ラース次元のダウスィー(Dauthi)について解説する。
前回までにラース次元の人型種族の起源はどこか、あるいは、元々のダウスィーの姿と世界はどうであったかを扱った。今回は、ダウスィーの最も馴染みのある姿、シャドー・クリーチャーのダウスィーがどういった種族であるかを取り上げてみた。
ダウスィーの解説
ダウスィー(Dauthi)はドミナリア次元を故郷とする、ラース次元の影の生き物である。闇のように黒い体表で、むき出しの歯茎と鋭い牙を持つ怪物じみた外見が特徴的な人型種族だ。
ラース次元の峡谷や森に住み着いている影のような半実体の種族、いわゆる「シャドー・クリーチャー」には3種族があった。それがダウスィーとサルタリー(Soltari)、サラカス(Thalakos)である。
かつて、3種族はドミナリア次元に暮らしていたが、種族間戦争で互いに殺し合っていたところ、ファイレクシアの次元転移の事故によって、ラースの次元の狭間に捕らわれてしまった(AR3210-3285年頃と推定)。
それから数世紀、AR4205年に至るまで3種族は影の幽霊ような姿のままで終わることのない戦争を続けてきたのだ。
ダウスィーはドミナリアでは完全な闇の世界に生きていた種族で、通常でも狂気すれすれの状態であったようだが、半実体化を契機に完全に狂ってしまった。種族全体を蝕む病的な狂気は宿敵のサルタリーやサラカス、実体を持つ世界の住人、時には同族のダウスィーにも向けられる。
ダウスィーの現状は明らかでない→ダウスィーのその後。
ダウスィーの収録セット・登場作品・キャラクター
ダウスィーはテンペストブロックの3つのカードセット「テンペスト」、「ストロングホールド」、「エクソダス」に登場する。その直前のカードセット「ウェザーライト」には1種類だけドミナリアのダウスィーが収録されていた。
テンペスト・ブロックの公式記事A Dark Corner of the Multiverse(Duelist誌#20)ではダウスィーら3種族の歴史と現状が語られた。設定集アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-はダウスィーの狂気や能力などが豊富なイラスト共に解説されている。
しかし、短編集Rath and Stormではダウスィーはサルタリー、サラカスと終わらない戦争を続けているとしか言及されていない。
シャドー・クリーチャー3種族で物語で活躍するのはサルタリーだけである。ダウスィーには物語上では何の役割も担わされておらず、名前があるようなキャラクターも登場していない。
物語上のダウスィーは、サルタリーの宿敵種族である、これでほとんど全て説明できてしまう。扱いは軽い(サラカスよりはましではあるが)。
ダウスィーのカード
カードになったダウスィーを見ると、ダウスィーはシャドー能力を持つクリーチャーで、色は黒に属している。対象にシャドー能力を付与するカードも特徴的だ。狂気に堕ちた種族であり、数世紀も戦争をしているためか、攻撃的な性格付けや殺しを示唆する味付けがされているものが目立つ。
カード化されたダウスィーについて、1枚ずつコメントを入れて解説をしていこう。
ダウスィーの殺し屋
In their twisted logic, to empty the shadow world is to escape it.
ひねくれたあいつの理屈では、影の世界から邪魔なものを放り出すことは、自分たちがそこから逃げ出すことと同じことなのです。
引用:ダウスィーの殺し屋(Dauthi Cutthroat)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ダウスィーの殺し屋(Dauthi Cutthroat)のフレイバー・テキストによると、ダウスィーのひねくれた論理では、影の世界(次元の狭間)が空になれば、そこから脱出したのも同然だという。狂気に蝕まれる次元の狭間から脱出できるに越したことはないが、それが叶わないので、誰もいなくなってしまえば皆が脱出したことになる、というおかしな理屈だ。
だから、このカードはシャドー能力を持つクリーチャーを破壊するメカニズムを持った殺し屋なのだ。種族全体が狂ってしまったダウスィーらしさがにじみ出ている。
和訳製品版のフレイバー・テキストでは、複数形の「their」が「あいつの」と個人のように訳されてしまっている。原文は、ある殺し屋一個人の話ではなく、殺し屋全体あるいはダウスィーという種族全体を指し示している。また、後半はかなり言葉を補って訳されており「to empty the shadow world is to escape it」は「影の世界を空にすることはそこを脱出するのと同じだ」くらいである。
設定集アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-では、このカードのイラストは「ダウスィー」の項目ではなく、「要塞生まれのものたち」の項目に掲載されている。ファイレクシアの要塞で誕生した新たなダウスィーであるか、あるいは、要塞で殺し屋の職に就いた者たちか、どちらかであろう。
ダウスィーの匪賊
“The dauthi came from beneath the ruins one night, and the darkness cast them in the best possible light.”
–Soltari Tales of Life
ダウスィーどもはある夜、廃虚の下からやって来た。彼らにはおあつらえ向きの闇夜だった。
–サルタリー物語
引用:ダウスィーの匪賊(Dauthi Marauder)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ダウスィーの匪賊(Dauthi Marauder)のフレイバー・テキストは、ドミナリア時代にダウスィーがどこから出現したか、種族の起源を指し示している。→詳細は前回記事を参照。
カード名の「匪賊(ひぞく)」とは略奪をする賊のことで、英名の「Marauder」が「略奪者・襲撃者」なのでおおむね同じ意味である。
ダウスィーの傭兵
“The dauthi believe they dignify murder by paying for it.”
–Lyna, soltari emissary
ダウスィーどもは、ちゃんと金さえ払えば殺人もまっとうな行為とみなされると信じているんです。
–サルタリーの使者、ライナ
引用:ダウスィーの傭兵(Dauthi Mercenary)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ダウスィーの傭兵(Dauthi Mercenary)はダウスィーの傭兵騎士である。ある種の馬に騎乗している。
傭兵がいるのでダウスィーを雇う者がいるはずだが、それいったい何者だろう?フレイバー・テキストによれば、金が払われさえすれば殺しに忌避感はないのがダウスィーとのことだが、別種族に雇われたら同族のダウスィーとも躊躇せずに戦ったりするのだろうか。
ダウスィーの殺害者
“They have knives for every soul.”
–Lyna, soltari emissary
奴らは相手の数だけナイフを持っているんです。
–サルタリーの使者、ライナ
引用:ダウスィーの殺害者(Dauthi Slayer)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ダウスィーの殺害者(Dauthi Slayer)は、カードのメカニズム上で可能な限り攻撃に参加する制約が課せられている。カード名やフレイバー・テキストも併せて考えると、ダウスィーの押さえられない殺害衝動という狂気を表しているのだろう。
ダウスィーの大将軍
ダウスィーの大将軍(Dauthi Warlord)は、カードの機能として味方のシャドー・クリーチャーが多いだけ強力になるメカニズムを持っている。ダウスィーには殺し屋や殺害者、匪賊、傭兵といった無法者だけでなく、このカードのような指揮をする兵士も存在していることが分かる。
ダウスィーのわな師
Merfolk tell their young of Dandân, humans of Rag Man. Dal tell tales of the Dauthi, and they are far worse.
マーフォークたちは子供たちにダンダーンの話をしてやる。人間における人さらいのようなものだ。ダルの者たちはダウスィーの話をする。人さらいの話よりももっとひどい話だ。
引用:ダウスィーのわな師(Dauthi Trapper)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ダウスィーのわな師(Dauthi Trapper)は対象にシャドー能力を与えるメカニズムを持たされている。
設定集アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-によると、ダウスィーの中には獲物を影の世界へと引きずり込む能力を持つ者がいる。このわな師がその能力者なのだ。次元の狭間へと連れ去った獲物はダウスィー達の手で残忍に切り刻まれてしまう。
フレイバー・テキストに注目すると、「ダンダーン」と「人さらい」という2種類のクリーチャーが登場する。
ダンダーン(Dandân)は、アラビアンナイト風世界のラバイア次元に住む巨大魚である。ラース次元のルートウォーター・マーフォークの起源はドミナリア次元であるから、ラバイアと次元ポータルで繋がっているドミナリア経由でダンダーンの話が伝わっているのだろう。
そして、「人さらい」と訳されている「Rag Man」はカードセット「ザ・ダーク」に収録されたクリーチャー・カードである。
本来カード名は「ぼろを着た者」くらいの意味でしかなく、和名の「人さらい」はかなり味付けされた訳である。ドミナリア次元を舞台とする各登場作品において、このぼろを着た者は不気味な怪人や悪魔的な存在、アンデッドとして描写される。和名のように人をさらうわけではない。
したがって、このダウスィーのわな師のフレイバー・テキストでは、人間は子供に人さらい(誘拐犯)の話ではなく、得体のしれないお化けの話をしているのだ。
マーフォークのダンダーンの話と、人間のぼろを着た者の話は同程度だが、ダルにとってダウスィーの話ははるかにひどいものだ。悪いことをするとお化けが来るぞ、と大人は子供を戒める。ダルにとってのお化けはダウスィーだが、身近に存在する脅威なのだ。
ダウスィーの抱擁
“The Dauthi army grows by screams and bounds.”
–Lyna, Soltari emissary
ダウスィーの軍隊は、跳んだりはねたりの大騒動と悲鳴によって成長するんです。
–サルタリーの使者、ライナ
引用:ダウスィーの抱擁(Dauthi Embrace)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
設定集アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-によると、ダウスィーの中には獲物を影の世界へと引きずり込む能力を持つ者がいる。前述のダウスィーのわな師(Dauthi Trapper)がその能力者であったが、このダウスィーの抱擁(Dauthi Embrace)は、その能力の方を表したカードである。
ダウスィーは獲物を自分の世界に引きずり込むと、仲間たちと切り刻んでしまう。フレイバー・テキストにある「screams and bounds」すなわち「絶叫とはね跳び1」は獲物が抵抗する凄まじさのことであろう。
ダウスィーの食屍鬼
ダウスィーの食屍鬼(Dauthi Ghoul)はアンデッドの食屍鬼(グール)となったダウスィーである。
屍肉を喰らう怪物らしくシャドーを持つクリーチャーが死亡するたびに強化されるメカニズムを持っている。MTG史上初の食屍鬼(グール)であるKhabal Ghoulから同系のメカニズムを継承している。
ダウスィーの怪物
ダウスィーの怪物(Dauthi Horror)こと、ダウスィーのホラーはどういった存在なのだろうか?
カード名で「怪物」と訳されているが原文は「Horror」である。MTGのクリーチャーとしての「Horror(恐怖・ホラー)」とは、公式記事Insights from the Inboxによると、種々雑多な身の毛もよだつ類で、黒に属するありうべからざる存在と分類されている。ホラーが生まれる要因は色々あるが、その中には狂人の悪夢や魔法の実験が例示されている。
ならば、ダウスィーのホラーは狂人の悪夢や魔法実験の産物である、と解釈はできる。
ダウスィーは種族全体が完全な狂気に蝕まれている背景があることから、このホラーはダウスィーの狂気が生み出した怪物や、狂ったダウスィーの怪物化である可能性がある。
またあるいは、ラース次元のクリーチャーには、代々の支配者エヴィンカーによる改造実験を施されて変質したものが多数含まれている。その線から考えて、このホラーはエヴィンカーの実験の産物というのももっともらしく思える。
ダウスィーの生き物
ダウスィーの世界の生き物はカードに、馬、ジャッカル、精神裂きが登場している。
これらの生き物は別記事でまとめ済みである。詳細はこちらを参照のこと。
ダウスィーに言及するその他のカード
ダウスィーに直接関連はないカードで、ダウスィーに言及するフレイバー・テキストを持つカードは以下の3種類ある。イラストにダウスィーが描かれているカードは1種類ある。
そのどれもがダウスィーの宿敵サルタリーに関連するカードである。物語上で、ダウスィーという存在がサルタリーの敵というアイデンティティしか持たされてない証に思える。
サルタリーの聖戦士
“Carry war to the Dauthi, no matter the way, no matter the world.”
–Soltari battle chant
いざ戦わん、ダウスィーと。戦い抜かん、最後まで。
–サルタリーの戦闘歌
引用:サルタリーの聖戦士(Soltari Crusader)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
サルタリーの聖戦士(Soltari Crusader)のフレイバー・テキストはサルタリーの戦闘歌であり、サルタリーがダウスィーとの戦争を方法も場所も問わずに続ける気概であることがうかがい知れる。
和訳製品版では「no matter the way, no matter the world」の部分を「戦い抜かん、最後まで」と言葉の調子よく訳しているが、意味合いはかなり異なる意訳である。原文は「どんな方法でも、どんな世界でも」くらいの意味で、特に後半部分が重要だ。
サルタリーとダウスィーの戦争はドミナリア次元で勃発し、次元移動してラース次元の狭間に移って、両種族が半実体の影のようになっても継続しているのだ。まさに「どんな世界でも」戦わん、と高らかに歌っているのだ。
サルタリーの強兵
“Dauthi blood is soltari wine.”
–Soltari Tales of Life
ダウスィーの血は、サルタリーのワインである。
–サルタリー物語
引用:サルタリーの強兵(Soltari Trooper)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
サルタリーの強兵(Soltari Trooper)のフレイバー・テキストによると、ダウスィーの血はサルタリーのワインだという。何世紀も交戦状態の両種族だから、サルタリーの憎しみの深さも相当である。
サラカスの歩哨
“Ill luck and poor geography caught the Thalakos between us and the Dauthi.”
–Lyna, Soltari emissary
運も悪かったし、地形のせいもあって、サラカスは我々とダウスィーの間に挟まれて出られなくなったのです。
–サルタリーの使者、ライナ
引用:サラカスの歩哨(Thalakos Sentry)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
サラカスの歩哨(Thalakos Sentry)のフレイバー・テキストが言及するのはドミナリア時代、サラカスがサルタリーとダウスィーの種族間戦争に巻き込まれた事情である。
サルタリーの修道士
“Prayer rarely explains.”
–Orim, Samite healer
祈祷の文句には、めったに説明なんかないわ。
–サマイトの癒し手、オアリム
引用:サルタリーの修道士(Soltari Monk)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
サルタリーの修道士(Soltari Monk)のイラストの背後には、闇のようなダウスィーの姿がある。このカードは黒へのプロテクションを持つため、黒に属するダウスィーが引き合いとして描かれているのだろう。
ダウスィーのその後
ラース次元のダウスィーはどうなったのだろうか?テンペスト・ブロックを最後にダウスィーは姿を消してしまった。
カードセット「エクソダス」の最後で、サルタリー族はウェザーライト号のアーテイ(Ertai)の協力を取りつけ、次元ポータルから脱出することができた。次元の狭間からおそらく故郷の世界ドミナリアに帰還できたようだ。
しかし、脱出する中にダウスィーは描かれていない。この時点ではラースの狭間にまだ居残っている。
テンペスト・ブロックの翌年、AR4205年には次元被覆により、ラース次元はドミナリア次元と1つに融合してもう個別の次元としては存在していない。
このラースの次元被覆は、次元単位の超大規模な転移であった。次元被覆では多くの生命が失われが、転移の際にいずこかへと消失してしまったものも多いようだ。あるいは、ラースの生き物の中には、かつてのダウスィーやサルタリーのように、ドミナリア次元の狭間に捕らわれてしまったものも確認できる。
ダウスィーもまたドミナリア次元の狭間に捕らわれているのかもしれない。
MTGで再びシャドー・メカニズムが取り上げる時、ダウスィーの現在の姿が明らかになるであろう。
今回はここまで。
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