兄弟戦争:停滞の棺

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停滞の棺(The Stasis Coffin)カードセット「兄弟戦争」収録の伝説のアーティファクト・カードである。

このカードは、カードセット「アンティキティー」のTawnos’s Coffinを基にしており、小説The Brothers’ Warの描写に寄せてリデザインしたカードとなっている。

今回は、タウノスが発明した「棺」装置にまつわる諸々を語っていく。

停滞の棺の解説

Tawnos built it to be absolutely impermeable to any force inside. Luckily it worked for any force outside as well.
タウノスは、中に入れたどんな力も絶対に染み出ないようにこの棺を作った。幸いなことに、それは棺の外の力に対しても有効だった。
引用:停滞の棺(The Stasis Coffin)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

停滞の棺(The Stasis Coffin)

停滞の棺(The Stasis Coffin)
データベースGathererより引用

停滞の棺(The Stasis Coffin)タウノス(Tawnos)が発明した機械装置で、小説The Brothers’ Warの終盤で登場した。

この棺に似た装置は、全長は7フィート(約2.1m)、横幅と深さは3フィート(約0.9m)の金属製の箱型で、重い蓋がついている。内部に収納した肉体を停滞状態つまり睡眠中と同等にしたまま、内蔵パワーストーンが切れるか、蓋が開けられるまで維持し続けられる。また、フレイバー・テキストにあるように、内部の変化を停滞させるだけでなく、外部からの干渉をもシャットダウンすることが可能であった。

では、タウノスはどんな目的のためにこの「棺」装置を創ったのだろうか?



停滞の棺の当初目的と実際の利用

謹厳な生存者、タウノス(Tawnos, Solemn Survivor)

謹厳な生存者、タウノス(Tawnos, Solemn Survivor)
データベースGathererより引用

設計者のタウノスは、ウルザが実の弟ミシュラに勝利した後を考えていた。

ウルザはミシュラの命を奪うことも出来ないし、かといって生かしておくのも耐え難いだろう、と予測できた。そこで先回りでこの装置を用意しておいたのだ。ミシュラ専用の特殊牢獄、これが「棺」の正体だ。

しかし、「棺」は当初目的とは違う使われ方をすることになった。

災厄の痕跡(Calamity's Wake)

災厄の痕跡(Calamity’s Wake)
データベースGathererより引用

AR63年大晦日、タウノスはウルザの指示で最も安全な場所に緊急退避することになった。そこで彼は「棺」の中に潜り込んだのである。この判断が功を奏した。タウノスは世界を揺るがした酒杯の爆発から守られ、一命を取りとめることができたのだ。

タウノスは停滞状態のまま5年が経過。AR69年、ウルザはヨーティア南岸で瓦礫と共に漂着した「棺」を発見し、タウノスを解放したのだった。

次の節では、停滞の棺のオリジナル・バージョンを紹介しよう。

Tawnos’s Coffin

Tawnos's Coffin

Tawnos’s Coffin
データベースGathererより引用

Tawnos’s Coffinすなわちタウノスの棺はカードセット「アンティキティー」収録のアーティファクト・カードである。

このカードを基盤として、小説The Brothers’ Warの描写がされ、停滞の棺としてリデザインされた。Tawnos’s Coffinは棺に入れたり出したりと何度も再利用が可能だ(設計通り)。しかし、小説中では酒杯爆発を耐え切った1回限りでお終いなので、停滞の棺は使い捨てなのだろう。

土牢

土牢(Oubliette)

土牢(Oubliette)
データベースGathererより引用

Tawnos’s Coffinに先行して、カードセット「アラビアンナイト」では土牢1(Oubliette)というエンチャント・カードが存在していた。

当初のカード・テキストを比較すると、土牢とTawnos’s Coffinはほとんど同じような処理と挙動をするものであった。Tawnos’s Coffinは土牢の、再利用可能なアーティファクト版といった趣であった。2

このようにゲーム上の観点ではそっくりの2つのカードなのだが、実はストーリー作品上でも関連性を持たされている。

棺と牢

アシュノッドの介入(Ashnod’s Intervention)

アシュノッドの介入(Ashnod’s Intervention)
データベースGathererより引用

小説The Brothers’ Warによると、タウノスが「棺」を思いついたのは「土牢」の中でのことだったというのだ。

AR43年、タウノスはファラジ帝国の捕虜となり首都トマクルで投獄されてしまったことがある。この牢屋は世界から切り離されて忘れ去られてしまったようであった。そんな場所で、タウノスは「棺」の着想を閃いたのである。

言い換えると、殺しも生かしもできない相手なら牢に永遠の封印してしまえばいい、誰からも忘れ去られたら居ないも同じ、そういう連想になろうか……?ちょっとタウノス、怖いよ。

タウノスのことはさておき、ゲーム・メカニズム的な繋がりを、さり気なく小説内に埋め込まれていると読書中にニヤリとしてしまう。作者のジェフ・グラブはこういうのが上手いんだ。

続いて、今度の節ではタウノスの棺にまつわる関連カードをピックアップする。「棺」の開発と後継機という設定面から見た流れで解説しよう。

タウノスの棺の開発と後継機

停滞の棺(The Stasis Coffin)

停滞の棺(The Stasis Coffin)
データベースGathererより引用

タウノスの開発した「棺」装置は、開発の元となったメカニズムであったり、「棺」の原理を応用した後継の機械装置の存在であったりが、ストーリー作品やカードの中で語られている。

この手のディティールまで補っているのは中々ない。情報を拾って紹介していこう。

棺の原理

小説The Brothers’ Warでは「棺」がどんなメカニズムと原理で機能する装置なのかも語られている。

「棺」は、「クルーグの護符」と「アシュノッドのゼゴンの杖」、それぞれに用いられているのと同じメカニズムを組み合わせて機能するのである。

クルーグの護符のメカニズム

クルーグの護符(Amulet of Kroog)

クルーグの護符(Amulet of Kroog)
データベースGathererより引用

まず1つ目。クルーグの護符(Amulet of Kroog)は、AR20年代初め頃のウルザの発明品だ。

治癒効果のある防護フィールドで対象を包む医療装置である。

ゼゴンの杖のメカニズム

Staff of Zegon

Staff of Zegon
データベースGathererより引用

残りのもう1つは、アシュノッドの発明品のゼゴンの杖(Staff of Zegon)である。こちらもクルーグの護符と同じくAR20年代からあるものだ。

この杖は自動機械や生物を弱体化させたり昏倒させる。出力強化すれば人間の生命活動を止めることすら可能な装置だ。

メカニズムの融合

タウノスは以上2つに使われているメカニズムの原理を組み合わせた。

想像するに、アシュノッドの杖の原理で仮死状態に持っていき、ウルザの護符の原理で決して死なないように治癒し続けるのだろう。

平和で豊か時代であったら、永遠の牢獄なんて物騒な代物でなく、手術の時の医療用ポッドみたいな応用がされたのかもしれない。

一方、タウノスの師であるウルザは「棺」の理論を医療とは別の方向へと応用していった。

ウルザの鎧

“Tawnos’s blueprints were critical to the creation of my armor. As he once sealed himself in steel, I sealed myself in a walking crypt.”
–Urza
タウノスの青写真は私の鎧を作り出すのに不可欠なものだった。彼が鋼鉄の中にすっぽり入ってしまったことがあったんで、私も歩く納骨堂の中に入ったよ。
–ウルザ
引用:ウルザの鎧(Urza’s Armor)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

ウルザの鎧(Urza's Armor)

ウルザの鎧(Urza’s Armor)
データベースGathererより引用

ウルザの鎧(Urza’s Armor)はカードセット「ウルザズ・サーガ」収録のアーティファクト・カードである。

このパワード・スーツ的な装置は、AR1800年頃のファイレクシア次元攻撃時にウルザが装着していたものだ。フレイバー・テキストを確認すると、タウノスの「棺」を応用して、この鎧が設計されたのだという。ファイレクシアと生涯戦い続けたウルザが「棺」を武装へと応用したのは自然な流れであった。

さらに2400年経過した。小説InvasionによるとAR4205年のファイレクシア侵略戦争時でも、ウルザはパワード・スーツを装着して戦っていた。ウルザの他にバリンも同様の装備を着用しており、トレイリアのアカデミーにおいて4000年以上前のタウノスの「棺」理論が防具として生き続けていることが分かる。

こういった次第で、ドミナリア次元のパワード・スーツはタウノスの棺の系譜に連なるものと言えるのである。

カードセット「兄弟戦争」の現在時間軸はAR4562年だが、「棺」が再び別の用途へと転用されることになった。「牢獄」でも「鎧」でもなく、今度は「タイムマシン」だ。

時空錨

時空錨(The Temporal Anchor)

時空錨(The Temporal Anchor)
データベースGathererより引用

時空錨(The Temporal Anchor)AR4562年現在の最新のタイムマシンだ。ウルザが1000年以上昔に発明したタイムマシンを下敷きに、サヒーリが大幅な改良を加えて開発した。

カードのイラストを見ると、装置の中心に「棺」が組み込まれているのが確認できる。時間旅行するテフェリーがこの「棺」ユニットに入って、ケイヤの能力で幽体化し、精神だけを過去へと跳ばすのである。

現在時間軸の連載ストーリー第2章では、サヒーリは、テフェリーが冗談交じりに「棺」と呼んだ、と述懐している。ウルザのアカデミーで学んだテフェリーはこの装置のオリジナルが「棺」と呼称されているのはきっと承知していたに違いない。

魂の仕切り(Soul Partition)

棺ユニット内から切り離されたテフェリーの精神
魂の仕切り(Soul Partition)
データベースGathererより引用

現在時間軸の連載ストーリーの最終話第5章3において、時空錨は最後の起動で損壊し、テフェリーの精神はいつどこの場所とも知れぬところに消えて、帰って来なかった。

現在テフェリーの肉体は停滞状態に置かれたまま「棺」内に安置されている。タウノスの発明は4500年未来のテフェリーの命を救うことができるのだろうか?

停滞の棺に関係する公開された情報の紹介はここで完了である。

最後の節では、オリジナルのイラストの謎を最新ストーリー情報から考察する。



Tawnos’s Coffinのイラストの謎

Tawnos's Coffin

Tawnos’s Coffin
データベースGathererより引用

1998年に小説The Brothers’ Warが兄弟戦争の決定版、正史として語られると、ファンの中に1つの疑問が残された。

Tawnos’s Coffinのイラストに描かれているのは誰!?

そもそもの話として。MTG黎明期では、イラストを発注する際に細かい指示を出すことができずイラストレイターの裁量に任されることが多かった、といった旨の当時の制作者の証言がある。だからTawnos’s Coffinの人物も特定のキャラクターを意識したものでは無かったのかもしれない。

だが、納得せずに深読みするファンはどこにでもいるのだ。

アシュノッド説

小説中では、「棺」はタウノス自身が使用した。でも、イラストで棺の中にいるのは赤毛の人物だ。タウノスの特徴とはどこも一致するところはなく、タウノスの可能性はゼロだ。

それじゃあ誰だ!?

肉体装置技師、アシュノッド(Ashnod, Flesh Mechanist)

肉体装置技師、アシュノッド(Ashnod, Flesh Mechanist)
データベースGathererより引用

作中の赤毛の女性といえばアシュノッドになるはず、アルマダ・コミック時点でアシュノッドの外見的特徴はそれで決まっていたし、兄弟戦争のストーリーを見渡して彼女以外には該当する人物はいない。

しかし、作中のアシュノッドというとゴーゴスの酒杯をタウノスに託してギックスと対決し始めた場面で出番が終わり、次にギックスが登場した時の血に塗れた様子から殺害されたと解釈された。そして、その日のうちに酒杯爆発が起こってアルゴス島を吹き飛ばしており、アシュノッドが棺に入るタイミングはない(可能性があったとしても限りなく低い)。

ウェザーライト・サーガ期には一部のヴォーソス界隈では「改訂版(revisionist)」という考え方が流行っていた。つまり、当時のウィザーズ社は既存のストーリーや設定を上書きしている、としばしば非難の意を込めて主張されたものだった。4この棺とアシュノッドも「改訂」されたのだ、との可能性を語る者もいた。

さて、ここまでが昔話だ。

アシュノッド説(2022年)

2022年、カードセット「兄弟戦争」連載ストーリー(過去時間軸)第2回において、アシュノッド生存の可能性が示されたのだ。確定でなく匂わせ程度であるが、もしアシュノッドが生き残れたとしたら、どういうことかと私は再考してみた。

運命的連携(Fateful Handoff)

運命的連携(Fateful Handoff)
データベースGathererより引用

小説The Brothers’ Warを再確認すると、アシュノッドがギックスと対決する場面はあるが、殺される決定的な描写はない。単純に考えて、生きている可能性を否定できない。ギックスがとどめを刺さなかったとか、タウノスを逃がした後にアシュノッドも逃走したとか、言い訳はできる。ギックスが浴びていた人間の血液もアシュノッドのものではないか、少なくとも彼女のだけではなかった、と見做すことも可能ではある。

ではギックスに殺されなかったとして、酒杯爆発からどうやって生き残った?単純に物凄く運が良かったから?それじゃあ、あんまりにもご都合主義じゃないか。

Tawnos's Coffin

Tawnos’s Coffin
データベースGathererより引用

しばらく行き詰っていた時に、Tawnos’s Coffinを思い出した。このイラストの姿を。簡単な事だった「棺」は2つあったんだ。

確かに小説The Brothers’ Warには「棺」は1つしか言及されていない。でも本来の使用目的を考えると、2つあっておかしくない。いや、タウノスなら2つ用意したはずだ。

タウノスは、ウルザのために「ミシュラ用の棺」を用意しておいた。ミシュラを屈服させても殺しも生かしもできないためだ。ならば、アシュノッドはどうなる?タウノスも彼女を処刑できはしまい。「アシュノッド用の棺」も当然必要だったのだ。

この発想に至ったことで、私は長年感じていたタウノスの行動の不自然さに説明ができそうだと気付いた。

小説The Brothers’ Warで、タウノスは酒杯をウルザに渡してアシュノッドの伝言を告げると、ウルザから安全な場所にすぐに退避するように命じられ、1度は固持するも、再び厳命されたため去っていった。そうしてから、ウルザのところに谷底からドラゴン・エンジンと融合したミシュラが這い上がってきたので、ウルザは酒杯を起動するのだ。この時までにタウノスは「棺」に潜り込んでいたから助かった。

ここの件で、タウノスは命じられたまま素直に「棺」に直行したのが、彼らしくないと感じていたのだ。ただならぬ気配をウルザから感じ取っての行動だろうとはいえ、引っ掛かっていた。

タウノスがアシュノッドを確認しなかったのあまりにも不自然じゃないかな?

アシュノッド生存のストーリー

私の考える、アシュノッドが生存するストーリーは次のようなものだ。もちろん公式ではない私個人の想像である。

まずタウノスは「棺」装置を2つ用意していた。ミシュラ用とアシュノッド用の2つだ。

ウルザに酒杯を届けたタウノスは、ウルザの命じに従ってその場を離れたものの、真っ先にアシュノッドを探しに行った。発見した彼女はギックスに重傷を負わされていたため、タウノスは「棺」装置に収容した。この装置なら安静な状態に保って治療することができると考えてのことだ。ここで酒杯が起爆し、タウノスは襲い来る衝撃波を前に慌てて自分も「棺」に飛び込んだ。

5年後、ヨーティアの海岸に漂着したタウノスの棺はウルザによって開かれた。アシュノッドの棺はどこにもなく、タウノスはペンレゴンに向かった。その後は連載ストーリー(過去時間軸)の第1回第2回へと繋がり、タウノスは失踪した。この時にタウノスは、アシュノッドを思い浮かべつつ世界の終末までまだ時間があるはずだと考えていた。アシュノッドの「棺」はまだ無事で探し出せるはずだ、とタウノスが信じられた瞬間であった。

タウノスは自分が漂着したヨーティアの海岸に戻って、アシュノッドの「棺」を捜索した。そして遂に「棺」か、あるいは既に「棺」から解放されたアシュノッドに辿り着けたのだ。想いを同じくする2人は「ノッド」と「ダック」と名前を変えて、第三の道の生存者を協力者として仲間につけるとギックス僧院跡地に魔法学校を開校した。

ノッドとダックの魔法学校。数世紀後にイス卿が創設する魔導士議事会、その前身となる最初の一歩であったろう。

以上、「棺」が2つあり、アシュノッドが生存したという想定の二次創作だ。



さいごに

ということで、タウノスが発明した歴史の長い魔法装置「棺」を取り上げた。取り上げるべき公式情報と、語りたい二次創作とでちょっとごちゃごちゃしてしまったな。

では、今回はここまで。

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  1. 公式訳の「土牢」は「Oubliette」の訳としては不適切(全然違うもの)なのだが、本記事で扱うと無駄にややこしくなるため、涙を呑んでそこは無視する。
  2. 2022年現在ではオラクルの変更により、両者の機能は大幅に異なっている。
  3. 2022年11月20日現時点で未訳
  4. 私の個人的な感触としては、そういう声は大きくはなかったものの確かに存在していて、改訂と言い切って妥当な場合も確かにあったが、ただの言いがかりや思い込みに過ぎない場合もあった。