解呪(Disenchant)はMTG初のカードセット「基本セット第1版(リミテッドエディション)」で登場した最古のカードの1枚であり、基本的なカードとして何度も再録されてきた。
来年2022年1月26日発売の漫画「すべての人類を破壊する。それらは再生できない。」第9巻には、この解呪がプロモカードとして付属すると発表され話題になっている(公式ツイート)。プロモカードはカードセット「テンペスト」再録版である。
このプロモカードの登場で、テンペスト版の解呪のフレイバー・テキストが『いい意味でも悪い意味でも』注目を集めている。
今回はテンペスト版解呪の描き出すストーリーについて取り上げる。本記事ではまずはフレイバー・テキストとストーリーの解説を行い、次に登場短編での描写を紹介する。記事の最後ではプロモカード版の「悪い部分」を指摘する。
テンペスト版の解呪の解説
The swarm seemed unmoved by the artificial slivers’ destruction. “They clearly were not the leaders,” Hanna cursed. “I guess we’ll have to do this the hard way.”
人造スリヴァーが破壊されるのを目のあたりにしても、スリヴァーの大群は平然としていた。「あいつらリーダーじゃなかったのよ」とハナは毒づいた。「これはなかなか手こずることになりそうね」
引用:テンペスト再録版の解呪(Disenchant)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
解呪(Disenchant)は対象のエンチャントやアーティファクトを破壊する機能があるインスタント・カードだ。
カードセット「テンペスト」再録版では、ハナ(Hanna)が解呪を唱えてアーティファクト・クリーチャーのメタリック・スリヴァー(Metallic Sliver)を破壊している。
テンペスト版解呪のフレイバー・テキスト
The swarm seemed unmoved by the artificial slivers’ destruction. “They clearly were not the leaders,” Hanna cursed. “I guess we’ll have to do this the hard way.”
人造スリヴァーが破壊されるのを目のあたりにしても、スリヴァーの大群は平然としていた。「あいつらリーダーじゃなかったのよ」とハナは毒づいた。「これはなかなか手こずることになりそうね」
テンペスト再録版の解呪のフレイバー・テキストとイラストは、主人公であるウェザーライト号の一行がラース次元の要塞に侵入しスリヴァーの巣穴で群れに遭遇した、その一場面を描いたものだ。
ウェザーライト号の航行長ハナは、スリヴァーの群れの中には人工的な金属のスリヴァーが交じっていると気づき、それが群れを操っているのではないか?そう考えて魔法で金属スリヴァーを破壊したのだ。しかし、群れには変化が見られず、どうやらリーダーではなかったようだと判明した。
スリヴァーと言う種族には特殊な性質がある。自分以外の個体が持つ能力を共有することができるため、数が増えるごとに群れ全体の力が増すことになるのだ。リーダーを破壊して群れの力を減退させる目論見は失敗してしまった。どうやらこの戦いは厄介なことになりそうだ……。
テンペスト版の解呪の登場ストーリー作品
テンペスト・ブロックを小説として描き直した短編集Rath and Stormでも、テンペスト版解呪の場面がちゃんと出てくる。登場作品は短編Starke’s Taleだ。
解呪に該当する場面を抜粋して、本サイト独自の翻訳をしてみたのでご覧あれ。
The slivers overran Weatherlight.
Hanna shouted, “They’re all sharing the others’ characteristics! We’ve got to break that link somehow!”
Gerrard gasped, “Starke said these things get stronger the more there are. We have to find a way to cut their numbers.”
“Some are artificial,” called back Hanna. “Maybe they control the others. If I can destroy enough of those, that might weaken the swarm.”
Without waiting for a response, she turned toward one of the metallic creatures lunging at her. Shouting a few harsh words, she slapped an armband and gestured at the attacker. It crumbled instantly. She whirled toward another bearing down on Mirri, who was screeching with blood-lust. That sliver, too, vanished into flecks of rust.
But their destruction had no visible effect on the rest of the things.
Hannah cursed loudly-an unaccustomed sound. “That didn’t work at all.” She aimed her sword at another creature. “I don’t understand the purpose of the metal ones. Obviously they aren’t the leaders, though. If only we had a chance to study them….”
“Couldn’t you wait till they stop trying to kill us?” panted Mirri. “Get our backs together!” Gerrard shouted. “We can take them, as long as we can see them coming.”スリヴァーがウェザーライト号に押し寄せてきた。
ハナは叫んだ。「この生き物は別個体が持つ特性を共有して自分のものとしている!どうにかして繋がりを断ち切らないと!」
ジェラードは息を呑んだ。「スタークは数が増えれば増えるほど強くなると言っていたな。数を減らす方法を見つけなければならない。」
「人工的な個体がいるわ。」とハナは返した。「あいつらが司令塔なのかも。あれを壊して数を減らせば、群れの力が弱まるかもしれない。」
返事を待たずに、ハナは自分に向かって来た金属製個体の1体に対峙した。荒々しい言葉を二言三言発しながら腕章を叩き、攻撃してきた個体に手振りした。それは瞬時に崩れ落ちた。彼女は振り返えると、別の個体が血に飢えた声を上げるミリーに襲いかかっていた。そのスリヴァーもまた錆となって消えた。
しかし、こうして破壊しても群れに影響があるようには見えなかった。
ハナは大声で、滅多にない悪態を吐いた。「全く効果なし。」彼女は剣でまた別の標的を狙った。「金属製個体がいる理由は不明。リーダーではないのは明らか、でもね。研究する機会さえあれば…」
「あんたね、殺しにかかってくるのをどうにかしてからにしなよ?」ミリーは息切れしながら言った。「背中合わせになれ!」 ジェラードが叫んだ。「死角を作らなければ、いけるぞ。」
引用:短編Starke’s Tale(短編集Rath and Storm収録)
上が英語原文。下が私家訳版
以上が短編における該当シーンだ。
スリヴァーとの戦闘中にハナがメタリック・スリヴァーの存在に気付き、解呪で錆に変えていくが、群れに変化は確認できなかった、という一連の流れが描かれている。
その中でも赤太字で強調した台詞は、解呪のフレイバー・テキストの文言とかなり似ている。カードで「They clearly were not the leaders」だったが、短編の方では「Obviously they aren’t the leaders, though.」である。
では、この場面の登場人物を軽く紹介しておこう。
ハナ
ハナ(Hanna)はウェザーライト号の航行長であり、一流の工匠でもあるドミナリア次元トレイリア出身の人間女性だ。
解呪のカードのイラストやフレイバー・テキストに登場しているのはもちろん彼女だ。
上記引用した場面では、ハナの見込みは外れてしまった。しかし、そのすぐ後にハナはスリヴァーの群れを細かく分散させてしまえば特性の共有が切れることを発見し、各個撃破で一行を窮地から救うことができた。
メタリック・スリヴァー
よくできた偽物が巣に受け入れられたとき、スリヴァーに対するヴォルラスの影響力はかえって強いものになった。
When the clever counterfeit was accepted by the hive, Volrath’s influence upon the slivers grew even stronger.
引用:メタリック・スリヴァー(Metallic Sliver)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
金属製の人工スリヴァーはメタリック・スリヴァー(Metallic Sliver)としてカードセット「テンペスト」に収録されている。
メタリック・スリヴァーは純粋なスリヴァーではなく、ラースの支配者であるエヴィンカー・ヴォルラスがスリヴァーの群れに紛れ込ませた人工生物、つまり偽者のスリヴァーである。フレイバー・テキストにあるように、このスリヴァーによってヴォルラスは群れに対する影響力を強めたのは事実ではある。だが、たとえメタリック・スリヴァーが破壊されたとしても、それで群れが崩壊したり弱体化したりといったまでの強い支配力はなかったようだ。
解呪のイラストでは破壊される場面が描かれている。
ジェラード
ジェラード(Gerrard)はウェザーライト号の艦長代理を務めるドミナリア次元ベナリア出身の人間男性だ。テンペスト・ブロックの真の主人公である。
「テンペスト」ではラース次元に誘拐されたウェザーライト号の本来の艦長、シッセイを救出するために艦長代理として指揮を執っている。ハナは恋人である。そして、ラース次元の支配者であり事件の黒幕であるヴォルラスの正体は、ジェラードの義兄弟がファイレクシアによって改造され堕落した姿だ。
スターク
スターク(Starke)はラース次元出身の人間男性で、ヴォルラスに人質に取られた娘を救うためにウェザーライト号一行に協力している。協力関係にあるものの、スタークは裏切り上等な卑劣漢であり、決して信用してはならない類の人物だ。
ラースの要塞に侵入する案内役を務めていて、事前にスリヴァーに関してジェラードらに助言したものの、群れの襲撃を受けるとすぐさま船内に逃げ込んでしまった。
ミリー
ミリー(Mirri)はドミナリア次元出身の猫人の女性だ。凄腕の戦士である彼女のウェザーライト号での役割は、親友ジェラードの副官である。
ちなみに、短編集Rath and Storm収録の短編Mirri’s Taleではジェラードを愛する気持ちをずっと隠してきたと明かされる(この短編を除いて、そんな素振りは全く匂わされもしてなかったのだが)。ミリーの秘めた気持ちが背景にあると考えると、上記引用した場面でジェラードの恋人になったハナに対する当たりがきつめなのは納得がいく……?
解呪:すべそれ9巻プロモカード
その大群は、人造スリヴァーの破壊力に動じていない様子だった。「明らかに主導者格ではないわね。」ハナは悪態を吐いた。「どうやら、骨を折らなきゃいけないようね。」
引用:解呪:すべそれ9巻プロモカードのフレイバー・テキスト
これが漫画「すべての人類を破壊する。それらは再生できない。」(通称:すべそれ)の第9巻に付属するプロモカードだ。イラストとフレイバー・テキストはカードセット「テンペスト」版なのだが、フレイバー・テキストの翻訳が新規に訳し直されている。そしてこの新規和訳が問題なのだ。
フレイバー・テキストの一番の問題点は「その大群は、人造スリヴァーの破壊力に動じていない様子だった。」の部分だ。このカードは上述してきたように、ハナがメタリック・スリヴァーを破壊したものの群れへの影響がなかった、という場面である。ところが、新フレイバー・テキストはスリヴァーは破壊されていないし、むしろ破壊力を誇示してさえいるのだ。どうしてこうなった…!?
おそらくは新規訳の「破壊力」が「破壊」のタイプミスなのだろう。「破壊」に差し替えて読むと、ちゃんと正しい意味で読めるのだから……。
巷では、せっかくの日本限定特別プロモカードなのにとか、わざわざ訳を差し替える必要はあったのか、などと残念がる反応が見られる一方で、誤訳の多いテンペストの特徴まで再現しなくてもいいのに、とあきれる声も聞こえてくる。
ここ最近の日本ウィザーズの翻訳はその誤訳の多さでユーザーの信頼を著しく失ってきており、そこでこの失態ではみんなひとこと言いたくなるというものだ。気持ちは分かる。
さて、あと数日で2022年だ。そして年が明けたら次には翻訳が手ごわそうなカードセット「神河:輝ける世界」が控えている。今度こそ最後にして新年からは心機一転で巻き返して欲しいものだ。
では今回はここまで。