心霊破(Psionic Blast)はカードセット「リミテッドエディション(基本セット第1版)」収録のインスタント・カードである。
「心霊破」こと「サイオニック・ブラスト」は、MTG誕生以前からSF作品では定番の超能力攻撃であった。
今回は心霊破をはじめとした「サイオニック(超能力)」カードの解説と、登場ストーリー作品の紹介を行う。
追記(2021年7月15日):そのほかの超能力の例に「Clairvoyance(透視・千里眼)」を追記した。さらに、カードセット「フォーゴトン・レルム探訪」の精神異常のソーサラー(Aberrant Mind Sorcerer)の「サイオニック呪文」に関しても追加した。
心霊破の解説
心霊破(Psionic Blast)はMTG最古のカードの1つで、対象に直接ダメージ4点を与えるが、その代償に使ったプレイヤー自身も2点ダメージを受ける青のインスタントだ。
「心霊」と訳された「サイオニック(Psionic)」はいわゆる古典的な「超能力」のこと。そして、「サイオニック・ブラスト(Psionic Blast)」は精神を集中し対象の精神や身体を破壊する超能力攻撃である。
MTGの設定では「精神」に関する領域は青の魔法に属しているため、精神に作用する「サイオニック(超能力)」系統は青の魔法としてカード化されている。
定番中の定番
MTG誕生以前から「心霊破」こと「サイオニック・ブラスト」はSF作品などに存在していたものだ。
念じて相手に損害を与える攻撃だが、超能力者自身も血を流したり昏倒したり、何らかの代償を払うのがある種のパターンであった。その代償とは例えば、相手に与えたダメージの反動であったり、超能力行使による過負荷だとか、若さや生命力や健康や寿命の消耗、あるいは、超能力を使う能力そのものが減衰する、などなどだ。
この手の超能力はSF作品によく登場したものだったが、MTGが誕生した1993年時点ですらとうに陳腐化した後で、むしろ定番中の定番になっていたものだ。また、剣と魔法のファンタジー世界に、こういう超能力やメカ、ロボット、銃火器といったいくぶんSFや科学風味の要素をスパイスとして混ぜ込む手法も、MTG以前からしばしばみられた定番の1つだった。
RPGの始祖である「D&D(ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ)」もサイオニックを取り込んだ先達の1つであった。
D&Dのサイオニック・ブラスト
D&Dでも古くから「サイオニック(超能力)」は選択ルールや追加ルールで登場していたもので、「サイオニック・ブラスト」あるいは「マインド・ブラスト」も基本的かつ定番の超能力攻撃であった。
カードセット「フォーゴトン・レルム探訪」で、MTGとD&Dは本格的なコラボを果たした。サイオニック・ブラストそのものを表すカードは収録されなかったものの、種族的なマインド・ブラストの使い手であるマインド・フレイヤー(Mind Flayer)とその関連は何種類ものカードになっている。
追記:見逃していたサイオニック系カード
精神異常のソーサラー(Aberrant Mind Sorcerer)のフレイバー・ワードは「サイオニック呪文(Psionic Spells)」だ。D&Dの第5版では「Aberrant Mind Sorcerer」はサイオニック・パワーに覚醒したソーサラー(魔術師の1種)のようだ。
私はD&D第5版はほとんど何も知らない1のだけれど、カード名の「Aberrant Mind」を「精神異常の」と訳しているのは行き過ぎなのでは?と感じてしまう。「Aberrant Mind」で「常軌を逸した・普通でない+精神」という解釈なのだろうけれど、「常識外れの精神系魔術師」くらいのもう少し軽めの意味合いなんじゃなかろうか…?プレイヤー用クラスで「精神異常」って普通の設定では推奨しないと思うのだが。
追記ここまで
心霊破のストーリー
「心霊破」こと「サイオニック・ブラスト」はストーリー作品2つで登場が確認できている。それらを紹介しよう。
小説アリーナ 魔法の闘技場
MTG史上初の長編小説アリーナ 魔法の闘技場では、青の魔法として心霊破が描かれている。
作中には心霊破の使い手が複数登場しており、そのうちの1人は主人公の片目のガース(Garth One-Eye)である。
小説アリーナ 魔法の闘技場の心霊破は、相手へのダメージと共に術者自身も傷ついている描写がちゃんと挿入されていた。また、作中では「psionic blast」の他に「psionic blow」や「psychic blast」とも表記されている。
その他の心霊破を使った登場人物は、まずヒロインの1人であるヴァレナ(Varena)が挙げられる。ガースとの初対面時にヴァレナは魔法の手合わせを行い、心霊破でガースを打ちのめした。
それから、都市エスターク(Estark)の支配者である大師ザレル(Grand Master Zarel)、ザレル配下の名もなき精鋭闘士たち、祝祭の闘技に参加した闘士ペトラコフ(Petrakov)も心霊破を使っていた。
コミックWayferer
アルマダ・コミックのWayfererシリーズvol.4では、ジャレッド・カルサリオン(Jared Carthalion)の母方の祖父グレンフェル・モー(Grenfell Mor)が登場する。
グレンフェルは何世紀も生きる青の魔術師で、ジャレッドの師であるクリスティナ(Kristina)を娘グウェンドリン(Gwendolyn)の仇とみなして襲いかかった。グレンフェルは、かつてクリスティナが邪悪なラヴィデル(Ravidel)に対して下した判断ミスが巡り巡って、娘グウェンドリンの破滅的な死を招いたと恨んでいたのだ。
グレンフェルは青の直接攻撃魔法をクリスティナに放っている。作中では、その魔法の名称は語られていないが「心霊破」だと考えられる。コミック巻末では、青の魔法の解説が行われていて、直接攻撃としての「心霊破」が言及されているだけであるが、それ以外に作中描写にうまく当てはまるカードが存在しないのだ。
ちなみに、グレンフェルとクリスティナの決闘は、津波(Tsunami)で青マナ源を潰されたグレンフェルの敗北に終わっている。
サイオニック関連カード
ここからはカード名に「Psionic」を冠するカードを3種類取り上げていく。いずれもサイオニック(超能力)関連と解釈できるカードたちだ。
超心霊体
Creatures of the Æther are notorious for neglecting their own well-being.
霊界の生き物は、自身の安寧に無頓着なことで知られている。
引用:超心霊体(Psionic Entity)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
超心霊体(Psionic Entity)はカードセット「レジェンド」収録のクリーチャー・カードだ。
対象に2点、自身に3点のダメージを与えるタップ能力を有していて、これは心霊破に似ている。さらにカード名「Psionic Entity」は「サイオニック的存在」を意味しており、フレイバー・テキストの内容も加味すると、このクリーチャーはサイオニック・ブラストを放つ、身体が霊気で構成された生き物だと分かる。
超心霊体のカード名とフレイバー・テキスト
超心霊体の和訳は最初のMTG和訳カードセット「基本セット第4版」のときのもので、後の定訳や設定からみるといくぶん奇妙なところがある。どこがというと、カード名の「超心霊」と、フレイバー・テキストの「霊界」だ。
「超心霊」は「Psionic」の訳としてはあながち間違ってないのだが、「超能力」よりも「心霊現象」や「霊魂」などの雰囲気が色濃い表現だ。
そしてフレイバー・テキストの「霊界」の方は「死後の世界」や「霊魂」のイメージがあるが、原文は「Æther」なのでMTGでは次元間物質「霊気(Aether)」を指す用語である。つまり「霊界」とは無関係なのだ。
和訳製品のように「超心霊」で「霊界」の生き物だ、と並べられると、「オカルトな心霊現象や霊魂」を想起してしまう。これはMTGでは青でなくむしろ黒に属するイメージである。だが、実際は「心霊現象」よりも「超能力」的な雰囲気であって、オカルトよりSF風味を感じさせるカードだったのだ。
霊力
For sale: Complete wizard’s library. Rare scrolls, grimoires, and works of ancient spellcrafting! Slightly abridged.
売ります:ウィザードの蔵書一式。巻物、呪文集、古代の祈祷書等、珍しい品多数あり!要約版一部あり。
引用:霊力(Psionic Gift)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
霊力(Psionic Gift)はカードセット「オデッセイ」収録のエンチャント・カードである。
カード名「Psionic Gift」の「Gift」は「贈り物」や「天賦の才・才能」のことで、このカードの場合は後者の方だ。ただし、和訳製品版の「霊力」という言葉からは「霊魂」や「心霊現象」の含みが前に出てきてしまって、あまり良くはない。だから、本サイトではカード名「Psionic Gift」はもっと単純に「サイオニック(超能力)の才能」と解釈する。
次にフレイバー・テキストに目を向けると、魔術師の蔵書をセールに出して売り払っている。そしてイラストでは、タコ系人型種族セファリッドが魔術書をエネルギー攻撃で損壊させている。
以上を総合すると、セファリッドの魔術師は「サイオニックの才能」に目覚めたため、不要になった呪文書をサイオニック・エネルギーで破壊し、残りの蔵書を全て売却処分することに決めた、そういう物語が見えてくる。
心霊スリヴァー
They evolved the ability to concentrate their neural activity into a single pulse, causing a disruptive but usually suicidal blast of psionic energy.
それは自身の神経作用を集中させてひとつの波動とする能力を進化で手に入れた。破壊的ではあるが、大抵は精神エネルギーにより自爆する羽目になる。
引用:心霊スリヴァー(Psionic Sliver)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
心霊スリヴァー(Psionic Sliver)はカードセット「時のらせん」に収録されたクリーチャー・カードである。超心霊体(Psionic Entity)を基にしてスリヴァー化したカード・デザインとなっている。
フレイバー・テキストの和訳版で「精神エネルギーにより自爆」となってる原文は「suicidal blast of psionic energy」だ。つまり、このクリーチャーのタップ能力が「サイオニック・ブラスト」だと示されている。
進化によってサイオニック能力を獲得したスリヴァー種が、この「心霊スリヴァー」こと「サイオニック・スリヴァー(Psionic Sliver)」なのだ。
その他の超能力
「サイオニック(超能力)」に絞ってカードを語って来た。だが、いわゆる超能力的なフレイバー付けをされたカードは「サイオニック」だけではない。
例えば「サイキック」だ。MTGでは精神系超能力を意味する「サイキック(Psychic)」をカード名に冠するカード群がある。MTG最古の地の毒(Psychic Venom)を皮切りに2021年6月現在までで、青を含むカードとして25種類が制作されている。(今回はサイオニックの方だけでサイキックは扱わないが)
その他、単発のカードでもいくつか超能力風のカードは挙げられる。
「Telekinesis」すなわち「テレキネシス」は物に触らずに遠隔から動かすことができる念動力だ。
瞬間移動(Teleport)ことテレポートは超能力としても有名なものだ。
「Clairvoyance」は「透視」や「千里眼」を意味する超能力だ。
テレパシー(Telepathy)は相手の心を読める超能力でもあり、青の精神魔道士が得意としている魔法でもある。
青に絞っても色々と出てくる。こういったカードを取り上げる別の機会がくればまた語りたいものだ(今はまだネタがたまってない)。
さいごに
今回はMTGでの「サイオニック(超能力)」をまとめてみた。
記事化するために一応またざっと調べ直してみたので分かったことがある。実は、「心霊破」こと「Psionic Blast」はD&Dの同名サイオニック能力が元ネタだ……と断定する主張って昔からあるのだけれど、それを裏付けられる証拠は見つからなかったのだ。語られずとも見れば明白だ。と言われるかもしれないが私はもう少し慎重な態度に留めておこうと思ってこんな感じになった。D&Dの各方面への影響は計り知れないし、それは喜んで認めるところなのだけれど、サイオニック自体はD&D発祥というわけでもないのだから。
まあ、MTGでは、超能力だ、魔術だ、霊能力だ、云々と分けたところで、結局はマナを使った魔法と集約できてしまうものではある。でも、こういう外側のフレイバー付けって、架空世界の描写では重要な要素に違いないのだ。私はそれを大事にしていきたい。
では、今回はここまで。
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