イニストラード:熊の剥製

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熊の剥製(Stuffed Bear)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」に収録されたアーティファクト・カードである。

今回はこのカードにまつわる小ネタを紹介する。

熊の剥製の解説

It takes a taxidermist of unusual skill to cleanly stuff and mount a beast without severing its primal, predatory drive.
剥製師が、獣の原始的な捕食者的本能を損なわずに丁寧に詰めて飾るには、特別な技術が必要になる。
引用:熊の剥製(Stuffed Bear)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

熊の剥製(Stuffed Bear)

熊の剥製(Stuffed Bear)
データベースGathererより引用

熊の剥製(Stuffed Bear)はクリーチャー化する能力を持ったアーティファクト・カードである。

剥製であっても野性の熊の姿には威圧感を受けるものだが、これは動き出して襲ってくるホラー的な剥製アンデッドなのだから実に恐ろしい。

ウィザーズ社のイーサン・フライシャー(Ethan Fleischer)は、動物の剥製が生き返るのは不気味なことだし、剥製にされる動物の中で熊ほど危険な生き物はまずいないと語っている(イーサン・フライシャーのコメント)。



熊の剥製のカード名

和訳製品版では「熊の剥製」と訳されているこのカードだが、元々の英名「Stuffed Bear」にはもう少し色々な意味合いが込められている。

「Stuffed」は「中に詰め物をした」と言った意味の言葉だ。布団やクッションなら中に綿などを詰める、料理なら鳥の丸焼きに具材を詰め込む、もっと単純に袋の中に物を詰める、といった具合に使われる。

剥製を造る際には中に綿などの詰め物をするので、「Stuffed」で「剥製にした」の意味で用いられる。このカードは「Stuffed Bear」でイラストも剥製なので素直に訳すと「剥製にした熊」となる(和訳製品版とはちょっと表現が違うが指し示すものは同じだ)。

また、「クッションに詰め物をする」と同じ意味合いで「ぬいぐるみの中綿を詰める」ことにも用いられる。この解釈で読むと、「Stuffed Bear」は「ぬいぐるみのくまちゃん」という可愛らしい雰囲気になる。

そして、もう1つ「中に詰める」のニュアンスで、「食べ物をお腹いっぱいに詰め込む」つまり「たらふく食べた」との意味合いでも「Stuffed」は使われる。このカードは動き出して襲ってくる熊の剥製というホラーなわけなので、犠牲者は当然のごとく熊に食べられてしまうに違いない。

Giant Teddy Bear

ジョークカードの世界に存在する「ぬいぐるみのくまちゃん」
Giant Teddy Bearトークン
公式記事The Tokens of Unsanctionedより引用

したがって、「Stuffed Bear」は「剥製にした熊」であると同時に「ぬいぐるみのくまちゃん」でもあり、「犠牲者を食べて満腹した熊」との深読みも可能なのだ。

イーサン・フライシャー(Ethan Fleischer)がちょっと楽しい名前だと紹介しているのはこういった理由があるからなのだ(イーサン・フライシャーのコメント)。

熊の剥製のフレイバー・テキスト

It takes a taxidermist of unusual skill to cleanly stuff and mount a beast without severing its primal, predatory drive.
剥製師が、獣の原始的な捕食者的本能を損なわずに丁寧に詰めて飾るには、特別な技術が必要になる。

熊の剥製のフレイバー・テキストだが、公式和訳版の表現がちょっとぎこちなくて意味が入ってこないなと感じた。具体的には「獣の原始的な捕食者的本能を損なわずに丁寧に詰めて飾る」の部分だ。

「獣の原始的な捕食者的本能」は原文で「its primal, predatory drive」なので、「(獣の)原始的な、捕食者としての衝動」のことだ。和訳製品版は別に意味はあってる。ただ、「……的な……的本能」という表現が引っ掛かってしまうのだ。ここは「原始的な捕食欲求とか捕食衝動」と言い換えても問題ないはずだ。

「丁寧に詰めて飾る」の方は原文が「to cleanly stuff and mount a beast」となっている。前節のカード名で「stuffed」は「詰め物をした=剥製にした」だと説明したが、この文の「to stuff」も単に「詰める」ではなく「剥製にする」ことを指している。また、ここの「mount」は「(場所に)据え付ける」と言った意味合いで「飾る」という解釈は正しい。

では以上を踏まえて訳してみる。

原始的な捕食欲求を切り捨てることなく、獣を手際よく剥製にして飾るには、並外れた技術を持つ剥製師が必要である。

こんな風な作文の方が読みやすくはないだろうか?まあ私の個人的な好みかも知れないが…。

熊の剥製(Stuffed Bear)

熊の剥製(Stuffed Bear)
データベースGathererより引用

つまりこのフレイバー・テキストによれば、この熊は剥製化してあるものの、剥製師の特殊な技術で捕食欲求は生きていた頃のままで仕上げられている、とのことになる。

カードが表現しようと目指したものや実装されたメカニズムは、フレイバー・テキストの内容とピッタリ合致している。ウィザーズ社の制作陣は、色々な要素を巧いこと組み立ててるなぁといつものことながら驚いてしまう。



灰色熊のグール

The hunters spent the evening celebrating their kill and the rest of the night running from it.
狩人たちはその夕方、収穫を祝った。その後、一晩中その収穫から逃げた。
引用:灰色熊のグール(Grizzly Ghoul)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

灰色熊のグール(Grizzly Ghoul)

灰色熊のグール(Grizzly Ghoul)
データベースGathererより引用

灰色熊のグール(Grizzly Ghoul)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」に収録されているもう1種類の熊のアンデッドだ。

こっちはゾンビ化しており動き回って襲ってくる不死身の人喰い熊となっている。フレイバー・テキストによれば、夕方に殺したはずが、夜になったらアンデッド化して逆襲してきたようだ。

不死身とも思える怪物熊に襲われるホラー作品は定番の1つだろう。ただし、私はこの手のジャンルにはあまり詳しくないので、ゾンビ熊の有名な作品があるのかはちょっと分からなかった(ゾンビではない灰色熊(Grizzly Bear)のホラームービーだとその名の通り「グリズリー」が思い浮かんでくるが…)。

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