兄弟戦争期のドミナリア次元テリシア大陸におけるミノタウルス種族についてまとめて取り上げる。
ストーリー作品では兄弟戦争当時のテリシアに存在する証拠があるにもかかわらず、カードではまだ描かれていなかった存在。そんな中の1つがミノタウルスだったのだ。
カードセット「兄弟戦争」で2種類のミノタウルス・カードが新収録されたことで、当時の状況がもう少し詳しく分かってきた。
追記(2022年11月8日):カープルーザンのミノタウルス(Karplusan Minotaur)に関する情報を追加した。
追記(2022年11月15日):ウルハーラン・ミノタウルスと英雄ティイント(Tiyint)について詳しい情報を追加した(この機会で話しておかなければいけないと感じた)。
追記(2022年11月17日):ペンレゴンの剛牛(Penregon Strongbull)のネタ元に裏付けが取れたので追記した。
追記(2022年11月29日):人造マーフォークの銅巻貝族(The Copper Conch tribe)は、人ではなくエルフを基にして創造されていたことを小説で再確認したため修正。
兄弟戦争期のミノタウルス
ミノタウルスは、兄弟戦争期1のテリシア大陸において、東方のサルディア山脈(Sardian Mountains)や北西のウルハーランの谷(Urhaalan Valley)に居住地を築いていた。
ただし、ミノタウルスは決して一般的な主要種族の一員ではなかった。アルガイヴでは幻の種族のような扱いであり、首都ペンレゴンのカーニバルのような特別な日でなければ目にすることが叶わない存在だった。
ドミナリア次元のミノタウルスは手の指の数で大きく2つの系統に分類できる。イラストを確認すると人間と同じ5本指なので、テリシアのミノタウルスはドメインズ地方ハールーンと同系統だ。
兄弟戦争期のミノタウルスの既存情報
2022年のカードセット「兄弟戦争」以前には、兄弟戦争期のテリシアのミノタウルスはどの程度の情報が公開されていたのだろうか?言及がある2つの小説作品から情報を拾い上げた。
小説Dark Legacyのウルハーラン・ミノタウルス
小説Dark Legacyは暗黒時代が舞台であるが、ミノタウルスは兄弟戦争以前から暗黒時代現時点までテリシア北西のウルハーランの谷(Urhaalan Valley)に住んでいる種族だと語られていた。
ティイント(Tiyint)は兄弟戦争期のウルハーラン・ミノタウルスの男性英雄であった。テリシア西岸地域の戦いにおいて、剣と強力な魔法を操って、悪魔の機械2やオーク、魔術を扱うマーフォークなどと戦った。死後にティイントは神格化され、祭殿が建立された。
小説Final Sacrificeでは、兄弟両陣営がテリシア南東地域のラト=ナム大学を攻め滅ぼしているので、それと近い時期にウルハーランの谷を巻き込む西海岸地域の戦いが勃発した、とすれば自然な流れとなる。それを踏まえると、悪魔の機械と表現されたのは兄弟両陣営の戦争機械であり、魔術を扱うマーフォークはラト=ナム大学の人造マーフォークである銅巻貝族(The Copper Conch tribe)3であった、と考えられる。
そして、これらの戦いは小説The Brothers’ Warでの正史の時系列に照らし合わせると、AR45?-55?年のどこかで発生したと推定される。
また、ティイントが戦ったオークだが、兄弟戦争期のオークについてはほとんど何も分からない。ただし、洪水時代以降(AR31世紀以降)のアルマーズ西部の砂漠地帯はオークのウィルヴィル王国(Wyrvil Kingdom)が支配していることから、その先祖が3000年以上前のテリシア西方にも居たのかもしれない。
小説The Brothers’ Warのミノタウルス
小説The Brothers’ Warでは、ミシュラとウルザは幼い頃にペンレゴンのカーニバルでミノタウルスを見たことがあった。AR10年より前の出来事だ。特別な体験のような書かれ方なので、ペンレゴンでは身近な種族ではない。
大砂漠の都市トマクルは交易の要衝であり、様々な地方の人々がひしめき合っていた。AR25年頃のトマクルには、遠方の島々から来たミノタウルスの水夫4の姿もあった。
AR36年、アルガイヴ王族の婚礼式典に出席したウルザは過去に思いを馳せ、今日のアルガイヴではトカシアのオニュレットはミノタウルスやロック鳥と同じように神話の存在のように感じる、との旨の感慨を抱いていた。5
つまり小説The Brothers’ Warだけだと、ミノタウルスはアルガイヴではカーニバルのような特別な時にか見られない珍しい種族であり、テリシア大陸から遠い外の島々出身の異邦人だ、と受け取れる描写だったのである。
兄弟戦争期のミノタウルスのカード
カードセット「兄弟戦争」にはこの時代のミノタウルスが初めてカードとして収録されている。それがサルディアの岸壁踏み(Sardian Cliffstomper)とペンレゴンの剛牛(Penregon Strongbull)の2種類のカードだ。
この2つのミノタウルス・カードにはヴォーソスとして語るべきポイントが見いだせる。順番に解説しよう。
サルディアの岸壁踏み
When Urza betrayed the Sardian dwarves, they called upon the might of their neighbors for aid.
ウルザがサルディアのドワーフを裏切ったとき、ドワーフたちは隣人に武力援助を求めた。
引用:サルディアの岸壁踏み(Sardian Cliffstomper)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
サルディアの岸壁踏み(Sardian Cliffstomper)はカードセット「兄弟戦争」収録のクリーチャー・カードである。
このカードが新登場したことで、サルディア山脈にはミノタウルスが居住していると明らかになった。
「裏切り」とは?
フレイバー・テキストでの「ウルザがサルディアのドワーフを裏切った」という出来事は、小説The Brothers’ Warでは概要程度しか語られていない。
ウルザの属するアルガイヴ・コーリス連合国は、サルディアのドワーフと友好的な交易関係を結んでいたが、ミシュラ陣営とも通じていたとして攻め滅ぼした、とのこと。ウルザ陣営側の視点では「ドワーフが裏切った」という認識で記述されている。
作中から年代を拾ってみると、少なくともAR33年時点で、アルガイヴもウルザも信用していないサルディアのドワーフが中には存在していた。AR43年には連合国側の商人たちがサルディアへの軍事行動を要請し、ウルザは拒否していたが、AR44年頃にドワーフの反乱が起こってウルザはその問題にかかり切りとなった。そして、AR57年までには何らかの決定的な「裏切り」が発生して、ドワーフの国は滅ぼされた。
したがって、この「裏切り」において、サルディアのドワーフはミノタウルスに援助を求めウルザ陣営と戦い、滅びの運命を共にしたのであろう。
サルディアの岸壁踏みのイラスト
サルディアの岸壁踏みのイラストを見ると、武具にはファラジを示す「4つの楔が組み合わさった十字」デザインがされている。ということは、サルディアの岸壁踏みはミシュラ陣営に与していることになる。
ウルザと戦うためにミシュラの物資援助を受けたということか、それとも、先にミシュラと取引したからウルザに攻められたのか、ここがどうにも判然としない。
カープルーザンのミノタウルス
カープルーザンのミノタウルス(Karplusan Minotaur)はカードセット「コールドスナップ」収録のクリーチャー・カードである。
カープルーザン山脈は氷河期中に名前を変えたサルディア山脈である。長い氷河期が終わりを迎え、AR2950年代にカープルーザンのミノタウルスの存在が確認できた。
テリシア地方の住人は何度も移住や征服の繰り返しで顔ぶれを変えてきた。しかし、このミノタウルスは3000年近く昔のサルディアに繋がる子孫なのだと信じたい。
ペンレゴンの剛牛
His child-lifting act was second only to his cauldron-punting routine.
子供に高い高いをしてやることは、彼にとって大鍋を蹴り飛ばす日課の次に大切な事だった。
引用:ペンレゴンの剛牛(Penregon Strongbull)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ペンレゴンの剛牛(Penregon Strongbull)はカードセット「兄弟戦争」収録のクリーチャー・カードである。
アルガイヴの首都ペンレゴンで、怪力を披露するミノタウルスの芸人と考えられる。
まずは和訳製品版のフレイバー・テキスト文章がどうにも変なので、そこから直そう。
ペンレゴンの剛牛のフレイバー・テキスト:指摘
「子供に高い高いをしてやること」の原文は「His child-lifting act」だ。イラストを見れば、子供たちをウェイト代わりにしたバーベルを頭上高くに持ち上げており、子供を使った「重量上げ(lifting)」の「芸(act)」と解釈できる。
続いて「大鍋を蹴り飛ばす日課」は「his cauldron-punting routine」だ。「punt」は「手から落としたボールが地面に落ちる前に蹴る」という意味合いがあるので、ボール代わりに「大釜を蹴る(cauldron-punting)」という彼の「お決まりの芸(routine)」と読むことができるだろう。
また、カード名の「Strongbull」は人間だったら「Strongman(怪力男)」となるだろうし、イラストではミノタウルスの周囲には見物人と見られる人だかりができている。これらは怪力を披露する「芸人」という解釈を補強する材料である。
ペンレゴンの剛牛のフレイバー・テキスト:再翻訳
子供重量上げは、大釜蹴り上げに次ぐ彼の定番芸だった。
以上を踏まえて訳したのがこの文章だ。
ミノタウルスの怪力芸人、ペンレゴンに来る。集まってきた子供達にも手伝ってもらい、バーベルをぐいーんと持ち上げる。その剛力に見物客は大仰天。ウェイト役の子供たちも大興奮。このカードからはそんな空気を感じる。
小説The Brothers’ Warによれば、ミシュラとウルザが幼かった頃、ペンレゴンのカーニバルでミノタウルスを見たことがあったという。ミシュラの方は特にミノタウルスを気に入っていたようだ。ペンレゴンに居るミノタウルスに言及した既存のエピソードはこれっきりなので、ペンレゴンの剛牛はそこから創作されたキャラクターと考えられる。
兄弟もまた、怪力ミノタウルスに持ち上げられて歓喜の声を上げたのだろうか?
追記(2022年11年17日):ウィザーズ社で伝承担当のアドバイザーをしているジェイ・アネリ(Jay Annelli)の記事(出典リンク)によれば、このミノタウルスはやはり幼いミシュラがカーニバルで見たエピソードをネタ元にしているとのことだ。これで裏付けが取れた。:追記ここまで
次の節はおまけである。ミノタウルスにまつわる小説エピソードを紹介しよう。
おまけ:スラン人ミノタウルス仮説
小説The Brothers’ Warには、ミシュラとウルザにまつわるミノタウルスのエピソードがある。
正体不明の古代スラン人が実はミノタウルスだったのではないか?という話だ。かなり簡単に大雑把に紹介しよう。
※ 以下の文章は翻訳でも抄訳でもなく、雰囲気を伝えるために適宜改変した内容であることに注意。
AR10年、ミシュラとウルザの兄弟が都会のペンレゴンから遠路はるばる砂漠の発掘キャンプにやって来た。
発掘キャンプの主、トカシアは2人にスラン人についてレクチャーを始めた。ウルザの「スラン人は人間だろう。」という意見に対して。
「大抵の人がそう思い込んでいます。でも実のところ、スラン人が何者が分かっていないのです。人間だったのかもしれないし、ミノタウルス、エルフ、ドワーフ、あるいはゴブリンだったのかも。」
「じゃあ、ミノタウルスだったらいいよな。かっこいいし!」とミシュラ。
「僕たちが幼い頃にペンレゴンでカーニバルがあったんです。弟のミノタウルス知識なんてほぼ、その時に見たものなんですから。」ウルザは冷ややかだ。
「スラン人がどんな種族か、私たちが知らないことに変わりないんですよ。」トカシアは指摘した。
それからおよそ10年の月日が流れ、3人はコイロスの洞窟の探索に赴いた。研究は進んだものの、依然としてスラン人がどんな種族であったか判明していなかった。
コイロスの遺跡を調査する一行。
「スラン人は人間に違いないな。」とウルザは装置のサイズからそう主張したが。
「ドワーフ、エルフ、オークでもこのサイズの装置は使えるぞ。ミノタウルスの可能性もある。」とミシュラは反論する。
「いや、ミノタウルスでは大きすぎるね。」とウルザ。
「ミノタウルスが支配し、人間が労働する社会だったとしたら?オークのように、小さなゴブリンを従える社会構造の例もあるぞ。」
「ミノタウルスを示す痕跡は見つかっていないが?」
「人間を示す痕跡もない。違うかな。兄弟?」
ざっとこんなエピソードである。
スラン人は人間か、ミノタウルスなのか?幼い頃を思い起こさせるような活発な議論をする、いいライバル関係の兄弟であった。2人がマイトストーンとウィークストーンを手に入れるほんの少し前の出来事だ。
さいごに
カードセット「兄弟戦争」の事前情報で、ミノタウルスが収録されるというヒントがあった。
私はてっきり小説Dark Legacyのウルハーラン・ミノタウルスのカード初登場に違いない、と胸を踊らせていたのだ。ところが結果を見ると、サルディア山脈にミノタウルスが実は居た、という後付け新設定だった。
マイナーな谷より、メジャーな大山脈が選ばれた。まあ、そうしたのは分かるけど結構ガッカリしたものだ。このチャンスを逃したらもうウルハーランのカード登場はないかもな……。
では、今回はここまで。
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- 原文「the diabolical machines」
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- 原文「minotaur mariners from some far-off islands」
- 註:もちろんこれらは、トカシアのキャンプ地とコイロスの洞窟での少年期の思い出を指している。