ダブルマスターズ:至高の評決

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至高の評決(Supreme Verdict)はカードセット「ラヴニカへの回帰」初出のソーサリー・カードである。

初出から10年後となる2022年7月発売のカードセット「ダブルマスターズ2022」で再録と発表された。イラストとフレイバー・テキストは既存と同じものと、どちらも刷新されたものの、2つのバージョンで収録される。

ダブルマスターズ2022再録にあたって、私はこのカードのフレイバー・テキストを初めてよく読んでみたのだが、和訳文が滅茶苦茶だと分かった。至高の評決は5年前のカードセット「アイコニックマスターズ」でも再録されたというが、その時も誤訳が修正されずにそのまま販売されており、今回2度目となる再録でもスルーされて印刷されることになる。

今回は、至高の評決のストーリーや設定を解説しつつ、フレイバー・テキストの和訳の問題点を修正し本来の内容を確認する。また記事の後ろ半分はおまけであり、フレイバー・テキストに登場するレオノス(Leonos)というキャラクターの解説となっている。

至高の評決の解説

Leonos had no second thoughts about the abolishment edict. He’d left skyrunes warning of the eviction, even though it was cloudy.
レオノスは何のためらいもなく廃絶布告を発した。彼は雲行きが怪しくなるなか、立ち退くよう警告を発しつつスカイルーンを去った。
引用:至高の評決(Supreme Verdict)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

至高の評決(Supreme Verdict)

至高の評決(Supreme Verdict)
公式カードギャラリーより引用

至高の評決(Supreme Verdict)はいわゆる全体除去に分類されるカードだ。

カードセット「ラヴニカへの回帰」初出時のイラストとフレイバー・テキストは、もちろんラヴニカ次元を舞台としたものだ。このカードはラヴニカ次元の10ギルドの1つ、白青を司るアゾリウス評議会に属している。



至高の評決のストーリーと設定

小説Dragon’s Maze: The Secretist, Part Threeによると、ラヴニカ次元の「至高の評決」は古代アゾリウスに由来する、破滅的な正義の裁きを下す強力な呪文である。

極限状態にのみ使用できるもので、この評決は1つの地区全域1を範囲として、全ての罪人を一度に罰せられるように設計されている。地区の全員が有罪と判断されると、破滅の力の波がその地区を根こそぎ破壊してしまうのだ。

参考記事:ラヴニカ次元における「地区(District)」と「管区(Precinct)」についてはこちらの記事を参照のこと。

灯争大戦:戦地昇進
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のインスタント・カード「戦地昇進(Battlefield Promotion)」を紹介。灯争大戦に収録。戦場で功績を上げてボロス軍に入隊したラヴニカ人を描く。
メモ:
ちなみに至高の評決は、カードとしてはブロック最初のカードセット「ラヴニカへの回帰」に収録されているが、ストーリーに登場して話を牽引する役目を果たし始めるのは、ブロックの最後となる3番目のカードセット「ドラゴンの迷路」の時である。

カードとストーリーで出番がずれている。MTGではままあることだ。

アゾールの試練:暗黙の迷路

迷路の終わり(Maze's End)

暗黙の迷路の終着点のカード化
迷路の終わり(Maze’s End)
データベースGathererより引用

ラヴニカへの回帰ブロックのメインストーリーでは、アゾリウス評議会の創設者アゾール(Azor)は「暗黙の迷路(The Implicit Maze)」という試練を現代に遺していた。暗黙の迷路の存在理由は、新たなギルドパクトの締結が可能かどうか、可能ならばどのような形となるか、それを見極めることであった。

全10ギルドが調和を目指して新ギルドパクトを生み出せればよし。だがもし、調和を乱すギルドが存在して試練に失敗した場合には、至高の評決がラヴニカの中心地第10地区、そして全ギルドを滅亡させるのである。ギルド同士の抗争が将来的にラヴニカ次元を滅ぼすというのなら、いっそここで全ギルドを消滅させてしまえ、というのだ。

思考を築く者、ジェイス(Jace, Architect of Thought)

思考を築く者、ジェイス(Jace, Architect of Thought)
データベースGathererより引用

この未曽有の危機に、10のギルドを代表する10人の迷路走者たちが「暗黙の迷路」へと挑む。さらにプレインズウォーカーのジェイス・ベレレン(Jace Beleren)も介入することとなった。果たしてその結末はいかに!?……とこんな筋書きだ。

ストーリー上の「至高の評決」は登場人物たち共通の脅威であり、彼らを行動させるための大きな動機付けとなっていたのである。

至高の評決の製作者は不明

法をもたらす者、アゾール(Azor, the Lawbringer)

法をもたらす者、アゾール(Azor, the Lawbringer)
データベースGathererより引用

小説Dragon’s Maze: The Secretist, Part Threeの作中では、「至高の評決」は「アゾールの評決(Azor’s verdict)」とも呼ばれていたが、これは必ずしも呪文の制作者がアゾールということを意味していない。あくまで「アゾールの試練」の後に待ち受ける危機として、「アゾールの評決」という言い方がされているだけなのだ。

およそ10000年前、当時のアゾールは強力なプレインズウォーカーであった。だからまあ、実は彼が制作者でも何ら不思議ではないのだが……。

至高の「評決」というカード名

さて、ストーリーと設定を知ったところで、カード名に違和感を覚えやしないだろうか?

違和感のポイントは「至高の評決」の「評決」の部分だ。

メモ:英単語「Verdict」の意味
日本語の「評決」には、広い意味で「評議して決めること」という含みがある。

だが、「verdict」の訳語としての「評決」はもっと限定された意味合いである。この場合の「評決」とは、陪審員裁判において陪審員団が全員一致で下した判断のことで、これに基づいて判決が下されることになるものだ。

また「verdict」は「評決」の他に、「判断・意見・裁断・審判」といった意味合いでも用いられる。この場合は陪審員裁判や評議といった含みは特にない。

「評決」とは「陪審員団による評決」あるいは「何らかの集団による評議の末の決定」である。この呪文の発動にはどちらも行われている気配が無いのだ。

「評決」解釈が正しい可能性もなくはないかも?(折り畳み表示)
だがややこしいことに、小説Dragon’s Maze: The Secretist, Part Threeの終盤を読むと、「陪審員団による評決」と解釈することもあながち間違ってないような微妙な気持ちにもなってくる。

作中終盤をかなりざっくりと要約する。暗黙の迷路の終着点でもなお迷路走者たちは争いを続けており、この状況に至って、走者10人それぞれに「至高の評決」を起動する権限が譲渡された。これで誰でも破滅の引き金を引けてしまうことになった。ジェイス・ベレレンは「至高の評決」の発動を阻止しようと試み、10人の精神を繋げ、お互いの思考を直接読み取れるようにする。このとき10人の中にジェイス自身の心も入り混じったことで、彼は10のギルドを外から理解できる調停者と見做された。こうしてジェイスは「生きたギルドパクト」に任命されるのであった。これにて一件落着。

以上のような経緯の中で、走者10人の精神が繋がった状態は「陪審員団による評議」と同等と考えることが可能ではないだろうか。「至高の評決」の発動には10人の評議の上で判断を下す必要がある、という見方だ。そもそも作中では初めから「Supreme Verdict」と呼ばれているので、このイレギュラー状態を以て「評決」解釈が成り立つと判断するのは、こじつけが過ぎる。だが、小説制作前のプロット段階では最終展開も含めての「Supreme Verdict」という命名じゃなかったのかとも思えるのだ(これも考え過ぎか)。

話がごちゃごちゃしてしまった。

私の個人的な結論。総合的に見て、このカードは評決ではなく「至高の審判」くらいのニュアンスで受け取るのが妥当であろう。

※ 本記事では話が無駄にややこしくなるため、公式和訳の「至高の評決」表記で通している。

さて、次の節ではカードのイラストに注目しよう。

至高の評決のイラスト

至高の評決(Supreme Verdict)一部拡大図

イラストを見ると、アゾリウス評議会の本拠地、新プラーフと思われる高層建築を中心として発光現象が発生し、上空に破壊的な大竜巻が渦巻いている。周辺では兵士が騎乗したロック鳥や建物の一部が粉々に崩壊している様子も確認できる。

ラヴニカへの回帰ブロックのメインストーリーでは至高の評決の発動は阻止されている。第10地区が吹き飛ぶことはなかった。したがって、このイラストは、もしも発動したら?というイメージと考えるのが妥当であろうか。

いやさもなくば、最初のラヴニカ・ブロック終了後からラヴニカへの回帰ブロックの開始までの、およそ60年間のどこかで発生した出来事なのかもしれない。

至高の評決のプロモカード版イラスト

至高の評決(Supreme Verdict)

プロモカード版の至高の評決(Supreme Verdict)
公式記事Promo Cardsより引用

2012年にはカードセット「ラヴニカへの回帰」のBOX予約購入特典のプロモカードとして、イラスト違いの特別バージョンの至高の評決(Supreme Verdict)が配布された(フレイバー・テキストは通常版と同じ)。

このプロモカードのイラストにも、通常版と同じ新プラーフと見られる建物が描かれている。そして、そこを中心とした破壊の波が周囲の建造物をなぎ倒している。これもおそらく「もしも?」のイメージ図であろう。

これにて至高の評決のストーリー、設定、イラストを確認し終えた。

では、次の節ではフレイバー・テキストの和訳の間違いを指摘しよう。本当のフレイバー・テキストはどんな内容なのだろうか?

至高の評決のフレイバー・テキスト

Leonos had no second thoughts about the abolishment edict. He’d left skyrunes warning of the eviction, even though it was cloudy.
レオノスは何のためらいもなく廃絶布告を発した。彼は雲行きが怪しくなるなか、立ち退くよう警告を発しつつスカイルーンを去った。

フレイバー・テキストの和訳が滅茶苦茶だ。

レオノスが布告を発したのち、警告を発しつつ去った、などと書いてある。雲行きが怪しく変わっていく原因は布告のように思わせているし、スカイルーンなんてどこかの場所のような書きっぷりだ。

一切デタラメである。どうしてこうなった?

和訳製品版の翻訳指摘は冗長なので折り畳み表示とした。

翻訳の指摘(折り畳み表示)
まず最初の文について。

「have second thoughts」で「再考する」「考え直す」「二の足を踏む」といった意味合いとなる。そして「廃絶布告」と訳された「the abolishment edict」は「至高の評決」を指すとみて間違いない(「abolishment」は「廃止・廃棄・撤廃」の意)。

したがって、「Leonos had no second thoughts about the abolishment edict.」は素直に読めば「レオノスは廃絶布告について迷いはなかった。」くらいとなる。

和訳製品版はこの文章を「レオノスは廃絶布告(の実行)について迷いはなかった。」つまり「レオノス本人が廃絶布告を発した」と解釈している(中国語版も同じ解釈)。だが、フレイバー・テキスト全体の文脈を考慮すると、この解釈はやり過ぎである。

続いて後の文について。

和訳製品版では「(彼は)立ち退くよう警告を発しつつスカイルーンを去った」とある。「skyrunes」を場所と解釈して「He’d left」を去ったと訳しているのだが、これが明らかに大間違いだ。

「skyrunes」は「空に記したルーン文字」であろうから、「He’d left skyrunes warning of the eviction」は「彼は退去を警告する空のルーン文字を残した」くらいとなる。つまり、この文章の「left」は「(場所を)去る」の方ではなく、「(人やものを)置いていく・残す」の方の意味の「leave」なのだ。

その上、和訳製品版は「彼は雲行きが怪しくなるなか、(中略)去った。」との形なのだが、原文と時制が一致していない。原文を簡略化すれば「He’d left skyrunes, even though it was cloudy.」となる。前の半分はより昔で、後ろ半分はそれより近い過去。つまり「彼は空にルーンを(すでに)残していった、(その後の)空は曇っていたけど。」と、こんな感じ。「雲行きが怪しくなるなか」といった風な、変化しつつある空模様なんて含みは原文にはないのだ。

では、問題点を踏まえてフレイバー・テキストを訳し直し、このカードを解釈してみよう。

至高の評決のフレイバー・テキストの解釈

レオノスは廃絶布告に際して迷いはなかった。彼は退去を警告するルーン文字を空に記したが、あいにくの曇天であった。

アゾリウスの判事レオノス2世(Leonos II, Azorius arbiter)は「廃絶布告」こと「至高の評決」の危機に直面した。古代アゾリウスの「至高の評決」がまかり間違って発動してしまえば、その地区全てが滅んでしまう。

彼は何ら迷うことなく魔法で空にルーン文字を記し、人々に退去するように警告を発したのだ。発動するか否か、どちらにしてもレオノスは地区の人命を可能な限り救おうと即座に行動したのである。

しかし、この日はあいにくの曇り空であった。彼のルーンは、いかほどの効果を上げたのであろうか?

メモ:
フレイバー・テキストに出てきたアゾリウスの判事レオノス2世(Leonos II, Azorius arbiter)にはそれなりにまとまった設定が存在している。本記事の趣旨とは外れるので、記事の一番最後におまけとして紹介する。→こちら

このフレイバー・テキストが語る危機的状況は、ラヴニカへの回帰ブロックのストーリー終盤のタイミングだった、との解釈が十分可能だ。もしそうだとすると、発動の危機は回避されたため、幸いにもレオノスの警告は杞憂で終わったことになる。

至高の評決(Supreme Verdict)一部拡大図

しかし、もしそのタイミングではなく、イラストに描かれているように実際に発動してしまっていたとしたら、どうなっただろう?しかも、レオノスのルーンは曇天に隠されて気付かれなかったとしたら?イラストのロック鳥とその騎手だけでなく、住人達にもおびただしい犠牲者が出たに違いない。

至高の評決のフレイバー・テキストは、本来はこういった一切合切まで内包した文章なのだ。お分かりいただけただろうか?

ということで、ラヴニカ次元における古代アゾリウスの「至高の評決」についての解説が完了した。

ダブルマスターズ2022には、新イラスト&新フレイバー・テキストの「至高の評決」が収録されている。次の節ではそちらを取り上げよう。

ダブルマスターズ2022特別版

“I’ll grant that the siege engines are gone, but do you think that might have been a bit of overkill?”
–Sergeant Malsworth
「確かに攻城兵器はなくなったが、少しやり過ぎだとは思わないか?」
–軍曹マルスウォート
引用:至高の評決(Supreme Verdict)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

至高の評決(Supreme Verdict)

至高の評決(Supreme Verdict)
特別版公式カードギャラリーより引用

至高の評決(Supreme Verdict)のカードセット「ダブルマスターズ2022」の特別イラスト版がこれだ。

フレイバー・テキストは、軍曹マルスウォート(Sergeant Malsworth)という新キャラクターだ。攻城兵器はなくなったが、やり過ぎじゃないかと問うている。

イラストには防具をつけたサイや、粉々に砕け散るゾウが描かれている。これらが攻城戦を仕掛けている側であり、それが至高の評決の効果で壊滅していく姿だと考えられる。

イラストやフレイバー・テキストを見ても、このバージョンのカードがどこの次元を舞台に想定しているかは読み取れなかった。ラヴニカ次元でなければ、このカードが表わす破壊の力は、古代アゾリウス魔法とは完全に別のものとなるだろう。いやあるいは、プレインズウォーカーのアゾールがラヴニカから別次元へともたらした同じ魔法って可能性も無くはないか……?

余談。フレイバー・テキストの発言者は「マルスウォート」と訳されているけれど、私には「Malsworth」という綴りだと「マルスワース」に近い感じに聞こえるのじゃないか、と思えてならない。

以上で至高の評決の解説はお終いとなる。

最後の節はおまけだ。至高の評決のフレイバー・テキストに出てきた「レオノス(Leonos)」とはどんな人物なのだろうか?解説しよう。



おまけ:アゾリウスの判事レオノス2世

アゾリウスの判事レオノス2世(Leonos II, Azorius arbiter)はラヴニカ次元の人間男性だ。

賢くて親切な裁判官であり法魔道士で、判決を下す前にはあらゆる角度から検討するよう腐心する。たとえ死者の霊でも対話可能ならばその意見を考慮に入れるほどだ。忍耐強く、アゾリウス評議会に忠実である。

レオノスは最初のラヴニカ・ブロックの小説Dissensionで初登場したキャラクターだ。連載短編The Shadows of Prahvで再登場。カードの方では、カードセット「ラヴニカへの回帰」の2種類のフレイバー・テキストで言及されている。そして、Guildmasters’ Guide to Ravnicaで更なる設定が公開された。

では時系列順に整理して解説する。

アゾリウス評議会の新ギルドマスター

小説Dissensionでは、物語のエピローグで「レオノス2世(Leonos II)」と名乗る男性のアゾリウスの新ギルドマスターが(名前だけ)登場している。一言のみだがこれが初登場だ。

アウグスティン四世大判事(Grand Arbiter Augustin IV)

アウグスティン四世大判事(Grand Arbiter Augustin IV)
データベースGathererより引用

最初のラヴニカ・ブロックのストーリーでは、ZC10012年にアゾリウス評議会のギルドマスターであったアウグスティン4世大判事(Grand Arbiter Augustin IV)が死亡したため、その後任となったのがレオノス2世なのである。

法魔道士オベズ・ムルゼッディ

小説Dissensionには準主役級キャラクターとして、アゾリウスの法魔道士オベズ・ムルゼッディ(Obez Murzeddi)が登場している。実はレオノス2世はこのオベズ・ムルゼッディと同一人物なのだ。

小説作中では、レオノス=オベズの関係はそれとなく匂わせる程度で明言まではされなかったのだが、後に公式サイトのミニコラムCard of the Day(2013年8月15日更新分)において、はっきり同一人物だと宣言されたのである。

では、オベズ・ムルゼッディとはいかなる人物なのか?

小説Dissensionによると、アゾリウスの法魔道士オベズ・ムルゼッディ(Obez Murzeddi)は人間男性で、太っていて日に焼けていないピンクの肌をしている。優秀なエクトマンサー(Ectomancer)2でもあり、霊魂を肉体に憑依させることができる。

ウォジェクの古参兵、アグルス・コス(Agrus Kos, Wojek Veteran)

ウォジェクの古参兵、アグルス・コス(Agrus Kos, Wojek Veteran)
データベースGathererより引用

最初のラヴニカ・ブロック小説三部作の主人公はアグルス・コス(Agrus Kos)であるが、最終巻の小説Dissension時点で、コスは死亡して幽霊となってしまった。そこでコスの霊魂はアゾリウスの魔法で呼び戻され、オベズ・ムルゼッディの肉体に憑依させることで復活したのだ。

こうして、コスに肉体を共有させた状態のオベズは心の声として彼と会話することで、主役の相棒役となってメインストーリーに関与するのである。憑依期間はZC10012年のシザルム31日からテヴネンバー1日までのたった2日間ではあるが、この短期間のうちにオベズはコスとの連携で予想以上の経験を積むことになり、後の新生ラヴニカの誕生に多大な貢献をするのである。

大判事レオノス2世

カードセット「ラヴニカへの回帰」発売直前のカードプレビュー期、レオノス2世の在任期の短編連載ストーリーが公開された。The Shadows of PrahvPart 1Part 2)である。3

この作中では大判事レオノス(Grand Arbiter Leonos)と記されており、明らかにこの称号はアゾリウス評議会のギルドマスター時代のものだ。

ただ、短編中にレオノス本人は登場せず言及も多くはない。具体的に言うと次のようなものだ。1年前にレオノスは死刑執行にもっと制約を課すべきという提案を却下していたこと。新プラーフの正門近くにレオノスの彫像が設置されると決定したこと。レオノスの頭髪はどうやらそれほど豊かではないこと。これくらいしか情報はないのだ。

見えざる者、ヴラスカ(Vraska the Unseen)

見えざる者、ヴラスカ(Vraska the Unseen)
データベースGathererより引用

作中の時代設定だが、プレインズウォーカーのヴラスカ(Vraska)がゴルガリの暗殺者として復讐を行っていた頃の出来事である。したがって、カードセット「ラヴニカへの回帰」に極めて近い過去だと推定できる。

イスペリア統治期

至高の審判者、イスペリア(Isperia, Supreme Judge)

至高の審判者、イスペリア(Isperia, Supreme Judge)
データベースGathererより引用

ラヴニカへの回帰ブロックでは、アゾリウス評議会のギルドマスターは至高の審判者、イスペリア(Isperia, Supreme Judge)が務めている。このブロックはZC10075年設定である。

したがって、レオノス2世はZC10012年にギルドマスターに就任してから、ZC10075年になるまでにその地位をイスペリアに譲って代替わりしたことになる。

レオノス2世の任期がどの程度の期間であったかは明確にされてはいないものの、上述した短編の描写を鑑みれば、ギルドマスターの交代はごく最近に起こった出来事で間違いない。

また、公式記事Planeswalker’s Guide to : Part 3によれば、ギルドを率いるようイスペリアを説得するのに何年もかかったという。ギルドパクトの不在によってラヴニカの犯罪と混乱が拡大し、住人が法の執行を強く求めるようになったことから、イスペリアは心を決めたとされている。

そしてその翌年のミニコラムCard of the Day(2013年8月15日更新分)によると、レオノス2世は、先代のアウグスティン4世大判事が犯した犯罪につながる様な権力の腐敗を恐れていたため、次のギルドマスターには長命な存在を推すことにした。彼の働きかけが実って、スフィンクスのイスペリアは新たなギルドマスターに就任することを承諾したのだ、とのことだ。

したがって、ギルドマスター交代劇は時代の要求に従った結果でもあるが、レオノス2世たっての希望でもあったのだ。イスペリアを何年にもわたって説得した者の中には、もちろんレオノス2世本人も含まれているはずだ。

余談。更に後年のThe Art of Magic: The Gathering – Ravnicaでは、イスペリアは先代ギルドマスターの死後に何年も説得を受けてからギルドマスターに就いた、といった旨の解説がされている。これではそれ以外の全ての公式ソースと食い違ってしまうため、ここの「先代」とはレオノス2世でなくアウグスティン4世を指したものだと思われる。おそらく執筆者はマイナーキャラであるレオノス2世の存在を敢えて無視したか、そもそも既存設定を認識していなかったのだ。

アゾリウスの判事

カードセット「ラヴニカへの回帰」には2種類のカードでレオノスが登場した。

至高の評決(Supreme Verdict)

至高の評決(Supreme Verdict)
公式カードギャラリーより引用

1つはもちろん至高の評決(Supreme Verdict)であり、残りのもう1つが火炎収斂(Pyroconvergence)だ。

“The Izzet are an equation that turns lunacy into explosions.”
–Leonos, Azorius arbiter
「イゼットとは狂気を爆発に変える方程式のことだ。」
–アゾリウスの調停者、レオノス
引用:火炎収斂(Pyroconvergence)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

火炎収斂(Pyroconvergence)

火炎収斂(Pyroconvergence)
データベースGathererより引用

火炎収斂(Pyroconvergence)のフレイバー・テキストは、レオノスによるイゼット団の評価コメントとなっている。

ここでのレオノスの肩書きは「アゾリウスの調停者」と和訳されているが、アゾリウスの役職の「arbiter」はストーリー用語として「判事」が定訳4である。つまり、「アゾリウスの判事、レオノス」が本来の正しい呼称なのである。

このフレイバー・テキストによって、レオノス2世はギルドマスターの地位を降りたあとも、アゾリウス評議会の役職についていることが判明した。

初登場したZC10012年からZC10075年現在までには63年も経過しており、レオノスはもうかなりの高齢となる。しかし、実はラヴニカ次元の人間の寿命は現実世界よりもかなり長いと設定されている。そのため、アゾリウスの判事としてまだまだ現役バリバリで働いているはずだ。

ちなみに、ミニコラムCard of the Day(2013年8月15日更新分)では、レオノス2世の年齢はおよそ70歳となっていたが、これでは63年前で7歳くらいとなるので幼過ぎてしまう。ラヴニカの回帰ブロックがZC10075年と設定されたのはずっと後のことなので、現在では70歳設定では辻褄が合わなくなっているのだ。

ソーヴァ隊の長

その後、レオノスはカードやストーリーには登場していないが、Guildmasters’ Guide to Ravnicaでより詳細な設定が公開された。この記述によって、小説のレオノス2世とフレイバー・テキストの判事レオノスが同一人物であることも完全に確定した。

ZC10076年時点で、レオノス2世はアゾリウス評議会の司法部ソーヴァ隊(Sova Column)の長である「The Arbiter」の地位に就いている。

先述した通り、カードセット「ラヴニカへの回帰」時点でレオノスの肩書きは「アゾリウスの判事(Azorius arbiter)」であったが、設定解説が追加されたことで、この肩書きはただの判事ではなく、ソーヴァ隊の長を意味するものだと分かった。

したがって、レオノス2世はギルドマスターを辞した後、それに次ぐソーヴァ隊の指導者の地位に収まっていたことになる。

メモ:アゾリウス評議会の三柱

アゾリウスの導き石(Azorius Cluestone)

アゾリウスの導き石(Azorius Cluestone)
データベースGathererより引用

アゾリウス評議会は「三柱(The Three Columns)」と呼ばれる三権分立構造の組織である。司法部の「ソーヴァ隊(Sova Column)」、立法部の「ジェーレン隊(Jelenn Column)」、そして法を執行する「リーヴ隊(Lyev Column)」の3つの柱5である。

それぞれの三柱の長の地位は「The Arbiter」あるいは「The Capital」と呼ばれている。

その後のアゾリウス評議会

Guildmasters’ Guide to Ravnicaよりも後には、ラヴニカ次元はカードセット「ラヴニカのギルド」「ラヴニカの献身」「灯争大戦」の舞台となった。

大判事、ドビン(Dovin, Grand Arbiter)

大判事、ドビン(Dovin, Grand Arbiter)
データベースGathererより引用

イスペリアが殺害されたため、プレインズウォーカーのドビン・バーン(Dovin Baan)が新たなギルドマスターとなった。

そして、灯争大戦が勃発。ドビンは戦争犯罪人としてアゾリウスを追われた。

第10管区のラヴィニア(Lavinia of the Tenth)

第10管区のラヴィニア(Lavinia of the Tenth)
データベースGathererより引用

灯争大戦後は、ラヴィニア(Lavinia)が実質上ギルドマスターの職務を遂行している。

カードセット「ニューカペナの街角」現在は、灯争大戦の翌年であると考えられるが、現時点でのアゾリウス評議会の詳細はいまだ不明である。

現時点までレオノス2世の続報はない。ドビン統治時代の状況はどうだったのか、戦争を無事生存できたのか、存命ならラヴィニアに代わって再びギルドマスターに返り咲く可能性はないのか、疑問が募るばかりである。

もし再登場したら、カード化されないものかな?



さいごに

さて、「至高の評決」と「レオノス2世」の2本柱で取り上げてきた本記事はこれでようやくお終いとなる。

ここまで長く冗長な内容につき合ってくださった読者の皆様には、感謝の念を禁じ得ない。

では今回はここまで。

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ダブルマスターズ:調和の中心
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のエンチャント「調和の中心(Concordant Crossroads)」を紹介。レジェンドに初収録で、ダブルマスターズ2022で新規イラストとフレイバー・テキストで再録。このカードの背景を探ってみた。
  1. 原文「an entire district」
  2. 「ecto-」は「幽霊に関する」という意味の接頭辞で、「-mancer」は「魔術師」という意味の接尾辞。
  3. 公式和訳版がプラーフの影その1その2)なのだが、今回よく読んでみたところ、信じられないほど誤訳や意味不明な表現が多かった。
  4. ただし、英単語「arbiter」の意味としては「調停者」がより正しい
  5. 御覧のように「Column」の公式訳は不揃いだ。全体は「三柱」と訳しつつも、それを構成する個々は「隊」となっている。全部「柱」に統一して欲しかった。