西風の魔道士アレクシー(Alexi, Zephyr Mage)はカードセット「プロフェシー」収録の伝説のクリーチャー・カードである。
これまで、カードセット「基本セット2021」に収録されたキャラクターに関連するプロフェシー戦争のキャラクターを紹介してきた。今回はトレイリアの大魔導師、バリン(Barrin, Tolarian Archmage)との関りが深い魔導士、アレクシーを取り上げたい。
※ 2020年12月24日修正:アレクシーとバリンの初対面を、工廠都市ではなく航空基地に修正。
西風の魔道士アレクシーの解説
The Keldons didn’t know her name, but they still cursed her in battle.
ケルド人は彼女の名前を知らなかったが、戦場で彼女に激しく悪態をついた。
引用:西風の魔道士アレクシー(Alexi, Zephyr Mage)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
西風の魔道士アレクシー(Alexi, Zephyr Mage)はAR4205年のプロフェシー戦争のキャラクターである。ドミナリア次元北ジャムーラ亜大陸のキパム連盟に所属する魔導士でリスティック魔法の使い手。ジャムーラ人女性だ。
アレクシーはケルド軍の北ジャムーラ亜大陸侵攻に非常に憤っており、故郷を荒廃させるケルド人への憎しみと怒りを様々な攻撃魔法として迸らせる。キパム連盟の飛行船に搭乗して上空から魔法を放つ戦法で活躍していた。
小説Prophecyによると、アレクシーはキパム連盟の飛行船格納工場(blimp hangar construction site)でトレイリアの大魔導師バリン(Barrin)と初対面した。バリンはこの航空基地に飛行船などの兵器生産施設を視察に来ていたのだが、この時、ほど近い港湾都市キタニ(Kitani)がケルド人の上陸部隊の襲撃を受けた。実は6週間ほど前にケルドの襲撃で東部地域をカバーしていた航空基地が灰となったばかりで、飛行船パトロール網に穴が開けられた状態になっており、この新しい航空基地まで落とされるわけにはいかなかった。そこで、アレクシーはバリンの助力を得て、キタニのケルド人の上陸部隊を退けることに成功したのだった。この事件がきっかけでバリンはキパム連盟の実質的な軍司令官として指揮を執ることになり、アレクシーはバリンの直接指揮下に入って戦場で大暴れした。
西風の魔道士リネッサ
アレクシーと同じ「西風の魔導士」を名乗るカードが、西風の魔道士リネッサ(Linessa, Zephyr Mage)である。このカードはカードセット「未来予知」に収録された伝説のクリーチャーだ。
公式記事Linessa’s Staffによると、リネッサはアレクシーの子孫にあたる人物で、その杖はアレクシーの杖と同じものである。そして、背後の建物は香辛料諸島(Spice Isles)にあるトレイリア西部(Tolaria West)のアカデミーだという。
カードセット「未来予知」は裂け目時代(AR4306~4500年)の時代設定だが、リネッサはその時代より未来の人物である。したがって、MTG世界の現在に当たる大修復時代(AR4500年以降)に存命中のキャラクターである可能性がある。
カードのメカニズム的にはクリーチャーを手札に戻させるバウンス能力を持っており、これは先祖であるアレクシーと共通する機能だ。3世紀以上の時が経過してもアレクシーの魔術はこうして受け継がれている。
リスティック魔法
アレクシーはリスティック魔法(Rhystic Magic)の使い手である。
公式記事Prophecy Novel Guideによれば、AR4205年当時の北ジャムーラ亜大陸のキパム都市国家群は(ケルドの侵略までは)比較的に政治情勢が安定した地域であったため、魔術師たちは戦争に関わらない魔法の新体系リスティックに集中することができた。リスティックは単純で素早いものの、安定性を犠牲にしていた。ジャムーラの豊富なマナによりリスティック魔法の扱いは容易であったが、同時に他の魔術師による妨害も簡単であった。リスティック魔法で作られたアーティファクトとクリーチャーは通常魔法より壊れやすく、脆い水晶体のような外見をしている。
小説Prophecyの作中では、「リスティック(Rhystic)」という単語自体は出てこないものの、アレクシーは水晶体を用いたり生み出す数々の魔法を行使する描写がされている。
リスティックの研究
Friends teach what you want to know. Enemies teach what you need to know.
友人は知りたいことを教えてくれるが、敵は”知らなければならない”ことを教えてくれる。
引用:リスティックの研究(Rhystic Study)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
リスティックの研究(Rhystic Study)のイラストには研究するアレクシーが描かれている。
余談。このカードはカードセット「プロフェシー」初出だが、統率者戦などで高く評価されているカードである。そのためか、2012年の特殊セット「Commander’s Arsenal」に再録され、最近もカードセット「ジャンプスタート」に再録されたばかりである。
リスティックの洞窟
“All mages dip into the same well; some are just in more of a hurry.”
–Alexi, zephyr mage
魔道士はみんな同じ井戸につかるのよ。急いで入る者とそうでない者はいるけど。
–西風の魔道士アレクシー
引用:リスティックの洞窟(Rhystic Cave)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
リスティックの洞窟(Rhystic Cave)のイラストには、リスティック魔法の水晶がある洞窟が描かれている。
フレイバー・テキストの「dip into」は「液体につかる」という意味の他に「探る・研究する」の意味もある。そして「well」は「井戸」であるが「知識の泉」という含みも持っている。前文の「All mages dip into the same well」は「あらゆる魔導士が同じ知識の泉を探っている」という意味に解釈できる。それを受けた後の文「some are just in more of a hurry」は「ひときわせっかちな人も中にはいる。」くらいの意味だ。
あらゆる魔導士が同じ知識の泉を探っている。ひときわせっかちな人も中にはいるけどね。
このように語調を変えて訳してみた。このフレイバー・テキストは、リスティック魔法が確実性や威力より早さを重視した魔法体系であることを語っている。
リスティックの氾濫
“I’ll rain down on you with the power of magic itself. Then we’ll see who prevails.”
–Alexi, zephyr mage
私は魔術そのものの力を、あんたの上に雨のように降り注いでやる。そうすればどちらが強いかわかるでしょうよ。
–西風の魔道士アレクシー
引用:リスティックの氾濫(Rhystic Deluge)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
リスティックの氾濫(Rhystic Deluge)は雨を降らせて洪水で相手の行動を縛るリスティック魔法だ。MTGでは、このカードのように川の氾濫や洪水でクリーチャーをタップさせる機能がしばしば登場する。
リスティックの占術
“The trick is to ask when no one’s listening.”
–Alexi, zephyr mage
秘訣はね、誰もいないときにお伺いを立てることよ。
–西風の魔道士アレクシー
引用:リスティックの占術(Rhystic Scrying)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
リスティックの占術(Rhystic Scrying)はカード3枚引けるものの、相手が2マナ支払ってしまうと3枚捨てることになり差し引きで手札の枚数が変わらないというデメリットがある(このカードも含めるなら、手札合計は1枚減っている)。リスティック系のカードらしいメカニズムである。
フレイバー・テキストでアレクシーが「秘訣はね、誰もいないときにお伺いを立てることよ。」と述べている言葉には、このリスティックの占術は相手が2マナ支払えない状況下で使うべきカードだ、という含みがある。
アレクシーの関連カード
アレクシーの外套
“Doesn’t look like much, does it?”
–Alexi, zephyr mage
こんなもん大したことないじゃない、ねえ?
–西風の魔道士アレクシー
引用:アレクシーの外套(Alexi’s Cloak)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
アレクシーの外套(Alexi’s Cloak)はアレクシーの名前を冠するカードだ。クリーチャーを呪禁で守れる、瞬速付きのオーラである。珍しいことに、カードセット「プロフェシー」収録でかつアレクシー関連であるのに、リスティック的なデメリット込みのカードではなく、使い勝手に癖がない素直なデザインである。
切り取り
“Creation is no great feat. Anything you make, I can unmake in a heartbeat.”
–Alexi, zephyr mage
創造が何よ。あんたが造ったものを、私は一瞬で元の木阿弥にしてみせるわ。
–西風の魔道士アレクシー
引用:切り取り(Excise)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
切り取り(Excise)は攻撃クリーチャーを追放する機能がある。ただし、カードセット「プロフェシー」らしくリスティック系のメカニズムが採用されており、マナを支払われると無力化されてしまう。
イラストでは大気に渦が巻き、人物が空中に巻き上げられている。フレイバー・テキストが西風の魔導士アレクシーであることを考えると、風で吹き飛ばす魔法と解釈もできる。
トゲ尾のドレイク
“The spell will have to wait,” said Alexi, pointing up. “Drakes.”
「呪文はもうちょっと待たなくちゃね」とアレクシーは上を指さしながら言った。「ドレイクがいるわ」
引用:トゲ尾のドレイク(Spiketail Drake)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
トゲ尾のドレイク(Spiketail Drake)は北ジャムーラ亜大陸に生息するドレイクの1種である。カード・メカニズム上で呪文を打ち消す機能を持たされており、フレイバー・テキストはそれを反映したアレクシーの発言となっている。
脱出
“Once I supply the breeze, you’ll see your warriors for the smoke they truly are.”
–Alexi, zephyr mage
私がそよ風を吹かせたら、あなたの兵士なんか煙みたいなものよ。
–西風の魔道士アレクシー
引用:脱出(Evacuation)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
脱出(Evacuation)はカードセット「基本セット第10版」に再録された際に、新規フレイバー・テキストのアレクシーの言葉に変更された。
カード・メカニズムでは、脱出は全てのクリーチャーを手札に戻させるいわゆるバウンス効果を持っている。一方、西風の魔道士アレクシー(Alexi, Zephyr Mage)のカードもX体のクリーチャーをバウンスする能力があり、同じバウンス効果つながりで新規フレイバー・テキストの発言者に抜擢されたものと考えられる。
西風の魔道士アレクシーの日本の誤情報
本記事ではアレクシーの設定を公式ソースの小説や記事をもとにしてまとめてきた。しかし、日本では公式設定とは全く異なる誤情報が拡散されている。
誤情報その1:アレクシーはテフェリーの弟子である
アレクシーはプレインズウォーカーのテフェリー(Teferi)の弟子である、とまことしやかに言われることがある。これを裏付ける公式ソースはない。私個人の経験では、師弟関係があるとの主張は日本だけのように思える。
アレクシーとテフェリーの共通点を挙げると、ジャムーラ大陸出身の魔導士で、プロフェシー戦争ではキパム連盟側で戦った者同士。共通点はこれだけである。そもそも扱う魔法の種類が違っており、アレクシーはリスティック魔法、テフェリーは時間魔法である。小説Prophecyでも師弟関係を匂わせるような描写はない。
同郷や同陣営のキャラクター同士には何らかの深い関係性が持たされていてほしい、という願望自体は理解できる。過去の有名キャラクターが新キャラクターの師匠であって欲しいという期待も分かる。だが、ウィザーズ公式ソースには全くそういった記述はないのだ。
アレクシーとテフェリーの師弟関係は、ファンによる願望や勘違い、二次創作の類と見て間違いない。
ちなみに、同系統の誤情報には「ジョルレイル(Jolreal)はテフェリーの弟子である」というものがあった。
誤情報その2:アレクシーはトレイリアの魔術師である
アレクシーがトレイリアのアカデミーから派遣された魔術師の1人だ、と語られることがある。こちらも間違いである。
こちらは誤情報の発信源は確定できている。プロフェシー当時の日本の雑誌記事がそうだ。
さらに、トレイリアの魔法アカデミーから、バリンとレインによって率いられた熟達の魔術師たちが援護にやってきた。《西風の魔導士アレクシー》も応援にかけつけた一人で、卓越した感覚でリスティック魔術を使いこなし、ケルドの軍団をさんざんに翻弄した。そして、今やプレインズウォーカーとなったテフェリーもこの戦いに加わったのである。
引用:Gameぎゃざvol.12の記事「ドミニア年代記 第11回プロフェシー ~予言の時来たれり」
この記事とほぼ同内容がデュエリスト・ジャパンvol.11の記事「プロフェシー攻略ガイド 預言(プロフェシー)の時来たる!~プロフェシー・ワールド・ガイド~」や、ゲームショップで入手できたブックレット「プロフェシー・ガイド」にも記載されている。
引用を読んで明白なように、この記事ではトレイリアからアレクシーとテフェリーがやってきたことになっている。公式ソースにこんな内容はない。小説Prophecyでは、アレクシーもテフェリーも最初からジャムーラに居たし、バリンとアレクシーは戦争中に初めて対面して挨拶を交わしたのだ。
その上、「熟達の魔術師たちが援護にやってきた」とは言うが、ウルザ(Urza)は北ジャムーラ亜大陸にはトレイリアの戦力の出し惜しみをしており、この記事のように続々援軍がやってきたという雰囲気にはほど遠いものだ(増援の少なさにバリンは驚愕するほど)。レイン(Rayne)が参戦した理由も戦力投入をウルザが制限したためであって、夫のバリンが戦力不足の遠方で窮地に陥るのではと心配してのイレギュラーな行動である。
ちなみに、大計画の前ではジャムーラは切り捨てても構わないといったウルザの判断が、後のテフェリーやバリンの離反に繋がっていくことが小説Prophecyの終盤で描かれていくのだが、それはまた別の話だ。
さて、独自設定を拡散した件に関して、当時の日本の販売代理店とライターに対する意見はグリールの記事の最後で述べた通りだ。ここで改めて言いたいことはない。
では今回はここまで。
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