復讐に燃えた犠牲者、ドロテア(Dorothea, Vengeful Victim)はカードセット「イニストラード:真紅の契り」収録の伝説のクリーチャー・カードである。両面カードであり、裏面はドロテアの報復(Dorothea’s Retribution)である。
ドロテアの設定とストーリーは設定解説記事The Legends of Innistrad: Crimson Vowで語られているが、1枚のカードの表と裏でよくまとまった話になっている。
今回はドロテアにまつわるカードを順に並べて彼女のストーリーを追ってみよう(ちなみにこの記事はとても短い)。
追記(2021年11月21日):オリヴィアの花嫁衣裳に囚われた犠牲者たちの赤いスピリットに関して情報を追加した。
追記(2021年11月29日):翻訳記事『イニストラード:真紅の契り』の伝説たちが公開されたが、ドロテアの項目がキャラクター解説として深刻な誤訳になっていた。つまり、公式ソースで誤った情報が拡散されている状況のため、本サイトでは指摘して記録しておくことにする。
復讐に燃えた犠牲者、ドロテアの解説
“Every day a Voldaren draws breath is a day I cannot rest.”
「ヴォルダーレンが息をしている日が続く限り、私に休める日が来ることはない。」
引用:復讐に燃えた犠牲者、ドロテア(Dorothea, Vengeful Victim)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
復讐に燃えた犠牲者、ドロテア(Dorothea, Vengeful Victim)は生前は人間女性の熟練した魔術師であり、血統魔法(Bloodline Magic)を専門としていた。
真紅の花嫁、オリヴィア
Her grand wedding had one goal: to unite the vampire bloodlines under her rule.
彼女の壮大なる結婚式の目的はただ一つ。すべての吸血鬼の血統を彼女が牛耳ることである。
引用:真紅の花嫁、オリヴィア(Olivia, Crimson Bride)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
しかし、ドロテアは真紅の花嫁、オリヴィア(Olivia, Crimson Bride)が長年にわたって殺戮した大勢の犠牲者の1人として、現在は婚礼衣装にその魂を封じ込められている。
オリヴィア・ヴォルダーレンのイラストを描いたJustyna Duraによれば、赤いスピリットたちはオリヴィアの犠牲者たちで現在はウェディングベールの一部となってしまっている。(出典)。
「真紅の契り」のオリヴィアを描いた他の様々なイラストにもこの赤いスピリットは描かれている。彼女達はドロテアと同じ境遇の囚われた魂であり、あるいはそうして描き込まれた内の1人がドロテアなのかもしれない。
花嫁衣装
もしドロテアがオリヴィアの花嫁衣装(Bride’s Gown)から解放されたなら、血縁者の戦いに大きな助けとなるに違いない。
ドロテアの報復
そして偶然にも、ドロテアのひ孫にあたる人物が、オリヴィアの結婚式襲撃に召集された聖戦士の中にいるのだ……。
ドロテアの報復(Dorothea’s Retribution)には、吸血鬼と戦う聖戦士の若者、そして傍らにはドロテアの霊が描かれている。
特別イラスト版ドロテア
特別イラスト版の方のドロテアは容貌が完全な亡者の霊になっていて恐ろしげだ。
ひ孫の方は特別イラスト版でもキリッとした若者だ。それを守護するドロテアの霊がまるで、守るよりも祟っているかのようだが……。
さて今回はドロテアの物語をさっくりと紹介してみた。では今回はここまで。
追記:復讐に燃えた犠牲者、ドロテアの設定解説記事
本記事は軽い短めのテキストとして投稿していたものだったのだけれど、公式和訳記事に触れておかざるを得なくなったため、この節を新たに追加する(これで軽い記事じゃなくなってしまったのが残念だ…)。
これまでの文章は設定解説記事The Legends of Innistrad: Crimson Vowのドロテアの項目をもとに構成したものだ。
そして、記事の公式和訳版である翻訳記事『イニストラード:真紅の契り』の伝説たちが、元記事から2週間遅れで公開された。内容を確認してみると、誤った翻訳が所々に目立っており、特にドロテアの項目はちょと身を引いてしまうくらい酷い誤訳となっていた。
Dorothea is among the countless humans mercilessly slaughtered by Olivia Voldaren over the years—and is now one of the numerous souls trapped in Olivia’s wedding train. A skilled sorcerer in life, Dorothea specialized in bloodline magic. If she were freed from Olivia’s accoutrement, she could lend considerable strength to a blood relative in battle. Coincidentally, her great-grandson is among the cathars rallied to attack Olivia’s wedding . . .
ドロテアはオリヴィア・ヴォルダーレンが長年に渡って無慈悲に殺戮してきた無数の人間のひとり――そして今や、オリヴィアの婚礼衣装に囚われた多数の魂のひとつである。生前は熟達の邪術師であったドロテアは、血統の魔術を専門としている。もしもオリヴィアの衣装から解放されたなら、彼女は相当な実力の血魔術を振るって戦うだろう。偶然にも、オリヴィアの結婚式を襲撃した聖戦士の中には、彼女のひ孫がいるのだ……
引用:上が設定解説記事The Legends of Innistrad: Crimson Vow、下が翻訳記事『イニストラード:真紅の契り』の伝説たち
問題のある部分は赤太字で強調した。誤訳は2か所だ。
順番に取り上げる。
その1:ドロテアは邪術師ではない
公式和訳記事では「生前は熟達の邪術師であったドロテア」となっている部分だが、原文は「A skilled sorcerer in life」である。
MTG和訳では「邪術師」とは「warlock」の定訳となっている言葉で、主に黒に属する魔術師を指す、比較的新しいクリーチャー・タイプである。「warlock」という単語は元々は「裏切り者・嘘を吐く者」くらいの意味から「(特に男の)魔術師」を意味するようになった言葉で、俗的に「魔女」を意味する「witch」の男性形と見做されることもあった。近年のファンタジー・ジャンルでは「warlock」は性別に関係なく用いられ定着していると判断され、MTGでは「魔女」などに適用する黒のクリーチャー・タイプとして新設されたものだ。
しかし、原文では「warlock」ではなく「sorcerer」だ。この単語は「邪術師」を特に示す言葉ではなくもっと一般的な「魔術師・妖術師」を表している。
カード自身を見てもドロテア自身は白青であり、黒の邪術師要素はどこにも見られない。ひ孫もいる年齢なので、ドロテアの生前のイニストラードは魔女などの邪術師は日陰に隠れた存在であった。しかも、そのひ孫は教会に属する聖戦士であり、本来は魔女とは相容れない勢力である。ドロテア自身も教会の信者と考えるのが筋が通っている。
したがって、ドロテアは邪術師である可能性は皆無と言っていいだろう。
その2:「血縁」を「血魔術」と誤解釈している
次は、和訳記事の「彼女は相当な実力の血魔術を振るって戦うだろう。」の部分を指摘する。
これは無茶苦茶な文章だ。あり得ない。
公式和訳記事で「血魔術」と勘違いしてる部分は「a blood relative」であるが、これは「血縁・血族」のことだ。
したがって問題の部分を訳すならこうなる。
もし彼女がオリヴィアの衣装から解放されたなら、血縁者の戦いに大きな助けとなるに違いない。
そして、このすぐ次の文で彼女のひ孫が出てくるし、カードでも一緒に戦っている。
元記事の文章では「血縁」すなわちこの「ひ孫」という流れが、非常に分かりやすく示されている。このシンプルな文章から「相当な実力の血魔術を振るって戦う」という作文を生み出せてしまったのは、一体どうしてなのか信じられない。
これで追記分は終わりだ。これが記事の本当の〆となる。ではまた。