ラース次元のサラカス(Thalakos)について解説する。
前回までにラース次元の種族の起源と、シャドー・クリーチャーのダウスィーについて取り上げた。今回はシャドー・クリーチャーでもっとも情報が少ないサラカス(Thalakos)を特集する。
サラカスの解説
サラカス(Thalakos)はドミナリア次元出身の人型種族で、ラース次元において次元の狭間に捕らわれ影のような半実体の姿となっていた。
ドミナリアにおいてサルタリー(Soltari)とダウスィー(Dauthi)という2種族の戦争が勃発した際、サラカスは両者の中間に位置していたために、否応なく戦争に巻き込まれてしまった。さらに不運なことに、戦争が頂点を迎えたとき、ファイレクシア人の次元転移の失敗によって、3種族はラースの次元の狭間に引き込まれた(AR3210-3285年頃と推定)。それ以来、幽霊のような影となった3種族は終わりの見えない戦いを続けていくことになった。
ドミナリアに生存者のいるダウスィーと違って、サラカスとサルタリーは全てラースに転移しておりドミナリアには残されていない。それが2種族が故郷へ帰還する想いを繋ぐ理由である。しかし、サラカスはサルタリーのような心の支えとなる強固な信仰も社会基盤も持たなかったため、AR4205年現在、種族全体が狂気に蝕まれつつあった。
ゲーム上のサラカス
サラカスのゲーム的なデータをピックアップする。
サラカスは…
- テンペスト・ブロックに収録されたシャドー能力を持つ青に属するクリーチャーである。
- カード名に「サラカス」を冠する。
- クリーチャー・タイプ「サラカス」を持つ。
- 全部で7種類しかいない。
現在、サラカスのクリーチャー・カードはクリーチャー・タイプ「サラカス」を持っている。この「サラカス」というタイプは後付けである。1997-1998年のテンペスト・ブロック当時にはクリーチャー・タイプ「サラカス」はまだ存在してなく、2007年時に新設されたものだ。
設定上、サラカスはラースにしか生存していないので、新たにカードが作られる可能性は低そうだ。
サラカスの外見的特徴
サラカスの外見は各種カード・イラストを見ると、見事に統一感が欠如している。
人間に近い姿もあれば…
サルタリーにように無毛でのっぺりした姿もあれば…
ダウスィーのように漆黒で現実離れした異形の怪物もある。
他にも半透明や霧状の形態を持つサラカスがいる。
以上のようにてんでバラバラなのである。サラカス・クリーチャーは7種類しかいないのに。
シャドー・クリーチャーは次元の狭間に捕らわれ半実体となったことが原因で、姿が変異してしまっている1。半透明や霧状の形態、異形化はそのためだ。しかし、同じシャドー・クリーチャーでもサルタリーにはサルタリーらしさが、ダウスィーにはダウスィーらしさがそれぞれある。だがサラカスだけは違う。
なぜサラカスにはこれほど多様性があるのか?
まるでサラカスが複数の種族で構成された集団のように思えてならない。…いや実際そうなんじゃないだろうか?
私の考えは「サラカスは人間とサルタリー(ひょっとするとダウスィーも含んだ)による多種族国家であった」という仮説である。
公式情報を漁って調査をしたがサラカスに関する記述はほとんど見つからず、種族の多様性を説明する資料は発見できなかった。お手上げだ。だから、仮説だけここに放っておくことにする。
サラカスの収録セット・登場作品・キャラクター
サラカスはテンペストブロックの3つのカードセット「テンペスト」、「ストロングホールド」、「エクソダス」に登場する。
テンペスト・ブロックの公式記事A Dark Corner of the Multiverse(Duelist誌#20)ではサラカスを含む3種族の歴史と現状、サラカスとサルタリーの生存者がドミナリアに残っていないことが語られた。設定集アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-でも3種族の1つとして解説がされているが、サルタリーやダウスィーの項目のついで扱いである。短編集Rath and Storm
では、サラカスはサルタリーとダウスィーの終わらない戦争に巻き込まれた種族としか言及されていない。
シャドー・クリーチャー3種族のうち物語で活躍するのはサルタリーだけで、サラカスとダウスィーには物語上では何の役割も担わされていない。だが、ダウスィーはサルタリーと主体的に戦争を行っている「敵役」という性格付けが押し出されている。それに比べて、サラカスは中途半端で、サルタリーとダウスィーの間で揺さぶられ続ける「中間」の存在でしかない。
当然、サラカスには名前があるようなキャラクターは登場していない。関連カードも3種族中で最も少ない。
サラカスのカード
カード化されたサラカスと、サラカスに関するカードについて、1枚ずつコメントを入れて解説をしていこう。
サラカスの低地
サラカスの低地(Thalakos Lowlands)はラース次元の地形である。
設定集アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-では、シャドー・クリーチャーはラース次元の峡谷や森に住み着いている、とある。しかし、サラカスの場合はこういった低地の水辺を好んでいるのだろう。
もしかするとサラカスの低地はファイレクシアの次元転移によって、ドミナリア次元からはぎ取られたサラカスの故郷の一部なのかもしれない。
サラカスの歩哨
“Ill luck and poor geography caught the Thalakos between us and the Dauthi.”
–Lyna, Soltari emissary
運も悪かったし、地形のせいもあって、サラカスは我々とダウスィーの間に挟まれて出られなくなったのです。
–サルタリーの使者、ライナ
引用:サラカスの歩哨(Thalakos Sentry)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
サラカスの歩哨(Thalakos Sentry)はサラカスの兵士である。フレイバー・テキストでは、ドミナリア次元でサルタリー・ダウスィー間の戦争に巻き込まれた事情が語られている。
サラカスのミストフォーク
“They are ‘between’ in every way.”
–Lyna, Soltari emissary
彼らはとにかく’中間’なんです。あらゆる意味においてね。
–サルタリーの密使、ライナ
引用:サラカスのミストフォーク(Thalakos Mistfolk)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
サラカスのミストフォーク(Thalakos Mistfolk)のフレイバー・テキストでは、「あらゆる意味において中間」というサラカスの本質を突いている。
「中間」とは、サルタリーとダウスィーの戦争に巻き込まれた地形的な事情がもちろん第一に挙げられる。正気のサルタリーと狂気のダウスィーと比べても、サラカスは狂気に蝕まれつつある「中間」の状態である。そしてゲーム上の色の順番でも「中間」であり、白のサルタリーと黒のダウスィーの間に、青のサラカスが挟まれている。
また、このカードのメカニズムは戦場からライブラリーの上へと戻る効果であるが、こうして実体ある世界に現れたり消えたりさまよう様も「中間」にあると言えるだろう。
サラカスの斥候
サラカスの斥候(Thalakos Scout)はサラカスの兵士だ。上述のサラカスの歩哨(Thalakos Sentry)とよく似たのっぺりした姿で、サルタリー的である。
個人的には、テキスト欄に余裕があるのにフレイバー・テキストが書かれていないことが不満なカードである。
サラカスの流れ者
They drift in and out of shadow and ever on toward madness.
彼らは漂いながらシャドーの中へ入ったり出たりして、だんだん狂気に陥っていく。
引用:サラカスの流れ者(Thalakos Drifters)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
サラカスの流れ者(Thalakos Drifters)は半実体と実体の世界を行き来するサラカスである。「流れ者」と和訳されたカード名の「Drifter」は「漂流者・放浪者」の意。カードのメカニズムとフレイバー・テキストの両方で、シャドーの世界を出入りして漂う様が表されている。
また、このカードのフレイバー・テキストは、狂気に陥りつつあるサラカスという種族の状況についても言及している。
半実体と実体の世界をふらふらと漂うフレイバーは、サラカスの「あらゆる意味において中間である」性格を体現していると言えそうだ。
サラカスの予見者
“You see our world when you shut your eyes so tightly that tiny shapes float before them.”
–Lyna, to Ertai
私たちの世界を見たいなら、目をきつく閉じてみてください。目の中で小さな形がたくさん浮いているように見えるまできつく……。
–ライナからアーテイへ
引用:サラカスの予見者(Thalakos Seer)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
サラカスの予見者(Thalakos Seer)はクリーチャー・タイプは「ウィザード」すなわち「魔術師」である。
カード・イラストのサラカスの女性は、左の前腕には口が、右の掌には赤い目がある異形で、影のような漆黒の姿である。他のサラカスよりもダウスィーの方がよっぽど似ている。このイラストは一番狂気を感じるサラカスだ。
「予見者」と訳された「Seer」は「先を見る者、予言者」といった意味も持つ言葉で、このカードのメカニズム上ではカードを1枚引くという利得で表現されている。ただし、その条件は予見者が戦場を離れたときなので、多くの場合で予見者の死と引き換えにカードを引くことになる。
先を見る能力持つ魔術師が救いのない種族の未来を見て、狂ってしまったか。
サラカスの夢まき
サラカスの夢まき(Thalakos Dreamsower)はサラカスの魔術師である。
カード名の「夢まき」の意味は、原文が「dream(夢)」+「sower(種をまく人)」なので、夢という種をまく魔術師くらいの意味合いだ。カードのメカニズムの方は、条件を満たすと対象をタップしたままで固定するような能力を持っている。MTGにおいて、タップさせる効果はしばしば「眠り」に結び付けられる。夢の種をまく魔術師という名前通りに、相手を目覚めぬ夢の世界へと誘うのだ。
サラカスの詐欺師
サラカスの詐欺師(Thalakos Deceiver)も前述の夢まきと同じくサラカスの魔術師であるが、操る魔法の種類はだいぶ違う。
カードのメカニズムに注目すると、条件を満たすと自分自身を生け贄にする代わりに、対象クリーチャーのコントロールを奪取してしまう。自分の命と引き換えに支配する魔法を放つとでもいうのだろうか?カード・イラストを見たところ、そうではなさそうだ。
イラストでは、半実体の霧のようなサラカスが犠牲者の身体にまといつき、鼻や口、耳の穴から侵入している様子が分かる。サラカスの詐欺師の魔法は相手の身体に入り込んで乗っ取ってしまうものだろう。見かけ上は残ったのは1人だがサラカスはその中で生きているのだ。
マナ切り離し
“And when this land is wasted, where will we go?”
–Thalakos lament
して、この土地が荒れ果てるとき、我らはいずこへ行く?
–サラカスの哀歌
引用:マナ切り離し(Mana Severance)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
マナ切り離し(Mana Severance)はフレイバー・テキストが「サラカスの哀歌」だ。サラカス自身による唯一のコメントになる。また「哀歌」を持つことから、サラカスが文化を有している証拠になる。一方、ダウスィーには自身によるコメントも歌のどちらも存在してないので、サラカスの扱いがダウスィーの優位に立てる唯一のカードともいえる。
フレイバー・テキスト内容は、ラースの土地が荒廃し果てた末にはサラカスはどこに行くのか、という問い掛けだ。ドミナリア次元の故郷を強制的に追われ、ラースの次元の狭間で閉塞感と絶望から正気を失っていく。種族の将来は?
ではラース次元のサラカスはその後どうなったのだろうか?この問いの答えはダウスィーと同じなのでこちらを参照のこと。
今回はここまで。
サラカスの関連記事
ラース次元の人型種族の起源を探る

ラース次元のダウスィー種族の検証記事

ドミナリア次元のダウスィー種族の検証記事
