ドミナリア:トー・ウォーキ

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トー・ウォーキ(Tor Wauki)カードセット「レジェンド」初出の伝説のクリーチャー・カードである。

28年後のカードセット「団結のドミナリア」において、「語り継がれる伝説1」という特別枠でリデザインされ、若かりしトー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)という新バージョンで収録された(ただし残念ながら和訳が間違っている)。

本記事では、ドミナリア次元の歴史上に名を残す「複数の」トー・ウォーキを紹介する。

追記(2023年7月16日):ビジュアル・ガイドにおいて、レジェンドサイクル1がAR3334年に、マダラ帝国でのニコル・ボーラスの死がAR3607年に確定されたため、記述を修正した。また、梅澤の鳳凰紋の拡大画像を追加。「テツオ・ウメザワ」を「梅澤哲雄」に表記変更した(ただし、タナカやケイ・タカハシはカタカナ表記のままとした)。

トー・ウォーキの解説

トー・ウォーキ(Tor Wauki)

トー・ウォーキ(Tor Wauki)
データベースGathererより引用

トー・ウォーキ(Tor Wauki)はドミナリア次元の人間男性の射手である。同名異人の複数のトー・ウォーキがドミナリアの歴史に名を残している。

  1. AR34世紀の西ジャムーラ亜大陸南方では、トー・ウォーキは海賊船の乗組員であった。→詳細は大トー・ウォーキを参照。
  2. AR37世紀初頭のマダラ帝国では、トー・ウォーキは梅澤家に仕えていた。→詳細は小トー・ウォーキを参照。
  3. 山賊王(Bandit King)と称するトー・ウォーキの記録もあるが、これが3人目のトー・ウォーキなのか、上記2名どちらかの異名なのか、諸説あり真偽は定まってはいない。→詳細は山賊王トー・ウォーキ参照。

以上のように、少なくとも2人の異なる時代のトー・ウォーキが存在している。

なぜ全く同じ名前を持つのかという疑問の答えは、カードセット「団結のドミナリア」現時点では不明だ。単なる偶然か、同じ一族が名を受け継いだのか、歴史上の人物から命名しただけの血の繋がらない他人なのか、これもファンの中で諸説ありだ。



ドミナリア史での区別

前の節で同名異人のトー・ウォーキが、別の時代に存在していたことを確認した。混同を避けるために、それらを区別する呼称が次のように定められている。

ドミナリア史では、古い時代のジャムーラの方を「大トー・ウォーキ(Tor Wauki the Elder)」と呼び、後の時代のマダラ帝国の方を「小トー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)」と呼称して区別している。2

もちろんこれは歴史学的な名称なので、各時代のトー・ウォーキが名乗ることも、呼ばれることもしないものだ。あくまでその時代のトー・ウォーキ本人たちは、大も小もつけずに「トー・ウォーキ」なのだ。

「若かりし」は誤訳

若かりしトー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)

若かりしトー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)
データベースGathererより引用

カードセット「団結のドミナリア」の新バージョンのトー・ウォーキは、「Tor Wauki the Younger」つまり「トー・ウォーキ」の方のカード化である。

ところが、公式和訳版では「若かりしトー・ウォーキ」と訳されて製品化されてしまっている。これでは、トー・ウォーキという人物の若い頃の姿、という意味にしかならない。キャラクターの背景を知っていたなら起こりえない間違いだ。それに「人名」+「the Younger」で「若い頃のその人物」と解釈するのもちょっと無いんじゃなかろうか?

簡単に言えば「若かりしトー・ウォーキ」は誤訳で、本来なら「トー・ウォーキ」と訳すべきカードだったということだ。

トー・ウォーキというキャラクターの経緯

ここではトー・ウォーキと言うキャラクターがMTG史においてどういった扱いであったかを語りたい。

※ この節ではトー・ウォーキの設定やストーリーには言及していない。設定やストーリーを望むなら、この節は読み飛ばして次の節に進んでも構わない。

1994年のカードセット「レジェンド」で、伝説のクリーチャー・カード「トー・ウォーキ(Tor Wauki)」として初登場した。

1997年、カードセット「基本セット第5版」のフレイバー・テキストに「山賊王、トー・ウォーキ(Tor Wauki, Bandit King)」として名前が登場した。

その後、2000年代初めの2つの小説シリーズで射手として登場。どちらもドミナリア次元が舞台だったものの、時代設定は数世紀隔たっており、同一人物ではありえなかった。熱心なファンたちは整合性を取るために、同名の別人だなどと様々に理屈付けして解釈した。

2002年、レジェンドサイクル1小説三部作では、第3作目の小説Hazezonで海賊ラミレス・ディピエトロの相棒の射手として海賊船に乗船していた。

2002-2003年、レジェンドサイクル2小説三部作では、主人公梅澤哲雄3(Tetsuo Umezawa)の弟子かつ副官であり、このシリーズの主要登場人物の1人として三部作を通して活躍した。

全く異なる設定の2人のトー・ウォーキが存在してしまった。この件に関し、レジェンドサイクル2小説三部作の作者スコット・マクゴウ(Scott McGough)は当時のファンサイトにおいて、レジェンドサイクル1の方に同じキャラクターが出ることを教えられていなかったために被りが起こった旨を語っていた。4

2020年、カードセット「統率者レジェンズ」ラミレス・ディピエトロの幽霊(Ghost of Ramirez DePietro)がカード化された際に、その背景解説記事(リンク)が2人のトー・ウォーキの謎に対して切り込んだ。レジェンドサイクル1でラミレス・ディピエトロと組んでいたトー・ウォーキを「大トー・ウォーキ(Tor Wauki the Elder)」と表記したのである。これによって公式に2人が同名異人だと明確化された。

2022年、カードセット「団結のドミナリア」ではレジェンドサイクル2の方の「小トー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)」が新カードとなった。これでカードを見ても、別時代に2人のトー・ウォーキが存在すると察せられるようになったのだ。ただ、和名が若い頃のトー・ウォーキという意味合いに誤訳されているのが甚だ残念である。

さて次の節からは、同名異人のトー・ウォーキたちを1人ずつ紹介していこう。



大トー・ウォーキ

トー・ウォーキ(Tor Wauki)

トー・ウォーキ(Tor Wauki)
データベースGathererより引用

大トー・ウォーキ(Tor Wauki the Elder)は、AR34世紀のドミナリア次元の人間男性の名射手だ。暗殺者の悪名でも呼ばれていた。小説Hazezonで登場。

略奪者、ラミレス・ディピエトロ(Ramirez DePietro, Pillager)

略奪者、ラミレス・ディピエトロ(Ramirez DePietro, Pillager)
データベースGathererより引用

西ジャムーラ亜大陸南部の海にて、ラミレス・ディピエトロ(Ramirez DePietro)の腹心として海賊船「人魚号(Mermaid)」に乗り込んでいた。

小説Hazezon作中ではトー・ウォーキはラミレス・ディピエトロと共に行動しており、その時のストーリー概要はこちらを参照のこと。

それ以外のトー・ウォーキの個人的なエピソードを挙げると、敵の海賊ロバラン傭兵団(Robaran Mercenaries)に所属するカレリア派の射手と射撃の腕自慢をし合う場面がある。トー・ウォーキの腕自慢は、どれもカードセット「レジェンド」に収録された3種類のカードにまつわる話となっている。次の節からそれぞれ順番に紹介していこう。

ルクレジア女王の王冠

Princess Lucrezia

Princess Lucrezia
データベースGathererより引用

ルクレジア5(Lucrezia)は、レジェンドサイクル1三部作に出てきた国の1つだ。国名と同名のルクレジアという王女(Prinsess)あるいは女王(Queen)の存在が確認できる。

元ネタはカードセット「レジェンド」収録の伝説のクリーチャー・カード、Princess Lucreziaである。

トー・ウォーキはルクレジア女王の王冠からルビーを撃ち落したことがあると語っていた。

アル=アバラの絨毯

Al-abara simply laughed and lifted one finger, and the carpet carried her high out of our reach.
アル=アバラがただ笑って指を1本立てると、絨毯が彼女を手の届かない空高くに運んで行ってしまった。
引用:Al-abara’s Carpetのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

Al-abara's Carpet

Al-abara’s Carpet
データベースGathererより引用

Al-abara’s Carpetことアル=アバラの絨毯カードセット「レジェンド」収録のアーティファクト・カードである。

飛行を持たない攻撃クリーチャーからあなたへのダメージを全て軽減する能力を持っている。カード名やイラスト、フレイバー・テキストによれば、これはアル=アバラ(Al-abara)という女性が空飛ぶ絨毯に乗って上空に退避してしまうことを表現している。

このアル=アバラ6は、トー・ウォーキに因縁がある女性だ。彼の語ったところによれば、エル・カディズ(El Kadiz)の涸れ谷7にて、アル=アバラの兄弟8を空飛ぶ絨毯から射落したのだという。トー・ウォーキは、アル=アバラのものと同じ空飛ぶ絨毯でさえ、逃げ切れる隙を与えずに命中できる凄腕なのだ。

ちなみに言及されたことで、アル=アバラがAR34世紀のドミナリア次元ジャムーラの人物だと確定された。ティヴァン砂漠経由でラバイア次元から移って来た移民か移民の末裔だと推察される。

象牙の守護者

The elite guard of the Mesa High Priests, the Ivory Guardians, were created to protect the innocent and faithful. Some say their actions are above the law.
メサの高僧たちを間近で護衛する『象牙の守護者』は、信仰あつく罪なき者たちを守るために創設された。その行為は超法規的だと言われている。
引用:象牙の守護者(Ivory Guardians)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

象牙の守護者(Ivory Guardians)

象牙の守護者(Ivory Guardians)
データベースGathererより引用

象牙の守護者(Ivory Guardians)カードセット「レジェンド」収録のクリーチャー・カードである。

トー・ウォーキが自慢するところによれば、ある1人の象牙の守護者をたった一矢で射殺したことがあるとのことだ。「レジェンド」のカード単体同士では、どうやっても黒赤のトー・ウォーキでは、プロテクション(赤)を持つ象牙の守護者にダメージを与えられないのだが、ストーリー作品ではカードのデータを跳び越えることは多かれ少なかれあり、特に珍しくはない。

以上が大トー・ウォーキの3つの自慢話だ。

トー・ウォーキは嘘偽りなく正直に腕前を誇っていると信じたいものだ。でも大ぼら吹きと評判のラミレス・ディピエトロの相棒だと言うのだから、疑りたくもなるというものだ。

以上で大トー・ウォーキに関する解説は終わりだ。

次はリデザインの対象となった小トー・ウォーキの方を紹介しよう。

小トー・ウォーキ

若かりしトー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)

若かりしトー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)
データベースGathererより引用

若かりしトー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)カードセット「団結のドミナリア」でリデザインされた新バージョンである。上述した通り、カード名の「若かりし」は誤訳である。

小トー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)は、AR37世紀初頭のドミナリア次元マダラ帝国の人間男性の射手であり魔術師である。レジェンドサイクル2小説三部作(小説Assassin’s Blade小説Emperor’s Fist小説Champion’s Trial)に登場。

トー・ウォーキは、マダラの三頭政治の一角である、帝国英雄官の梅澤哲雄(Tetsuo Umezawa)に仕える副官にして弟子であった。

カードのイラストを確認すれば、箙には梅澤哲雄の鳳凰(Phoenix)の紋が描かれている。

梅澤の鳳凰紋
左から帝国の英雄、テツオ(Tetsuo, Imperial Champion)、若かりしトー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)、武具師、アーイシャ・タナカ(Ayesha Tanaka, Armorer)、包囲の悪魔、オルカ(Orca, Siege Demon)より一部拡大

登場作品中では、射手として腕前が描かれると同時に、弓がなければ赤の攻撃魔法を投射する場面もあった。

トー・ウォーキのカードの色は黒赤であるが、作中では一番最後まで黒の魔法は使わなかった。というのも、師匠の哲雄から黒の魔法を伝授されていたが、いざという事態まで使用を禁じられていたのだという。トー・ウォーキが作中最後に解禁した黒魔法は、シェイプシフターのハーフデイン(Halfane)の息の根を止めるために使われた。

流転のデイン(The Ever-Changing 'Dane)

流転のデイン(The Ever-Changing ‘Dane)
データベースGathererより引用

トー・ウォーキと仲間のアーイシャ・タナカ(Ayesha Tanaka)は変幻自在のシェイプシフターと対峙するも2人掛りでも手に余る強さであった。しかし、運が味方しアーイシャは敵の動きを封じることができ、そこにトー・ウォーキはとどめの黒の魔法を放った。こうして2人は亡き友人ケイ・タカハシ(Kei Takahashi)の仇を討ったのである。

山賊王トー・ウォーキ

“Fair fight? I’ll take survival over chivalry any day”
–Tor Wauki, Bandit King
正々堂々と戦えだと?何があろうと、騎士道精神なんかより生き残ることの方が大事だね!
–山賊王、トー・ウォーキ
引用:待ち伏せ部隊(Ambush Party)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

待ち伏せ部隊(Ambush Party)

待ち伏せ部隊(Ambush Party)
データベースGathererより引用

待ち伏せ部隊(Ambush Party)のカードセット「基本セット第5版」再録バージョンでは、フレイバー・テキストはトー・ウォーキのコメントになっている。

このカードでは「山賊王、トー・ウォーキ(Tor Wauki, Bandit King)」と表記されている。これがトー・ウォーキに関するストーリーや設定を語るMTG史上初めてのテキストで、レジェンドサイクルの2シリーズより数年先んじていた。しかし、後続の小説作品に登場したトー・ウォーキは、このフレイバー・テキストの設定を拾い上げておらず、いずれも山賊王ではなかった。

山賊王は何者なのか?大トー・ウォーキの異名の1つ、小トー・ウォーキの将来の姿、あるいは、第3の別のトー・ウォーキか。可能性は他にも挙げられるだろう。カードセット「団結のドミナリア」時点でも公式な扱いは不明なままだ。ファンの中でも諸説ある謎の「山賊王」の正体が明かされるのはいつのことであろう……。



さいごに

今回はトー・ウォーキを記事にまとめてみた。いかがだったろうか?

客観的に見て、小トー・ウォーキが一番メジャーなトー・ウォーキだ。間違いない。彼は小説3冊に出ずっぱりで、書くべき内容も掘れば色々出てくるはずだ。

だが、本記事では小の方があっさり済ませて、大トー・ウォーキの方に注力させてもらった。レジェンドサイクル1は2に比べてファンの評価が低いし、ファンのコミュニティやwikiでも取りこぼされることがままあるシリーズだ。ここでちゃんと拾ってあげないといけない気がする。判官贔屓でもいいだろう。

では今回はここまで。

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  1. 原文は「Legends Retold」なので、本来は「新たな形で語り直された伝説」くらいの意味合い。「語り継がれる伝説」という和訳はかなり意味がずらされている。
  2. この「大(the Elder)」「小(the Younger)」と付けるやり方は、現実の世界史と同じだ。
  3. 和訳製品版では「テツオ」だが、中国語版を参考に「哲雄」と漢字表記とした
  4. 2000年代初頭のウィザーズ社は、この2つのレジェンドサイクル小説だけでなくオデッセイ・ブロックやオンスロート・ブロックなど、異なるカードセットやストーリー作品の間の設定の連続性や整合性の管理が明らかにかなり緩かったのだ。
  5. イタリア風に「ルクレツィア」とも読めるが、カードセット「ドミナリア」の公式ポッドキャストでの発音に倣った
  6. 作中表記は「Al-abara」でなく「Al-Abara」
  7. 原文「wadi」。涸れた川。ワジ。雨季の一時的な豪雨時のみ水が流れる
  8. 原文は「the brother of Al-Abara」は兄か弟か不明な1人の男性