カードセット「兄弟戦争」の連載ストーリー、過去時間軸の第2回「The Beginning(邦題:始まり)」の雑感を記す。
今回は第1回から続くストーリーの後編である。
過去時間軸第2回の公式リンク
The Brothers’ War | Episode 2: The Beginning
メインストーリー第2話:始まり
過去時間軸第2回の雑感
第2回「The Beginning(邦題:始まり)」を読んでの雑感を思いつくままにザックリと書き記していく。
基本の方針はカードセット「団結のドミナリア」第1話の雑感と同じ。
第2回の舞台
カードセット「兄弟戦争」の連載ストーリー、過去時間軸の第2回の舞台を地図上で確認しよう。
時代設定:AR69-85年
主舞台:ペンレゴン→新ヨーティア→クルーグ
前回から引き続き舞台はAR69年の都市ペンレゴンで始まる。それから10年が過ぎ、AR79年にカイラ・ビン=クルーグ(Kayla bin-Kroog)はペンレゴンを旅立ち、西のカー山脈の山道を越えてマルダン川(Mardun River)に至る。この川の流域のどこかに建設された新ヨーティア(New Yotia)の街にひと冬の間滞在。翌AR80年夏に、カイラはマルダン川を船で下ってクルーグに向かうことにするが、ここで孫のジャーシル(Jarsyl)と別れることになる。ジャーシルは北のギックス僧院跡地に開かれたと噂される魔法学校を目指した。
上記地図上では、カイラの旅程を簡略化して矢印で示している。実際の経路は、ペンレゴンからまっすぐ西進しての山越えではなかっただろう。踏み固められた山道があり、その中でも標高が低く、カー山脈を越えた西側でももっと南の方に到達するルートを進んでいたはずだ。
カイラの物語はクルーグへの船旅途中で結末を迎えるため彼女のその後は不明だ。ただし、クルーグから先は砂漠を陸路でトマクルの廃墟、そしてさらに西の噂でしか知らない土地へと旅を続ける予定であったとは語られている。
物語の最後はカイラともジャーシルとも違う。AR85年、クルーグの暴君、ファスク将軍(Warlord Fask)が幽霊を見たと騒ぎを起こして破滅する件で締めとなる。幽霊の正体はタイムトラベルしたテフェリー(Teferi)であった。
ペンレゴン防衛戦
AR69年、ペンレゴン防衛戦。
ラディックが率いるタル教徒によるペンレゴン攻撃は、外部からのラディックら騎兵や歩兵による包囲戦と、市内に紛れ込んだタル教徒による破壊活動の両面展開であった。防衛するペンレゴン側は、タウノスの公用機を武装化して対抗。判断が難しい局面ではカイラ・ビン=クルーグ(Kayla bin-Kroog)が責任の下で重い決断を下して乗り切った。
戦いは1日でペンレゴンが勝利して決着した。
この戦いの最中にタウノスは工場の事務室で火災を起こし、行方不明となった。この火事で死者は出なかったが、ウルザとタウノスの発明に関する設計図や再武装化作業中だった公用機が焼失した。
戦いの後、利用不能になった公用機や機械はペンレゴン港に沈めて処分された。
ペンレゴン最後の10年
防衛戦から10年間でペンレゴンは終焉を迎えることになる。
この期間で気温の更なる寒冷化と迫りくる氷河による不可避の破滅が語られる。まずペンレゴンの夏の風物詩である蝉の鳴き声が絶え、それに伴い翌年には鳥の姿も消えていった(餌となる虫の減少が影響したと考えられる)。そして、防衛戦からほんの数年後(a handful of years)、初めてペンレゴン港が冬に凍結した。年ごとに冬は長く、夏は短くなった。雪嵐が1週間も続くことも起こるようになり、雪かきをしていた残りの公用機も機能を停止した。ある年の秋の偵察隊の報告よると、北方のかつてのギックス僧院の土地は氷に埋もれており、北西の海は氷結し、海は氷塊を生み出し、氷山がカー山脈ほどの高さにまでそびえていた。氷河の歩みは遅いものの止まることはなく、何世代も先ではあろうが、やがてはペンレゴンも氷に呑まれるのは確実であった。
また、この10年の内にペンレゴンを離れ、西の緑の大地を求めて旅立つ人々がいた。タル教徒の出現後、ペンレゴンの偵察隊はさらに内陸へと遠征し、脅威の調査を続けた。冬が長くなってくると、温暖な土地を捜し求めるようになり、カー山脈を越えた西方の緑の大地を報告した。これを受けて、キャラバン隊が西を目指してペンレゴンを旅立つようになった。カイラは遠征隊の調査と、移民希望者を支援した。移民のキャラバンは最後の年まで幾度となく出発した。
偵察隊が西方の新たな希望の知らせをもたらした際、偵察隊長ミュレルを含む町の半数がキャラバン隊で離れていった。すっかり静まり返ったペンレゴン。ある猛吹雪の日にタルの聖戦士たちが再訪した。カイラは彼らに避難所を提供し、かつての指導者ラディックが既に亡くなったことを知った。タル教徒たちも去って行った。
こうして10年が過ぎ、カイラもまた最後のキャラバン隊と共にペンレゴンを離れることになる。
カイラ・ビン=クルーグの10年
カイラ・ビン=クルーグは民の模範、希望の象徴としてペルソナを堅持して10年を送った。彼女の心に潜む恐怖と絶望は最初の数年間はまだ漠然としたものであったが、やがて耐えられないほどに膨れ上がった。そうまで至った彼女を救ったのは、魔法の才能の開花であった。ハーキルの遺した文献に従って魔法の訓練を積むことで恐怖と絶望を克服したのだ。
偶然の魔法の目覚めに至るまでには、カイラはあらゆる手段を試していた。宗教。武術・乗馬。学問・芸術。そして、ペンレゴン外部での大邸宅の建設があった。
魔術師カイラ
魔術師としてのカイラは今回初めて描かれたものだ。その後に孫のジャーシル(Jarsyl)も魔術師となっており、おそらくは彼女の手解きがあったと考えられる。
魔術師としてのジャーシルの方ならば、小説The Gathering Darkにて既に語られていたもので、その子孫のジョダー(Jodah)は現在の大魔道士である。ウルザは工匠であったので、その子孫のジャーシル以降の代に魔術師が現れたことに、これまでは幾分奇妙さが感じられたものだった。
しかし、今回の話でカイラ・ビン=クルーグが一族の魔術師の先駆者となり、後代への橋渡し役となったことで不自然さが大幅に緩和された。カイラがウルザやウルザが遺したものの束縛から解放されるという文脈において、工匠術の対極にある魔法に救いを見出すのは十分に納得できるものだからだ。
カイラの地所
カイラが建設させた大邸宅(a grand manor house)について。これは未来の統治者への贈り物であり、アルガイヴへの彼女の献身の証となる地所(estate)であった。しかし、彼女は完成と移転の前には否定的になってしまい、結局1年滞在したのみで街に戻った。
このペンレゴン外に造られた地所は、あるいは後のギヴァ州(Giva Province)ではないか、と私には思える。ギヴァは魔術師ジャーシルが塔を建てて住み、その子孫のジョダーが育った土地だ。小説The Gathering Darkは、旧アルガイヴにあるジョダーの一族の地所(estate)や邸宅(manor house)といった表現がされており、ピッタリなのだ。
ジャーシルは何年も後に帰郷してこの地所を復興したのだ(おそらくその際に生活ができるように、魔法的な手段も用いて寒冷化の緩和策も取ったことだろう)。
ペンレゴンの終焉
AR79年、都市ペンレゴンは最後の時を迎えた。カイラ・ビン=クルーグ自身も含む最後の移民団が旅立ち、居残った地主たちはやがて氷に呑み込まれたのだ。この年の春にペンレゴンを発ち、カー山脈の標高の低い山道を抜けて、山脈西部のまだ温暖で緑が豊かなヨーティア地方に至り、マルダン川に沿って進み新ヨーティアの街で冬を越した。
公式和訳版で「最後の年が終わろうとしていた。」となっている原文は「The last year wound down.(最後の年が終わっていった。)」だが、ここでいう最後の年とは出発の前年AR78年と解釈しなければならないだろう。
説明すると、まず、この時代は寒さと雪と嵐の怖さが繰り返し強調されてきたので、冬の山越えは考えられない。次に、山越えると春の雪解け水が流れており、その後に新ヨーティアで越冬するが、これはAR79年となる。
したがって、AR78年をペンレゴンで過ごした最後の年と見做し、年が明けて翌AR79年春に移民団が旅立ち、新ヨーティアで同年冬を過ごしたことにしないと辻褄が合わないのだ。
ジャーシルとの別離
AR80年夏、カイラ・ビン=クルーグは新ヨーティアから1人でクルーグに出発した。マルダン川を下る船旅であった。
出発前日の晩に、孫のジャーシルから北方の魔法学校で学びたいと告白され、2人は別々の道を歩むことになった。
ジャーシルが噂に聞いたギックス僧院跡地に開校した「魔法学校」は、小説The Gathering Darkで登場した魔導士議事会(The Conclave of Mages)の始まりに他ならない。暗黒時代テリシアでは、タル教会による魔術の徹底的な弾圧が行われていたが、魔道士議事会は魔法と魔術師を保護する隠れ里となっていた。
ノッドとダック
ジャーシルの告白を受けて、カイラは魔法学校を運営しているのは誰か?と訪ねるとジャーシルはこう答えた。
「An artificer woman, Nod, and a mage they called Duck」
つまり、「女性工匠ノッド(Nod:うなずき)」と「ダック(Duck:あひる)と呼ばれる魔道士」の2人だと。ジャーシルは変わった名前だとも漏らした。
この2人の噂が真実であったなら、アシュノッド(Ashnod)とタウノス(Tawnos)が生き延びて再会し、魔導士議事会を創設したことになるだろう。
その理由はまず「ダック(Duck:あひる)」という名前だ、これはアシュノッドがタウノスを呼ぶ時の2人だけで通じるニックネームである。ならば対になる「ノッド(Nod:うなずき)」はアシュ『ノッド』の略であろう。アシュノッドは確かに女性工匠だ。
タウノスがペンレゴンで火事を起こして失踪する際へ戻って確認する。タウノスは、アシュノッドを思い浮かべつつ世界の終末までまだ時間があるはずだと考えており、その上、自分独自の初めてのアイデアで世界をより良い方向に変えようとも決意していた。この時タウノスの頭には、アシュノッドが生きていると信じて探し出し、魔術と工匠術を伝承する学校を創ろうというアイデアが閃いたのでは無かっただろうか。
そして、もしウルザと自分の研究記録を全て焼いて決別した際、工匠の道を捨て魔導士の才能に目覚めていたとしたら?カイラが目覚めたように。
ウルザとミシュラの師匠兄弟が壊した世界。失われつつある知識と技術を、タウノスとアシュノッドの弟子の2人が保護して後世に伝えていこうと避難所兼学校を創った。それが魔導士議事会。
絶望の暗黒時代の描写ばかりの暗い雰囲気のストーリーだったが、もしそうならこんな救われる話は無いと私には思えるのだ。
カイラ作「アンティキティー戦争」
さて話をカイラの方に戻そう。
カイラがクルーグに到着する1日程前で彼女の物語は終わりとなる。
この時にカイラは、兄弟戦争をありのままに語り伝える詩の最後の頁に取り掛かろうとしていた。これは紛れもなくカイラ作の「アンティキティー戦争(The Antiquities War)」のオリジナルである。
クルーグの廃墟と暴君ファスク将軍
クルーグ(Kroog)はかつてのヨーティア国の首都で、AR28年にファラジ帝国の攻撃で陥落し廃墟となった。ヨーティアの領土はファラジ帝国に制圧されて、10年以上占領下におかれていた。AR43年には、ウルザのアルガイヴ・コーリス連合王国軍によってヨーティア領土は奪還されるものの、国土は略奪され破壊された荒廃状態で、クルーグの廃墟もそのままに戦争は継続された。
今回のストーリーで、兄弟戦争が終結したAR64年からAR85年まで、クルーグとその周辺状況が語られている。
AR63年大晦日、ウルザの酒杯爆発が起こった。その影響で、クルーグはマルダン川の堤防が決壊し、かつて王宮と貴族街があった南地区を除いて水面下に沈んだ。こうしてクルーグの廃墟はマルダン川に面する湖となり、南カー山脈からは雪解け水が流れ込んだ。大災害後のクルーグには、水面上に高床式の土台に建物や歩道が寄り集まった新しい街が形成された。
災害から10年の間に、過去の統治者と同じ「将軍(Warlord)」を名乗るファスク(Fask)がこの地の頂点へと上り詰めた。ファスクは過酷な10分の4税を課したが、この地の支配を争った将軍たちに比べればこれでも公正であった。
AR85年までに、ファスクの小王国は南西岸の都市ゼゴンの廃墟から北方の緑が広がる砂漠の境界までを支配していた。東方の国境は曖昧で、新ヨーティアとタル教徒がファスクの略奪団を防いでいた。しかし、ファスクはかつて殺めた死者の亡霊を目撃したとして、その恐怖で破滅した。ファスクの王国は、東半分が新ヨーティアとタル教徒に征服され、西半分がライバルたちに引き裂かれて、最期を迎えた。
ファスクを基にした、暴君と幽霊の物語は形を変えて何世紀も語り継がれたものの、氷河期中に失われてしまった。
さいごに
取り合えずは、過去時間軸の第2回「The Beginning(邦題:始まり)」の大枠までは取り上げられたと思っている。後ほど細かい気になった箇所について、追記する予定だ。
では、今回はここまで。
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