ニューカペナ:とんずら

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とんずら(Slip Out the Back)カードセット「ニューカペナの街角」収録のインスタント・カードである。

今回は「とんずら」のカード名やイラストを考察し、さらに「とんずら」にまつわるストーリー作品の描写も調査する。

とんずらの解説

“I was never here.”
「私ははじめからここにいなかったよ。」
引用:とんずら(Slip Out the Back)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

とんずら(Slip Out the Back)

データベースGathererより引用

とんずら(Slip Out the Back)はニューカペナ次元のカードだ。

カード名の「とんずら」とは「逃げること」で特に犯罪を犯した者が逃げる時に用いる言葉だ。

一方、英語原文のカード名は「Slip Out the Back」だが、これは「slip out the back (door)」で「裏口からこっそり抜け出す・逃げる」という慣用表現となる。

次の節はイラストを見てみよう。



とんずらのイラスト

とんずらのイラストは、スーツ姿に帽子の斡旋屋一家所属のエルフ女性が、何らかの書物を手に魔法の裏口から抜け出して、颯爽と去っていく場面である。

イラストを担当したZara Alfonsoによると、1人の斡旋屋が摩天楼の屋上にある魔法の扉から屋外へとこっそり抜け出し、彼女が扉から離れるにつれて実体化していく様子を指示された、と語っている(出典リンク)。また小悪魔的なトリックスターの雰囲気を出すために、帽子を少し傾かせて小さな角1を見せるようにしたのだそうだ(出典リンク)。

カードのメカニズムは、クリーチャーに+1/+1カウンターを載せた後にフェイズ・アウトさせるもので、強化の利得と戦場から一時離脱させる回避(あるいは排除)の機能が持たせられている。個人的な想像だが、+1/+1カウンターはイラストで手にしている書物に相当するのではないだろうか。つまり、今回の仕事によって入手した何らかの情報、あるいは斡旋屋として結んだ新たな契約、といった利益なのかもしれない。

次の節ではストーリー作品での「とんずら」描写を探してみる。

とんずらの登場ストーリー作品・記事

とんずら(Slip Out the Back)のカードが描いているそのままの状況は、ストーリー作品には発見できない。しかし、「裏口からこっそり抜け出して逃げる」という場面に限って言えば、とんずらに該当する描写は「ニューカペナの街角」のいくつかのストーリー作品で確認できる。

短編「契約破り」

粉砕者、ペリー(Perrie, the Pulverizer)

粉砕者、ペリー(Perrie, the Pulverizer)
データベースGathererより引用

短編「契約破りThe Contract Breaker)」では、冒頭場面で「裏口から逃げる人物」が登場する。

ただし、公式和訳版の「契約破り」は該当部で誤訳しており全く別の意味の文章になっているため、「裏口から逃げる人物」を探そうとしても絶対に見付けられない。したがって、本サイトで独自に翻訳した文章で解説しよう。

He’s not looking for Junash—apparently a harried aven with wings that droop sadly behind him as he runs out the back—Perrie’s here for a maniacal little street brawler by the name of Krent.
ジュナシュ——しょんぼりと翼を垂らしたまま今しがた裏口から駆け出して行った不安そうな顔のエイヴンがそうらしいが——ペリーの目当ては奴ではなく、クレントと呼ばれるけちな喧嘩屋だ。
上が原文引用、下が本サイトの独自訳

この場面だ。ジュナシュ(Junash)と言う人物が「裏口から駆け出して行く(he runs out the back)」という表現が確認できる。

主人公のペリー(Perrie)が店に現れると誰かが逃げた方がいいと警告を発し、ジュナシュは慌てて裏口から出て行ったのだ。何か逃げるべき心当たりがあったのだろうが、ペリーが探している人物は別にいた。そういう場面となる。

slip out the back」でなく「run out the back」なので、ちょっとあわただしさを感じさせるものの、「裏口から逃げる人物」としては及第点だ。

ちなみに公式和訳版の文章と誤りの指摘は以下の通りだ。本筋と関係ないので折り畳み表示とする。

公式和訳版と指摘(折り畳み表示)

ジュナシュを探しているのではない――萎れた翼を悲しく背負った、取り立て屋のエイヴンだ――ペリーがここに来たのは、クレントと呼ばれるけちな喧嘩屋を探すためだった。
引用:公式和訳版「契約破り」

「裏口」を意味する「the back」が、どういうわけか前の文の「しょんぼりと垂れた翼(wings that droop sadly)」と合体してしまって、「萎れた翼を悲しく背負った」となっている。「he runs out the back」は「裏口から駆け出して行く」であって「背中に背負った」ではないのだ。

その上、ジュナシュは「取り立て屋」という原文に該当する単語のない職業だと書かれてしまってもいる。「harried」を「不快感に悩まされた」の意味ではなく、「しつこく催促する」「奪う」の意味の「harry」の過去分詞だとでも解釈したのだろうか……?でももしそう読んだとしても、催促される・奪われるのはジュナシュ自身になるので「取り立て屋」と訳せるはずはないと思うのだが。

短編「自由の側」

狩りに出るビビアン(Vivien on the Hunt)

狩りに出るビビアン(Vivien on the Hunt)
データベースGathererより引用

短編「自由の側The Side of Freedom)」では、主人公のビビアン・リード(Vivien Reid)がちゃんと「とんずら(Slip Out the Back)」する場面が確認できる。

該当する文章はこのようなものだ

Vivien made a hasty decision and slipped out the back door.
ビビアンは素早く決断し、裏口から滑り出た
引用:上が原文、下が公式和訳版

この場面に至る流れは次のようなものだ。

まずビビアンは貴顕廊の構成員が「裏口からこっそり出て行く」のを目撃する。ちなみにここの原文も「she saw the Maestro slip out the back.」つまり「とんずら」だ。

その構成員を待っている相手の姿が裏口の隙間から見えたのだが、ビビアンの知る人物、通称「藍色(Navy)」だった。藍色がここにいるのはおかしい。ビビアンは物陰から裏口に忍び寄り、外にいる2人の会話に聞き耳を立て、藍色が二重スパイだったことを悟った。

ところがその時、ビビアンの後ろの隠し扉が開いて、大勢の人が出て来たのだ。ここで疑いを掛けられるのはまずい、と即座に判断したビビアンは自分も裏口からこっそり抜け出した。外には殺気だった藍色が待ち受けていたが、ならば今が白黒つける時だ。

……とこんな流れである。

以上のように、この短編ではビビアンと名もなき工作員で2回、とんずら構文が出て来ているのを確かめられた。

この次の節はおまけとなる。



おまけ:その他の「とんずら」カード

既存のフレイバーテキストで「とんずら(Slip Out the Back)」しているカードがないかな?と調べたところ、意外にも「Slip Out the Back」という表現をしているものは存在しなかった。

ただし、1枚だけ「slip out of」という形ではあるが、「こっそり抜け出した」カードを発見できた。それがこのカードだ。

霧衣スリヴァー

Taking the form of a junior researcher, the first sliver slipped out of Riptide.
新米研究員に姿を変え、激浪計画の研究所から最初のスリヴァーが逃げ出した。
引用:霧衣スリヴァー(Mistform Sliver)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

霧衣スリヴァー(Mistform Sliver)

霧衣スリヴァー(Mistform Sliver)
データベースGathererより引用

霧衣スリヴァー(Mistform Sliver)はカードセット「レギオン」収録のクリーチャー・カードである。このカードセットの舞台はAR4306年頃2のドミナリア次元オタリア大陸地方だ。

このスリヴァーは、当時のオタリアに存在した「霧衣(きりごろも:Mistform)」というクリーチャー・タイプを別の種類に変更する能力を持たされている。つまり、霧衣スリヴァーは別種の生物へと変身できるのだ。

では霧衣スリヴァーの物語を、フレイバー・テキストの内容を補足して解説する。

オタリア南部の魔術組織「激浪計画(Riptide Project)」はアーボーグから持ち帰ったスリヴァーの遺骸を復元する研究を行っていた。その試みは成功し、数々の新種のスリヴァー群を生み出すに至った。ところが、霧衣能力を身につけたスリヴァーが新米研究員に変身して、まんまと研究所から抜け出してしまった。これが激浪計画の破滅の始まりであった……。

和訳製品版のフレイバー・テキストで「研究所から最初のスリヴァーが逃げ出した。」となっている部分、原文は「the first sliver slipped out of Riptide.」である。「slip」はただ「逃げる」というよりも「そっと通り抜ける」「忍び出る」といったニュアンスがある言葉なので、この変身脱走劇はしばらく気付かれなかったに違いない。

「霧衣」は変身能力であり、脱走以外にも応用範囲は幅広い。そしてスリヴァーはスリヴァー同士でお互いの能力を共有できる生き物なのだ。「霧衣」が1体いれば群れ全体が変身能力を共有することになる。

脱走したスリヴァーは大群を成していき、激浪計画を壊滅させるとオタリア大陸に拡散し、この地方を荒廃させる一因となったのである。やはり「とんずら」だけで済むはずもなかったのだ。

さいごに

以上をもってとんずら四方山話は終了だ。

では今回はここまで。

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  2. 当時の公式サイト簡易年表では「レギオン」はAR4306年と記載されていたが、オンスロート・ブロック小説によるとAR4506年以降の数年間が範囲に含まれる。この手の公式サイトと小説との食い違いはオタリア関係ではよくあるものだ。