悪意ある機能不全(Malicious Malfunction)はカードセット「神河:輝ける世界」収録のソーサリー・カードである。
今回はこのカードが何を表現しているのかを読み解く。そしてその後に、このカードのフレイバー・テキスト和訳版の問題点を指摘する。
悪意ある機能不全の解説
“That? A minor test, nothing more. Incompleat fresh is weak.”
–Jin-Gitaxias
「あれか?ちょっとした点検さ。大したことじゃない。不完成の肉体は脆いからな。」
–ジン=ギタクシアス
引用:悪意ある機能不全(Malicious Malfunction)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
悪意ある機能不全(Malicious Malfunction)はメカニズム上は、ターン終了時まで全クリーチャーに-2/-2修正を与える全体除去系のカードだ。しかもそのターンにクリーチャーが死亡したら追放になるおまけ付きだ。1
イラストを見ると、神河人達が苦しんでいるが、彼らは何らかの装置を持つか装着している。この状況はカード名とフレイバー・テキストから察するに、新ファイレクシアによる何らかの干渉によって装置が故障してしまった場面に違いない。その上、全体除去の効果から明らかなように、この故障は装置の所有者に深刻な害を成す類のものだ。
ただし、この装置の故障は、あらかじめ誤作動を起こす細工を仕込んだ装置を市場に出回らせたものか、あるいは、外部から何らかの操作なり影響を与えて装置を破壊ないし誤作動させるものであったのか、その辺はカードを見ただけでは推察できない。
超高度なテクノロジーに依存している現代神河では、装置を機能不全にする攻撃は非常に強力な攻撃手段となる。連載ストーリーでも、テクノロジーに頼った漆月魁渡(しづき かいと)の術は、その手のテクノロジーを知り尽くしたテゼレット(Tezzeret)の機械操作能力によってことごとく機能不全にされていた。このテクノロジー依存の脆弱性を狙う新ファイレクシア勢力の方針は正しい。
悪意ある機能不全のフレイバー・テキスト
“That? A minor test, nothing more. Incompleat fresh is weak.”
–Jin-Gitaxias
「あれか?ちょっとした点検さ。大したことじゃない。不完成の肉体は脆いからな。」
–ジン=ギタクシアス
このカードのフレイバー・テキストは、新ファイレクシアのジン=ギタクシアス(Jin-Gitaxias)のコメントとなっている。これが少し話題になっていたので取り上げよう。
ジン=ギタクシアスの「フランクな口調」と、「和訳文章の内容面」の2点で話したい。
その1:ジン=ギタクシアスの口調
「あれか?ちょっとした点検さ。大したことじゃない。不完成の肉体は脆いからな。」
–ジン=ギタクシアス
このフレイバー・テキストのジン=ギタクシアスは非常に軽い口調で喋っている。これにはビックリした。
ジン=ギタクシアスはミラディンの傷跡ブロックから登場したキャラクターで、新ファイレクシアの法務官という5人の最高幹部の1人だ。当時のフレイバー・テキストはこんなフランクな口調ではなかった。
一例を挙げよう。
「肉を捨てよ、さすれば正しく見ることができよう。」
–核の占い師、ジン=ギタクシアス
引用:選別の高座(Culling Dais)のフレイバー・テキスト和訳製品版
この選別の高座(Culling Dais)のフレイバー・テキストで一目瞭然。法務官という高い地位に見合った、威厳があって如何にも偉そうな口ぶりなのだ。他のカードでもこのキャラクターで一貫していた。描写と比較してもこっちの方が解釈は正しいと感じる。
おそらく「神河:輝ける世界」は翻訳の担当者が当時とは別なのだろう。だからこそ、キャラクターの同一性・連続性はきちんと保持するようにウィザーズ社はチェックしサポートするべきだった。
ジン=ギタクシアスのキャラ描写にフランクな口調は全く似合っていないのだから。
その2:フレイバー・テキストの和訳文章
ここからはフレイバー・テキストの和訳製品版の内容を取り上げる。
私は最初に和訳製品版を読んだのだが……。
「あれか?ちょっとした点検さ。大したことじゃない。不完成の肉体は脆いからな。」
–ジン=ギタクシアス
私にはジン=ギタクシアスがどういう状況でどういう気持ちでこの言葉を発しているのかがいまいち想像できなかった。
「不完成の肉体」とは、ファイレクシア流の伝統的な表現2で不完全な劣った肉の身体くらいの意味合いがある。これに対して、ファイレクシアンの身体は肉と機械が融合しており、「完成化」されているという価値観がある。つまり、このカードの文脈では「不完成の肉体」は神河人のことを指している。これは分かる。
それに加えて「ちょっとした点検」というのだから、ジン=ギタクシアスは神河人を機械のように扱って点検したのだ。ところが脆い劣った肉の身体は耐えられなかった。そんなストーリーが和訳製品版からは読み取れてくる。
だが、この和訳版の語るストーリーは「悪意ある機能不全」というカード名の意味とも、イラストの状況とも全然関係ないのだ。どういうことなんだ?これが私の抱いた最初の感想だった。
その後、カードが公式カードギャラリーに登録されたので、英語原文の方を確かめてみた。
その3:フレイバー・テキストの原文
“That? A minor test, nothing more. Incompleat fresh is weak.”
–Jin-Gitaxias
フレイバー・テキストの英語原文はこうだった。
和訳製品版の「点検」は原文では「test」つまり「試験・検査・実験」と言った意味だ。確かに「検査」の含みがあるため、「点検」はその範疇に入ってはいる。でも、イラストの状況から判断してここは「試験・実験」の方が相応しいだろう。しかもこれは「A minor test(小規模な試験)」であり、かつ「nothing more(それ以上でも以下でもない)」のだ。
とすると、原文はこんな風な意味合いに私には読めた。
「おや?軽い試験に過ぎないのだが。不完成の肉体は脆いな。」
–ジン=ギタクシアス
こうなるので、英語原文と和訳製品版は読んだ時に受ける印象がかなり違っていた。
ジン=ギタクシアスは神河で装置の機能不全試験を実行したところ、劣った肉の身体の神河人は装置の異常や暴走などに巻き込まれて多大な被害を被ったのだろう。ゆえにファイレクシアンと比べてやはり脆いと評価を下したのだ。
これで筋が通った。
さいごに
さて本記事はこれでおしまいだ。
ちなみにフレイバー・テキストのジン=ギタクシアスの口調について指摘したが、「神河:輝ける世界」の連載ストーリーではカードとも全く違う口調(表記?)がされている。普通は平仮名の所が全部カタカナになっているのだ。非人間的で機械的なファイレクシアンらしいと言えばらしい口調だ。とても読み難いが悪くはない。
カードと統一感が無いのが残念だが、ストーリー作品翻訳の方はファイレクシアンのキャラはずっとこの線でいってもいいんじゃないのって感じている。
ただ、MTGのストーリー翻訳ではよくない前例がある。ラヴニカ次元のマジレク(Mazirek)ら昆虫種族クロールだ。最初は異形めいた口調だったのに再登場時には普通になってしまったキャラだ。
ファイレクシアンはマジレクと同じ轍を踏まないで貫いて欲しいものだ。
では今回はここまで。
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