モダンホライズン2:戦慄の朗詠者、トーラック

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トーラック(Tourach)は1994年のカードセット「フォールン・エンパイア」が初出のドミナリア伝説時代のキャラクターである。有名な手札破壊カード「トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)」で知られている。

この歴史あるキャラクターが戦慄の朗詠者、トーラック(Tourach, Dread Cantor)としてカードセット「モダンホライゾン2」に収録されることになった。

今回は、トーラックに関するストーリーや設定情報を解説すると共に、これまでトーラックはどういう扱いのキャラクターであったのかなどをまとめた。(あらかじめお断りしておくが、本記事はおそらく無駄に長く冗長な内容になっている。)

追記(2023年7月6日):オームズ=バイ=ゴアの邪眼(Evil Eye of Orms-By-Gore)の記事へのリンク追加など微修正をした。

戦慄の朗詠者、トーラックの解説

戦慄の朗詠者、トーラック(Tourach, Dread Cantor)

データベースGathererより引用

戦慄の朗詠者、トーラック(Tourach, Dread Cantor)はドミナリア次元サーペイディア大陸発祥の宗教「漆黒の手教団」の創設者にして、教団の信奉する暗黒神である(人間男性だが死後に神として祭り上げられた)。

トーラックは、MTG史上有数の強力な手札破壊呪文「トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)」で知られるキャラクターである。トーラックと関連カードの初出はカードセット「フォールン・エンパイア」であるが、トーラック本人の姿が描かれたのは今回のカードセット「モダンホライゾン2」でのカード化が初めてだ。

カードとなったトーラックには彼にまつわるカードの要素がしっかりと込められている(後述)。

発音メモ:トーラック?トゥーラク?
「Tourach」は日本の公式訳が「トーラック」とされている。ところが、コミック版フォールン・エンパイアvol.2巻末の発音ガイドによれば、「Too-ROK」となっていて、「トゥーラク」や「トゥーロク」くらいの発音がより正しい。モダンホライゾン2でのウィザーズ社の動画でもダッコンは「トーラック」より「トゥーロク」に近い発音をしているのが確認できる。



戦慄の朗詠者、トーラックのストーリー

トーラックはドミナリア次元の伝説時代(おそらく最後の数世紀内)の人物で、アイケイシア帝国のライトバー教団から分離した宗教「漆黒の手教団」を創設した。

トーラックは屍術師であり、生け贄を捧げて魔法を行使できた。しかし、トーラック最大の力はその詠唱賛歌にこそ込められており、トーラックは漆黒の法務官と呼ばれる超常的存在を讃えて歌い上げた。彼の歌は聞く者全ての正気を失わせうるほどの力があった。

トーラックは権勢を誇ったまま亡くなったが、信奉者によって死後に神格化され、暗黒神として崇拝されるようになった。トーラックが漆黒の法務官捧げた歌は、トーラック自身を讃えるものへと改作された。

トーラックは死後数世紀の間、何人かの転生者として復活したとも語られている。転生者とみなされた者には、ティモリン・ローングレイド新漆黒の僧侶王ヴェトロなどがいる。漆黒の手教団と対立するライトバー教団はトーラックの再来を大いに恐れていた。

暗黒時代AR170年頃)に漆黒の手教団やアイケイシアなどサーペイディア大陸の諸帝国は滅んでしまったが、トーラックの代名詞である賛歌は後世にも脈々と伝えられている。

トーラックというキャラクターの経緯

ここではトーラックと言うキャラクターがMTG史においてどういった扱いであったかを確認したい。

※ この節ではトーラックの設定やストーリーにはそれほど言及していない。設定やストーリーを望むなら、この節は読み飛ばして次の節に進んでも構わない。

トーラックは1994年11月のカードセット「フォールン・エンパイア」で初登場した。暗黒時代、サーペイディア大陸の滅びゆく5つの帝国を題材にしており、その中の黒の帝国がトーラックを信奉する漆黒の手教団であった。カードセット内では、トーラックは男性で、死後に漆黒の手教団によって神に祭り上げられたと語られていた。

フォールン・エンパイア発売前後のトーラックに言及する記事やコミック、小説を列挙すると以下の通りだ。

1994年秋発行の公式雑誌Duelist3号はフォールン・エンパイア発売を目前に控え、掌編A History of the Fallen Empiresが掲載された。

1995年9月から10月にはコミック版フォールン・エンパイア全2冊が展開し、ティモリン・ローングレイドトーラックの転生者と認定されて殺害された。

1996年1月発行の短編集Distant Planesには関連する2作品が収録されている。短編Festival of Sorrowでは近代ドミナリアにトーラックの賛歌が伝わっている事実が描かれ、短編Foulmereでは氷河期前の時代にトーラックの転生を自称した新漆黒の僧侶王ヴェトロが存在したと語られている。

1996年7月発行の小説And Peace Shall Sleepはフォールン・エンパイアを題材にした小説であった。

1996年末頃に発売されたPCゲームBattlemageでは、コロンドールに遺された書物という設定の掌編The Fall of Sarpadiaが出て来るが、直接トーラックの名は記載されずに、漆黒の手の悪魔(デーモン)とぼかした表現になっていた。およそ4000年後の歴史書なのでこういった表現がされていても不自然さはない。

以上がトーラックに言及のある当時の記事とストーリー作品である。特に注記していない記事・作品では、「トーラックは漆黒の手教団に信奉されている」という基本情報くらいの内容でほとんど終わりであった。トーラック本人がストーリーに登場することは1度もなかった。

一方、巷のゲームプレイや競技シーンではトーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)は登場以来長きにわたって強力カードとして持て囃された。そのおかげで、一般ユーザーにもトーラックの名は認知されることになった(トーラックが誰なのか知ることはなくとも名前だけは)。

これ以降は、カードセット「時のらせん」でトーラックへの賛歌のオマージュである消えない賛歌(Haunting Hymn)が作られたり、トーラックへの賛歌の新イラスト版が製品化されたりした。しかし、トーラック自身の掘り下げはついぞされることはなかったのである。

2021年にカードセット「モダンホライゾン2」において、トーラック本人がカード化されることになった。漆黒の手の暗黒神としてではなく、人間の教祖としてのカード化であった。有名カードにまつわる昔のキャラクターのカード化は何かと注目を集めるものだが、トーラックの場合は少し様子が違いそうだ。

トーラックのイラストはカード化に際して初めて描かれたのだが、半裸で短パン、覆面とマントのみという強烈な個性の方に話題が集まっているように感じる。キッカー能力でトーラックへの賛歌の効果が追加されるので、自分のテーマ曲を歌いながら登場する覆面レスラーなどとも言われていたりもする。

トーラックのような大物が、こんな変わり種キャラで飛び出してくるとは、私には読めなかった(なぜこんな格好してるんだ…!?)。取りあえず、愛されるネタキャラという立ち位置を確保できそうではある。

戦慄の朗詠者、トーラックのカードデザイン

戦慄の朗詠者、トーラック(Tourach, Dread Cantor)

特別版イラストの戦慄の朗詠者、トーラック(Tourach, Dread Cantor)
データベースGathererより引用

戦慄の朗詠者、トーラック(Tourach, Dread Cantor)のカードとしてのデザインに注目してみたい。

※ カードデザインやメカニズムは本サイトの趣旨とややずれる内容であり、そちらに文章を割いてしまうのは本末転倒になるので折り畳み表示とした。

その1:基本スペック

その1:基本スペック

まず第1に、トーラックは黒のカードで、マナ・コストは2マナ、プロテクション(白)を持ち、パワー/タフネスは2/1で、クリーチャー・タイプはクレリックである。これらのスペックは、トーラックの信奉者である「漆黒の手教団」こと「Order of the Ebon Hand」と同じものだ。

Order of the Ebon Hand

Ron Spencerイラスト版のOrder of the Ebon Hand
データベースGathererより引用

ご覧の通り、Order of the Ebon Handも黒のカードで、マナ・コストは2マナ、プロテクション(白)を持ち、パワー/タフネスは2/1でクレリックだ(マナ・コストは黒2マナが必要なので若干こちらの方が重い)。

その2:手札破壊

その2:手札破壊

そして第2にキッカー能力として手札破壊ができる。唱える際に黒2マナを追加で払うと、相手の手札のカード2枚を無作為に選んで捨てさせることが可能だ。

トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)

エターナル・マスターズ再録版
トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)
データベースGathererより引用

このキッカー能力はトーラックを象徴する有名カード「トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)」に他ならない。

さらにトーラックには対戦相手が手札を1枚捨てるたびに自身の上に+1/+1カウンターを載せる強化能力も持たせられている。トーラックへの賛歌に代表される手札破壊との組み合わせと相性がいいデザインとなっている。

ちなみに、元ネタのカード名が「トーラックへの賛歌」のため、キッカー能力を使ったトーラックは自分を讃えるテーマ曲を歌いながら登場する…などと冗談交じりに話されているのを見かける。あるいはトーラックの半裸マントのイラストも踏まえて、テーマ曲と共に入場するプロレスラーなどとも…。実はこの件について設定上は説明付けがされている。元々はトーラックではなく漆黒の法務官讃える歌であった、とのことだ。

戦慄の朗詠者、トーラックのイラスト

戦慄の朗詠者、トーラックのイラストは通常版と特別版の2種類がある。さらにトーラックの賛美歌(Tourach’s Canticle)にもトーラックは描かれており、現状で3種類のイラストが存在していることになる。

私の知る限り、モダンホライゾン2以前にトーラックの外見に言及するカードや記事、ストーリー作品は存在していない。

トーラックのイラストはどのようにデザインされたのか、トーラックにまつわる過去のカードや作品にモチーフがあるに違いないと考えて探ってみた。

トーラックへの賛歌との類似

トーラックへの賛歌2種(左)と戦慄の朗詠者、トーラック2種(右)の比較図
赤:遠吠えする狼(犬?)
緑:鋭い爪と手の形
水色:翻るマント

トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)

Susan Van Campイラスト版のトーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)
データベースGathererより引用

Susan Van Campイラスト版のトーラックへの賛歌は、背景の遠吠えする狼(犬?)のイメージが印象的だ。戦慄の朗詠者、トーラックのイラストにも遠吠えする狼が配置されている。通常版は柱に彫られた狼の彫像として、特別版は遠方のシルエットとして登場している。

トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)

Quinton Hooverイラスト版のトーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)
データベースGathererより引用

Quinton Hooverイラスト版のトーラックへの賛歌には2人の人物が描かれている。フード付きのローブを着込んで両手首だけが見える手前の人物と、白ひげを蓄えた奥の人物の2人だ。戦慄の朗詠者、トーラックの通常版イラストは、この手前の人物の手とマントに類似性が認められる。鋭く黒い爪、まるで鷲のかぎ爪のように曲げた指、マントの翻り加減などだ。

半裸でマント姿の宗教指導者

コミックのオリヴァー・ファレル(左)と戦慄の朗詠者、トーラック(右)の比較図

トーラックの姿は短パンに、覆面を被り、マントを羽織った半裸の男だ。この格好には実は見おぼえがあった。コミック版フォールン・エンパイアに登場したオリヴァー・ファレル(Oliver Farrel)である。

オリヴァー・ファレルは丈の長い外套を羽織っているが、その下は腰布とブーツのみの半裸なのだ。上で引用したのはコミックの1コマだが、オリヴァー・ファレルのイラストはポーズまでもよく似ている。1

しかも、オリヴァー・ファレルの経歴を見ると、アイケイシアのライトバー教から分かれて、過激な新宗教を興した指導者なのだ。この点ではトーラックと完全に一致している。

ファレルは漆黒の手教団と敵対する立場であり、むしろアイケイシア側であったが、彼とファレル教徒の活動によってアイケイシアは内部から崩壊していった。アイケイシア帝国滅亡の1つの要因であったわけで、その意味ではオリヴァー・ファレルはティモリン・ローングレイドなんかよりもよっぽど(無自覚な)トーラックの転生者に相応しい人物であったと言えるだろう。

あるいはそういった連想で、ファレルはトーラックの外見モデルの1つに選択されたのかもしれない。

目玉模様

トーラックの賛美歌(Tourach's Canticle)

トーラックの賛美歌(Tourach’s Canticle)
データベースGathererより引用

トーラックのまとう黒地のマントには非常に「沢山の目玉」がデザインされている。さらにトーラックの賛美歌(Tourach’s Canticle)のイラストでは、空に浮かぶ月も眼球のイメージで描かれている。この「目玉」はどこから来たものなのだろうか?

漆黒の手の信徒(Initiates of the Ebon Hand)

Heather Hudsonイラスト版の漆黒の手の信徒(Initiates of the Ebon Hand)
データベースGathererより引用

漆黒の手教団で「目玉」というと、Heather Hudsonイラスト版の漆黒の手の信徒くらいしか私には思いつかない。ただしこのカードは「沢山の目玉」という数の点では合致しない。

漆黒の手の信徒(Initiates of the Ebon Hand)

Kaja Foglioイラスト版の漆黒の手の信徒(Initiates of the Ebon Hand)
データベースGathererより引用

沢山の点模様がある上着なら、Kaja Foglioイラスト版の漆黒の手の信徒の黒ローブ(?)が幾分か似ているかもしれない。いや、こじつけが過ぎるか。

トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)

Liz Danforthイラスト版のトーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)
データベースGathererより引用

トーラックの賛美歌(Tourach’s Canticle)の眼球のような月は、ドミナリアの2つの月が重なってそう見えているものと推測できる。その一方で、月の描かれ方はLiz Danforthイラスト版のトーラックへの賛歌の二重の円にどことなく似ている。

オームズ=バイ=ゴアの邪眼(Evil Eye of Orms-By-Gore)

オームズ=バイ=ゴアの邪眼(Evil Eye of Orms-By-Gore)
データベースGathererより引用

漆黒の手教団やサーペイディアから視野を広げて、ドミナリア次元で「目玉」というと何かと考えた。フォールン・エンパイア当時にもあったカードで、かつ、ドミナリアに存在が確認されているクリーチャーが1つ該当した。オームズ=バイ=ゴアの邪眼(Evil Eye of Orms-By-Gore)である。

オームズ=バイ=ゴアとは何を意味する言葉なのか……実は2021年現在でも判明していない。あくまで私の妄想だが、トーラックや漆黒の手教団に関わる神や悪魔といった新設定が用意されている……なんてことがあったりするんじゃないだろうか?オームズ=バイ=ゴアは多眼の神で、地上界に遣わされる化身が漆黒の法務官で、単眼の邪眼は下僕の天使的存在、トーラックは選ばれし預言者であった……とかなんとか(あくまで妄想)。

モダンホライゾン2現時点では、「沢山の目玉」とトーラック(あるいは漆黒の手教団)との関連性は明らかになっていない。過去の要素の深掘りかもしれないし、単に新しい要素として取り入れられただけという可能性もある。個人的には深掘り設定であってほしいのだが。

トーラック本人に関しては以上で触れるべきところは総ざらいできたと思う。次の節からはトーラックにまつわるカードを取り上げていく。まずはトーラックの代名詞「トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)」とその他の歌について解説をしていく。

トーラックへの讃歌

トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)

Scott Kirschnerイラスト版のトーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)
データベースGathererより引用

トーラックについて語るならば、トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)は必ず取り上げなければならない。

トーラックへの賛歌はカードセット「フォールン・エンパイア」に収録されたソーサリーで、対戦相手の手札を無作為に2枚捨てさせる強力な手札破壊呪文だ。このカードはフォールン・エンパイアに4種類の違うイラストで収録されている(再録時にはイラストのバリエーションがさらに増えた)。

トーラックへの賛歌はそのカードパワーで有名となって、トーラックの名前を認知させるに至った。ただし、一般ユーザーのおそらくほとんどがこのカードを知ってはいても、トーラックが何者であるか、そもそも人名であることまで分かっていなかった。

トーラックに関連する歌カードは他にも制作されている。消えない賛歌(Haunting Hymn)トーラックの賛美歌(Tourach’s Canticle)は賛歌へのオマージュであると共に、それぞれが賛歌の未来と過去の姿を表している。

トーラックの詠唱

Tourach's Chant

Tourach’s Chant
データベースGathererより引用

これはトーラックへの賛歌と同期の歌カードだ。

Tourach’s Chantつまり「トーラックの詠唱」はトーラックへの賛歌と一緒にカードセット「フォールン・エンパイア」に収録された。

このカードは緑対策の機能が持たされているが、フォールン・エンパイアの緑のカード「Thelon’s Chant」と対になっている。Thelon’s Chantは黒対策の機能があり、カード名は「Tourach’s Chant」と同様に緑勢力の代表者名と「Chant」の組み合わせである。

消えない賛歌

The hymn’s melody has persisted since Tourach’s time, but the words changed to invoke the phobias of each listener.
賛歌の旋律はトーラックの頃から変わらないが、その詩は聞いた者たちに恐怖を呼び起こすように変えられている。
引用:消えない賛歌(Haunting Hymn)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

消えない賛歌(Haunting Hymn)

消えない賛歌(Haunting Hymn)
データベースGathererより引用

これはトーラックへの賛歌の将来を描いた歌カードだ。

消えない賛歌(Haunting Hymn)はカードセット「時のらせん」収録の手札破壊インスタント・カードだ。トーラックへの賛歌を想起するような雰囲気を持たされている。

トーラックへの賛歌が近代ドミナリアに伝承されている事実は、短編集Distant Planes収録の短編Festival of Sorrowの描写で判明済みであった。そして、このカードの登場によって、時のらせんの時代設定である裂け目時代(AR4306年から4500年)にも受け継がれていることが分かった。

トーラックの賛美歌

The same hymns Tourach sang to praise the Ebon Praetor would later be adapted to glorify Tourach himself.
漆黒の法務官をたたえてトーラックが歌った賛歌は、後にトーラック自身を賛美するよう改作された。
引用:トーラックの賛美歌(Tourach’s Canticle)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

トーラックの賛美歌(Tourach's Canticle)

トーラックの賛美歌(Tourach’s Canticle)
データベースGathererより引用

これはトーラックへの賛歌の過去の姿、その原点を表した歌カードだ。

トーラックの賛美歌(Tourach’s Canticle)はトーラック本人のカード化と同時にカードセット「モダンホライゾン2」に収録された歌カードだ。

フレイバー・テキストによると、この讃美歌がトーラックへの賛歌の原曲である。元々は漆黒の法務官を讃えるためにトーラックが歌ったもので、信奉者による改作がされて現在の形になったという。

イラストには生け贄を捧げるトーラックが描かれており、まさに漆黒の手教団らしい雰囲気だ。

賛歌と生け贄の逆転現象

フォールン・エンパイア当時を振り返ると、漆黒の手教団のカードやストーリー、設定上の特徴は「生け贄」とそれを支える「生け贄用生物スラル」の方に重点が置かれていた。ところが、モダンホライゾン2のトーラックの解説では生け贄による屍術魔法よりも、トーラック最大の力賛歌詠唱にこそ宿っていると語られている。

つまり、「歌」の力が最大であり、「生け贄の魔法」に勝っている。歌こそが真の力扱いに逆転してしまっているのだ。

これはどうしたことか?現実のカード評価と一般ユーザーへの認知度を反映して、過去の設定を上書きしたように思えてならない。実に興味深い。

これでトーラックの詠唱や賛歌の解説が終わった。次はトーラックの創設した漆黒の手教団(The Order of the Ebon Hand)の番である。

漆黒の手教団

Order of the Ebon Hand


Christopher Rushイラスト版のOrder of the Ebon Hand
データベースGathererより引用

漆黒の手教団(The Order of the Ebon Hand)はトーラックを信奉する宗教組織で、カードセット「フォールン・エンパイア」の5帝国の内で黒を代表する帝国である。

漆黒の手の支配地

サーペイディア大陸
現代ドミナリア地図に暗黒時代の地名を記載した

漆黒の手教団の中心地はサーペイディア大陸西部の沼沢地帯であった。この沼の地名はどのソースを調べても出てこず、単にこの一帯は漆黒の手の「領土(territory)」などとしか表記されていない。

漆黒の要塞

漆黒の要塞(Ebon Stronghold)

漆黒の要塞(Ebon Stronghold)
データベースGathererより引用

漆黒の要塞(Ebon Stronghold)は漆黒の手教団の拠点を描いている(おそらくは帝国崩壊後の廃墟となった状態)。小説And Peace Shall Sleepでは漆黒の城塞アクテプ砦(Achtep Keep)が登場した。

教団の地下貯蔵庫

底無しの縦穴(Bottomless Vault)

底無しの縦穴(Bottomless Vault)
データベースGathererより引用

Bottomless Vault」は「底無しの縦穴」と訳されている土地カードだ。「Vault」は「地下貯蔵庫・地下保管室・地下納骨所」といった場所を表す言葉で、「縦穴」は地面から縦に掘った穴を指し意味合いが広い。

イラストを見ると、洞窟内にある建造物の入り口が描かれている。カード・メカニズムの方は、黒マナの元となる貯蔵カウンターを蓄積していくものだ。

このカードが表していたのは、ただの縦穴ではなく漆黒の手教団の地下貯蔵庫だったと考えられる。

トーラックの門

In one of the many tomes unearthed from the ruins of an Ebon Stronghold was a unique architectural blueprint, describing in detail how to open a door to the world of the dead.
漆黒の要塞の廃墟から出土した数多くの秘本の中の1冊には、死者の世界への扉を開く方法が詳細に記されている、他に類のない建築設計図があった。
引用:1997年日めくりカレンダー
上が英語原文。下が私家訳

Tourach's Gate

Tourach’s Gate
データベースGathererより引用

Tourach’s Gateこと「トーラックの門」はカードセット「フォールン・エンパイア」のエンチャント・カードだ。

トーラックの名を冠するこの門は、壁一面にデザインされた羽を広げたクワガタの大あご部分に当たり、死者の世界に通じているという。ある種の次元門(Planar Gate)であるかもしれない。この門はサーペイディア西部沼沢地のどこかに存在していたのだろう(あるいは現存している可能性も…?)。

カード紹介:次元門
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)の「次元門(Planar Gate)」を紹介する。レジェンドに収録された同名カードや、ファイレクシアの門発生装置、大修復後の次元橋について登場作品を絡めて解説する。

漆黒の法務官

Ebon Praetor

Ebon Praetor
データベースGathererより引用

Ebon Praetorこと漆黒の法務官はカードセット「フォールン・エンパイア」収録のクリーチャー・カードである。クリーチャー・タイプはアバターであることから、何らかの超常的存在の化身であると考えられる。

漆黒の法務官は正体不明であったが、モダンホライゾン2において、トーラックが賛歌を捧げた存在であったと明らかになった。

漆黒の手の教団員

Order of the Ebon Hand

Melissa Bensonイラスト版のOrder of the Ebon Hand
データベースGathererより引用

カードセット「フォールン・エンパイア」収録の黒関係カードは全て、トーラックと漆黒の手教団で埋め尽くされている。

漆黒の手の信徒(Initiates of the Ebon Hand)

Kaja Foglioイラスト版の漆黒の手の信徒(Initiates of the Ebon Hand)
データベースGathererより引用

漆黒の手教団は、そのままの名称の「Order of the Ebon Hand」、および、入信者の「漆黒の手の信徒(Initiates of the Ebon Hand)」の2種類でカード化され、残りの大部分は教団の生け贄奴隷生物スラルであった。

漆黒の手の信徒(Initiates of the Ebon Hand)

Liz Danforthイラスト版の漆黒の手の信徒(Initiates of the Ebon Hand)
データベースGathererより引用

漆黒の手の構成員は人間が主体に見えるものの、ケンタウルスなどの他種族も描かれている他、明らかに通常の生物の枠を逸脱した異形な存在と化した者もいる。過去のクリーチャー・カードの見直しが何度もされた2021年現在においても、漆黒の手教団系カードのクリーチャー・タイプに種族的な要素が含まれていないのは、この多種多様な構成種族ゆえだろう。

漆黒の手のスラル

精神錯乱スラル(Mindstab Thrull)

おそらく一番認知度の高いイラストのスラル
Mark Tedinイラスト版の精神錯乱スラル(Mindstab Thrull)
データベースGathererより引用

フォールン・エンパイアの黒のカードの残りはほとんどスラル(Thrull)だ。教団が生け贄用に生み出した奴隷種族スラルは反乱を起こし教団を圧倒して壊滅させてしまった。

AR170年頃の諸帝国崩落から50年も経たない内に、スラルの大群はサーペイディアの支配権を掌握したという(出典:公式記事Tea and Biscuits with Pete Venters)。

練達の育種師、エンドレク・サール

練達の育種師、エンドレク・サール(Endrek Sahr, Master Breeder)

練達の育種師、エンドレク・サール(Endrek Sahr, Master Breeder)
データベースGathererより引用

練達の育種師、エンドレク・サール(Endrek Sahr, Master Breeder)は漆黒の手の教団員で、スラルを創造した人物だ。

エンドレク・サールはスラルの創造には、教団の屍術に錬金術要素を導入しただけだと主張していた。ところが、公式記事Tea and Biscuits with Pete Ventersによると、ファイレクシアの技術を盗用した疑いもあるという。

漆黒の手教団はスラルの増殖で自滅の道を歩んでいくのだが、ここで注意したいのは、エンドレク・サールは年々資源が枯渇していく暗黒時代の人物であり、トーラックが教団を創設して以来の数世紀、手軽に生け贄に捧げられるスラルの開発はまさに画期的であったことだ。

トーラックは生け贄を要求する暗黒神とみなされており、スラルは神への捧げ物とされた。また、トーラックの原理を継承した教団の屍術師は、スラルの生け贄によって屍術魔法を行使したのである。スラルの育種によって資源の節約とエネルギー生産を成し遂げられた……。

そのはずだったが、いつしかスラルの維持のための生産という本末転倒な状況も発生し、最後に漆黒の手教団は反乱を起こした群れに呑み込まれてしまった。こんな結末は創設者トーラックにも予見しえなかったに違いない。

さて、以上で漆黒の手教団について語り終えた(外形をなぞっただけの部分もあるがここらで切り上げておこう)。



戦慄の朗詠者、トーラックを読解する

トーラックの設定とストーリーの全文を以下に引用する。キーワードとなる語句にはリンクを貼ってあり、それぞれについて出典のカードや作品を取り上げて、解説を行っている。なお、これらの出典は本サイト独自調査と分析によるものであり、必ずしも公式によって裏付けられたものばかりとは限らないことを一応注記しておく。

Tourach was the founder of the Ebon Hand, a religious movement that split from the Leitbur religion centuries before the fall of the Sarpadian Empires. Tourach and his followers were necromancers able to work great magics by means of sacrifice, often of their limbs, but sometimes of human lives. But Tourach’s greatest power lay in chants and hymns that could cause insanity in all who heard them. Upon Tourach’s death, the members of the Ebon Hand deified him, while the followers of Leitbur lived in continual dread of his return. The god Tourach is said to have incarnated himself in several individuals during the ensuing centuries, including the immortal warrior Tymolin Loneglade and the Neo-Ebonic priest-king Vetro.

トーラックは漆黒の手教団の創設者です。この宗教団体は、サーペイディア帝国が凋落する数世紀前、ライトバー教団より分離したものでした。トーラックとその追随者たちは屍術師であり、しばしば自分たちの四肢や、時に人間の生命を生け贄として大いなる魔法を唱えました。ですがトーラック最大の力は詠唱と賛歌にあります。それらは聞いた者全てに狂気をもたらしうるのです。トーラックの死後、漆黒の手教団は彼を神格化する一方、ライトバー教団の追随者たちは、彼の復活に常に怯えながら暮らすこととなりました。神としてのトーラックはその後数世紀の間、数人の人物として転生したと言われています。その中には不死の戦士ティモリン・ローングレイド新漆黒教団の司祭王ヴェトロの名もあります。
引用:公式記事The Returning Legends of Modern Horizons 2(上)、『モダンホライゾン2』の伝説たち 再来編(下)

漆黒の手教団創設者

漆黒の手教団創設者

調査して驚いたのだが、トーラックが「漆黒の手教団の創設者」と断定した公式の記述はおそらく初のことだ。

これまでは「漆黒の手教団はトーラックの信奉者である」「トーラックは漆黒の手の暗黒神である」といった表現に終始していた。この書き方では、漆黒の手教団がトーラック以前から存在している可能性だってあり得たわけだ(トーラックの到来後に教団がトーラック崇拝へと変質したという解釈でも成立できていたということ)。

今回の設定解説で明記されたことで、トーラック以前には漆黒の手教団は存在しない、と言い切れるようになった。

ライトバー教団から分離した宗教活動

ライトバー教団から分離した宗教活動

漆黒の手教団の起源が「ライトバー教団から分離した宗教活動」という設定の元となったのは、Order of the Ebon Handのフレイバー・テキストに違いあるまい。以下に引用しよう。

“There are intriguing similarities between the Order and Icatia’s Leitbur religion, suggesting the two had a common origin.”
–Sarpadian Empires, vol. VI
「この教団とライトバー教には興味深い共通点があり、両者が同一の起源を持つと示唆している。」
–サーペイディア諸帝国史第6巻
引用:Order of the Ebon Handのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

Order of the Ebon Hand

Christopher Rushイラスト版のOrder of the Ebon Hand
データベースGathererより引用

このフレイバー・テキストによると、サーペイディア諸帝国史第6巻という歴史書において、漆黒の手教団とライトバー教団の類似性に着目し、2つの教団の起源が同じだと分析されていた、というのだ。この書き方では、どちらか一方からもう一方が分派したのか、あるいは、母体となる宗教が異なる2教団に分かれたのか、はっきりはしていなかった。

モダンホライゾン2では、こういった曖昧さが全て払拭されている。アイケイシア帝国のライトバー教団がまず存在し、トーラックと信奉者はそこから分派し漆黒の手教団を成したのだ。その分離が起こったのはサーペイディア諸帝国崩落(AR170年頃)の数世紀前であったという。

また「千年以上前」ではなく「数世紀前(centuries before)」との記述になっていることから、諸帝国崩落(AR170年頃)から遡って200年から1000年以内の出来事と解釈できる。したがって、トーラックはAR-30年からAR-830年のいずれかの時代の人物で、漆黒の手教団の成立もその時期であったと考えられる。

トーラックと信奉者は屍術師である

トーラックと信奉者は屍術師である

トーラックと漆黒の手教団が屍術を用いていた事実は、カードセット「フォールン・エンパイア」のフレイバー・テキストで言及されている。以下に引用しよう。

“To create the first Thrulls, I only introduced alchemic elements into the Order’s necromancy; Tourach’s principles remained unchanged.”
–Endrek Sahr, Master Breeder
「最初のスラルの創造において、私は教団の屍術に錬金術的要素を導入しただけだ。トーラックの原理を変えてはいない。」
–練達の育種師、エンドレク・サール
引用:Basal Thrullのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

Basal Thrull

Basal Thrull
データベースGathererより引用

漆黒の手教団の屍術は、トーラックの原理に基づくものだという。

生け贄による魔法行使

生け贄による魔法行使

Implements of Sacrifice

Implements of Sacrifice
データベースGathererより引用

トーラックと信奉者らは屍術師であり、大魔法を行使するために生け贄を手段としていた。自身の手足を捧げることも少なくなく、時には人の命さえも捧げられた。

生け贄は漆黒の手教団の魔術の基本にして大きな特徴である。カードセット「フォールン・エンパイア」の各種カードのテキストで語られ、カードそのものでも表現されている。その上、コミック版フォールン・エンパイア、小説And Peace Shall Sleepなど関連ストーリー作品や記事でも言及されている。このように言及するソースは多いのだが、この解説文の表現は特にコミックの巻末解説の一節に似ており、私にはそこからの引用と思えてならない。

ちなみに、漆黒の手教団が生け贄用に新たに創造し育種した奴隷生物がスラルであった。

トーラックの詠唱や賛歌に宿る力

トーラックの詠唱や賛歌に宿る力

トーラックの詠唱賛歌はカードセット「フォールン・エンパイア」時点で同名のカードとなっている。

トーラックの最大の力は、生け贄によって行使する屍術の方ではなく、むしろ聞く者全ての正気を失わせうる詠唱賛歌にこそ宿っている。

先述の繰り返しになるが、フォールン・エンパイア当時、漆黒の手教団のストーリーや設定上の特徴は「生け贄」とそれを支える「生け贄用生物スラル」の方に重点が置かれていたのだ。歌が生け贄要素に取って代わったのだ。

トーラックは死後に神格化した

トーラックは死後に神格化した

トーラックの死後、漆黒の手教団は彼を神格化した。これもカードセット「フォールン・エンパイア」のフレイバー・テキストが出典であろう。

“Tourach’s power was such that his followers deified him after his death.”
–Sarpadian Empires, vol. II
「トーラックの権勢は、信奉者がその死後に神格化するほどであった。」
–サーペイディア諸帝国史第2巻
引用:トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

トーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)

Liz Danforthイラスト版のトーラックへの賛歌(Hymn to Tourach)
データベースGathererより引用

このカードのフレイバー・テキストによって、トーラックが男性であり、カードセット「フォールン・エンパイア」現在時点で亡くなっており、死後に神として祭り上げられた経緯が判明していた。この設定を受けて、コミックではトーラックは単に漆黒の手の暗黒神(Dark God)と解説されている。

トーラックの復活を恐れるライトバー信奉者

トーラックの復活を恐れるライトバー信奉者

オリヴァー・ファレル(Oliver Farrel)
コミック版フォールン・エンパイアvol.1より

オリヴァー・ファレルとその信奉者ファレル教徒は、漆黒の手教団への対応が手ぬるいとしてアイケイシア国から離反した者たちだ。ファレルはアイケイシアの元僧侶であり、したがってライトバー教団の一員であった者だ。

コミック版フォールン・エンパイアにおいて、ファレルと信奉者はトーラックの転生を恐れていた。さらに転生者認定したティモリン・ローングレイドを滅ぼすためモントフォードから出兵すらしていた。

ファレル教徒は極端な過激派であったものの、そうでない一般のライトバー教徒でも程度の差こそあれトーラックの再来に怯えていた。モダンホライゾン2でそれが明らかになった。

オリヴァー・ファレルについては別記事で扱っている。そちらも参照のこと。

テヴェシュ・ザット(サーペイディア時代)
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のプレインズウォーカー「テヴェシュ・ザット(Tevesh Szat)」を紹介。テヴェシュ・ザットのオリジン・ストーリーや妹ティモリン・ローングレイドの解説を行った。

ティモリン・ローングレイド

ティモリン・ローングレイド

ティモリン・ローングレイド(Tymolin Loneglade)
コミック版フォールン・エンパイアvol.1より

ティモリン・ローングレイド(Tymolin Loneglade)はプレインズウォーカーのテヴェシュ・ザット(Tevesh Szat)の妹である。彼女はアイケイシアの宗教家オリヴァー・ファレルによって、トーラックの転生者だと認定された。これはコミック版フォールン・エンパイアが出典である。

別記事で詳しく扱っているのでそちらを参照のこと。

テヴェシュ・ザット(サーペイディア時代)
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のプレインズウォーカー「テヴェシュ・ザット(Tevesh Szat)」を紹介。テヴェシュ・ザットのオリジン・ストーリーや妹ティモリン・ローングレイドの解説を行った。

新漆黒の僧侶王ヴェトロ

新漆黒の僧侶王ヴェトロ

トーラックの転生者ヴェトロは短編集Distant Planes収録の短編Foulmereが出典だ。

この作品では漆黒の手教団のその後が、後世に伝わる歴史として語られている。氷河期到来前、新漆黒の僧侶王ヴェトロ(Neo-Ebonic priest-king Vetro)という人物はトーラックの転生者であると自称し認められていた、とのことだ。

ちなみに、公式和訳版ではヴェトロの肩書きが「新漆黒教団の司祭王」と訳されているが、原文は「Neo-Ebonic priest-king」である。個人的に「Neo-Ebonic」を「新漆黒教団」と置き換えるのはやり過ぎではないかと感じる。漆黒の手教団が滅んで間もない時代に新たな教団という組織形態を維持できていたか、原作である短編からは何も読み取れないのだ(転生者を名乗る名ばかりの「王」であった可能性も)。私はこの件に関して、十数年前からと同じ慎重な態度を維持することにした。



おまけ:漆黒の手とファイレクシア

漆黒の手教団はファイレクシアと関連があるのでは?と仮説を唱えるヴォーソスの声もある。

上述したが、公式記事Tea and Biscuits with Pete Ventersピート・ヴェンタースの証言によると、スラルの創造にはファイレクシアから盗用した技術が用いられた疑いがあるのだ。

それに加え、「漆黒の手」という名称および「自らの手」を生け贄に捧げる儀式的慣習、そして「漆黒の法務官」という高次存在がある。これらの要素がファイレクシアの法務官ギックス(Gix)を示唆するのではないか、というのが仮説の根拠である。

ギックスのかぎ爪(Claws of Gix)

切断されたギックスの片手
ギックスのかぎ爪(Claws of Gix)
データベースGathererより引用

ギックスはアンティキティー戦争期にテリシアで活動していたファイレクシアの先遣隊であり、法務官という高い地位に就いていた。戦争終結時に切断された片手をドミナリアに遺しており、信者は聖遺物のように扱っていた。また、ゲーム的に「法務官」というクリーチャー・タイプはファイレクシアがほとんど独占しているに近い状態だ。

アンティキティー戦争終結後(AR64年以降)、テリシアから南方のサーペイディア大陸に渡来したファイレクシア派閥が漆黒の手教団を興した、とは一見もっともらしい響きがある。しかし、これには時系列上の無理がある。漆黒の手教団の創設は伝説時代中であり、ギックスの片手切断の遥か昔なのだ。

また、掌編Interrogationは、漆黒の手教団に捕縛されたファイレクシアの僧侶が、教団のエンドレク・サールによって尋問を受けるストーリーである(この時点ですでにスラルは創り出された後)。作中では漆黒の手教団とファイレクシアの哲学は相容れず、お互いを侮蔑していた。少なくとも思想面では漆黒の手教団がファイレクシアの亜流と見るのは無理があるだろう。

だが、この尋問以前にエンドレク・サールがファイレクシア技術に接触したことが無かったとは言えない。最初のスラル創造に技術を盗用したことで、漆黒の手教団にファイレクシア系の知識が持ち込まれた。こっちの可能性なら十二分にある。

今となっては設定の真偽をピート・ヴェンタースに確かめることは無理かもしれないが、非常に興味深い仮説だったと今でも思う。漆黒の手教団とファイレクシア、この線の掘り下げを公式が再び行ってくれないものだろうか。

さいごに

さて、トーラックに関して思いの丈を書き尽くせた。かなり冗長な記事になってしまったが、最後までお付き合いいただいた読者の皆様には感謝の意に堪えない。

では今回はここまで。

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