エバハート船長(Captain Eberhart)はMTGアリーナ限定カードセット「アルケミー:イニストラード」収録の伝説のクリーチャー・カードである。
このエバハート船長というキャラクターは最初のイニストラード・ブロックから登場しており、実は10年の歴史のあるイニストラードでも古株である。
今回はカード化されたばかりのエバハート船長を取り上げる。
全面改稿(2021年12月12日):記事全体の全面的な改稿を行った。大きな変更点は、エバハートが『船長』であるのは誤訳だと断定した記述の全削除とより正しい記述への変更や追記である。その他に、オスピドの恐怖の詳しいストーリー解説など諸々の情報追加も行った。
追記(2021年12月12日):言及カードから銀弾(Silver Bolt)が抜けていたので追加した(最初の編集時からこのカードに触れるのをうっかり忘れてしまっていた)。
エバハート船長の解説
“The Captain’s seen it all. Most of it bad.”
–Lieutenant Traken
「船長はすべてを目にしてきたんだ。ほとんどは碌でもなかったが。」
–副官トラーケン
引用:エバハート船長(Captain Eberhart)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下がMTGアリーナ和訳版
エバハート船長(Captain Eberhart)はイニストラード次元ネファリア州の人間男性だ。
和訳では「船長」と訳されている「Captain」であるが、エバハートに言及する記述を総合的に判断すると、2通りの意味合いで用いられている。すなわち、エバハートはネファリア州のスキフサング(Skifsang)と呼ばれる船乗りの「船長(Captain)」であると共に、聖戦士を鍛える教会の拠点たるエルゴード訓練場に属する「隊長(Captain)」でもあるのだ。
フレイバー・テキストによると、エバハートの副官としてエルゴードの審問官、トラーケン(Traken)がいる。
エバハートに関するストーリー的な記述は2つ確認できる。
まず1つ目。カードセット「闇の隆盛」期はカードセット「イニストラード:真紅の契り」現在3年以上前に当たる。この時代、スレイベンから遣わされた部隊と合流したエルゴードの派遣隊の中に、エバハート船長がいた。エバハートは難破船や海墓、霧や潮流とともにやって来る溺死した船乗りの霊について語って聞かせた。
次に2つ目。2年前のイニストラードを覆う影ブロック期においては、エバハートはオスピドの恐怖(The Ospid Horror)と呼ばれる怪物を退治している。当時はイニストラード次元中がエムラクールの影響で狂気に陥り、教会の指導者層は悪魔崇拝者に乗っ取られ、大天使アヴァシンの名の下に罪なき人々が異端として処刑されていた。エバハートの所属するエルゴード訓練場でも同様に無辜の人々の命が奪われており、その教会の狂った行為の償いを求めるようにエバハートは真の邪悪を倒さんとして、オスピドの恐怖を討伐したのだ。訓練を終えた若き聖戦士9人を従えたエバハートは討伐を成し遂げたものの、結果として8人が死亡し、エバハートと聖戦士ジェッダ(Jedda)だけが生き残った。
エバハート船長というキャラクターの経歴
エバハート船長は、最初のイニストラード・ブロックのフレイバー・テキストが初出のキャラクターである。また同時期の公式記事Postcards from Innistrad: The Basics(公式和訳)では、「ネファリア州のスキフサング、エバハート船長1(A Nephalian Skifsang, Captain Eberhart)」として登場した。
その後、イニストラードを覆う影ブロック期に発売した設定集The Art of Magic: The Gathering – Innistradにおいて、オスピドの恐怖にまつわる彼のストーリーが公開され、そこでは「Captain Eberhart of Elgaud」と記されたが、彼の行動は船の「船長(Captain)」ではなく、若き9人の聖戦士を率いる「隊長(Captain)」であった。
和訳製品版カードでは「エバハート船長」は荒くれ船乗りの口調で訳されているが、船乗りであると同時にまず間違いなく聖戦士の「隊長」の地位にあると考えられるので、荒くれた口調は少々似つかわしくないものに感じる。
また、名前の読みの方は「Eberhart」という綴りから考えて、「エバーハート」か、少しドイツ語風に「エーバハルト」くらいに読めるものだと思われる。
2021年12月、MTGアリーナ限定カードセット「アルケミー:イニストラード」でカード化となった。
副官トラーケン
“It will take more than steel alone to purge this world of evil.”
「この世界の邪悪を粛正するには、鋼だけでは足りはしない。」
引用:エルゴードの審問官(Elgaud Inquisitor)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
エバハート船長のフレイバー・テキストに登場した副官トラーケン(Lieutenant Traken)は、エバハートと同じく最初のイニストラード・ブロックで登場していた古株キャラクターである。登場したのは公式記事Preview Article: Mikaeus, the Unhallowedである。
トラーケンはエルゴード訓練場に属する審問官だ。エルゴードの審問官(Elgaud Inquisitor)はカードセット「闇の隆盛」に収録されたクリーチャー・カードだが、トラーケンはこのカードと同様の役職に就いている。あるいはこのイラストがトラーケンなのかもしれない。
最初のイニストラード・ブロック期(「真夜中の狩り」や「真紅の契り」の3年以上前)、トラーケンはギサ(Gisa)とゲラルフ(Geralf)によるゾンビの大群の脅威をスレイベンに警告した。この時点で審問官として15年間勤めた経験があった。
後にスレイベン包囲戦として知られることになる一連の出来事では、スレイベンの守護者ロサーが命を落としたため、彼の副官サリア(Thalia)が次の守護者に任命された。2高地都市スレイベンは大被害を被り、月皇ミケウス(Mikaeus the Lunarch)も亡くなることとなった。この出来事の中で、トラーケンは恐るべきグリムグリン(Grimgrin)と遭遇している。
当時の翻訳記事では「エルゴードの審問官、隊長補佐トラケン」と訳されていた。
オスピドの恐怖
「Monsters of Nephalia: The Ospid Horror3」は設定集The Art of Magic: The Gathering – Innistradに掲載されたエバハート船長によるミニストーリー的な記述である。
このストーリーはイニストラードがエムラクールの狂気に蝕まれた時代の出来事で、「イニストラード:真夜中の狩り」と「イニストラード:真紅の契り」の2年前に当たる。大天使アヴァシンの死が噂として伝わって来た頃に、エバハートが日誌に記録したとされるものだ。
オスピドの恐怖(The Ospid Horror)は、サルカ家(the Sarka family)の世代ごとに生まれる醜悪な人間離れした怪物である。作中ではこの一族には怪物的な堕落が受け継がれているとも、デーモンに関係する呪いの痕跡を残しているとも、言われていた。何年もの間、家畜が切り刻まれたり、人が行方不明になると、カルト教団や人狼、スカーブ師の可能性が高くとも、この地方の人々はオスピドの恐怖のせいだと考えたものだった。
エバハート船長はエルゴード訓練場の若き9人の聖戦士を率いて「オスピドの恐怖」を討伐に向かった。9人はエルダ・ハム(Elda Hamm)、ジェラド(Gerad)、コス(Koss)、ハニス(Hannis)、グロド(Grodd)、ペラル(Perall)、フート(Foote)、エルデン(Elden)、ジェッダ(Jedda)だ(ちなみにこの順に命を落とし、ジェッダだけが生き残れた)。
ネファリア州のオスピド川(Ospid River)はヴァストロウ湾へと流れ込み、河口に小さな三角州地帯を形成している。この三角州にはネファリア州最南端の都セルホフと、広大なモークラットの沼地がある。そして、セルホフの三角州からオスピド川のすぐ上流沿いには、サルカ家の代々受け継いできたサルカ荘園(Sarka Manor)があった。
サルカ荘園で一行を待っていたのは、体の捻じ曲がった醜悪な老婆ジョッティ・サルカ(Jotti Sarka)と恐ろしい2人の息子だった。
ジョッティと対面しているところに、川の方から水しぶきのような音が聞こえ、1人目の息子エドガード(Edgard)がやって来た。その姿はほとんど人間と思えないような怪物で、皮膚から節くれだった複数の触手が生えた腕には巨大な爪があり、顔は原形が分からないほど歪み、長い首は肉の筋が格子状に絡み合っていた。エドガードを屠ったものの、ジェラドとコスは口にするもおぞましい死を迎え、生き残った者の多くが負傷した。
息子を喪いジョッティが狂わんばかりに泣いていると、邸宅に近付く足音が響いてきた。ジョッティのもう1人の息子だ(名前は呼ばれていないため不明だが、ジョッティは愛しい子、可愛い子、私の天使、私の小さな息子などと呼んだ)。これこそがオスピドの恐怖であった。その外見は筆舌に尽くしがたい。形の崩れた肉塊に、蠢く触手、垂れ下がった湿地の草、開いた幾つもの大口、歪んだ手足、そして体中のいたるところに赤く病的な肉の筋が格子状を成していた。この怪物によって若き聖戦士は次々と倒され、エバハートとジェッダだけが生き残った。エバハートが怪物の注意を引き付け、その隙を突いてジェッダがトドメの一撃を放った。一瞬でも遅れていたらエバハートは無事では済まなかった…。
イニストラードの悪夢の1つを退治した2人はサルカ荘園を後にし、エルゴード訓練場へと帰還するのだった。
エバハート船長の関連カード
全てのカードで荒くれ船乗りの口調で訳されている。
捕海
“Beware the seagrafs just off the shore. These waters are filled with hungry geists looking for an easy meal.”
–Captain Eberhart
「岸のすぐ先の海墓に注意しな。水の中にゃ、お手軽な飯を探してる腹を減らした霊がうようよしてんだ。」
–エバハート船長
引用:捕海(Griptide)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
捕海(Griptide)はカードセット「闇の隆盛」収録のインスタント・カードだ。
フレイバー・テキストの言葉遣いをより聖戦士隊長らしく修正してみた。
「海岸のすぐ先の海墓に注意しろ。この水域には手軽な餌食を探す飢えた霊がうようよしているからな。」
–エバハート船長
海墓(Seagraf)とは漁師の墓場を意味し、屍術の材料となる死体を漁る者や、霊やゾンビなどのアンデッドが徘徊する場所である。
スキフサングの詠唱
The skifsang, seafarers of Nephalia, craft spells like other sailors craft nets—making them strong enough to snare even the deadliest catch.
ネファリアの船員達の集まりであるスキフサングは、他の船乗りが網を編むかの如くに呪文を編む――それは最も危険な獲物ですら捕えるのに十分な強さだ。
引用:スキフサングの詠唱(Chant of the Skifsang)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
スキフサングの詠唱(Chant of the Skifsang)はカードセット「闇の隆盛」収録のエンチャント・カードである。
フレイバー・テキストによると、スキフサング(Skifsang)とは、ネファリア州の船員たちのことだ。スキフサングは他の船乗りが網を編むように呪文を組み立てる。その呪文は漁の獲物の中で最も危険な類でさえも捕縛できるほど強靭なものである。
「スキフサング」と訳されている「Skifsang」は、おそらく古いドイツ語の言葉の合成語で、「船・ボート」を意味する「Skif」と、動詞の「歌う」の変形「sang」の組み合わせであり、「船の歌い手」くらいの意味合いだと考えられる。
以上に加えてイラストやカードのメカニズムを合わせて考えるに、このスキフサングの詠唱というカードは、ネファリア州の船員スキフサングが用いる歌の魔法の網であり、巨大な海竜に似た生き物(大海蛇?)でさえも捕らえることが可能な強靭さを有しているのだ。
そして、エバハート船長はネファリア州のスキフサングの一員である。
墓所を歩くもの
“I guess what they say is true. What doesn’t kill you makes you stronger. Or at least stranger.”
–Captain Eberhart
「確かに一理あるな。困難に耐えることで人は強靱になるって言うだろ。少なくとも狂人にはなれる。」
–エバハート船長
引用:墓所を歩くもの(Crypt Creeper)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
墓所を歩くもの(Crypt Creeper)はカードセット「アヴァシンの帰還」再録のクリーチャー・カードだ。初出はカードセット「オデッセイ」。
フレイバー・テキストは言葉遊びになっている。英語原文は「stronger」と「stranger」が対応しているが、それに対して公式和訳版では「強靱」と「狂人」で同音異字の熟語で置き換える頑張りを見せている。
このフレイバー・テキストの内容を少し説明すると、「What doesn’t kill you makes you stronger.」は英語のお決まりの言い回しで、直訳すると「あなたを殺さないものはあなたをより強くする」となるが、つまり「死なない程度の苦労は人をより強くする」=「どんな経験でも人を強くする」という意味合いだ。ニーチェの言葉が由来。
エバハートはこの言い回しを引用して、死なない程度の経験を経て人は強くなれるというが、少なくとも「見知らぬ者(stranger)」すなわち、きちんと死に切れないゾンビにはなれるぞ、と皮肉めいた冗談としているのだ。
こうして意味を汲み取ってみると、公式和訳版の方は語呂合わせに苦心したものの、死なない経験が死ねないゾンビになるとの含みが削げ落とされている。英語の言葉遊びは中々訳し切れないものだ。
腐冠のグール
“Don’t look into its eyes. It’s thinking things no dead thing should think.”
–Captain Eberhart
「そいつの眼を見ちゃいかん。死んだ者が考えるべきでないことを考えてやがる。」
–エバハート船長
引用:腐冠のグール(Rotcrown Ghoul)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
腐冠のグール(Rotcrown Ghoul)はカードセット「アヴァシンの帰還」収録のクリーチャー・カードだ。
このフレイバー・テキストも言葉遊びだ。「It’s thinking things no dead thing should think.」で、最初は「think thing」の形で、次は引っ繰り返って「thing think」と繰り返している。
銀弾
“When a werewolf charges, you’ll only have time for one shot. Best make it count.”
–Captain Eberheart
「人狼が突撃して来たら、一発にすべてを賭けることになる。しっかり狙えよ。」
–エバハート船長
引用:銀弾(Silver Bolt)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
銀弾(Silver Bolt)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」収録のアーティファクト・カードである。
このカードのフレイバー・テキストによって、エバハートが2年前の大患期を生き抜いて今も健在だと確定した。
さいごに:記事の全改稿について
本記事は当初投稿した文章とは大きく内容が異なっている。記事内容に大きな誤りがあったため全面改稿を行ったのだ。
改稿前ではエバハートを「船長」と訳すのは誤りで「隊長」こそが正しいと断定的に記述していた。しかし、実はこの私の認識の方が誤りであった。「船長」は誤りとは言い切れず、むしろ「船長」かつ「隊長」であると読むのがより正しい見方だと認識を改めた。
間違いを犯した原因は、私がエバハートに言及する公式記事を1つ見落としていたためで、そこで「ネファリアのスキフサング」だと、つまり船乗りだと明記されていたのだ。この記事では、エバハートの名前はテキスト中ではなく画像(手紙の文面)の一部として登場しており、ウィザーズ公式サイトをテキスト検索しても引っ掛からなかったので、記事作成の下調べから抜け落ちてしまった。そして各種関連カードと、設定集の記述から記事を構成した結果、誤った結論を導き出してしまったのだ。
これは全て私の不完全な調査と不注意が原因である。読者から指摘を受けなければ、私の独力ではおそらく決して気付けなかった誤りだ。
このような経緯で私自身が誤情報の拡散源となってしまった。記事を閲覧したすべての読者、私の発した記述を伝聞で受け取ったすべての方々、ウィザーズ社のエバハート船長の和訳に携わったすべての関係者に対して、謹んでお詫び申し上げたい。
今回を教訓として次回以降に活かし、より注意深い調査を行う所存だ。
エバハート船長の関連記事
MTGアリーナ限定カードセット「アルケミー:イニストラード」関連のリスト