エインジー・ファルケンラス(Anje Falkenrath)は最初のイニストラード・ブロックで初登場し、カードセット「統率者2019」でカード化されたキャラクターである。
そして2021年のカードセット「イニストラード:真紅の契り」では「面汚しの乙女、エインジー(Anje, Maid of Dishonor)」として2度目のカード化された。
追記(2021年10月30日):「面汚しの乙女、エインジー(Anje, Maid of Dishonor)」関する節を新設した。
追記(2021年11月07日):カードセット「イニストラード:真紅の契り」の全カードが公開されたので、エインジー関連の骨の髄まで(Bleed Dry)を追加した。
追記(2021年12月01日):設定解説記事The Legends of Innistrad: Crimson Vow(公式和訳版)の情報を反映して記事に手を加えた。
エインジー・ファルケンラスの解説
“We all hide a little madness behind our sophistication, do we not?”
「体裁を保つ裏で、我々は皆少しの狂気を隠し持っている。そうでしょ?」
引用:エインジー・ファルケンラス(Anje Falkenrath)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
エインジー・ファルケンラス(Anje Falkenrath)はイニストラード次元のキャラクターで、カードセット「統率者2019」でカード化された。無慈悲で冷酷で残忍な吸血鬼の女性だ。
吸血鬼四大血統の中でもファルケンラス家は残虐性で恐れられている。エインジーはファルケンラスの中でも最古参の末裔の1人であり、一族の基準で見てさえ残虐非道さは群を抜いている。1
面汚しの乙女、エインジー
面汚しの乙女、エインジー(Anje, Maid of Dishonor)はカードセット「イニストラード:真紅の契り」で2度目のカード化となるエインジーだ。
「真紅の契り」は吸血鬼がメインテーマであり、オリヴィア・ヴォルダーレン(Olivia Voldaren)の結婚が描かれる。このセットの告知や情報公開などでは、エインジーはファルケンラス家の代表となっている。
「真紅の契り」は結婚式が舞台なのでそれにちなんだ名称が散見される。エインジーの二つ名「Maid of Dishonor」もそれだ。本来は「Maid of Honor」で「花嫁の付き添い役の未婚女性」となる。「名誉(honor)」を「不名誉(dishonor)」に変えた捩りがエインジーの二つ名として冠されているのだ。
設定解説記事The Legends of Innistrad: Crimson Vow(公式和訳版)によると、やはりエインジーはオリヴィアの「花嫁付添人(Maid of Honor)」に選ばれていた。エインジーはこの役を政治的に受けざるを得なかった事情があり、そのことに憤っているので、「Maid of Dishonor」つまり「不名誉な花嫁付添人」との二つ名はそう言った感情の現れなのかもしれない。
公式和訳の「面汚しの乙女」は「Maid of Dishonor」を直訳したものなので、翻訳は間違いではない。
ただ、ネタ元を考えれば「花嫁付添人」を捻った和訳が欲しかった…とはいえ、翻訳はすごく難しいのも事実なので、仕方なかったんだろうなとも感じてしまう……。
それからこの二つ名で気になったのだが、この役割を振られたということはエインジーは未婚なんだろうか?
ストーリーの本筋については、エインジーとファルケンラス家は他家との関係性をきちんと描かれたことが無いので、「真紅の契り」でどういった立ち回りで魅せてくれるのか気になるところだ。花嫁オリヴィアの付き添い役に選ばれたのなら、両者の関係は良好なのだろうか。しかしオリヴィアは敢えて敵にそういった役割を押し付ける嫌がらせをして愉悦に浸るような人物にも思えるしな…。さて結婚式はどうなる。→その顛末はこちらに。
エインジー・ファルケンラスの関連カード
エインジー・ファルケンラスに関連するカードを登場順に紹介し、エインジーにまつわる物語を解説していこう。カードセットのメインストーリーラインからは離れたサブストーリーではあるものの、存外にしっかりとエインジーの背景が語られていた。
逆鱗
“Barbarians! They burned my favorite chair! We’ll kill them all!”
–Anje Falkenrath
「野蛮人め!お気に入りの椅子を燃やすなんて!皆殺しにしてやる!」
–エインジー・ファルケンラス
引用:逆鱗(Aggravate)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
逆鱗(Aggravate)はカードセット「アヴァシンの帰還」に収録されたインスタント・カードだ。このフレイバー・テキストでエインジーは初登場した。
このカードはどういう状況を描いたものなのだろうか?時代背景から読み解いてみよう。
カードセット「アヴァシンの帰還」の1年前には大事件が起こった。イニストラード次元の守護者の役目を果たす大天使アヴァシン(Avacyn)が失踪したのだ。アヴァシンは大悪魔グリセルブランド(Griselbrand)の策略で共に獄庫(Helvault)に幽閉され、その翌年に当たるカードセット「アヴァシンの帰還」で解放されるまで世界からアヴァシンの聖なる恩恵が消えてしまった。
解放されたアヴァシンはデーモンや吸血鬼など人類の脅威を今まで以上に執拗に狩り始めた。更に1年後の設定のカードセット「イニストラードを覆う影」までにファルケンラス城(Castle Falkenrath)を廃墟に変えており、本拠地を失ったファルケンラスの一族は散り散りになってしまった。そして後に、城の廃墟には大天使シガルダ(Sigarda)の保護の下で優雅な鷺の修道院(Heron’s Grace Monastery)が建設されることになる。
フレイバー・テキストでは、エインジーはお気に入りの椅子を燃やされたことに激昂している。イラストでは火の手の上がるゴシック様式の建物からファルケンラスの吸血鬼たちが武器を掲げて飛び出して来ている。ゴシック様式の建物という特徴はファルケンラス城と合致する。
以上から考えて、このカードはファルケンラス家がアヴァシンとその信奉者によって一族の領地や城を攻め落とされる場面なのだろう。
ファルケンラスの肉裂き
“Each day there are new reports of homes along Getander Pass and Hofsaddel falling to vampires of a more savage nature. I’ve even heard tell that Anje Falkenrath has returned. Please send whatever help you can.”
–Sterin Gorn, letter to Thalia
「ゲトアンダーの小道からホフスアデルにかけての家々が通常よりも野蛮な吸血鬼の手に落ちたという報告を毎日受け取っている。エインジー・ファルケンラスが戻ったという話まで聞いた。とにかく、増援を頼む。」
–ステリン・ゴーンからサリアへの手紙
引用:ファルケンラスの肉裂き(Falkenrath Reaver)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ファルケンラスの肉裂き(Falkenrath Reaver)はカードセット「異界月」に収録されたクリーチャー・カードである。
ファルケンラス城の陥落が語られたカードセット「イニストラードを覆う影」の次が「異界月」だ。フレイバー・テキストを読めば、アヴァシン教会の守護者サリア(Thalia)への報告書という体裁で、その後の様子が垣間見える。
フレイバー・テキストに出てくるゲトアンダーの小道(Getander Pass)とホフスアデル(Hofsaddel)は、ステンシア州の山道である。かつてこの山道の間に、壮大なゴシック様式のファルケンラス城がそびえ立ち、周辺一帯には一族の荘園邸宅が存在し、ケッシグ州へと繋がるゲトアンダーはファルケンラスの監視下に置かれていた。
また、フレイバー・テキストの「通常よりも野蛮な吸血鬼(vampires of a more savage nature)」というのは明らかにファルケンラスの特徴だ。
したがって、アヴァシンの破壊によりファルケンラス家はこの土地から離散したはずだったのだが、エインジーが配下を引き連れて帰還したのはどうやら真実らしい。
強欲な過食者
“Drink deeply, for there is no tomorrow!”
–Anje Falkenrath
「たっぷりお飲み。明日はないのだから。」
–エインジー・ファルケンラス
引用:強欲な過食者(Insatiable Gorgers)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
強欲な過食者(Insatiable Gorgers)はカードセット「異界月」に収録されたクリーチャー・カードである。
「異界月」のストーリーでは、次元外から襲来した怪物エムラクール(Emrakul)の影響で、世界中が狂気と異形化の堕落に襲われてしまう。
設定集The Art of Magic: The Gathering – Innistradによると、エムラクールの堕落の影響が、吸血鬼の血統の内で最も大きかったのがファルケンラス家だった。堕落によってコウモリに似た異形となった者の多くは、孤立した捕食者とならざるを得なかった。その一方で、エインジー・ファルケンラスは同族の狩猟隊を結集させて、アヴァシン教会からファルケンラス城を奪還する計画を立てていた。
エインジーの荒廃者
エインジーの荒廃者(Anje’s Ravager)は、エインジーがカード化されたカードセット「統率者2019」で同時に収録された関連カードだ。
このセットのエインジー・ファルケンラスの解説文では、先祖伝来の土地を奪還し、ファルケンラス家の栄光を回復させると決意している。つまり、この時点ではカードセット「異界月」の流れをそのまま引き継いだ状態である。
エインジーの荒廃者は彼女のもとに結集し、目的を共有する配下の吸血鬼であろう。
ファルケンラスの打ち抜く者
“Lady Anje sends her regards. I’ll carve the rest of her message into your skin.”
「エインジー様がよろしくって。残りの伝言はあなたの肌に刻んでおくわ。」
引用:ファルケンラスの打ち抜く者(Falkenrath Perforator)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ファルケンラスの打ち抜く者(Falkenrath Perforator)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」収録のクリーチャー・カードである。
「真夜中の狩り」はカードセット「異界月」より2年後の設定である。今回の主題は「人狼」であるため、エインジーやファルケンラス家はもちろん吸血鬼側の動向はあまり触れられてはいない。次のカードセット「イニストラード:真紅の契り」は一転して「吸血鬼」が主題となる。エインジーの近況はこの時に明かされることになるだろう。期待して待ちたい。
新生子の衝動
新生子の衝動(Neonate’s Rush)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」収録のインスタント・カードである。
エインジーのコメントがフレイバー・テキストにあるが特にストーリー的に重要ではない。このカードに関してはこちらで解説している。
骨の髄まで
“Wipe your chin, child. We can’t have Olivia thinking we’re uncivilized.”
–Anje Falkenrath
「顎をぬぐいなさい、我が子よ。オリヴィアに野蛮だと思われてはいけないわ。」
–エインジー・ファルケンラス
引用:骨の髄まで(Bleed Dry)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
骨の髄まで(Bleed Dry)はカードセット「イニストラード:真紅の契り」収録のインスタント・カードである。-13/-13の修正を与えるクリーチャー除去で、死亡したら追放する機能を持っている。
カード名の「Bleed Dry」は「全ての血液を搾り取る」とか「骨の髄までしゃぶる」といった意味合いの表現。カードのメカニズムも鑑みれば、ゾンビや霊となって蘇れないほど血液を吸いつくしてしまうのだろうか。
フレイバー・テキストを見ると、エインジーのコメントであるが、ちょっと和訳版に気になるところがある。
まず「我が子」となっているが、原文では「child」なので、エインジーの実子あるいは彼女の血により誕生した吸血鬼と明示しているわけではない。単純にまだまだ若く、衝動のままに振舞う未熟者を「child」呼びしているだけだろう。
次に「オリヴィアに野蛮だと思われてはいけないわ」の文だ。原文は使役構文だから「思われる」よりも「思わせる」の雰囲気がある。単純にそう受け取られるなという感じではなくて、そう思われるような隙を作るなという含みを感じるのだ。
「顎を拭いなさい、幼き者。我らが野蛮だなどとオリヴィアに思わせてはいけない。」
ファルケンラス家の世間の評判は当然、オリヴィアは承知しているはずだ。それでもなお、その「野蛮だ」との評判を後押しするような真似をして見くびられるわけにはいかない。特に今回は全血統が招待された結婚の式典であるのだ。現行のファルケンラス家代表者として振舞うエインジーのたしなめだと読めた。
真紅の花嫁、オリヴィア
Her grand wedding had one goal: to unite the vampire bloodlines under her rule.
彼女の壮大なる結婚式の目的はただ一つ。すべての吸血鬼の血統を彼女が牛耳ることである。
引用:真紅の花嫁、オリヴィア(Olivia, Crimson Bride)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
真紅の花嫁、オリヴィア(Olivia, Crimson Bride)はカードセット「イニストラード:真紅の契り」収録の伝説のクリーチャー・カードである。
イニストラードが永遠の夜に包まれた時代、オリヴィア・ヴォルダーレン(Olivia Voldaren)はエドガー・マルコフ(Edgar Markov)との婚姻を結び、全吸血鬼そして全イストラードに君臨する力を手に入れようと画策した。
オリヴィアは、全血統中でもファルケンラス家を手懐けるのが重要だと考えて、エインジーを「花嫁付添人(Maid of Honor)」に選んだ。両家が争えば、お互いに多大な犠牲を強いることになる。エインジーを花嫁付添人にすることで、オリヴィアには戦争することなく自分が優位であると示す政治的な目論見があった。
賢明なエインジーはこういった事情を完全に理解しており、何もできずに受け入れざるをえないことに激怒している。結婚式に向けて、エインジーはオリヴィアをやり込める計画を練っていたが、「血を大量に飲んでやる」以上のものは現実的ではなかったようである。
結局のところ、オリヴィアの婚礼は敵の襲撃で全てご破算となった。オリヴィアはイニストラードに君臨できず、永遠の夜も去ってしまった。
「真紅の契り」の連載ストーリーでは、エインジーの存在や行動には言及されていない。結婚式中には会場に居ただろうが、オリヴィアの計画が破綻するとなって以降、エインジーが何を意図しどう行動したのかは非常に興味深いが、全く不明である。
やはりオリヴィアと袂を分かつことになったのか、あるいは、同盟関係を存続していくこと(もちろんオリヴィア上位の関係のままではいないだろう)にするのか、その辺は次のイニストラード再訪時までお預けか?
エインジーという名前
「エインジー・ファルケンラス」という名前を見た時から、不思議に思っていた。「Anje」という綴りなので「アンニェ」か「アーニェ」、「アンジェ」くらいに読んでいたのだが、「エインジー」と知って変わった名前だなと興味が引かれた。
それで調べてみたのだ。どうやら「エインジー」と訳された「Anje」は現実世界で実際にある名前のようだ。語源の違う「Anje」という名前が2種類見つかった。
1つ目の「Anje」はヘブライ語で「恩恵」を意味する言葉を語源とする名前だ。「アンナ(Anna)」や「ハナ(Hanna)」といった名前も同語源だという。
2つ目の「Anje」は北欧系の名前だ。神話に由来する「鷲」を意味する言葉が元のようだ。「アーニ(Arni)」も同語源の名前だそうで、こちらの方が元となった言葉に近いようだ。
「Anje」の発音までは分からなかったのだが、同じような綴りのドイツの「Anja」などは「アンニャ」か「アニャ」くらいの発音であったし、やはり「エインジー」というのはかなり特殊な発音ではなかろうかと感じている。
それから最後になるが、「エインジー・ファルケンラス」の「ファルケンラス(Falkenrath)」はおそらく「隼」に由来する家名だろう。ドイツ語や北欧系の言葉では「Falke」や「falk」は「隼」を意味する。「rath」の方ははっきりしないが、古ザクセン語で「輪・車輪」だとか英語で「壁に囲われた昔の集落」くらいの意味合いがちらほら目についた。ファルケンラスは設定上、高名な鷹匠(故人)を始祖とする血統である。
ファルケンラスが「隼」関連ならば、エインジーの方も北欧の「鷲」のイメージで名付けているのかもしれない。
では今回はここまで。
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- 出典:カードセット「統率者2019」の付属解説文