変成(Transmutation)はカードセット「レジェンド」で収録されたインスタント・カードである。
今回も初期MTGのカードにまつわるストーリーを取り上げよう。
変成の解説
変成(Transmutation)は、ターン終了時まで、対象のクリーチャーのパワーとタフネスの値を入れ替える効果を持っている。この種の入れ替え効果はこのカードが初出であったが、以後は黒ではなく青と赤に割り振られていった。
イラストに着目すると、女性の左腕の半ばから先端までが、甲殻類や昆虫めいたゴツゴツとした外骨格状へと変えられている。イラストの奥には、この魔法をかけている術者がいる。女性は額から2本の触覚が突き出て、背中には透明な昆虫風の羽根も生えている。耳の尖り具合からエルフ、あるいはフェアリーのような種族であろう。
私個人としては、このイラストは「エルフが魔法をかけられ、体の各部が昆虫化する変身の途中段階」との解釈を支持したい。
カード名の方は、「変成」と訳された原語は「Transmutation」である。この単語は「何かの形や中身や性質を変えること」を指し、「変化・変形・変質・変性・変成・変換」などの意味に訳される。
以上を併せて考えると、このカードは対象を強制変身させる魔法の類だと分かる。パワーとタフネスの値を入れ替えを変身と見做したカード・デザインなのだ。
変成のフレイバー・テキスト
“You know what I was,/ You see what I am: change me, change me”
–Randall Jarrell, The Woman at the Washington Zoo
わたしの昔を、あなたは知ってる。
わたしの今を、あなたは見ている。
変えて。わたしを変えて!
–ランドール・ジャラル「ワシントン動物園の女」
引用:変成(Transmutation)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
変成(Transmutation)のフレイバー・テキストは、アメリカの作家ランダル・ジャレル1(Randall Jarrell)の詩集「The Woman at the Washington Zoo」からの引用である。
文章の雰囲気はカードに合致するものの、これはMTG世界とは無関係である。
ちなみに、「レジェンド」初出時はフレイバー・テキストの発言者の部分が「Randall」だけであった。それがカードセット「クロニクル」再録バージョンにおいて、フルネームかつ引用元作品名まで加わった「Randall Jarrell, The Woman at the Washington Zoo」に差し代わった。
変成のストーリー
MTGのようなファンタジーを舞台にしたゲームや小説、漫画では、変身させる魔法・特殊能力・呪いはお馴染みのものだ。MTGにおいても、この変成の他にも変身を扱ったカードは数多い。つまり、MTGのストーリー作品内において、もし変身の描写があったとしても必ずしもこの「変成」カードを示しているとは言えないのである。
ただし、カードセット「レジェンド」をベースとした作品内に限定すると話は違う。このカードを意識している可能性は十分にある。
そこでレジェンドサイクル1と2の、2つの小説三部作を調査してみると、なんと両方で昆虫へと強制変身させる場面が確認できたのである。変身後が「昆虫」である点から、この「変成」カードをモチーフにした描写であると断定していいだろう。
レジェンドサイクル1小説三部作
レジェンドサイクル1小説三部作はAR3334-3336年のドミナリア次元西ジャムーラ亜大陸の南方地域が舞台である。
この三部作を通した巨悪キャラクター、ティラス皇帝ヨハン(Johan)が変成カードのような魔法を使う場面がある。
ヨハンの昆虫化魔法
ヨハンは数世紀を生きた魔術師で数々の魔法を行使するのだが、小説三部作の再序盤で犠牲者を昆虫へと変える魔法をかけたのである。
石工ら3人が南東の港湾都市ヤーコイから遥々仕事を求めて、山岳都市ティラスにやって来た。だが、ここは皇帝ヨハンが暴政を敷く街だ。3人は密偵の嫌疑を受けて拘束され、皇帝ヨハン直々の尋問を受けることになった。
ヨハンは、そのうちの1人に対して魔法をかけて昆虫に変えた後、窓から放り出して殺してしまう。ヨハンは尋問で罪なき民人3人の命を次々と奪ってしまうのであった。
この場面で注目すべき点は、昆虫変身は「変成」のイラストと同様に、まず腕から先に変化が始まったところだ。変成カードをモチーフにしたまさにそのものな場面であろう。
ヨハンの変身魔法
レジェンドサイクル1には他にも該当部がある。
ヨハンはイラストを見ての通り、顔中に刺青をし、巨大な角を生やしており、見間違えようのない威容を誇っている。だが、ヨハンには魔法の術があるため、必要とあらば普通の人間の姿に化けて自由に行動ができるのである。
例えば、一般士官として自分の軍に紛れて前線まで赴いたり、素性を偽って敵地に潜入したり、下級魔法使いの人間の振りをしてジェディット・オジャネン(Jedit Ojanen)を騙して手下に取り込もうとしたり、といった場面がある。
さらに、小説Jeditでは、ヨハンは騙したジェディットを刺客としてロバラン傭兵団(Robaran Mercenaries)へと嗾ける件がある2。そこで、魔法をジェディットにかけて北方の蛮人3の姿へと変身させるのだ。この魔法の場面で、「Shapeshifting and transmutation(変身と変成)」と表現している箇所がある。そう、カード名と同じ「変成(Transmutation)」なのだ。
ヨハン自身の変装魔法やジェディットにかけた変身、どちらも「変成」カードと同類の魔法なのであろう。
ヨハンと変成の比較
最後にヨハンと変成のカードの色を比較してみよう。
ヨハンのカードの色は赤緑白の3色で、変成の黒とは一切被っていないことが分かる。
赤緑白のキャラクターが黒の能力を用いる。これはおかしなことではある。けれど、作中の皇帝ヨハンは大魔術師として色に関係なさそうな多種多様な魔法を行使している。
こうした無頓着さはレジェンドサイクル1では珍しいことではない。元カードの色を越境した描写はヨハンに限らず頻繁に見られるものであった。
次はレジェンドサイクル2のエピソードを紹介しよう。
レジェンドサイクル2小説三部作
レジェンドサイクル2小説三部作はAR3607年のドミナリア次元マダラ帝国が舞台である。
こちらの三部作では、ジラ・エリアン(Xira Arien)が犠牲者を昆虫へと変化させる特殊能力を披露していた。ジラは蜂系人型種族ユーミディアンであり、幼虫を寄生させた相手を昆虫人に変えてしまえるのである。
ケイ・タカハシの災難
作中では、主人公の梅澤哲雄(Tetsuo Umezawa)に仕える若者、ケイ・タカハシ(Kei Takahashi)がジラの能力の犠牲となってしまった。
体内に寄生したユーミディアンの幼虫は、ケイの肉体を昆虫人へと変異させていった。
哲雄は、ケイの治療法を探したものの発見できなかったが、最終的には瞑想領土次元を利用して、ケイの変異を止めて幼虫を排除することに成功したのである。
しかし、半昆虫化したケイの変貌は治療することは叶わず、その上、肉体的にだけでなく精神にも影響を残したのであった。
ジラ・エリアンと変成の比較
ではヨハンの時と同じように、ジラと変成のカードを比較してみよう。
「変成」カードのイラストでは魔法をかけて昆虫化させている。一方、ジラは犠牲者への幼虫の寄生である。手段の点で、変成とジラ・エリアンには食い違いがある。ただし、カードがストーリーで登場する際、必ずしもイラストそのままの状況で描写されるわけではないし、アレンジが加わるのもMTGストーリー作品ではよくあることだ。
それに、ジラ・エリアンの色は黒赤緑の3色なので、黒の変成に似た力を使えるのは筋が通っている。レジェンドサイクル2ではキャラクターのネタ元カードの色になるべく準ずる形で、その人物が使う魔法や能力として他のカードが選択されていた。
以上から、変成をもとにして蜂系人型種族ユーミディアンの寄生能力が創作されたと私には思えてならない。
黄金の一刺し、ジラ
最後に余談だが、ジラ・エリアンはカードセット「団結のドミナリア」で2度目のカード化がされていた。この時リデザインされたのが黄金の一刺し、ジラ(Xira, the Golden Sting)だ。
ジラには「攻撃するたびに対象に卵カウンターを置き、その犠牲者が死亡すると昆虫トークンが生成され、カードが引ける」といったメカニズムが実装されている。明らかに、レジェンドサイクル2の描写の再現デザインに仕上がっている。
さいごに
カードセット「レジェンド」のカードをまた1つ記事にできた。本記事で取り上げた「変成」は、2つのレジェンドサイクル小説三部作の両方で描かれていた。
レジェンドサイクル1のヨハンは自分の色とは違う黒の「変成」を魔法としてかけていた。他方、レジェンドサイクル2ではジラ・エリアンが自分の色と被る「変成」を幼虫の寄生という手段で用いていた。
どちらも同じ「レジェンド」を基盤にした創作であるのに、作劇方針の違いがこうして見えてくるのが実に面白い。
また近い内に「レジェンド」関連の記事を書きたいと思っている。
では、今回はここまで。
変成の関連記事
カードセット「レジェンド」関連のリスト