イニストラード:新米密教信者

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新米密教信者(Novice Occultist)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」に収録されるクリーチャー・カードである。

このカードは初めて和名を見てビックリしてしまった。「オカルト(Occult)」を「密教」と訳しているので、ほとんど意味がかすってないんじゃないか!?という驚きである。それでしげしげと眺めていると、フレイバー・テキストの和訳もちょっと違うところあるよなと気づいてしまった。

そういった経緯で今回、このカードを取り上げることにした。

追記(2021年9月28日):ストーリー作品に関連する情報がないかを調べた(こちら)。

新米密教信者の解説

All across Gavony, in shuttered bedrooms and locked barns, young peaple seek the answers their elders failed to provide.
ガヴォニー中で、年長者が答えてくれない秘密の答えを求めて、若者たちは閉ざされた寝室や施錠された家畜小屋を探る。
引用:新米密教信者(Novice Occultist)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

新米密教信者(Novice Occultist)

データベースGathererより引用

新米密教信者(Novice Occultist)はイニストラード次元の神秘学・オカルト学を探究する者たちである。フレイバー・テキストによるとガヴォニー州の若者のようだ。

カード名は「密教信者」と訳されているが、原語の方は「Occultist」なので「オカルト学者・神秘学者」のことである。このカードは「Novice Occultist」つまり「新米の神秘学者」を表している。隠された謎の答えを探し求める学者ではあるがまだまだ初心者なのだ。

そしてカードのメカニズムでは、この新米が死亡した時にカードを引く利得が発生するようになっている。

しばしばホラー・ジャンルの作品では、謎の答えが得られた時に探索者は最期を迎える、いわゆるバッドエンドな展開が発生するものだ。新米なら尚更、生き残りにくいものだろう。このカードはそうした物語上の1つのパターンを描いたもののように思える。



新米密教信者のフレイバー・テキスト

All across Gavony, in shuttered bedrooms and locked barns, young peaple seek the answers their elders failed to provide.
ガヴォニー中で、年長者が答えてくれない秘密の答えを求めて、若者たちは閉ざされた寝室や施錠された家畜小屋を探る。

和訳でひっかりを覚えた部分を順番に取り上げる。

教えてくれない秘密の答え

和訳版で「年長者が答えてくれない秘密の答え」のところは原文では「the answers their elders failed to provide」となっている。ここは英語原文でも解釈する幅があると感じる。

つまり、「年長者は答えを知っているが何らかの理由で教えてくれない」とか、「年長者は答えてくれたものの、若者はそれでは納得できず、真なる本当の答えがあると判断した」とか、「年長者はそもそも答えを知らないので答えることができなかった」とか、どれでも成り立ちうるのだ。

閉ざされた寝室

次に「閉ざされた寝室」と訳された部分は「shuttered bedrooms」であるので、ここの「shuttered」は「鎧戸が締め切った」という意味だろう。

つまり、原文の方は必ずしも出入り不能な寝室とまでは言えないのだ。ただ、扉の鍵は開いているかもしれないものの、窓の鎧戸は閉じていて光は差し込まず、薄暗く空気が淀んだ場所という雰囲気となるだろう。

家畜小屋

そして「barns」を「家畜小屋」と訳しているが、この解釈は間違いだろう。「barn」は意味がもっと広い言葉で「家畜小屋」の他にも「納屋」や「物置」なども含んでいる。

「施錠された」とある上に、何かの答えを隠してある場所と考えるなら「家畜小屋」よりも「納屋」や「物置」の意味で解釈した方がふさわしいと考えられる。そりゃあ、夜なんかに家畜小屋に鍵をかけることはあるだろうが、そこは秘密が隠されていそうな怪しげな場所ではないのだ。

フレイバー・テキストを訳し直した

新米密教信者(Novice Occultist)

データベースGathererより引用

ガヴォニーの各地では、年長者が答えてくれない秘密の答えを求めて、若者たちは鎧戸の閉め切った寝室や施錠された物置を探っている。

いやしかし、秘密の答えを求めるにしても、探す場所が意外な程に身近過ぎるんじゃないか?そう思わざるを得ないが、新米の若者だから仕方ないのだろうか。

そこでホラー・ジャンルの作品をぼんやりと思い返してみたのだが、街の廃屋(幽霊屋敷など)や開かずの部屋、鍵のかかった屋根裏や地下室、隠し部屋といった、身近な場所に神秘の答えが隠されていることって結構あるんじゃなかろうか?それも少年少女が主人公のような作品なら結構な頻度でだ。

あくまでイメージに過ぎないし、別に作品を鑑賞してデータを取って調査したわけではないのだが、そう思いついたら私は納得できてしまった。

新米密教信者のストーリー

カードセット「イニストラード:真夜中の狩り」のストーリー作品は、メインストーリーの連載短編と、サブストーリーの単話短編が公開されている。

新米密教信者(Novice Occultist)はストーリー作品に登場しているのか?あるいは関連情報はないのか?

サブストーリー

短編His Eyes, All of Them邦訳版)では、新米密教主義者のイラストが挿絵として用いられている。

Novice Occultist | Art by: Zara Alfonso

Novice Occultist | Art by: Zara Alfonso
短編His Eyes, All of Themより引用

この短編はケッシグ州ラムホルトが舞台で、ある殺人事件の謎の解明する物語だ。

一方、新米密教主義者は何らかの謎の解明を目指している点では同じではある。しかし、フレイバー・テキストでガヴォニー州の若者とされており、短編とは全く違う場所である。

短編中では、この新米密教主義者に相当するような登場人物は出て来ておらず、単に謎を追う雰囲気付けにイラストが流用されただけのようである。

メインストーリー

メインストーリー連載短編の第3話邦訳版)もある謎を追う物語である。こちらでは月銀の鍵(Moonsilver Key)の在り処を探して主人公たちが様々な場所を奔走する。

月銀の鍵(Moonsilver Key)

月銀の鍵(Moonsilver Key)
データベースGathererより引用

そうして探索の途中で訪れたのがガヴォニー州であった。ここには鍵はなかったものの、かつての所有者の家族デニック・ベツォルド(Dennick Betzold)から現在はどこの誰が所有しているのかの確定的な情報を入手できたのだった。

敬虔な心霊、デニック(Dennick, Pious Apparition)

敬虔な心霊、デニック(Dennick, Pious Apparition)
データベースGathererより引用

月銀の鍵の在り処を問われたデニックは、多くの者が月銀の鍵を求めていると語っていた。この鍵は今回のストーリーの最重要アイテムである。主人公達の他にも探し求める者がいるのは当然であろう。その中にはガヴォニー州中に居る神秘学をかじった若者達が混ざっていても不思議ではない。

あるいは新米密教主義者は月銀の鍵の探索者だったのかもしれない。

以上で、新米密教信者についての話はおしまいだ。最後の節はおまけとして、MTG史上に存在する「密教信者」カード全般を取り上げてみた。



おまけ:MTGの密教信者の系譜

MTGではカード名の「Occultist」は「密教信者」と訳されているが、原語の意味は「オカルト学者・神秘学者」すなわち「超自然的な秘密を探究する者」といった意味合いである。

そもそも日本語で「密教」といえば、通常は仏教系のイメージを抱いてしまうのだ。その点で「密教信者」は訳語として適切とは思えない。秘密の探究者という意味合いでは同義だとはみなせなくなはない。とはいえ、無難な「神秘学者」でなく、敢えて特有の宗教的イメージを抱かせる「密教信者」を選ぶ理由はないはずだ。

この不可解な「密教信者」がMTG和訳にいつ頃から現れて、これまでどのくらいの先例があるのか、調べてみた。

最初の密教信者

アガディームの密教信者(Agadeem Occultist)

アガディームの密教信者(Agadeem Occultist)
データベースGathererより引用

アガディームの密教信者(Agadeem Occultist)がMTG史上初の「密教信者」だ。登場はゼンディカー次元が舞台のカードセット「ワールドウェイク」で2010年2月のことだ。

このカードを先例として、右に倣えで「Occultist」は「密教信者」と置き換えられていくことになった。

第2の密教信者

“The mist whispers to those who know it to be more than a mundane fog.”
「その霧は、それがありふれた霧以上だと知っている者に囁くのだ。」
引用:セルホフの密教信者(Selhoff Occultist)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

セルホフの密教信者(Selhoff Occultist)

セルホフの密教信者(Selhoff Occultist)
データベースGathererより引用

セルホフの密教信者(Selhoff Occultist)はカードセット「イニストラード」に収録されたカードだ。ワールドウェイクの翌年2011年9月、イニストラード次元が初登場したこのセットにおいて、MTG史上第2の「密教信者」が現れたのだ。

第3の密教信者

流城の密教信者(Stromkirk Occultist)

流城の密教信者(Stromkirk Occultist)
データベースGathererより引用

流城の密教信者(Stromkirk Occultist)は2016年7月発売のカードセット「異界月」収録だ。またもイニストラード次元が舞台のセットである。

これがMTG史上第3番目の「密教信者」であり、この後に作られたのが今回の新米密教信者となる(つまり第4番目が新米密教信者)。

メモ:流城
余談だが、カード名の「流城」は悪評高い和訳である。

「流城」こと「Stromkirk」は、イニストラードの吸血鬼の家名なのだが、何故か漢字で訳されている。他の家名はマルコフ、ファルケンラス、ヴォルダーレンと、カタカナ音写なのに漢字で「流城」である。洋風の世界観が台無しである。



今後も密教信者は続くのか?

MTG史上の「密教信者」はゼンディカー次元を皮切りに出現して全部で4種類存在している。その後の残り3種類は全てイニストラード次元のものであった。

MTG世界の「密教」は、現実世界の日本での「密教」とは指し示すものが違う、と頭で分かっているのだが。それでも、言葉が抱かせるイメージは強いもので、和風のノイズが被さってきてしまう。

イニストラード次元は洋風ホラーな世界なのだが密教信者カードが3種類と最も多く、次元に来訪するたびに1種類ずつ数を増やしている状況だ。上述した「流城」の件も併せて、イニストラードには和風のノイズが度々出て来ているわけで、今後も増やされていくのだろうか?ホントどうにかしてほしい。

既存カードのカード名を修正することは(これまでのMTGの和訳史を顧みれば)まず無理だ。ゲームのプレイに支障がない限り、言語学的・設定的な正しさで修正されることはない。それは承知している。

けれど将来のカードセットでは訳語の変更をしてもいいのではないか?やるなら早めに正した方がいいと思うのだが…。




さて、最後までお付き合いいただき感謝する。最後が少しネガティブな雰囲気になってしまって申し訳ない。では今回はここまで。

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