エルドレイン次元における「大きな悪い狼(Big Bad Wolf)」モチーフのカードを紹介する。
「大きな悪い狼」がカードセット「エルドレインの王権」とカードセット「エルドレインの森」でどのようにカードに実装されたかを探る。
大きな悪い狼の解説
大きな悪い狼(Big Bad Wolf)はグリム童話やイソップ寓話などのおとぎ話に出てくる定番の悪者キャラクターである。
グリム童話では「赤ずきん」、「三匹の子豚」、「狼と七匹の子山羊」、イソップ寓話では「狼少年」他多数に登場している。この狼は動物や登場人物を食べてしまう描写が多いが、狼の腹を裂いて食べられた者が救出される場合もある。
大きな悪い狼の実装その1:意地悪な狼
「大きな悪い狼」のカード化は、カードセット「エルドレインの王権」の発売前から予告されていたものだ(出典)。おとぎ話の定番キャラクターの収録は、MTGユーザーも気になるポイントだったのだ。
公式記事Eldraine Check, Part 3によると、まさに「大きな悪い狼」として開発されて実装されたカードが明かされている。それが次で紹介する意地悪な狼(Wicked Wolf)だ。
意地悪な狼
意地悪な狼(Wicked Wolf)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたクリーチャー・カードである。
公式記事Eldraine Check, Part 3によると、このカードは開発名「Big, Bad Wolf」であり、まさに「大きな悪い狼」をモデルとしたデザインであった。
開発中には、登場した時に自分より小さいクリーチャーを食べてしまい(一時的に追放)、死亡すると食べられたクリーチャーが戻ってくる機能を持っていた。これば、グリム童話「赤ずきん」で狼に食べられた赤ずきんとおばあさんを、狩人が狼を殺して腹を裂き助け出した件を再現したものだった。
フレイバーに富んだデザインだったが、緑の色に合わないとして現在の形になるまで調整が施され、実装に至ったのである。
ちなみに、意地悪な狼はカードセット「ジャンプスタート2022」に再録された際に新規に別バージョンのイラストが与えられている。
大きな悪い狼の実装その2:魔女跡追い
エルドレイン次元には魔女跡追い(Witchstalker)という種類の狼が存在している。
最大の特徴は「魔女を狩りの獲物とする」という設定だ。ここが童話の「大きな悪い狼」とは異なるところだが、おそらくエルドレイン風に捻りを加えた「大きな悪い狼」のアレンジ・バージョンなのだろう。
魔女跡追いに関しては別記事としてまとめてあるので、詳しくはそちらを参照のこと。
大きな悪い狼の実装その3:三匹の子豚
グリム童話「三匹の子豚」において、「大きな悪い狼」は子豚たちを脅かす悪者として有名である。
カードセット「エルドレインの王権」では、「三匹の子豚」モチーフのカードとして「大きな悪い狼」が表現されている。
ただ、直接的なクリーチャー・カードとしての「大きな悪い狼」は先述した意地悪な狼(Wicked Wolf)がいるためか、「三匹の子豚」の印象的な要素をソーサリー・カードとして描き出すという手法を取っている。そこに「大きな悪い狼」の諸要素が埋め込まれて実装に至っているというわけだ。
童話「三匹の子豚」モチーフに関しては別記事としてまとめてあるので、詳しくはそちらを参照のこと。
大きな悪い狼の実装その4:魔女アガサの狼騎士
エルドレイン次元に再訪したカードセット「エルドレインの森」では、「大きな悪い狼」は更なるアレンジを効かせたキャラクターとなって登場した。それが「魔女アガサの狼騎士」である。
「エルドレインの森」の赤緑アーキタイプは「赤ずきん」をモチーフにしてデザインされている。当然「赤ずきん」の悪役である「大きな悪い狼」の出番となるのだが、今回は「獣の狼」ではなく、魔女に魔法をかけられた「狼騎士」となって現れたのである。
アガサの勇者
アガサの勇者(Agatha’s Champion)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
これがエルドレインの森版「赤ずきん」における「大きな悪い狼」役を担う「狼騎士」だ。狼に似たデザインの兜を被り、全身を鎧で固めた恐るべき敵である。
狼騎士は魔女アガサの魔法で魅了され、我を失ったまま忠実に仕えている。狼騎士自身が魔女の犠牲者なのだ。
「エルドレインの森」の連載ストーリーでは、エルドレインの森版「赤ずきん」であるルビー(Ruby)の敵となって登場する。その正体は彼女の兄弟であるピーター(Peter)である。
魔女の印
魔女の印(Witch’s Mark)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたソーサリー・カードである。
このカードはアガサが犠牲者に魔法をかけて狼騎士へと変貌させる様を表したものだ。
大きな悪い狼のその他の関連カード
これまでに紹介した他にも「大きな悪い狼」をモチーフにしたカードはまだまだある。
この節では、カードセット「エルドレインの王権」とカードセット「エルドレインの森」の中から、まだ紹介していない残りの「大きな悪い狼」カードを取り上げていく。
また、狼に関わる要素が認められるカード群も同時にまとめて紹介する。
呪われた狩人、ガラク
呪われた狩人、ガラク(Garruk, Cursed Huntsman)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたプレインズウォーカー・カードである。
まだ呪いがかかっていた悪役時代最後のガラクだ。オーコの魔法で支配され「犬」呼ばわりされていた時代でもあった。
おとぎ話の世界エルドレインに来訪したガラクは「大きな悪い狼」の群れを従えている。
ガラクの1番目の忠誠度能力を使うと、色が黒緑で、特殊な能力を持った狼トークン2体を呼び出せるのだ。この狼が死ぬたびに、ガラクの忠誠度カウンターは増加するのが実に悪役らしい。
配下の「大きな悪い狼」以上の悪者、「大きな悪い犬」のガラクであった。
オーコの歓待
“My advisors recommend I let them eat you.”
–Oko
「私の補佐たちが、君を食べさせろと言っているんだ。」
–オーコ
引用:オーコの歓待(Oko’s Hospitality)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
オーコの歓待(Oko’s Hospitality)はカードセット「エルドレインの王権」のプレインズウォーカー・デッキに収録されたインスタント・カードである。
「エルドレインの王権」の事件の黒幕、プレインズウォーカーのオーコ(Oko)に関連したカードである。ストーリーで悪役を務めるオーコには「大きな悪い狼」が似合う。
イラストではオーコの魔法によって、僻境の動物やフェアリーはそびえ立つほどに巨大化すると、剣と盾を構えた戦士を取り囲んで脅しをかけている。
中央に描かれているのが「大きな悪い狼」である。その頭上には、枝に腰かけた主人オーコの姿が確認できる。
虚ろの死体あさり
虚ろの死体あさり(Hollow Scavenger)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。出来事はパン屋への襲撃(Bakery Raid)だ。
「大きな悪い狼」は甘歯村(Sweetteeth Village)をも標的とするようだ。この狼は甘歯村のパン屋を漁って、お菓子モンスターの死骸に食らいついている。
このカードのイラストなどの詳細は甘歯村の該当項目を参照のこと。→リンク
僻境との対峙
僻境との対峙(Brave the Wilds)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたソーサリー・カードである。
「僻境との対峙」と訳されたカード名「Brave the Wilds」は、もう少し噛み砕けば「僻境に勇敢に立ち向かう」ことを意味する。
エルドレインの森版「赤ずきん」であるルビーは「大きな悪い狼」と絡めて描かれやすいキャラクターだ。
このイラストでは、僻境に踏み込んだルビーの背後をよく見ると、茂みの影には大蜘蛛や狼、その他正体不明の危険な獣が潜んでいる。ここでもやはり「狼」である。
野生との遭遇
野生との遭遇(Feral Encounter)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたソーサリー・カードである。
イラストは、「大きな悪い狼」が地面に倒れたルビーに跳び掛かった場面だ。ルビーは石弓で迎撃している。僻境との対峙(Brave the Wilds)の場面からこのカードへと流れが繋がっているようにも思える。
カードの機能と対照させてイラストの状況を見るに、ライブラリーの上5枚を見てクリーチャー・カードを探し出して唱えられるメカニズムは、狼が急に森の影から出現した状況に合致しそうだ。そして、戦闘開始時にパワー分のダメージを敵に与えられる機能は、狼の奇襲が成功してルビーが負傷したことを意味するものだろう。
ジンジャーブルート
Sometimes, “as fast as you can” isn’t quite fast enough.
時に、「全速力」が遅すぎることがある。
引用:ジンジャーブルート(Gingerbrute)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ジンジャーブルート(Gingerbrute)はカードセット「エルドレインの森」に再録されたアーティファクト・クリーチャー・カードである。カードセット「エルドレインの王権」が初出で、エルドレイン次元に連続登場となった。
イラストでは、ジンジャーブルートは狼に追いかけられて「全速力」で逃げている。しかし、フレイバー・テキストによれば、逃げ切るには速さが足りなかったようだ。
さいごに
童話の定番キャラクター「大きな悪い狼(Big Bad Wolf)」をなんとか記事にまとめられた。
この狼は「赤ずきん」や「三匹の子豚」などの悪役として誰でも知っているくらいのキャラクター類型である。MTGでは、これを手を変え品を変えと工夫を凝らしてカードに落とし込んでいた。素直な悪役の狼、魔女を狩る獣、クリーチャー・カードでない実装、狼騎士などなど……。
改めてこうして整理して眺めてみて、1つのテーマをこれほど多彩に表現できるものかとゲームデザインの奥深さを実感することができた。感慨ひとしおだ。
では、今回はここまで。
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