口止め(Buy Your Silence)はカードセット「ニューカペナの街角」収録のソーサリー・カードである。
今回は、このカードの和訳版フレイバー・テキストの誤訳があまりにもひどかったので取り上げることにした。
口止めの解説
Mikey “the Mouth” kept his nickname after he struck his deal with Gregorio, even though he never spoke another word.
一言しか発していないにもかかわらず、グレゴーリオとの取引成立にこぎつけた後、「口達者」のマイキーの異名をとるようになった。
引用:口止め(Buy Your Silence)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
口止め(Buy Your Silence)はメカニズム的には、土地でないパーマネントを追放して宝物トークンと交換してしまう、ざっくり言うとそんな機能を持っている。
つまり、相手に金を払って何かを止めさせる、そういうイメージで「口止め」を表現したカードなのだ。
英語版カードを見ると、カード名、イラスト、フレイバー・テキスト、メカニズムの全てが上手く組み上がっていて綺麗なデザインだ(カードパワーの低さには目をつむろう)。
「英語版カード」と但し書きしたのには理由がある。和訳版のフレイバー・テキストがとにかく酷い。滅茶苦茶なのだ。
口止めのフレイバー・テキスト
Mikey “the Mouth” kept his nickname after he struck his deal with Gregorio, even though he never spoke another word.
一言しか発していないにもかかわらず、グレゴーリオとの取引成立にこぎつけた後、「口達者」のマイキーの異名をとるようになった。
まず和訳製品版のフレイバー・テキストの文章は完全な誤訳なので頭から消してしまおう。
では、改めてフレイバー・テキストの内容を頭から順番に確かめよう。
初めの「Mikey “the Mouth” kept his nickname」の部分は「マイキーは『口達者』というあだ名をずっと使っている」とこんな意味合い。
続いて、ずっととはいつ以来かという説明が付け足される。「after he struck his deal with Gregorio,」つまり「彼が(マイキー)がグレゴーリオと取引して以来」だ。
さらに説明が付加される。「even though he never spoke another word.」つまり取引した後から今まで「彼は一言も喋ったことが無いにもかかわらず」である。
特に難しい所はない文章だ。ではまとめると。
口止めのフレイバー・テキスト修正版
マイキーはグレゴーリオと取引してからもずっと「口達者」というあだ名を使っているが、あれ以来一言も喋ったことが無いってのにさ。
こんな文章になる。
ここでカード名に目を向ければ、英語は「Buy Your Silence」であり、これは「金を払って相手を黙らせる」という慣用表現だと分かる。
つまり、「口達者」のマイキーはグレゴーリオに買収されて、それ以来ずっと一言も喋ることが出来なくなった(まあ、うるさかったのだろう)。しかし、マイキーは昔からの「口達者」というあだ名だけはそのまま使っていて、現状と真逆でちょっと変だよね。とそんな感じのフレイバー・テキストだったのだ。
口止めのイラスト
今度はカードイラストの方にも注目してほしい。
イラストの男性が「口達者」のマイキーなのだろうか?彼の口元は青白い光で封じられている。この光が「口止め」の魔法に違いない。沈黙を守るというグレゴーリオとの取引は、魔法的な強制力のある契約であったのだ。
また、マイキーは管楽器の類を肩に担いでいる。言葉を封じられたとはいえ、楽器の演奏までは禁じられておらず、今では音楽が彼の声の代わりになっている……そうことなのかもしれないな。
あるいは、彼はマイキーとは別人で、楽器の演奏がうるさくて黙らせられた人物って可能性もあるかもしれない。
色々と想像させられるいいイラストだ。
おまけ:言葉を封じられた過去の類似イラスト
この節で最後だ。
カード名に「Silence」が含まれるカードの中には、口止め(Buy Your Silence)と似たようなイラストが少なくはない。つまり、口を魔法で封じられているイラストだ。
記事のおまけとして、その手の過去カードをいくつかピックアップしよう。
沈黙(Silence)はカードセット「基本セット2010」初出のカードである。
イラストでは、白い光の中に口が隠されてしまっている。
素早い静寂(Swift Silence)はカードセット「ディセンション」収録のカードである。
これはラヴニカ次元のアゾリウス評議会の呪文だ。魔法をかけられて口元が青く輝いている人物は、イゼット団のメンバーのような格好に見える。
耳の痛い静寂(Deafening Silence)はカードセット「エルドレインの王権」収録のカードだ。
こちらはエルドレイン次元の魔法である。絶叫しているような表情の3人だが口腔内から光を発し、その言葉は奪われているようだ。
静寂の呪い(Curse of Silence)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」収録のカードである。
イニストラード次元の呪文だ。肖像画には猿轡をかまされた人物が描かれている。いや、猿轡をかまされて絵の中に閉じ込められた人物か…?
以上で紹介終わりだ。
沈黙魔法の表現として、多くの人が「口を発光させる」という方法を選択している。
MTGのイラストレイターは、むやみやたらと「目玉を発光させる」なんて冗談交じりに言われていたこともあるのだが、どうやら目玉だけでなく、口を発光させるのも大好きなようだな。
さいごに
口止めの四方山話は以上でネタ切れだ。
今回、口止めを取り上げた切っ掛けは、和訳版のフレイバー・テキストを読んで「誤訳」に気付いたからだ。
あまりにもあんまりな「誤訳」をしているので驚いてしまった。「誤訳」という言葉自体が強すぎるので、本サイトでも普段は使用を控えているのだが、このカードはいただけない。カードが表現してる内容が全く意味不明になっている。
このカードの誤訳の場合は、翻訳するための背景や設定の情報がなくて間違ったとか、イラストを確認できなくて仕方なく齟齬が生まれてしまったとか、そういう致し方ない事情を察せられるものではないのだ。普通に英文を訳せば絶対にこうならないのに、ありえない日本語文がでっち上げられている。
これが通って販売にまで至った事実は不可解でならない。無茶苦茶過ぎてしばらく言葉を失った。
では今回はここまで。
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