団結のドミナリア:ストーリー第3話

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カードセット「団結のドミナリア」の連載ストーリー第3話の雑感を記す。

前回まで第1話第2話の雑感

団結のドミナリア:ストーリー第1話
カードセット「団結のドミナリア」の連載ストーリー第1回「闇のこだま(Echoes in the Dark)」の雑感。
団結のドミナリア:ストーリー第2話
カードセット「団結のドミナリア」の連載ストーリー第2回「砂時計の砂粒(Sand in the Hourglass)」の雑感。

追記(2022年8月22日):雑感を大幅に書き足して、記事を完成させた。

第3話公式リンク

Episode 3: The Locked Tower

Episode 3: The Locked Tower
Karn, Teferi, Stenn, Jaya, and Jodah have escaped the chaos of the diplomatic summit to a watchtower in New Argive, but are they really safe when one of them mi...

メインストーリー第3話:封鎖された塔にて

メインストーリー第3話:封鎖された塔にて|読み物|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト
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第3話雑感

第3話を読んでの雑感を思いつくままにザックリと書き記していく。

基本の方針は前回第1話の雑感と同じ

第3話の舞台

連載ストーリー第3話の舞台
ドミナリア世界地図

物語の舞台はテリシア地方新アルガイヴの首都アーギヴィーア(Argivia)の監視塔だ。封鎖状態なので、物語は塔内部だけで進行する。

アーギヴィーアの位置は地図上に赤字で記している。

アーギヴィーア以外の地図に青文字で記載した地名は、カーンがゴーゴスの酒杯の隠し場所として、他の登場人物に打ち明けた嘘の地名である。西から東に順番に、トレイリア西部(Tolaria West)エスターク(Estark)スークアタ(Suq’Ata)トロウケア(Trokair)の4か所だ。

この内、サーペイディア大陸のトロウケアの廃墟の位置だけがハッキリとは分かっていない。トロウケアは、暗黒時代に滅んだアイケイシアという国の主要都市の1つであった。アイケイシアはサーペイディア中央に東西に広がる平地を支配していたので、トロウケアはこの平地のどこかに存在していると考えられる。私個人の意見としては、トロウケアはおそらくアイケイシアのかなり西に位置していたとみている。

5人の登場人物

監視塔の5人

監視塔の5人
連載ストーリー第3話より引用

今回の登場人物は総勢5人、カーン(Karn)ジョダー(Jodah)ヤヤ(Jaya)テフェリー(Teferi)そしてステン(Stenn)である(それぞれのプロフィールは前回までを参照のこと)。

この中にファイレクシアの潜伏工作員となった裏切り者がいるかもしれない。しかも、塔内には分裂したファイレクシアの怪物がそこかしこに潜んで隙を伺っている。

監視塔は封鎖され誰も外には出られない。この封鎖を解く鍵は、ファイレクシアに耐性のあるカーンが所持している。だが、潜伏工作員の正体を暴いて危険を排除するか、皆の潔白が証明されるまでは、監視塔の封鎖は解かれはしないのだ。

こうして、閉鎖空間でファイレクシアン捜しが始まった。5人のうち誰がファイレクシアの潜伏工作員なのだろうか?

遊星からの物体X

今回のストーリー概要からかなり多くの人が連想するのが映画「遊星からの物体X(The Thing)」であろう。

誰が怪物にすり替わっているのか分からない。隣にいる友人の身体がいきなり弾けて異形の怪物と化して襲ってくるかもしれない恐怖。あるいは、ファイレクシアンとなった当の本人すら自覚できていない可能性もある。そして襲われたなら、次は自分も怪物に取り込まれてしまうかもしれない。危険と緊張が重くのしかかり、仲間への信頼も疑わざるをえない。

敵を探さねば…でも隣の友人が乗っ取られているかも!?どきどきハラハラする感じがそっくりじゃないか?

その上、潜伏工作員がファイレクシアンの正体を現す描写は、身体がぱっくり裂けたり弾けたりして内側からグロい異形な部位が飛び出してくるといった雰囲気だ。前回第2話でもそうだったのだが、過去のストーリー作品よりも「遊星からの物体X」を強く意識していると感じさせるものとなっている。

ジョダーとヤヤの会話

ジョダーとヤヤ

ジョダーとヤヤ
連載ストーリー第3話より引用

“Oh, so you’re assuming your way is the only way to do this? Remind you of anyone?
“Jaya, it’s not like—
“Go on.” Jaya’s laugh rang. “Protest some more. That’ll really make your case.
「おや、つまりあんたのやり方だけが唯一のやり方だって言いたいのかい? よりによってあんたが?
「ヤヤ、そういうのではなく――
「続けな」 ヤヤの笑い声が響いた。「もっと愚痴を言うがいいよ。あんたの本心をね
引用:上がEpisode 3: The Locked Tower、下が公式和訳版メインストーリー第3話:封鎖された塔にて

この和訳作文では、話の要点がぼんやりとぼかされている上に、翻訳担当陣の解釈が押し込められていると感じた。曖昧で、殊更にぼかして、読者を惑わせるような文の流れがよくない。

言い回しの意味を確認

「remind someone of …」で「人に…を思い起こす」だから、ヤヤの「Remind you of anyone?」は「ジョダーに誰かのことを思い起こさせないか?」と問うている。自分のやり方しか認めないやり様は「誰かさんを思い出さないかい?」と、2人にはそれで通じる特定の「誰か」が居ることを前提に会話しているのだ。その人物はジョダーの先祖「ウルザ」であることは、この第3話を通して読めば明白だ。ヤヤの「よりによってあんたが?」という言い方では「あなたがそんなことを言うなんて全くらしくない」という意味合いに過ぎず、原文にある「今のジョダーは(独善的でワンマンプレイヤーな)先祖のウルザみたいだ」という警告の含みが主であるとまでは読み取れなくなっている。

次に「it’s not like …」は「…というわけではない」と日常会話でよく出る言い回しだ。公式和訳版の「そういうのではなく――」は「it’s not like—」の訳としては合っている。ヤヤに、ジョダーのやり方が唯一の正解だと思ってるのでは?ウルザに似てない?と言われたため、「そうじゃない」と返答しているのだ。

「もっと愚痴を言うがいいよ。」と置き換えられた該当部は「Protest some more.」なので「もう少し抗議してみろ・異議を唱えてみろ」だ。つまり公式和訳版では、否定をしてもいいけれど、それはあらかじめ「愚痴だ」と切って捨てている風に解釈を込めて作文している。

そして「あんたの本心をね」の方は「That’ll really make your case.」である。「make one’s case」は「順序立てて言い分を述べる」とか「証拠を上げて正しさを証明する」といった意味合い。したがって、「ジョダーがもう少しばかり異議を唱え、理屈立てて主張をすればきっと正しさを証明できるだろう」とそんな含みだ。これに対して、公式和訳版は「『本心』を隠してるんだろ、それを曝け出せ」と迫っているし、直前の文を受ければその「本心」とは「愚痴」に過ぎないと言わんばかりなのだ。

改めて公式和訳版の流れを見直せば、ヤヤはジョダーに対して、「よりにもよってあんたが?(全くあんたらしくない)」と批判するがそう言うだけ言って、ジョダーの言い分は言わせず、愚痴だ、それが本心だろと断じて煽るだけ、取りつくしまもない。これじゃ、ジョダーとヤヤの2人の感情的な痴話げんかみたいに置き換わってる、そう感じやしないだろうか?

私の解釈

「あら、自分のやり方が唯一正しいって言うんだね?誰かさんにそっくりじゃない?」
「ヤヤ、私は似てなんか……」
「どうぞどうぞ。」ヤヤの笑いが響いた。「もっと異議を唱えなよ。そうやって理屈立てて主張を通しなさいな。」

私個人の解釈で日本語化してみたものがこれだ。こっちも、公式和訳版と比べても相当に解釈を込めて意訳しているので、あらかじめ注意されたい。

ヤヤには、現在のジョダーは自分のやり方しか認めないように見えており、それがジョダーの先祖のウルザを思い起こさせるものだった。ヤヤから皮肉めいた言い方で指摘されたジョダーはそうじゃないと抗議し始めたものの、言い終らない内にヤヤが割って入る。異議を唱えて、理屈立てて主張をすればジョダーの正しさは通せるだろう、と。だが、そういった在り様はまさに先祖のウルザそっくりだという証明になるのではないか?

このやり取りはカーンとテフェリーが盗み聞きしていたもので、ここまででジョダーとヤヤの声は遠ざかって聞こえなくなってしまう。ジョダーはウルザと同じになるぞと言われて二の句を継げなくなったのかもしれないし、あるいは、まだこの件で言い合いし続けたかもしれない。

私はこのように読んだ。独自の解釈も差し込まれているだろう。ただ少なくとも、ヤヤがジョダーにウルザを思い起こして顧みろ、と原文でも示唆していることだけは明らかなのだ。ここだけはぼかして作文してはいけない。ここで前振りされたジョダーがウルザに似てきたという流れは、第3話の最後まで繋がっているのだから。



ジョダーとカーンの会話

“Recently, the way you offer advice has reminded me of Urza.”
“Ah, and I, the ancient, wise, and powerful wizard . . . may have grown arrogant over the eras.” Jodah pressed his hands into the spells, pushing the magic back into the metal. “Jhoira sees you as vulnerable. It made me feel like I had to look out for you, for her sake.”
「近頃のジョダーさんが助言をする様子は、ウルザを思い出しますよ」
「ああ……私のように長く生きた、賢く強大な魔術師は……年月の間に傲慢になっていくのかもしれない」ジョダーは呪文に両手をあて、金属へと押し戻した。「ジョイラの目に、君は参っていると映った。だから私が君を見守ってやらねばと感じたんだ。ジョイラのためにね」
引用:上がEpisode 3: The Locked Tower、下が公式和訳版メインストーリー第3話:封鎖された塔にて

前節で述べたように、カーンはジョダーとヤヤの会話を盗み聞きしていた。そこで、カーンはジョダーの本心を探ると共に、潜伏工作員であるかを探るため、以上のように切り出したのだ。

ヤヤがジョダーに「誰かさん」を思い起こさせない?と話すと、ジョダーは否定していた。だから、カーンも同じように、ただし「誰かさん」の名前をはっきり示して「ウルザを思い出しますよ」と告げた。

ジョダーは初めこそ少しまごつきながらも、時代を経て傲慢になっていたのかもしれないと認めた。その上で、ジョダーはカーンに対する態度や言動がウルザのようになっていた原因を正直に明かすのだ。ジョイラが参っているカーンを気に掛けているので、自分が君を見守らねばと決めたのだ、と。

この時のカーンはジョダーに偽情報を流して工作員かを判別しようとした。そして結局、ジョダーは敵ではないと判明するのだ。

私はこの2人のやり取りを微笑ましく思いながら読んだ。

ジョダーはウルザの子孫である。かたやカーンは、ウルザが作ったゴーレムなので子供同然だ。つまり2人はウルザの身内同士みたいなものだが、ウルザに似ていると言われてはジョダーは否定しようとする。カーンはカーンで、ウルザみたいな相手に対して苦手な風に応じてしまうし、理詰めでなら嘘を吐けるのでウルザと同類とも言える。

両者ともウルザに比べれば十分まともで良識を備えている。とはいえ、どこかウルザに似てるのは事実。だのに、2人ともそれを素直に受け入れられそうにないのが、なんだか面白い。ウルザという人となりを知ってる人だったら、誰でも似てると言われるのは嫌だろうけどね。

ジョダーとヤヤとカーンと

Jodah opened his mouth. Jaya lit two fireballs in her hands. She weighed them and raised her eyebrows at Jodah. Jodah, abashed, closed his mouth.
After a moment, he spoke, mild: “I was going to say that this is an excellent plan.”
ジョダーは口を開きかけた。だがヤヤは両手にそれぞれ火球を点し、その重さを確かめるとジョダーを睨みつけた。彼はまごつき、口を閉じた。
一息おいて、彼は穏やかに言った、「素晴らしい作戦だ、って言おうとしたんだ」
引用:上がEpisode 3: The Locked Tower、下が公式和訳版メインストーリー第3話:封鎖された塔にて

ということで、ジョダーとヤヤ、そして、ジョダーとカーンのやり取りがあった。そうして今回の最後では3人揃ってのやり取りをもってオチがつくのだ。

潜伏工作員の正体が判明したことで今回の事件には片がついた。カーンは今後の行動を決定し、皆に指示を出した。そうして、上記したやり取りとなる。

ジョダーは何か言いたげに口を開くが、ヤヤはそれはいけないよ、身振りと表情で牽制してきた。ジョダーはきまりが悪そうに口をつぐんでしまう。

ヤヤとカーンの2人に指摘されて、流石の永遠の大魔道師ジョダーも堪えたようだ。自分がウルザに似て来たなんて!

一呼吸。カーンの計画を褒めようとしただけだぞ、とヤヤに抗弁して連載ストーリー第3話はお終いとなる。

この3人が揃っての絡みは今回が初めてみたいなものだ。この雰囲気は楽しいから、これからも、もっと、ずっと、見せて欲しいものだな……だったな。

本記事のメインはここまでと言っていい。ジョダーと、ヤヤと、カーンの3人が絡む一連のやり取りだ。連載ストーリー第3話は犯人捜しの物語だったしそこはハラハラして楽しめたが、私にとって一番になったのは3人揃っての絡みだったのだ。

記事の残りは、些細な気になるポイントをいくつか挙げるだけ。ほとんど、おまけだ。



一体やそれが分裂したもの

But it wouldn’t be some . . . Phyrexian detector. It would only be able to locate that one creature and whatever it’s split into.
だがファイレクシア探知機とは……言えないだろう。一体やそれが分裂したものの場所が分かるだけだ
引用:上がEpisode 3: The Locked Tower、下が公式和訳版メインストーリー第3話:封鎖された塔にて

一体やそれが分裂したもの

分かりにくい変な言い方だ。

「one creature」を直訳して「一体(の生き物)」としただけなのだが、それが不自然で日本語として飲み込みにくい。

サンプルとして採取した組織の持ち主である「元々のファイレクシアン1体」と、その1体から「分裂して増えた個体群」という意味であるが、もう少し言い回しを工夫できなかったものだろうか。例えば、うまい言い回しではないかもだが「見つけられるのは、元の個体とその分裂体だけだ。」とかなんとか……。

夜の過ごし方

“I can think of a good hundred other ways I’d like to spend the evening.”
週末を過ごすにはもっとずっといい方法がいくらでもあるよ」
引用:上がEpisode 3: The Locked Tower、下が公式和訳版メインストーリー第3話:封鎖された塔にて

「evening」は「夜」だ。「週末」ではない。

ファイレクシアンの怪物とやり合うよりも、ずっとましな「夜の過ごし方」ならば100通りも思い付くって話をしている。

侵入?

Karn did not think glistening oil could infect so quickly,
ぎらつく油がそんなにも素早く侵入できるとカーンは思わなかったが、
引用:上がEpisode 3: The Locked Tower、下が公式和訳版メインストーリー第3話:封鎖された塔にて

「侵入」?

原文は「infest」だから「汚染」か「感染」では。

受け身を受け身のまま和訳すると不自然になる

you are to determine which among the Planeswalkers you can trust so that the Sylex can be brought to New Phyrexia in order to destroy the Phyrexians at their center.
貴方が信頼できるプレインズウォーカーを判断してください。酒杯が新ファイレクシアに持ち込まれ、ファイレクシア人をその中枢から破壊するために。
引用:上がEpisode 3: The Locked Tower、下が公式和訳版メインストーリー第3話:封鎖された塔にて

「酒杯が~」のところ日本語が不自然だ。英語原文が無生物主語で受け身だからといって、日本語もそのまま受け身で作文してしまうとこうなるので、普通は言い方を変えて翻訳するものだ。

両眉を上げた表情は睨んではいない

Jaya lit two fireballs in her hands. She weighed them and raised her eyebrows at Jodah.
ヤヤは両手にそれぞれ火球を点し、その重さを確かめるとジョダーを睨みつけた。
引用:上がEpisode 3: The Locked Tower、下が公式和訳版メインストーリー第3話:封鎖された塔にて

最後の場面。ヤヤがジョダーを無言で牽制したところの彼女の表情だ。

「睨みつけた」と和訳されている原文は「raised her eyebrows」である。これは「両眉を持ち上げた」という動きで、「驚き・不賛成・反感」などを表情で示しているのだ。

実際に鏡を見ながら試してみて欲しいのだが、両方の眉を上げたままで、睨みつけるのは相当に難しいはずだ。両目も見開いて、少し面白味のある柔らかな雰囲気になる。

ここの眉が複数じゃなく単数で「raised her eyebrow」であったら、「片眉を吊り上げた」となって「睨みつけた」と言って間違いない表情になるんだがな……。

つまり、ヤヤは睨みつけるような顔なんてしてやいない、というのが私のイメージなのだ。これが最後だ。結局またヤヤ・バラードとジョダーに戻ってしまったが、仕方ない。



さいごに

これにて連載ストーリー第3話の雑感はおしまいである。

自分としてのメインに取り上げたかったのはやっぱり、ジョダー、ヤヤ、カーンの3人の絡みだったのだ。自然とそこだけ文章の嵩が増していったからね。いい3人組だったんだけれどな……。

次回は連載ストーリー第4話となる。

では、今回はここまで。

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