エルドレイン次元の「ヘンゼルとグレーテル」モチーフのカードをまとめた。
当初はカードセット「エルドレインの王権」だけを扱った記事であったが、現在は記事を再編集してカードセット「エルドレインの森」の範囲までも解説している。
追記(2023年9月21日):記事全体を再編集するとともに、カードセット「エルドレインの森」のグレタの物語と関連カードも書き加えた。
追記(2023年9月23日):甘歯村(Sweettooth Village)の記事を作成するにあたり、本記事中にリンクを追加したり、一部の記述を変更または甘歯村の記事に移すなどの編集を行った。また、穢れの大釜、アガサ(Agatha of the Vile Cauldron)について本記事の最後に節を設けて取り上げた。
追記(2023年9月27日):公式記事Ten Stories Tallにおいて10種類のアーキタイプの簡単なストーリー解説が行われた。しかし、「ヘンゼルとグレーテル」アーキタイプには特に真新しい情報追加はなかった。したがって、本記事に変更はしていない。
追記(2023年9月30日):グレタ(Greta)の項目に、グレタが仇と想定している「魔女」について加筆した。
追記(2023年10月3日):グレタ(Greta)と甘歯村の魔女(Sweettooth Witch)のそれぞれに「兄」「弟」の翻訳について加筆した。
ヘンゼルとグレーテルの解説
エルドレイン次元は騎士とおとぎ話をイメージした世界だ。その中には、おとぎ話をモチーフとしたカードが収録されている。前回は「ジャックと豆の木」を紹介したので、今回は「ヘンゼルとグレーテル」について調べてまとめてみた。
グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」では、飢餓にあえぐ貧しい木こりの夫婦が小さな子供のヘンゼルとグレーテル1を深い森の中に捨ててしまう。2人の子供は森の奥で魔女の住むお菓子の家に辿り着けたが、魔女はヘンゼルを肥え太らされて食べるつもりだった。グレーテルは機転を利かせ魔女をかまどに放り込んで殺し、2人は魔女の宝を持って家に帰り幸せに暮らした。
ヘンゼルとグレーテルの概要は大体このようなものだ(内容は版による違いがある。そのうえ、アレンジが加えられた様々なバージョンもある)。
「エルドレインの王権」の「ヘンゼルとグレーテル」
カードセット「エルドレインの王権」には、童話「ヘンゼルとグレーテル」を直接的にモチーフにしたカードが複数確認できる。
パンくずの道標
パンくずの道標(Trail of Crumbs)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたエンチャント・カードである。
これは2人の子供がパンくずを撒いて帰り道の目印を残している。カードを出したときに生成する食物トークンがパンくずを、食物トークンを生け贄に捧げた際にライブラリーを覗く効果が帰りの道標を辿っている表現しているのだろう。
ヘンゼルとグレーテルでは、最初に森に捨てられる際に白い小石を道に残してそれを目印に帰宅している。しかし、再び捨てられた時には小石の用意がなかったので、パンくずを代わりに撒いていった。このパンくずは鳥に食べられてしまったために2人は家に帰りつけずに森の奥をさまようことになり、遂にはお菓子の家へと辿り着く。
MTG版ではパンくずがきちんと帰り道へと導いているようだ。…しかし、そうなるとお菓子の家に行かずに帰宅できてしまって、そこで物語が終わってしまう気がしないでもない。原作の1回目の小石の道標と2回目の失敗したパンくずとが合わさった、いいとこどりのカードかもしれない。
お菓子の小屋
お菓子の小屋(Gingerbread Cabin)はカードセット「エルドレインの王権」に収録された土地カードである。
ヘンゼルとグレーテルに登場する森のお菓子の家をカード化したものだ。だから、このカードは土地タイプが「森」であり、食物トークンを出す機能を持っている。
知りたがりの二人
“It’s gingerbread, like Mother makes. What is there to be afraid of?”
「これはジンジャーブレッドだよ。お母さんが作るのと同じだ。何も怖がることなんてないよ。」
引用:知りたがりの二人(Curious Pair)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
知りたがりの二人(Curious Pair)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたクリーチャー・カードである。
このカードではMTG版のヘンゼルとグレーテルがお菓子の家の飾りを頬張っている。
出来事の方の「分かち合い(Treats to Share)」は食物トークンを生成する。クリーチャーとしての「知りたがりの二人」は人間の農民である。つまり、前者はお菓子の家のお菓子を、後者はヘンゼルとグレーテルを表している。
知りたがりの二人にはショーケース・フレームの特別デザイン版も存在している。
イラストでは、丸窓からは貧しく腹を空かせた2人の兄妹の姿が見え、窓の下には美味しそうなお菓子とパイが置かれている。しかし、丸窓の中には、骸骨の上に蝋燭が灯され、不気味な魔女の2対の手が兄妹を待ち受けている。
パイ包み
“My secret ingredient? Well, I can’t tell you that. But here’s a hint. It’s not love.”
「隠し味?それは教えられないね。でもヒントをあげよう。愛情じゃあない。」
引用:パイ包み(Bake into a Pie)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
パイ包み(Bake into a Pie)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたインスタント・カードである。
黒のクリーチャー除去カードで、食物トークンのおまけがついてくる。カード名とフレイバー・テキスト、イラストから、対象をパイに包んで調理してしまうカードであることがはっきりと示されている。
おとぎ話ではカニバリズム的な描写はしばしば目にするものである。「ジャックと豆の木」の巨人は人食いであるし、「ヘンゼルとグレーテル」では魔女は子供を肥え太らせて食べようとした(反撃されて逆にかまどに突き入れられて焼け死んでしまう)。このカード自身は必ずしもヘンゼルとグレーテルに直接結びつけられるものではないが、そういった関連でここで取り上げた。
魔女のかまど
The wafting smells are both scrumptious and suspicious.
漂ってくる香りは、おいしそうでもあり、怪しげでもあった。
引用:魔女のかまど(Witch’s Oven)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
魔女のかまど(Witch’s Oven)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたアーティファクト・カードである。
公式記事Eldraine Check, Part 3によると、このカードは元々のデザインでは、ヘンゼルとグレーテルのように魔女を押し込んで殺してしまうような「殺すカード(a kill card)」であった。ただそれでは少々恐ろしすぎたので、クリーチャーを食物トークンに換えるように修正された。これでもまだ少し恐ろしいものだが、グリム童話はそもそもダークなのだ。2
ということで、このカードは魔女が住むお菓子の家のかまど(オーブン)をイメージしたものと言っていいだろう。人食い魔女は子供を調理して食べようとしたが、逆にかまどの中に押し入れられて焼け死んでしまう。
和訳されたヘンゼルとグレーテルでは「暖炉」に魔女を放り込むバージョンが見つかる。調理器具としての「かまど」でなく、暖房器具の「暖炉」になっているのはなぜだろうか?と考える。
推測だが、ドイツ語の「ofen」は日本語の「かまど(調理器具)」と「暖炉(暖房器具)」の両方の意味を含んでいるため、翻訳の解釈にブレが生じたのだろう。ちなみに作中で魔女は「ofen」の中にグレーテルを入れて調理しようとするので、暖房器具の「暖炉」は訳としてふさわしくない。
オークヘイムのレインジャー
オークヘイムのレインジャー(Oakhame Ranger)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたクリーチャー・カードである。
僻境のエルフで、巨大狐に騎乗する騎士である。出来事の方の「連れ戻し(Bring Back)」では人間トークン2つを生み出す。
グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」ではお菓子の家から2人だけで家路についた。ところが、MTG版では2人を救出する騎士が現れる。それがこのカードだ。
出来事の「連れ戻し」で2人の子供が登場し、この騎士が連れ帰るのだ。イラストのエルフの鞍の後ろには2人の子供が乗っているのが分かるだろう。
オークヘイムのレインジャーにはショーケース・フレームの特別デザイン版も存在している。
ケンリス双子
王家の跡継ぎ(The Royal Scions)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたプレインズウォーカー・カードである。ケンリス家の双子、ローアン・ケンリス(Rowan Kenrith)とウィル・ケンリス(Will Kenrith)を表している。
小説「Throne of Eldraine: The Wildered Quest」には、ヘンゼルとグレーテルに相当するきょうだいは登場しない。いや少なくとも、小さな子供のきょうだいとしては出てこないといった方がよいか。というのは、主人公のローアンとウィルの双子がある意味では共通点があるのだ。
作中で2人は僻境の森を探索しているし、僻境の魔女と魔女の小屋とは深い関連を持っており、悪い魔法を使う者によって檻の中に拘束されたりもする。これらは童話「ヘンゼルとグレーテル」でいえば、森をさまよう2人、魔女の住むお菓子の家に着いた2人、檻に入れられ太らされるヘンゼル、とそれぞれ対応させられる要素である。
次は、再訪となったカードセット「エルドレインの森」での「ヘンゼルとグレーテル」だ。こちらは打って変わってアレンジが加わったものとなっている。
「エルドレインの森」の「ヘンゼルとグレーテル」
カードセット「エルドレインの森」では、「ヘンゼルとグレーテル」は黒緑のアーキタイプのモチーフとなっている。
主人公のグレーテル役はグレタ(Greta)で、ヘンゼル役のハンロン(Hanlon)は故人である。お菓子の家と魔女は、甘歯村(Sweettooth Village)というお菓子モンスターの徘徊する魔境へと改変され、大人になったグレタが仇を討ちに舞い戻るという、いわば「ヘンゼルとグレーテル」のその後のストーリーになっている。
これまでの回と同じく「ヘンゼルとグレーテル」でも、個別のどのカードがストーリー上でどういう役割や関わり合いをどの順にしたのか、あるいは、物語の結末がどうなったのか、というところまではワールドガイドは触れていない。
グレタの物語
ハンロン(Hanlon)とグレタ(Greta)のきょうだい2人は、森の奥に迷い込みお菓子で一杯の不思議な甘歯村(Sweettooth Village)へと辿り着いた。
そこは一見可愛らしいお菓子が沢山で、家々までもがお菓子の塊の子供にとって夢のような所であった。けれど、誰も住む者もいない放棄された村であり、何より不気味で恐ろしいお菓子モンスターが徘徊していたのである。
邪悪なキャンディーの怪物に襲われて、グレタは命からがら逃げ出せたものの、ハンロンは助からなかった。
この出来事がグレタの運命を大きく変えることになったのである……。
あれから15年が経った。
グレタは成長し魔女狩り師となっていた。彼女の願いは、兄弟を奪った甘歯村へと舞い戻り、甘美なる正義の裁きを下すことだ。
甘歯村に再訪したグレタはお菓子モンスターを仕留め、
……あるいは、甘歯村に囚われた犠牲者を救出するのだった。
果たしてグレタの正義の戦いはどのような決着を迎えるのであろうか?
グレタおよび「ヘンゼルとグレーテル」の関連カード
カードセット「エルドレインの森」におけるグレタの物語に関わるカードや、童話「ヘンゼルとグレーテル」をモチーフにしたカードを取り上げる。
ただし、甘歯村(Sweettooth Village)とお菓子モンスターについては、別の記事で解説するため、本記事では最低限のカードに限定した。
甘歯村の断罪人、グレタ
甘歯村の断罪人、グレタ(Greta, Sweettooth Scourge)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。
グレタはエルドレインの森版「ヘンゼルとグレーテル」のグレーテルに配役されたキャラクターである。ただし、大人に成長したその後のグレーテルだ。
15年前、兄弟のハンロン(Hanlon)と共に甘歯村に迷い込んだ女の子グレタは、自分を鍛え上げ魔女狩り師(Witchhunter)となって帰ってきたのだ。甘歯村に正義の鉄槌を下すために!
「エルドレインの森」の時代設定はAR4563年なので、ハンロンとグレタが甘歯村を訪れたのは、4563-15=4548で、AR4548年の出来事と導き出せる。ちなみに、「15年前(fifteen years ago)」という時系列情報は、「エルドレインの森ワールドガイド」の記述である。
ハンロンとグレタのどちらが年上で年下かは不明だ(英語圏は日本とは異なってその辺を重視しないので、おそらく設定されてもいない)。公式のテキスト内では、2人合わせての時は「きょうだい(siblings)」と記され、ハンロン1人の場合は(グレタの)「兄弟(brother)」と書かれている。
公式記事Ten Stories Tallでも、ハンロンはただ「her brother」である。ところが、その公式和訳版の全高10話では、「兄」と「弟」の両方に訳すという、こんな短い文章中で信じられない訳ブレをしてしまっている。
大人になった童話の登場人物のその後を描く後日談や、童話原作とは逆に戦って勝つ主人公というアレンジは、映画や漫画などでは定番のパターンの1つだろう。
童話「ヘンゼルとグレーテル」にも同パターンがあり、その1つとして2013年のアメリカ映画「ヘンゼル & グレーテル」(現代:Hansel and Gretel: Witch Hunters)が見つかる。これは、大人になったヘンゼルとグレーテルが魔女狩り師を生業にするという後日談で、グレタの物語と似ている。「15年後」という時代設定も同じだ。
特に「この映画が似ている」ということを指摘したいわけでなく、こういうアレンジはよくある定番だってことなのだ。
甘歯村の「魔女」
「ワールドガイド」と公式記事Ten Stories Tallの両方で、グレタは正義の報いを受けさせる対象として甘歯村を操る「魔女」という存在を想定している。グレタは、15年前の訪問時から現在までずっとその「魔女」がいて甘歯村を支配していると考えているようだ。
ただし、甘歯村の記事の方で触れているように、この村を作った始まりの魔女、および、現在この村を支配する魔女は存在していないはずなのだ(少なくとも制作陣の回答からはそのはず)。
表向きは「魔女」は存在していないし、長く甘歯村で生き残れる魔女もいないと考えられる。でも真相は違って、魔女は甘歯村の影に今でも潜んでいるのだろうか?
グレタの物語としては、仇となる巨悪が存在している方が素直であろう。だが私が思うに、やはり仇の魔女などいないのが真実なのにグレタは存在しない仇を探し続ける、こういう砂を噛むようなビターなストーリーでも面白いんじゃないだろうか。
刺し傷
“What first seemed like a ridiculous and vaguely demeaning task quickly turned into a vicious struggle for survival.”
–Welcome to Sweettooth
「初めは滑稽で、あたかも己を卑しめる作業のように思えた任務が、生き残るための酷薄な闘争だとすぐに判明した。」
–「甘歯村へようこそ」
引用:刺し傷(Stab Wound)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
刺し傷(Stab Wound)はカードセット「エルドレインの森」のおとぎ話という特別枠で再録されたエンチャント・カードである。カードセット「ラヴニカへの回帰」が初出だ。
イラストは、甘歯村のお菓子モンスターを槍で貫く女性戦士、おそらくグレタだ。
フレイバー・テキストは、お菓子モンスターという冗談のような存在との戦いに従事する者の心情が語られている。
おかわり
おかわり(Back for Seconds)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたソーサリー・カードである。
イラストでは、グレタが巨大なゼリーの中に閉じ込められた甘歯村の犠牲者を助け出している。
「go back for seconds」で「おかわりしに行く」となり、このカード名もそういう意味合いではある。ただ、食事のおかわりをするというそのままの意味ではなくて、グレタが魔女狩り師に成長して復讐のために因縁の甘歯村に「もう一度戻ってきた」くらいの含みに思える。
カードのメカニズムでは、墓地からのクリーチャー・カードの回収である。グレタが甘歯村に捕まっていた犠牲者を救助しているのだろう。
シュガーラッシュ
“I smell frosting. Ready your weapons!”
–Greta, Scourge of Sweettooth
「砂糖衣の匂いがする。みんな、武器を構えて!」
–甘歯村の断罪人、グレタ
引用:シュガーラッシュ(Sugar Rush)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
シュガーラッシュ(Sugar Rush)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたインスタント・カードである。
イラストは、甘歯村のお菓子モンスターが襲撃してきた場面だ。
フレイバー・テキストはグレタが仲間に発した言葉であり、お菓子モンスターの気配を察知して戦闘態勢となるように指揮している。グレタと一緒にいるのは、同業の魔女狩り師か、あるいは、甘歯村で救助した人々なのか……?
カード名の言葉遊びの説明などはこちらの記事を参照のこと。
キャンディーの道標
“Look! Another one! Who cares what Mother said? We’ll be home before she gets back.”
–Daniela, Edgewall youth
「見て!またあったよ!ママの言いつけなんて知らないわ。ママが帰ってくる前に戻ればいいんでしょ?」
–エッジウォールの少女、ダニエラ
引用:キャンディーの道標(Candy Trail)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
キャンディーの道標(Candy Trail)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたアーティファクト・カードである。
公式記事によると、このカードは童話「ヘンゼルとグレーテル」のパンの道標を、MTGの「食物」と「手掛かり」の2つのメカニズムを組み合わせて表現可能だ、との発想からデザインされた。
童話「ヘンゼルとグレーテル」では、パン屑を残して帰る際の道標とした。ところがこのカードは逆だ。フレイバー・テキストを読むと、先にキャンディーが道なりに続いており、エッジウォールの少女ダニエラ(Daniela)たちがそれに誘われて森の奥へと踏み込んでいってしまっている。おそらくその先に恐ろしい甘歯村とお菓子モンスターが待ち受けているに違いない。
ガムドロップの毒殺者
ガムドロップの毒殺者(Gumdrop Poisoner)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。出来事はお菓子の誘惑(Tempt with Treats)だ。
「ガムドロップ」とは、砂糖をまぶしたゼリー状の飴やグミの1種のこと。この魔女はガムドロップを撒いてお菓子の道を作り出し、子供たちを誘き寄せ捕まえようとしているのだろう。
童話「ヘンゼルとグレーテル」の、パン屑の道標とお菓子の家の魔女を組み合わせたようなアレンジだ。
キャンディーの道標(Candy Trail)はこういう魔女の手で作られるのだと想像できる。
こちらの記事も参照のこと。
甘歯村へようこそ
甘歯村へようこそ(Welcome to Sweettooth)はカードセット「エルドレインの森」に収録された英雄譚エンチャント・カードである。
このカードのイラストとメカニズムを見ると、1人の子供がキャンディーの道標(Candy Trail)を辿って進み、最後に恐ろしい甘歯村に到着するという流れのストーリーになっている。
これ1枚でエルドレインの森版にアレンジされた「ヘンゼルとグレーテル」を語っているとも言えるカードだ。
甘歯村の魔女
“Try some pie! Your brother helped make it, and he really poured his heart into it.”
「パイを召し上がれ!あなたの弟にも手伝ってもらってね。文字通り心を込めてもらったのさ。」
引用:甘歯村の魔女(Sweettooth Witch)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
甘歯村の魔女(Sweettooth Witch)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
この魔女は童話「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の家の魔女を直接的にカードに落とし込んでいる。
フレイバー・テキストの「文字通り心を込めてもらったのさ」という件には二重の意味合いが込められている。普通に読めば「心を込めてパイ作りを手伝った」となるところだが、この魔女の場合は「心臓をパイの具にして調理した」という意味になっている。
ちなみに、和訳製品版では「弟」だが、英語原文は兄か弟か区別しないただの「brother」である。英語は日本語ほど歳の上下を気にしないので、和訳時には取りあえず「兄」か「弟」のどちらかに決めて訳すことも多いのだ。
また、日本と同じく歳の上下を気にする言語である中国語版を見ると、「哥哥」つまり「兄」と日本語とは逆に訳している。各言語版の翻訳担当陣がその都度の判断で決めている状況がここでも垣間見える。
眠らずの小屋
眠らずの小屋(Restless Cottage)はカードセット「エルドレインの森」に収録された土地カードである。
童話「ヘンゼルとグレーテル」の菓子の家が動き出すというアレンジだ。
こちらは特別版イラストの眠らずの小屋だ。
このイラストの方がお菓子の家らしさが伺える。
こちらの記事も参照のこと。
穢れの大釜、アガサ
穢れの大釜、アガサ(Agatha of the Vile Cauldron)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。
アガサは童話「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の家の魔女を明らかにモチーフの1つとしたキャラクターだ。森の奥の小屋に住む人喰い魔女で、捕らえた犠牲者を食べようと調理の準備をしていたところを、逆に大釜に落とされて最期を迎える。「ヘンゼルとグレーテル」では大釜ではなくかまどであるがささやかな違いだ。
ただ、アガサはカードの色は赤緑なので、「ヘンゼルとグレーテル」ではなく「赤ずきん」アーキタイプに分類されるカードではあり、お菓子の家には住まないし、赤ずきん役のルビーの敵であり狼騎士を従えている。とはいえ、公式ではしばしばアガサは童話「ヘンゼルとグレーテル」の魔女役だと宣伝されていたのだ。その上、MTGアリーナのステッカーでは、アガサはお菓子モンスターと一緒になっており、やはり公式はお菓子の魔女の類と見做しているのが分かる。
「エルドレインの森」では童話の要素をシャッフルして入れ替えたり、組み合わせを変更したり、もっと大胆なアレンジを加えたり、と童話をそのままに近い形を再現した「エルドレインの王権」よりも冒険的なデザインとなっている。アガサが「赤ずきん」と「ヘンゼルとグレーテル」の混ぜ合わせなのはそういった特徴の現れなのかもしれない。
さいごに
エルドレイン次元の「ヘンゼルとグレーテル」の四方山を語り終わった。
今回の再編集ではグレタの物語を取り上げるため、大幅に加筆を行った。
戦うヒロインになった童話の後日談というアレンジ・パターンは定番で素直な選択だ。お菓子モンスターを相手に暴れる大人のグレーテル……これもサイドストーリー短編で読みたかったものだな。
では、今回はここまで。
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カードセット「エルドレインの王権」関連のリスト
- ヘンゼルが男でグレーテルが女。きょうだいではあるが、どちらが年上で年下かは不明。日本では兄妹と解釈する例が散見される
- この記事の公式和訳エルドレイン・チェック その3は、原文のニュアンスをところどころ間違って捉えている。例えば、殺すカードから食物トークン生成に修正した件を受けて「Still a little gruesome(それでもまだ少し恐ろしいが)」という原文を、「少しばかり恐ろしい話ではあるが」と全体の総括のように訳しており、緩和したがそれでも怖いというニュアンスが完全に欠落している。