本記事は「ファイレクシアの沿革」と題して、MTG史上での「ファイレクシア(Phyrexia)」の変遷を時系列に沿って書き出す内容となる。今回は第6回目だ。
前回はカードセット「テンペスト」を扱ったので、今回はそのまま続けてカードセット「ストロングホールド」そしてラース・サイクルの最後の「エクソダス」まで紹介してしまおう。
※ もともと個人的な覚書を最低限読めるように記事化したものなので、雑で味気ないのはご容赦ください。
ストロングホールド
1998年2月、カードセット「ストロングホールド」ではファイレクシア関係と明示的なカードは1種類あった。それが要塞の監督官(Stronghold Taskmaster)である。
要塞の監督官
“With the completion of each joyous task, we are closer to Yawgmoth’s divine vision.”
–Stronghold architect, journal
楽しい仕事が一つ終わるたびに、われわれはヨーグモフ様1の聖なるお姿に一歩近づく。
–要塞の建築技師の日誌
引用:要塞の監督官(Stronghold Taskmaster)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
この要塞の監督官(Stronghold Taskmaster)はラースの要塞で働く巨人の監督官だ。
フレイバー・テキストは、ラース次元の要塞の建築技師が残した日誌であるが、そこで「ヨーグモス(Yawgmoth)」の名が登場している。
ヨーグモスを崇める者たちはすなわちファイレクシアンのはずだ。要塞を建造した者はファイレクシアンなのだろうか?答えはカードセット外にあった。
ストロングホールド期のDuelist誌付録
カードセット「ストロングホールド」期でもDuelist誌には様々な設定情報やストーリー系記事が毎号掲載されていた。しかし、ラースとファイレクシアンの関わりを示す記述はDuelist本誌内には見当たらない。
そう「本誌内」にはなかった……だが、「付録」の方にこっそりと情報が書かれていたのだ。
実はDuelist誌付録の要塞イラスト・カード2において、ラースの要塞は「古代のファイレクシア建築」だと解説文が記されていたのだ。
ヴォルラスの要塞
The seed of a world’s evil.
世界の邪悪の根元。
引用:ヴォルラスの要塞(Volrath’s Stronghold)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ということで、これでラースの要塞が古代ファイレクシアンによる建造物だったと判明した。戦艦プレデター号と同様に本拠地の要塞もファイレクシアのテクノロジーの産物だったのである。
暗渠を這うもの
“The mountain’s ducts will be like organ pipes, amplifying the glorious roar of the dying.”
–Stronghold architect, journal
山の暗渠はオルガンのパイプのようなものかもしれない。死にゆくものたちの荘厳なる叫び声が増幅されて響く。
–要塞の建設技師の日誌
引用:暗渠を這うもの(Duct Crawler)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
暗渠を這うもの(Duct Crawler)はラースの要塞に住む昆虫の類だ。
和訳の「暗渠(あんきょ)」とは「地下に埋設したり、蓋をした水路」のことだが、原文の「Duct」はいわゆる「ダクト」のことで水路に限らず、通気管など様々な導管を含む言葉である。イラストを見ればこのカードの「ダクト」には水はなく「水路」でないことは明白だ。
フレイバー・テキストの方も、叫び声を増幅して響かせるオルガンのパイプに見立てていることから考えて、水の流れる「暗渠」に限定しない通気管など諸々の「ダクト群」を指すと考えた方が筋が通る。
ラースの要塞は山のカルデラの奥底に建造されており、「山のダクト群」とはこの要塞と周囲の山を巡る管を意味している。ファイレクシアンの建設技師はダクトの意図しない音響効果を日誌に記したというわけだ。
最後にこの虫自体はカード・メカニズム上、ブロックをされなくなる能力を持たされているが、ダクトを住み処として這い回っているために見つかりにくいのだ。
暗渠を這うものもスリヴァーと同様のダクト網に生きる生き物と考えられる。
剃刀の壁
“In this blessed structure let the very walls baptize themselves in the blood of intruders.”
–Stronghold architect, journal
この祝福された建造物の中では、すべての壁に侵入者の血で洗礼を受けさせよう。
–要塞の建設技師の日誌
引用:剃刀の壁(Wall of Razors)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
剃刀の壁(Wall of Razors)は要塞内のどこかにある壁で、短剣のように鋭い刃を持った風車装置が沢山備え付けられている。
フレイバー・テキストでは、ファイレクシアンの建設技師は要塞を「祝福された建造物」と称えて、侵入者の血で壁を洗礼しようと書き残している。
エクソダス
1998年6月、カードセット「エクソダス」にも「ストロングホールド」と同様にヨーグモスに言及するカードが1種類だけだが収録されている。
弱者選別
“The blood of the weak shall be the ink with which we scribe great Yawgmoth’s glorious name.”
–Stronghold architect, journal
弱者の血は、偉大なるヨーグモフ様3の御名を書き記すためのインクになるだろう。
–要塞の建築技師の日誌
引用:弱者選別(Culling the Weak)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
弱者選別(Culling the Weak)のフレイバー・テキストは、「ストロングホールド」の要塞の監督官(Stronghold Taskmaster)と同じく要塞の建築技師の日誌だ。
カード名、カードのメカニズム、フレイバー・テキスト、イラストの全てで、弱者の命を奪ってそれを利用する様が描かれている。この弱者の選別はEncyclopedia Dominiaで語られたファイレクシアンの哲学を換言した同じものに見える。ヨーグモスの名の下に弱者を取り除き、有望な者を完璧への進化へと導く。もしこの哲学がアーティファクトに限らず肉の身体を持つ者にも適用されるとしたら?
また、このカードの描く情景は「エクソダス」現在のもの、つまり今でも弱者選別が行われているのだ。これはファイレクシア哲学が古代から脈々と受け継がれている証拠だったのかもしれない。
種明かしがされた2022年の視点で見れば、このカードは太古の要塞を建造した者だけでなく、現在のラースにもファイレクシアンが存在する可能性を示唆する(ほとんど気付かれることのない)ヒントであったのだろう。実際には要塞の支配者層は昔も当時もファイレクシアンなのだが、この時点ではそこまでハッキリと理解できるはずもなかった。
エクソダス期のDuelist誌
「エクソダス」期のDuelist誌(1998年7月の27号から9月の29号)には何らかのストーリーと設定記事が「一応は」掲載されていたものの、これまでより量も質も急に減退してしまった(その後も最終号まで少ないまま)。
減ってはいたとはいえ、それでもDuelist誌27号のFAQでの2つは注目すべき情報だろう。
その1:ヴォルラスのポータル
1つ目、ヴォルラスは部外者立ち入りを禁じた聖域(inner sanctum)に個人用ポータルを持っていて、それを使ってシッセイを誘拐した。
この回答によって、ヴォルラスが当然持っているはずのポータルの所在位置が明確化された。
その2:ファイレクシアとは何か?
2つ目は、ファイレクシアはカードセットに毎回何らかの形で登場しているが未だに謎に包まれたままだが、正確なところ何者なのか?との問いに対する回答だ。
ファイレクシアンは多元宇宙の第一の悪玉4である。故郷であるファイレクシア次元は恐ろしい場所で、訪問して帰って来れる者はほとんどいない。
大抵のドミナリア人はファイレクシアはキャンプファイアを囲んで話す幽霊話くらいに思っている。ファイレクシアの存在はデーモンのように見え、数々の逸話がある。怪物的で理解不能な機械、肉と金属のクリーチャー、人工的な生き物5の絶え間ない叫び声、そういった逸話だ。
ファイレクシアの謎はいつかは明らかになるが一度に一つずつである。結局のところ、一番の恐怖は得体がしれないことなのだから。
コンティニュイティ部門ピート・ヴェンタースの(Duelist誌上最後の)回答はザックリとこんな内容であった。
FAQ(よくある質問)で取り上げられるほど、定番のファイレクシアって何なの?とファンは疑問に思っていたわけだ。情報は少しずつ明かしていくと焦らされるが、ラース・サイクルで散りばめられた伏線とヒントのピースは分かり難いにもほどがあった、と今でも私はしみじみ感じる。特にカードセットだけでは決して辿り着けないように、真実に至る鍵を方々に隠しておくウィザーズ社の展開はやり過ぎだったのだ。記事も小説もコミックも当時ほとんどのユーザーは見なかったのだから。
さいごに
以上でラース・サイクルのカードセットを全て取り上げ終わった。
次回はラース・サイクルの設定集とコミック、小説を取り上げる(予定)。1996年いっぱいで展開が打ち切られたハーパープリズム小説シリーズとアルマダコミック・シリーズに代わって、1998年には新たなラインが誕生していたのだが、一体どんなものだったのだろうか……。→次回その7へ
では今回はここまで。