本記事は「ファイレクシアの沿革」と題して、MTG史上での「ファイレクシア(Phyrexia)」の変遷を時系列に沿って書き出す内容となる。今回は第7回目だ。
前回まででカードセット「エクソダス」までラース・サイクルのカードセットを全て取り上げ終わったので、本記事ではラース・サイクルのコミック「Gerrard’s Quest」を取り上げよう。
※ もともと個人的な覚書を最低限読めるように記事化したものなので、雑で味気ないのはご容赦ください。
Gerrard’s Quest
「Gerrard’s Quest」はダークホース・コミックスから発行された全4巻のコミックである(4話が1つになった合本版も出版された)。
ウェザーライト・サーガの主人公ジェラード・キャパシェンの活躍を描くこの作品は、カードセットでは「テンペスト」と「ストロングホールド」の物語を扱っている(「ウェザーライト」と「エクソダス」はなし)。
さらにカードセットの範囲外となる過去回想がかなり多いことも特徴だ。過去回想はジェラードの少年時代からウェザーライト号を一旦降りることになった3年前の事件まで幅が広い。
Gerrard’s Questの各話概要
第1話:Initiation
第1話:Initiationはカードセット「テンペスト」の開始直後からプレデター号との遭遇戦の間に、ジェラードが過去を回想する。1998年3月作品。
第1話は大部分が過去回想である。時系列は「テンペスト」の3年前1、ウェザーライト号の乗組員クロウヴァクスの実家がラースという謎の勢力に攻撃され、ウェザーライト号が急行して戦闘した。この一連の事件を描くものだ。
クロウヴァクスの父親が戦死。クロウヴァクスは天使セレニアを解放したが、彼女は不本意ながらもラース次元に消え去ってしまった。この事件でクロウヴァクスは船を降りて実家に残ることにした。
また、この戦いでウェザーライト号乗組員ロフェロスが死亡し、ラースの者がジェラードの名を口にしたことから、ジェラードは自分(と「レガシー」)のせいでロフェロス(と実際にはクロウヴァクスの家も)が巻き込まれたと認識した。ジェラードはそれでも「レガシー」に執着するシッセイ艦長と仲違いして船を去った。ミリーもまたロフェロスの遺体を故郷のラノワールに送り届けるために船を降りた。
この第1話の最後に回想から現在に戻ってプレデター号との遭遇で終了となる。
実際はラースはファイレクシア勢力なのだがそれは読んでも分からない。
第2話:Legacy
第2話:Legacyはストーリーはカードセット「テンペスト」の最初から途中までの範囲だ。1998年4月作品。
「テンペスト」のストーリーの始まりであるウェザーライト号とプレデター号との戦闘が描かれる。プレデター号はウェザーライト号から「レガシー」を略奪すると引き上げていき、カーンとターンガースも敵の捕虜となった。ジェラードは戦闘中に船から転落して行方不明になったが、スカイシュラウドの森に着地し一命をとりとめていた。
この本筋の途中でジェラードの過去回想が挿入され、結構なボリュームで語られる。ジェラード、ミリー、ロフェロスの3人組はシッセイ艦長にスカウトされて乗組員となった。ジェラードはシッセイから「レガシー」の継承者としての自覚を促されるも反発した。酒場でターンガースら古株乗組員らと親交を深めた。
過去回想でシッセイ艦長はジェラードに語った台詞の中で1度だけファイレクシアに言及する。ファイレクシア勢力とウェザーライト号は争っており、ジェラードも狙われている、と示唆する発言であった。
ラース・サイクル開始以前の情報で、ファイレクシアンはアーティファクトを奪ってファイレクシアに持ち帰り、破壊するとの描かれ方をしていた。実際には破壊するだけではなく、有望なものは完璧に向けた進化を促すのが実態だった、とここまでが判明済みだ。(ファイレクシアの沿革その3を参照)
シッセイが収集している「レガシー」もアーティファクトの集まりであるので、ファイレクシアが「レガシー」とその継承者ジェラードを標的とするのは十分に筋が通っている。
この第2話のシッセイの一言だけでは、ラースとファイレクシアが同一勢力だとまで踏み込める内容ではなかった。
ちなみにファイレクシアの言及は、このコミックシリーズでは第2話のこれだけとなるが、一応第3‐4話の解説も最後まで続ける。
第3話:Crucible
第3話:Crucibleはカードセット「テンペスト」の途中からカードセット「ストロングホールド」の途中までの範囲。1998年5月作品。
ジェラードらはヴェク族やスカイシュラウド・エルフなどの要塞に対抗するラース住人と協力関係を結び、ウェザーライト号で要塞内に侵入してカーンとターンガースを救出した。クロウヴァクスはやむを得ず自分の手で愛するセレニアの命を奪った。
このコミックシリーズでは珍しく過去回想が全くない。
第1話と同様で読み取れない。
第4話:Destiny
第4話:Destinyはカードセット「ストロングホールド」の残りから最後までの範囲。1998年9月作品。
ジェラードとスタークは要塞内部の探索を続け、残りの負傷者を含む者たちは船に帰還する。ジェラードらはヴォルラスに対峙し、精神支配を受けたシッセイ艦長とスタークの娘タカラと戦うことになった。娘タカラの一撃を受けてスタークは失明。ジェラードがヴォルラスを追い詰めて倒すも、それはシェイプシフターが化けた偽者であった。しかし、精神支配が解けたシッセイとタカラを救出できた。
今話でも途中で過去回想がある。要塞内の「ドリーム・ホール」においてジェラードはヴォルラス(Volrath)の過去を見せられることになった。ジェラードは義理の兄ヴュエル(Vuel)の視点からどのように義弟の自分を憎み、現在のラース次元の支配者エヴィンカーへと至ったのかを知ることになった。
ラース・サイクルの物語はまだ途中なのだがここまで語ってコミックは終了である。タイトルが「Gerrard’s Quest」つまり「ジェラードの探求」なのだから、ジェラードの人生を粗方振り返って、宿敵ヴォルラスとの過去からの因縁もつまびらかにできた、ゆえに終劇、なのだろう。個人的には中途半端でもやもやとした読後感が残るシリーズだった。
1話3話と同様。
おまけ:Gerrard’s Questの誤解
この節はファイレクシアとは全く無関係な雑談だ。コミックの内容のよくある(あった)誤認識について書き残しておきたい。
「Gerrard’s Quest」の過去回想は、ラース・サイクルの開始より前のエピソードである点には注意が必要である。つまり、カードセット「ウェザーライト」よりも昔の話なのだ。
しかし、これを誤読している人々を私はたびたび目にしてきた。具体的に言うと、3年前の過去回想でジェラードの友人ロフェロスが死亡する事件が描かれているのだが、この件をカードセット「ウェザーライト」の出来事だと勘違いしてしまった人たちがいたのだ。
3年前と現在の事件をどうして取り違えてしまうのか?理由は想像できる。そのどちらも「クロウヴァクスの実家をガロウブレイドとモリンフェンが襲う」という大まかなシチュエーションが一緒だからだ。
日本においては、この誤読による時系列の混乱は雑誌記事で拡散されたと思われる。ラース・サイクルの展開より少し後に、日本の雑誌「ゲームぎゃざ」においてMTGのストーリーを解説する連載記事「ドミニア年代記」が始まった。その第2回記事で、カードセット「ウェザーライト」現在でのアーボーグの出来事としてロフェロスの死が語られていた。2日本のwikiとかコミュニティでよく事実誤認しているのを見かけたのは、この雑誌記事によるものが大きいと私は睨んでいる。
ロフェロスの死が具体的な物語で描写されたのは、このコミック「Gerrard’s Quest」だけであった。他の雑誌記事やら短編集Rath and Stormやらでは過去の出来事として簡単に語られたのみ。だから、ロフェロスの死を誤って捉えてしまう原因となりそうな公式ソースはこのコミック以外には思い当たらない。
さいごに
前回第6回目から大分間が空いてしまった。理由は簡単に言えば調査に手間取っていたからだ。
ラース・サイクルは調査するほどに新たな発見があった。ウェザーライト・サーガの展開当時には無かった記事もたくさん掘り出して調べることができ、個人的には大きな収穫が得られたのだが、結局のところラース・サイクル当時にファイレクシアとラースをイコールで結べる情報は短編集Rath and Storm(次回紹介予定)の他には存在しないという確信を深めただけだった。
結果としては調査に手間取り、大変な時間がかかってしまったものの、当時のファイレクシアに関する新たな情報は無かったわけだ。が、ファイレクシア以外の収穫は十分にあったと手応えは感じている。いつか役に立つことがあるだろう。
次回は短編集Rath and Stormを取り上げる予定だ。→次回その8へ。
では今回はここまで。