森の美女」では、糸車の紡錘が刺さったことで100年の眠りに落ちてしまう。
このエピソードがアレンジされて、オビラの場合は自分が紡錘に刺されるのではなく、決闘相手を刺し貫く紡錘型剣を持つようになったのだ。
慈愛の王、タリオン
慈愛の王、タリオン(Talion, the Kindly Lord)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。
タリオンはハイフェイの始祖であり統治者であり、オビラの親でもある。
タリオンの三人称は「they」を用いて語られていることから、その性別は男性か女性のどちらか一方ではない(だから、オビラの「親」であるが「父」や「母」とは書けない)。
タリオンというキャラクターは、童話「眠れる森の美女」における複数の役を兼任している。まず、王女の親である「王」の役。次に、眠りの呪いをかけた「魔術師または妖精」の役。最後に王女の呪いを解く手助けをする「妖精」の役だ。
オビラの従者
Obyra’s devoted servants shrieked as their sleeping mistress slashed at them, unseeing.
オビラの甲斐甲斐しい召使いたちは、眠れる主に斬られて絶叫した。
引用:オビラの従者(Obyra’s Attendants)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
オビラの従者(Obyra’s Attendants)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。出来事は捨て身の受け流し(Desperate Parry)だ。
イラストには、ハイフェイではない小柄のフェイ3人組が描かれている。ワールドガイドによると、この3人はビューティー(Beauty)、ソング(Song)、ブレッシング(Blessing)という名で、オビラの側に仕える侍女2である。3人とも(ハイフェイに比べて)下級のフェアリー3だ。
童話「眠れる森の美女」では、王女を手助けする妖精が出てくるバージョンがある。ディズニーの映画版では、ちょうど3人の名前付きの妖精なので、それをイメージしているのかもしれない。
再びイラストを見ると、オビラの剣の一撃を3人が必死に受け流した場面のようだ。出来事の「捨て身の受け流し」はそれを表現している。
フレイバー・テキストもこの「捨て身の受け流し」を語っているのだが、和訳には少々問題がある。
オビラの従者のフレイバー・テキスト
フレイバー・テキストの和訳製品版には、2つの問題点が見つかる。
まず1つ目。「斬られて絶叫した」と書かれているために、オビラの剣が当たってしまったようにも読めてしまう。ここは「斬りつけられて」とか「斬りかかられて」の方が順当な表現だ。
そして2つ目。原文最後の「unseeing」の部分が和訳から欠落している。これはオビラが「sleeping(寝ている)」という形容に対応しての「unseeing(目が見えていない)」だ。
オビラに献身的に仕える召使いたちは、寝ている上に見えてもいないはずの主に斬りつけられて悲鳴を上げた。
以上を踏まえて修正してみた。
オビラに献身的に仕える3人の侍女、ビューティー、ソング、ブレッシングは、剣を手に夢遊状態で徘徊する主に近づいた。すると、眠っている上に、3人の姿が見えていないにも関わらず、オビラはちゃんと彼女たちのいる位置に斬りかかってきた。悲鳴を上げて、命からがら剣を受け流しのだった。こんな状態でも恐るべき剣の達人である。
フェアリーの剣技
Even in the grip of the Wicked Slumber, the High Fae princess Obyra is a blademaster of unrivaled skill.
忌まわしき眠りに囚われていても、ハイフェイの姫、オビラは唯一無二の才能を持つ剣の達人であった。
引用:フェアリーの剣技(Faerie Fencing)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
フェアリーの剣技(Faerie Fencing)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたインスタント・カードである。
イラストでは、眠れるオビラがハイフェイの決闘相手に剣の一突きを決めた瞬間だ。
では、次の節では話を変えて、カードセット「エルドレインの森」における「眠れる森の美女」モチーフの問題点を取り上げたい。
「眠れる森の美女」の実装の問題点
カードセット「エルドレインの森」は、青黒は「眠れる森の美女」モチーフで、背景世界も眠りの呪いに侵されている。こう書くと、「眠りの森の美女」の雰囲気が色濃く見えるのだが、実際のカードを見るとそんな印象は余り抱けない。
なぜなら直感的に「眠れる森の美女」をイメージするカードがほぼないのだ。
「眠れる森の美女」の実装されたカード
青黒のカードを見ると、ゲーム的にはフェアリーを軸にしたアーキタイプであり、眠りのイメージを持たされたカードも多い。フェアリーも眠りも童話「眠れる森の美女」に関係する要素なので、何となく「眠れる森の美女」っぽい要素で組み上げられてはいる。ただし、それはゲーム的側面から見た理屈上の話だ。
特に顕著なのが主人公役のオビラだ。彼女は確かに呪いで眠っているお姫様なのだが、夢遊状態で徘徊し剣を片手に決闘相手を探し回っている。言われなければ眠っていることにも気付けないだろう。オビラは明らかに「眠れる森の美女」のイメージからかなり遠いものだ。
大人しく眠るお姫様のイメージは、オビラよりもむしろ白黒の「白雪姫」アーキタイプのネヴァのカード・イラストの方にある。
また、設定的には呪いをかけた魔女役としてエリエットを見ることができる(退治することで呪いが解ける最後の魔女)。しかし、手にはリンゴを持っており、そのビジュアルは「白雪姫」側のキャラクターだ。
「眠れる森の美女」をイメージさせるビジュアルといえば「呪いがかけられた茨の茂る土地」が挙げられる。ところが、この要素は、エルドレインの森では青黒の「眠れる森の美女」にはなくて、緑白の「美女と野獣」アーキタイプの方で赤歯砦として拾われている。
その上、エルドレインの森版「眠れる森の美女」である「オビラの物語」として見てみれば、オビラに関わってくるカードは実はほんの数種類にすぎない(残りの眠りの呪い、フェアリーは関係性のないカード)。
「眠れる森の美女」の実装の結論
カードセット「エルドレインの森」は、青黒は「眠れる森の美女」モチーフを目指しており、「眠れる森の美女」の構成要素を細かく分解してカードに与えることで、理論上では原作の要素を満たせてはいる。ただし、アレンジが効き過ぎていて、パッと見て分からない。
直感的ではない。それが「眠れる森の美女」の実装の最大の問題点だ。
さいごに

エルドレインの森版「眠れる森の美女」夢見る決闘者、オビラ
今回は「エルドレインの森」版「眠れる森の美女」をまとめた。大胆なアレンジが効いており、「眠れる森の美女」のイメージからかけ離れてしまっているのが魅力でもあるが、最も残念な部分であった。
なぜ残念かというと、サイドストーリー短編もなく、キャラ解説や背景世界解説の記事もない現状では、一般ユーザーはカード自体からそれが何かを読み取らざるを得なくなる。ならば、オビラの物語が「眠れる森の美女」だなんて、気づける人はそんなに多いとは思えない。童話世界を謳い、そこが魅力のエルドレインなのだが、それでいいのだろうか?
こうして欠点ばかり論ってるみたいだけれど、ストーリー短編や記事があってしっかり公式が補足していたなら、こんな面白い料理の仕方で魅せてくれるのか!って評価は180度引っくり返せるんだがなぁ。
では、今回はここまで。
エルドレインの「眠れる森の美女」の関連記事
カードセット「エルドレインの王権」関連のリスト
