最古のレインジャー:ケルシンコのレインジャー

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Kelsinko Ranger」こと「ケルシンコのレインジャー」はカードセット「アイスエイジ」収録のクリーチャー・カードである。

このカードはクリーチャー・タイプが「レインジャー」であるクリーチャーとしては、MTG史上初のカードでもある。

クリーチャー・タイプ「レインジャー」はこのカード以外に1枚も制作されずに、2007年に一旦廃止されてしまった。ところが、今年2021年になって14年振りに復活し、新規のレインジャーが登場しただけでなく、過去カードでも名称にレインジャーを含むクリーチャーは全て「レインジャー」タイプを獲得した。もちろん、このケルシンコのレインジャーも再び「レインジャー」に復帰している。

今回は、唐突に復活したクリーチャー・タイプ「レインジャー」の中でも最古のカード、「ケルシンコのレインジャー」について解説する。さらに、フレイバー・テキストから見えてくる人間とエルフの物語についても取り上げていく。

ケルシンコのレインジャーの解説

“Rangers not trained by the Elves just aren’t the same.”
–Lucilde Fiksdotter, Leader of the Order of the White Shield
「エルフの訓練を受けていないレインジャーでは、こうはいかない。」
–白き盾の騎士団の団長、ルシルド・フィクスドッター
引用:Kelsinko Rangerのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

Kelsinko Ranger

Kelsinko Ranger
データベースGathererより引用

Kelsinko Ranger」こと「ケルシンコのレインジャー」はドミナリア氷河期のテリシア大陸南東部にあったフィンドホーンの森に住む人間のレインジャーだ。

ケルシンコ(Kelsinko)とは、フィンドホーン・エルフの都市である。この森にはエルフだけでなく、エルフと協力関係を結んだ人間も生活していた。このレインジャーたちもそんな人々だ。

フィンドホーンのエルフ(Fyndhorn Elves)

「統率者レジェンズ」再録版のフィンドホーンのエルフ(Fyndhorn Elves)
データベースGathererより引用

ケルシンコのレインジャーはカード・メカニズムの面では、緑のクリーチャーに先制攻撃を与えられる。初期のMTGなので現代の目ではカードパワーは見劣りするものの、森の仲間と協力する雰囲気はしっかり組み込まれている。

ケルシンコのレインジャーとオーク

そしてイラストには、弓を携えたレインジャーとオーク2人組が描かれている。アイスエイジのいくつかのカードでは、人間やエルフの共通の敵としてオークが描写されており、これもそういったカードの1種なのだ。

次の節では、ケルシンコのレインジャーのフレイバー・テキストに注目する。人間とエルフの物語が見えてくるのだ。



ケルシンコのレインジャーのフレイバー・テキスト

「エルフの訓練を受けていないレインジャーでは、こうはいかない。」
–白き盾の騎士団の団長、ルシルド・フィクスドッター

ケルシンコのレインジャーのフレイバー・テキストは、白き盾の騎士団団長のルシルド・フィクスドッター(Lucilde Fiksdotter)の言葉だ。ルシルドはフィンドホーンの森の北にあるキイェルドー国の人間女性で、騎士団長として色々なフレイバー・テキストやDuelist誌5号の掌編Feast of Kjeldにも登場したキャラクターだ。

白き盾の騎士団(Order of the White Shield)

ルシルドが率いるキイェルドー国の白き盾の騎士団(Order of the White Shield)
データベースGathererより引用

ルシルド団長によると、エルフの訓練を受けていないレインジャーは、ケルシンコのレインジャーと同じようにはいかない。つまり、このケルシンコのレインジャーはエルフの訓練を受けているため、そうではないレインジャーとは一味違う、と高く評価しているのだ。

エルフのレインジャー(Elvish Ranger)

フィンドホーン・エルフのレインジャーを描いたカード、エルフのレインジャー(Elvish Ranger)
データベースGathererより引用

実はルシルド団長が高評価を下す個人的な理由がある。彼女の友人、ケルシンコのエルフ狩人タヴェティー(Taaveti)の存在だ。

ルシルド団長とタヴェティーの関係はTrailblazerというカードのフレイバー・テキストで示されているので、次の節で確認しよう。

騎士団長ルシルドから狩人タヴェティーへ

“Our Elvish Hunter Taaveti led us swiftly along hidden paths through the dense forest. We caught the Orcs from behind, and completely by surprise.”
–Lucilde Fiksdotter, Leader of the Order of the White Shield
「我らのエルフ狩人タヴェティーが深き森に隠れた道を先導した。オークの後背を突くことができ、奇襲は完璧だった。」
–白き盾の騎士団の団長、ルシルド・フィクスドッター
引用:Trailblazerのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

Trailblazer

Trailblazer
データベースGathererより引用

Trailblazerはカードセット「アイスエイジ」収録のインスタント・カードである。「Trailblazer」とは「木に焼き跡を残して道しるべを示す者」だそうで「先駆者・草分け・開拓者」を指す言葉だ。

このカードのフレイバー・テキストでは、ルシルド団長はタヴェティーと共同で作戦を遂行し、オークへの奇襲を成功させている。

こういった経験があるので、ルシルド団長は森林で行動するエルフの技術と知識をその身で知っている。だから、ケルシンコのレインジャーの優秀さを見れば、なるほどフィンドホーン・エルフの教育の賜物か、と納得できたのだ。

ルシルド騎士団長からのタヴェティーを信頼する想いは分かった。では反対に、タヴェティーの方はどう考えているのだろうか?

狩人タヴェティーから騎士団長ルシルドへ

“How can any Human hope to match our skills? We are children of Fyndhorn, and its sap runs in our veins.”
–Taaveti of Kelsinko, Elvish Hunter
「どうして人間が我々の技術に匹敵できるものか?フィンドホーンの子たる我らの血管には、その樹液が流れているのだ。」
–エルフの狩人、ケルシンコのタヴェティー
引用:エルフのレインジャー(Elvish Ranger)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

エルフのレインジャー(Elvish Ranger)

エルフのレインジャー(Elvish Ranger)
データベースGathererより引用

エルフのレインジャー(Elvish Ranger)はカードセット「アライアンス」に初収録されたクリーチャー・カードだ。絵柄とフレイバー・テキストが異なる2種類が収録されたが、男性イラストの方はタヴェティーのコメントが記されている。

タヴェティーは、人間がフィンドホーンの森の子であるエルフに匹敵する技術は持つことはできない、と断じている。森林に関する限りは、これは純然たる事実ではあるだろうが、この物言いは人間に対する見下しの気持ちなのだろうか?もう1つのカードで確認してみよう。

“I have been a warrior for over four hundred years, and yet each generation of Kjeldorans teaches me new tricks. There can be no better allies.”
–Taaveti of Kelsinko, Elvish Hunter
「私は400年以上も戦士として生きてきたが、未だにキイェルドー人は世代が変わるごとに新しい技を教えてくれるのだ。これ以上の味方はいない。」
–エルフの狩人、ケルシンコのタヴェティー
引用:Formationのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

Formation

Formation
データベースGathererより引用

Formation」すなわち「陣形・隊形」はカードセット「アイスエイジ」のインスタント・カードである。

フレイバー・テキストによると、何百年もの寿命を持つエルフのタヴェティーは戦士として400年以上の経験を積んできた。狩人やレインジャーとしては決して人間に劣ることはないとの自負があるとはいえ、こと戦闘技術となると人間のキイェルドー人にはいつの時代でも教わることが尽きない。要は種族としての向き不向きの差があるだけで、彼にとってキイェルドーは得難い味方なのだ。

ならば、タヴェティーにとってルシルド・フィクスドッターはもちろん最良の友であったに違いない。この2人の関係性は、キイェルドーとフィンドホーン・エルフが友人となれると示している。少なくともアイスエイジ時点ではそういう理想的な一側面を描いていた。アイスエイジに続くアライアンスとコールドスナップの2セットで、人間とエルフは同盟関係を固く結ぶことになるのだが、それはまた別の機会に話そう。



さいごに

今回は、クリーチャー・タイプ「レインジャー」の復活を機会に、最古のレインジャー「ケルシンコのレインジャー(Kelsinko Ranger)」を取り上げてみた。

まあ、ケルシンコのレインジャー自身よりもそのフレイバー・テキストをきっかけにして、キイェルドーの騎士団長ルシルドと、ケルシンコの狩人タヴェティーの2人の物語の方に焦点を当てた記事にしてしまったけれど……。

アイスエイジの制作チームのスカッフ・エイリアス(Skaff Elias)コミックUrza-Mishra War vol.2巻末インタビューで、アイスエイジはアンティキティーやフォールン・エンパイアと異なりカードが多すぎたため、全体を通した1本のストーリーは組み込んでいない。その代わり、小規模な戦いや物語の数々が散りばめられていると語る。

ルシルドとタヴェティーの物語もこういったショートストーリーの1つであった。人間とエルフの信頼関係と、その背景に共通の敵オークの存在が描かれている。

ところが、アイスエイジ全体を見渡すと、キイェルドーとフィンドホーン・エルフの関係は良好とばかりはいえないものだ。ルシルドとタヴェティーが互いを尊重し合う友誼を結んでいる一方で、両国の重鎮同士が両種族の関係はフェアではないと語っていたりもする。実にスカッフ・エイリアスが証言した通り、400種近くのカードを有する大型セット「アイスエイジ」には小さな物語が散りばめられ、それらが複雑に絡み合った物語世界が紡がれているのだ。

魅力的なアイスエイジをもっと語りたいところだが、今回はここまでとしたい。

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