調和の中心(Concordant Crossroads)はカードセット「レジェンド」初出のエンチャント・カードである。
MTG最初期の古いカードであるがカードセット「ダブルマスターズ2022」で再録となり、イラストが新しくなり、フレイバー・テキストも新たにつけられた。しかも、通常版と特別版の2種類のイラストがあるし、それに応じてフレイバー・テキストも異なる内容となっている。
こんな懐かしいカードが再録されるのはそもそも驚きだ。イラストの刷新も、当時には存在しなかったフレイバー・テキストの追加も嬉しいサプライズであった。だが、またフレイバー・テキストの和訳がよろしくないのだ。今回はその点に注目しつつカードを取り上げよう。
調和の中心の解説
調和の中心(Concordant Crossroads)は、特定の次元を舞台にしないカードセット「レジェンド」で初登場した。レジェンドは多元宇宙の様々な時代、様々な次元が含まれている設定なのだ。
この初出版「調和の中心」はフレイバー・テキストも無いため、ちょっとどこの次元を描いているか判別できないし、特段どこだと設定されていなくても不思議ではない。
ちなみに、カード名の英名は「Concordant Crossroads」だが、それにいくぶん似た地名「コンコード(Concord)」が最初期の小説に登場している。両者の関係性はほぼないだろうけれど、本記事の最後でおまけとして解説をしておこう。→こちらに
ダブルマスターズ2022通常版
The wolf closed in. But then a strange wind whispered through the leaves, and with a burst of speed, the deer surged forward and out of reach.
狼が近づいてきた。しかしその時、奇妙な風が葉の間を囁くと急激に速度を上げ、鹿は前方に飛ばされて範囲から逃れた。
引用:調和の中心(Concordant Crossroads)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
これが、カードセット「ダブルマスターズ2022」に収録される調和の中心(Concordant Crossroads)の通常版イラストだ。このバージョンはどこの次元を想定して描いたものかは分からない。
問題のフレイバー・テキストを見ると、和訳製品版の内容が滅茶苦茶だ。
ダブルマスターズ2022通常版フレイバー・テキスト
The wolf closed in. But then a strange wind whispered through the leaves, and with a burst of speed, the deer surged forward and out of reach.
狼が近づいてきた。しかしその時、奇妙な風が葉の間を囁くと急激に速度を上げ、鹿は前方に飛ばされて範囲から逃れた。
鹿が風に吹き飛ばされたなどと書かれている。どうしてこうなったのか理解しがたい。後半の文章が問題だ。
和訳製品版の翻訳指摘は冗長なので折り畳み表示とした。
では、問題点を踏まえてフレイバー・テキストを訳し直し、このカードを解釈してみよう。
ダブルマスターズ2022通常版の解釈
狼が迫っていた。ところがその時、奇妙な風が木の葉をさざめかせたので、勢い上げて鹿は飛び出し、遥か遠くに逃げていった。
狼の接近に際して、鹿に警告するような風が吹いた。鹿は一気に速度を上げて狼の脅威が及ばぬ遠くまで逃げることができたのだ。
あるいはこの地では、「調和」という名前のごとく動物同士が殺し合い、食い食われることが無いように、不思議な力が働いているのかもしれない。
また、イラストをよく見ると、2頭の鹿が無邪気に飛び跳ねている。
ゲーム的な面から見ると、このカードは全てのクリーチャーに速攻を持たせる機能がある。普通に考えて、カード名「調和の中心」のイメージと、速攻付与には繋がりを見いだせないだろう。
けれど、このダブルマスターズ2022再録版では、フレイバー・テキストで狼に即応する鹿という描写を添えることで、今までちぐはぐだった「調和」と「速攻」の要素が上手く噛み合わさった感が出せている。正直言って、上手い。
ダブルマスターズ2022特別版
“Realms emerge and wither like autumn leaves, but the World Tree endures eternally.”
–Esika, god of the Tree
「次元は秋の葉のように生まれては散る。しかし世界樹は永遠に耐え続けるのである。」
–樹の神、エシカ
引用:調和の中心(Concordant Crossroads)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
こちらは、カードセット「ダブルマスターズ2022」に収録される調和の中心(Concordant Crossroads)の特別版イラストだ。
フレイバー・テキストの発言者が樹の神、エシカ(Esika, God of the Tree)であることから、カルドハイム次元を描いたものと分かる。イラストはカルドハイムの世界樹のイメージだろう。
しかし、このフレイバー・テキストの和訳もひどいものだ。
ダブルマスターズ2022特別版フレイバー・テキスト
“Realms emerge and wither like autumn leaves, but the World Tree endures eternally.”
–Esika, god of the Tree
「次元は秋の葉のように生まれては散る。しかし世界樹は永遠に耐え続けるのである。」
–樹の神、エシカ
「次元」と訳されている「Realms」は、カルドハイム次元では「領界」と訳されるべき用語だ。
次に「autumn leaves」は確かに「秋の葉」で間違いではないが、「emerge and wither」するものとあるので、秋になって色づき散る「紅葉」であることは明らかだ。
最後は、「永遠に耐え続ける」と訳された「endures eternally」だ。「endure」には「耐える・我慢する・辛抱する」という意味はもちろんあるが、これには苦痛や困難が前提にあるという含みが出てしまう。この文章の場合は「持ち堪える・持続する」の方の意味が適している。
以上を踏まえて訳し直し、このカードを解釈してみよう。
ダブルマスターズ2022特別版の解釈
「領界は紅葉のように現れては散るものだが、世界樹は永遠に消えはしないのだ。」
–樹の神、エシカ
カルドハイムという次元は「世界樹」を中心として、「領界」と呼ばれる複数の小次元が集まった世界なのである。
カードセット「カルドハイム」で語られた主要な領界の他にも領界は存在しているし、世界樹より遠くに離れて今では失われた領界もかつては在ったのである。
世界樹は領界同士に枝を伸ばし繋ぎとめるカルドハイムの中心であり、その在り方は次元の調和といえよう。「世界樹=調和の中心」という解釈だ。カードの色が緑なのも「樹」のイメージと合致している。こちらのバージョンも上手い。
コンコード
コンコード(Concord)はドミナリア次元ドメインズ地方の地名だ。
北エローナ大陸の大森林地帯であるささやきの森(Whispering Woods)から西に向かって行きつく海岸地帯。その北に突き出た半島部から南に12リーグと少し南にある港1がコンコードである。上記地図で赤丸で囲ったどこかに存在している。
コンコードは小説Final Sacrificeで一言のみ言及された地名だ。同作中の別のページでは、この西海岸地域について、最大の海港2がカキ湾(Oyster Bay)だとも記されている。こちらも記述は一言のみなので、情報が足りな過ぎて、コンコードとカキ湾の位置関係は全く分からない。あるいは別々の港ではなく、西海岸一帯の名称がカキ湾でそこにある港町がコンコードであるとの解釈であっても、可能性は十分あるだろう。
ちなみに、「concord」とは英語で「調和・一致・協定・協約」といった意味の名詞である。本記事で扱った調和の中心(Concordant Crossroads)の「concordant」とは「調和した・一致した」という意味合いの形容詞だ。
ここで無理矢理ではあるが、「Concordant Crossroads」というカード名を読みかえて「コンコードの分岐点」と解釈することもできそうではないだろうか。小説Final Sacrificeが発行された当時、「Concord」が(一部でも)含まれる名称のカードは調和の中心1種類のみだったので、それに関連して名付けられた可能性は見えやしないだろうか?ほんの少し……幾分かは見込みがあるのでは?いや、やはり強引過ぎるか?
玄武岩のモノリス
玄武岩のモノリス(Basalt Monolith)はカードセット「リミテッドエディション(基本セット第1版)」初出のMTG史上最古のカードの1つである。
この玄武岩のモノリスの1つは、実はかつてコンコードの近くに立っていたのである。上記した地図で西海岸の最北に細長く突き出た半島がある。そこから少し南の海岸部にモノリスがあった。
和訳された最初期の小説ささやきの森を読んだ方なら覚えがあるのではないだろうか?作中終盤で主要登場人物のグリーンスリーヴズ(Greensleaves)が生け贄にされそうになった玄武岩のモノリスの位置がここなのだ。
ちなみに、小説ささやきの森の最後で魔法の津波(Tsunami)に押し流され、ここにあった玄武岩のモノリスは既に失われてしまった。
さいごに
調和の中心に関する四方山話から始まって、初期小説の港コンコードと玄武岩のモノリスまで脱線してしまった。これで思いつくネタは尽きた。
では今回はここまで。
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