ファイレクシアの沿革その5

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本記事は「ファイレクシアの沿革」と題して、MTG史上での「ファイレクシア(Phyrexia)」の変遷を時系列に沿って書き出す内容となる。今回は第5回目だ。

ウェザーライト・サーガの序章ラース・サイクルはドミナリア次元からラース次元へと舞台を移した。カードセット「テンペスト」では未知のラース次元が初お目見えする。ここでは当時どのようなファイレクシア情報が語られていたのだろうか?

※ もともと個人的な覚書を最低限読めるように記事化したものなので、雑で味気ないのはご容赦ください。

テンペスト

1997年10月、カードセット「テンペスト」では、ファイレクシア関連が明示的な情報は2種類あった。

「ストーリーブック」と「ファイレクシアの名を冠する3種類のカード」だ。

※ 検証課程を飛ばして、手っ取り早く結論が知りたい場合は「テンペストのファイレクシア」を参照のこと。



その1:テンペスト・ストーリーブック

旗艦プレデター(Predator, Flagship)

後にカード化された旗艦プレデター(Predator, Flagship)
データベースGathererより引用

「テンペスト」当時にはトーナメントパックという箱入りでカード75枚入りの製品があった。これに付属していた小冊子がストーリーブックである。

ストーリーブック内でファイレクシアに言及している箇所はラースの飛翔艦プレデター号の解説においてで、プレデター号は「古代のファイレクシアの設計(ancient Phyrexian design)」だと書かれていた。

ラース人はファイレクシアの遺物を利用しているのか、はたまたファイレクシアの技術協力を受けているのか、どのような事情が絡んでいるのかはまだ定かではない。しかしラースの主力戦艦はファイレクシアのテクノロジーの産物なのだ。

その2:テンペストのファイレクシア関連カード

次のファイレクシア情報はカードそのものである。

カードセット「テンペスト」に収録されたファイレクシア関連だと明示的なカードは3種類あった。ファイレクシアの呪文集(Phyrexian Grimoire)ファイレクシアの大男(Phyrexian Hulk)ファイレクシアの接続具(Phyrexian Splicer)である。

結論から言うと、これらのカードは多くのユーザーにとっては「ウェザーライト」までと同じで、定番のファイレクシアがまた登場している、という印象でしかなかったはずだ。

重要な情報はないのだが、該当する3種類のカードを個別に取り上げる。

ファイレクシアの呪文集

Every page cost a life; every secret cost a thousand more.
1ページ読むのにかかるコストは人ひとりの命、1つの秘密を知るのにかかるコストはあと千の秘密だ。
引用:ファイレクシアの呪文集(Phyrexian Grimoire)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

ファイレクシアの呪文集(Phyrexian Grimoire)

ファイレクシアの呪文集(Phyrexian Grimoire)
データベースGathererより引用

ファイレクシアをカード名に関するカードの1枚目が、ファイレクシアの呪文集(Phyrexian Grimoire)だ。フレイバー・テキストによれば、この呪文書を読んで秘密を知るにはページにつき1つの生命、秘密に至っては千もの生命が要求されるという。

また、このカードはフレイバー・テキストの和訳が明らかに間違っており、後半の「あと千の秘密」は「あと千の命」が正しい。

ファイレクシアの大男

“They are convenient in having no souls, but less so in having no spirit.”
–Volrath
あいつらに魂がないということは、こっちには都合がいいんだ。しかし、精神もないということは、都合がいいとは言えないんだよ。
–ヴォルラス
引用:ファイレクシアの大男(Phyrexian Hulk)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

ファイレクシアの大男(Phyrexian Hulk)

ファイレクシアの大男(Phyrexian Hulk)
データベースGathererより引用

ファイレクシアをカード名に関するカードの2枚目は、ファイレクシアの大男(Phyrexian Hulk)だ。これでまたファイレクシアの機械生物カードが1種類増えた。

フレイバー・テキストを見ると、この大男は「魂(soul)」も「精神(spirit)」も持たない存在だという。2010年代以降の現在では、ファイレクシアンは「魂(soul)」を持たない存在であるとの設定が定着しているが、自身もファイレクシアンであるヴォルラスが魂のない存在は都合がいいなどと語っているのがいささか奇妙に映る。

この記述によって、「テンペスト」時点ではファイレクシアンの「魂」の有無という視点はまだ設定上存在しなかったことが窺える。そもそも現在の「魂がない」という記述より先に「心(mind)がない」という記述があったのだが、それも「テンペスト」の1年後の小説Planeswalkerまで待たねばならないのだ。

ファイレクシアの接続具

ファイレクシアの接続具(Phyrexian Splicer)

ファイレクシアの接続具(Phyrexian Splicer)
データベースGathererより引用

ファイレクシアをカード名に関するカードの最後の3枚目がファイレクシアの接続具(Phyrexian Splicer)だ。イラストとカードの機能から察するに、ファイレクシアの小型機械生物で、外科手術的な方法によってあるクリーチャーから別のクリーチャーに何らかの機能を移植することができるようだ。

関連記事:
モダンホライゾン:接合者の技法
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のソーザリー・カード「接合者の技法(Splicer's Skill)」を紹介。モダンホライゾンに収録。3つの「Splice」という言葉で結び付けられてデザインされた、フレイバー豊かなカードである。
カードセット「テンペスト」からのファイレクシア情報は以上だ。カードセット以外にも有益な情報は掲載されていた。次の節は書籍からの情報だ。


The Official Guide to Tempest

1997年、Duelist誌のコラムニスト、ベス・モーザントによるThe Official Guide to Tempest1にはカードセット「テンペスト」に関するキャラクターや飛翔艦の設定情報が記載されていた。その中にはファイレクシアの言及があったが、ストーリーブックと同様にプレデター号に関してだけであった。ただし、内容はストーリーブックよりも詳しい。

ファイレクシア的な個所を抜き出すと、金属とファイレクシアのテクノロジーで構成されている、古代の設計である、主推進力はファイレクシア製エンジンで生み出される、この船は半生物の忌まわしきもの(semi-living abomination)である、などである。

メモ:
ウルザ・ブロックの時、この「The Official Guide to …」シリーズを和訳したのが、日本の「公式ハンドブック」シリーズの始まりだ。

日本の「公式ハンドブック」を見ると、Duelist誌関係者が執筆し、ウィザーズ社スタッフによる開発情報や裏話が盛られ、公式ストーリー解説と公式掌編などが載っていたのはウルザ・ブロックの3冊までである。なぜならこの3冊だけは翻訳書籍なのだ。

それ以降の「メルカディアン・マスクス」から現在に至るまでの「公式ハンドブック」に、その手の公式情報がないのはそもそも名前を同じにして発刊しているだけの純日本製の別ものだからなのだ。

ちなみに、本家の「The Official Guide to …」シリーズはウルザ・ブロック後に「The Official Starter Game Strategy Guide」を発刊して展開は終わっている。

テンペストのファイレクシア

ラースの支配者ヴォルラス(左)に叱責されるプレデター号艦長グレヴェン(右)
テンペスト再録版の強要(Coercion)より引用

カードセット「テンペスト」時点での「表に出ている」ファイレクシア情報は以下の通りだ。

  • ラース次元の飛翔戦艦プレデター号は古代のファイレクシアの設計で、半生物の忌まわしきものである。
  • ラース次元にはプレデター号の他にもファイレクシアのテクノロジーを利用したアーティファクトが複数存在している。

ラース次元はファイレクシアのテクノロジー(しかも古代のもの)を活用していると判明した。

ラースはファイレクシアと何らかの協力関係があるのかも知れなかった。あるいはアルマダコミックのミシュラの先例を見るに、ラースもファイレクシアのテクノロジーを入手して活用しているだけの可能性も十分にあった。

外見の比較

司令官グレヴェン・イル=ヴェク(Commander Greven il-Vec)

司令官グレヴェン・イル=ヴェク(Commander Greven il-Vec)
データベースGathererより引用

「古代ファイレクシアの設計」と書かれているプレデターの外見ではあるが、既存のファイレクシアンのカードやコミックのデザインとはそれほど似ているようには見えない。

何らかの形で改造されたヴォルラスやグレヴェンらの人間離れした姿。そして、ヴォルラスらエヴィンカーの実験で誕生した、あるいは、変化してしまったクリーチャー群の異様。これらも既存のファイレクシアと特段似てるようにも思えないものだった。

肉と機械の融合

脊髄移植(Spinal Graft)

ヴォルラスは人工脊髄を移植し相手を苦痛によって支配した
脊髄移植(Spinal Graft)
データベースGathererより引用

視点を変えると、ラースでは肉体に機械を移植する類の改造が散見されはしており、これは後々のファイレクシアの定番イメージではある。

アルマダコミック・シリーズでも最終盤のBattlemageでは「(ファイレクシアン・)デーモンは機械と肉体を融合させる秘密のテクノロジーに習熟している」旨の記述があったので、その流れを受け継いだようにも感じさせる。

ただし、これまでのファイレクシアは機械(アーティファクト)を改造して肉との融合へを模索する方向性(機械→肉)であって、「テンペスト」で見られるテクノロジーは逆向き(肉→機械)だったのだ。



さいごに

以上で、カードセット「テンペスト」の範囲は終わりだ。

結局のところ、カードセット「テンペスト」時点ではラースとファイレクシアを結び付ける材料は与えられてはいなかったのだ。

次回はラース・サイクルの残りの2セット「ストロングホールド」と「エクソダス」を見ることになる。→次回その6へ。

では今回はここまで。

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ファイレクシアの沿革その4
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)の最初期からの悪役「ファイレクシア(Phyrexia)」の変遷を、MTG史に沿って順番に書き出していく。第4回目はカードセット「ウェザーライト」を扱う。
  1. ちなみに「ストロングホールド」と「エクソダス」の「The Official Guide to …」は発売されなかった。