カード紹介:尾長獣

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尾長獣(Thresher Beast)はカードセット「プロフェシー」に収録されたクリーチャー・カードである。

今回はドミナリア次元に生息するこの尾長獣という生き物の習性を詳しく解説する。小説Prophecyでは、ジョルレイルが尾長獣と遭遇しており、その経緯も取り上げている。

そして、記事の最後では「尾長獣」という和訳名が間違っていることや、他のカードにも同じ間違いがあることを指摘している。

尾長獣の解説

It destroys everything in its path, including the path itself.
あいつは自分の通り道にあるものをすべて破壊していくんだ。通り道そのものさえもね。
引用:尾長獣(Thresher Beast)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

尾長獣(Thresher Beast)

データベースGathererより引用

尾長獣(Thresher Beast)はドミナリア次元の北ジャムーラ亜大陸に生息する生き物である。公式和訳名は「尾長獣」なので本記事でもその名で通しているが、より正確には「脱穀獣」あるいは「殻竿獣」の方がふさわしい後述)。

イラストを見ると、褐色の大型獣であり、人の身長の2倍を超える体高がある。正面にある広くやや平たい顔には、丸い2つの目、2つの鼻孔、口がある。先細りの触手のような足を複数持ち、それを撃ちつけ、あるいは地面を穿って攻撃をする。触手の先端には、数本の逆棘になった爪が一列に生えている。顔や背面にも棘が何本も生えている。

フレイバー・テキストによると、通り道にあるものも、通り道自体をも破壊してしまうという。カードのメカニズムに目を向けると、ブロックされると土地を除去させる能力を持っており、これを反映したフレイバー・テキストであろう。

このクリーチャーは小説Prophecyにも登場しており、詳細な習性が語られている。次にそれを取りあげよう。



小説Prophecyの尾長獣

小説Prophecyには尾長獣が登場しており、動物をおびき寄せる菌類の罠を仕掛ける習性がある腐肉喰らいである、と詳しく語られている。

尾長獣はある種の樹木のぶ厚い樹皮を傷つけてその樹液と、自身の爪から出す毒を混ぜることで、菌類の苗床を作り上げ、1年以内にはその場所は繁殖した菌類に覆われる。この特殊な菌類は動物を誘き寄せて、狂乱状態にする作用があり、動物は同士討ちで死んだり行動不能に陥ってしまう。尾長獣はこうして集まってきた獲物を餌とするのだ。尾長獣は他の腐食生物(尾長獣の別個体も含む)に獲物を奪われないように、地面に穴を掘り獲物の死骸を埋めて隠しておく。

以上のような誘き寄せの罠を仕掛けるが、尾長獣自身はそびえ立つ巨体を持ち、人間程度なら簡単にひねりつぶしてしまう怪力と重量があり、決して戦闘能力が低いわけではない。

ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル(Jolrael, Mwonvuli Recluse)

ムウォンヴーリーの世捨て人、ジョルレイル(Jolrael, Mwonvuli Recluse)
データベースGathererより引用

小説Prophecyでは、AR4205年、北ジャムーラ亜大陸に侵略戦争を仕掛けたケルド軍の動向を調査するため、レイン(Rayne)ジョルレイル(Jolrael)の部隊は東の森を偵察中にケルド人部隊を発見する。菌類の罠に引っかかり同士討ちしたケルド人たちを尾長獣は地面に埋め始めた。レインの偵察部隊はケルドの生存者から情報を聞き出そうと尾長獣に攻撃をかけた。

この戦闘でジョルレイルは尾長獣を魔術でコントロールしようと試みるが、森の生き物を支配するジョルレイルの力がなぜか普段通りには働かなかった。尾長獣が抵抗しただけとは思えず、まるで土地そのものから距離が取られているような奇妙な感覚が残った。

この奇妙な現象を皮切りとして、動物と植物の両方を蝕む何らかの疫病が広がっていることが分かり、ジョルレイルとレインの補佐官シャランダ(Shalanda)はその解明に乗り出していく…。これが本作でのジョルレイルの物語上の役割であった。

尾長獣という名前

このクリーチャーは「尾長獣」と訳されているものの、尾が長いわけではない。イラストに描かれた細長い部位は尻尾ではなく触手状の足である。なぜ尾長獣と名付けられてしまったのかを推測した。

まずカード名の英語原文は「Thresher Beast」であるが、英語にはよく似た名前の「Thresher Shark」という実在の生き物がいる。日本でいう「オナガザメ(尾長鮫)」である。

英語の「Thresher」とは「脱穀用の道具・脱穀機・殻竿」を指しており、英語ではオナガザメの尾びれをこの殻竿に見立てて「Thresher Shark」と呼ばれるようになったと言われている。長く伸びた尾びれから見た目のまま「オナガザメ」と名付けた日本語とは、同じ鮫なのに語源が全く違うのだ。

MTG公式和訳では「Thresher Shark(尾長鮫)」の「Shark(鮫)」を「Beast(獣)」に差し替えて「Thresher Beast」を「尾長獣」と名付けたのであろう。しかし、「尾長獣」と命名されたこのクリーチャーにも長い尾があれば問題はなかったが、残念ながらそんなものは生えてなかったのである。

英和辞書の「Thresher」の項には大抵の場合「脱穀用の道具・脱穀機・殻竿」と並んで「オナガザメ」という訳例が載っている。先例を踏まえて翻訳するのは何もおかしいことではない。だが、多言語間で語源の異なる名称を混ぜた結果、このカードは意味不明になってしまった。

イラストやフレイバー・テキストを読む限り、「Thresher Beast」は触手のような足を殻竿のように振う獣、「脱穀獣」あるいは「殻竿獣」と考えるとしっくりくる。触手を殻竿のように撃ちつけて地面すら破壊してしまうのだ。



鋸歯の尾長獣

鋸歯の尾長獣(Sawtooth Thresher)

鋸歯の尾長獣(Sawtooth Thresher)
データベースGathererより引用

ちなみにこの翻訳が後のカードに悪影響を与えている。

カードセット「フィフスドーン」収録の鋸歯の尾長獣(Sawtooth Thresher)は、「Thresher」が「尾長獣」と訳されてしまっているが、イラストを見れば一目瞭然、こちらでも長い尻尾など持っていないのだ。この「Sawtooth Thresher」が属する次元は動植物が金属と融合しているミラディン次元なので、半金属の穀物を「脱穀する機械(Thresher)」なのかもしれない。

オナガトカゲ

The sound of its plated tail beating on desert rocks is often mistaken for the footfalls of a much larger predator.
その鱗状の尾が砂漠の岩を打つ音は、大きな捕食者の足音と紛らわしい。
引用:オナガトカゲ(Thresher Lizard)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

オナガトカゲ(Thresher Lizard)

オナガトカゲ(Thresher Lizard)
データベースGathererより引用

そして、カードセット「アモンケット」収録のオナガトカゲ(Thresher Lizard)でも、尾長獣(Thresher Beast)と全く同じ間違いを犯している。

このオナガトカゲもイラストを見るとやはり長い尾は持っておらず、トカゲとしてはごく普通の長さに過ぎないのだ。

その上、フレイバー・テキストには尾で砂漠の岩を打つと書かれており、カード名の「Thresher」が「殻竿のように撃ちつける尾」であることは明白だ。

さて、カード名の間違いを解説したところで、今回の記事はお終いとなる。

ちなみに「オナガザメ」の尾びれは本当に長い!普通の鮫とは比較にならないほど細長いので、画像検索でもして確認してほしい。本当に長いんだ!

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