ドミナリア史:神話時代の再考証

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ドミナリア次元の神話時代(Mythohistory)を、カードセット「団結のドミナリア」現在までの最新情報を基に再考証する。

2022年9月20日付の記事で述べたように、現時点でのウィザーズ公式が公開している情報と、この4年でウィザーズが進めている方向性に沿った「正統」な歴史解釈を行う。

追記(2023年7月26日):記事の最後に「追録」節を新設して、本記事投稿後に明確化された時系列情報を記した。

神話時代という大枠の確認

まず初めに大枠となる神話時代を確認する。設定集The Art of Magic: The Gathering – Dominariaによると、神話時代AR-20000年頃からAR-15000年)はエルダー・ドラゴンの誕生に始まり、古龍戦争、上古族の支配、神霊の支配を含んでいる。

また神話時代には、ニコル・ボーラスと悪魔的リバイアサンとの間で史上初のプレインズウォーカー同士の決闘が行われてもいる。

そして2022年のカードセット「団結のドミナリア」現時点において、神話時代は始まりと終わりの年代のみで、この期間内の公式な年表は公開されていない。

本記事の目的は、この5000年間を埋めて年表を作ることになる。



時系列順の確認

古龍戦争、上古族、神霊は時系列順に並べると次の通りだ。

まずカードセット「団結のドミナリア」の公式記事によると、古龍戦争の後のどこかの時点で上古族の支配が始まった。そして、小説Scourgeによれば、上古族ドラゴン5体を封印した5人の魔術師の内、生き残った3人の神霊がドミナリアを支配する時代が始まった。

したがって、神話時代には「古龍戦争→上古族の支配→神霊の支配」の順番で、互いに時期が被らずに発生していたと導き出せる。

話は単純に見えるが、これらの出来事は神話時代の5000年内にすんなりとは収まり切れない。5000年を遥かに超えてしまうのだ。

メモ:エルダー・ドラゴンと上古族
上古族は、2000年のインベイジョン・ブロック期に登場したその時以来ずっと、ストーリーファンからはエルダー・ドラゴンとの関係性に疑問の声が上がっていた。どちらが先あるいは後なのか?設定の上書きなのか?両者があまりにも似すぎた立ち位置にあったためだ。

2018年のカードセット「ドミナリア」期になって、ウィザーズ公式はエルダー・ドラゴンと上古族の関係の明確化に向けて切り込み始めた。最初は公式Podcastで上古族は第二世代だとする仮説が出された。その後のカードセットでは古龍戦争のストーリーが語られ、続いてエルダーと上古族が親子関係にある設定が実際に明かされることになった。

そうして2022年のカードセット「団結のドミナリア」の公式記事において、上古族の支配が古龍戦争の後のどこかの時点だと、初めて公式に言及が行われたのだ。

神話時代の問題点

神話時代の最大の問題点は、5000年間に全ての出来事が収まり切れないことである。具体的に説明しよう。

この節では古龍戦争、上古族の支配、神霊の支配のそれぞれがどのくらいの期間に渡っていたのかを調べる。それらの期間を合算して、神話時代5000年間を何世紀も超えてしまうことを確認する。

古龍戦争の期間

対峙するエルダー・ドラゴンのニコル・ボーラス(左)とウギン(右)
巨竜戦争(The Elder Dragon War)一部拡大図

まず古龍戦争。始まった時期は不明瞭であるが、神話時代の始まりから4000年か5000年か経過した時代でも、ニコル・ボーラスとアルカデス・サボスは戦争中であった(古龍戦争が継続中)。

出典は連載ストーリー「ボーラス年代記」だ。第6話でのニコル・ボーラスは、ウギンと別れた日は人型種族の時間単位で4、5000年も前だ1、との発言をしている。

ボーラスがここで経過した期間を偽る理由はない。ボーラスは知力が高いキャラクターだから4000年から5000年が経っているのは正しいはずで、ただ、ドラゴンらしく傲慢かつ長命なために人型種族を見下したこんな表現を選んでしまうのであろう。この作中の流れで、ボーラスが必要もない嘘を吐き、数値を間違える愚かな人物だと描写する、ストーリー上の合理性は無い。したがって、4000年とも5000年とも言い難い、その半ばであったのだろう。

上古族の支配の期間

AR4205年に勃発したファイレクシア侵略戦争時に一時復活した上古族の姿
上古族の栄華な再誕(Primevals’ Glorious Rebirth)一部拡大図

次に、上古族の支配は300年間であった。

出典は短編Hero of the Peopleである(短編集The Dragons of Magicに収録)。上古族の支配期間は、ミトロキン村にドラゴンの群れが現れて世界の支配を告げてから「300年後(原文はThree Hundred Later…)」の現在までで終わる。きっちり300年ではなく概ねその程度という意味ではあろうが、神話時代当時の記述なので、2万年後現在からの推測や伝聞による記述と比べれば、この数値は高い確度で信頼がおける。

神霊の支配の期間

AR4300年頃、陰謀団が崇拝する神霊クベールの像
闇の嘆願者(Dark Supplicant)一部拡大図

最後に、神霊はドミナリアを1000年間支配し、AR4310年頃現在から20000年前に滅んだ。

出典は小説Legions小説Scourgeだ(主に後者)。現代に遺された20000年前と言う情報だけではなく、特に作中で復活した神霊本人が1000年間の支配の後に、現在から20000年前に滅んだ、と語っている点が重要である。

1000年間の支配と、20000年前の滅亡。きっちりでなく概ねその程度という意味で正しい数字と考えられる。神霊にも数字を大きく偽る理由はない。

神話時代5000年間を超過

以上、導き出した数値は信頼できると分かった。ではそれらを合算してみると、5300年から6300年となる。神話時代のおよそ5000年間を何世紀も超過してしまった。

この合算値は古龍戦争、上古族、神霊のそれぞれが間を開けずに連続で発生し、その上、ボーラスとアルカデスの戦いが古龍戦争の最後だった、という想定の最低値である。だから、どう見積っても5000年を300年以上はみ出すことは避けられないし、あるいは1000年かそれ以上の余剰分が出てもおかしくはない。

これが神話時代の問題点である。ウィザーズの示す公式情報に従うと、神話時代5000年間に出来事が収まり切らずに、何世紀も超過してしまうのだ。



神話時代の問題点の解消

神話時代の問題点が確認できた。次の課題は5000年を超過した数世紀をどう処理して問題を解決するかである。

ここで神話時代の始まりに着目すると、AR-20000年「頃」となっている。この「2」という曖昧さに余剰分を吸収してしまう、私にはこれ以外に解決策が思いつかなかった。3

つまり、ここは開き直って、一切合切を神話時代の始まりのAR-20000年「頃」という表現に吸収して処理する。「正確な所は不明だが、実際の神話時代の始まりはきっちりAR-20000年ではなくもう少しばかり昔だったらしい。だがしかし、現存する記録も十分ではなく謎が多い遥か太古の昔の出来事。だから、これ以上に正確な特定は不可能だ。仕方ない」ととぼけるのだ。

方針は決まった。じゃあ何世紀までは許容できるだろうか?300年はゆうに超えることが明らかだ。それ以上となると500年が限度じゃなかろうか。それを越えれば流石にAR-21000年と表現をしたくなる。

神話時代の始まりAR-20000年「頃」とは、より正確にはAR-20500年から-20300年なのだ。これで上手くいくか仮の年表で試してみよう。

仮の年表に配置

神話時代はAR-20000年頃からAR-15000年までとの設定なので、神霊の支配の終わりをAR-15000年として、終わりの方から配置して行くと次のようになる。

神話時代の始まり:AR-20500年頃から-20300年頃
古龍戦争:AR-16300年頃までには終戦
上古族の支配:AR-16300年頃から-16000年頃
神霊の支配:AR-16000年頃から-15000年

ボーラスの「ウギンと別れた日は人型種族の時間単位で4、5000年も前だ」発言。上古族の支配が300年間。神霊の支配がその後の1000年間。全て合致している。

神霊の時代の終焉はAR-15000年と置くことになった。小説ScourgeAR4310年頃の時代設定だったので、およそ19000年前となる。これを20000年前と切りよく表現するのは許容範囲に思える。

神話時代の始まりは、ニコル・ボーラスの誕生と同じである。時のらせんブロック以降、ボーラスの年齢は25000歳となっている。現代の時代設定はAR4500年代であるから、4500-25000=-20500となる。これは仮年表の「神話時代の始まり:AR-20500年頃から-20300年頃」に都合よく当てはまっている。

最後のもう1つ、「ニコル・ボーラスと悪魔的リバイアサンとの間で史上初のプレインズウォーカー同士の決闘」は小説Future Sight現在で20000年前と語られている。作中現在はAR4500年なので、4500-20000=-15500年となる。仮年表では、AR-16300年頃までには既にボーラスはプレインズウォーカーとなっているので、それ以降の出来事として悪魔的リバイアサンは矛盾はしない。

仮年表は十分な正しさで通用すると考えられる。



結論

本記事では、現時点でのウィザーズ公式が公開している情報と、この4年でウィザーズが進めている方向性に沿った「正統」な歴史解釈を行った。

ウィザーズの示す公式情報に従うと、神話時代には「古龍戦争→上古族の支配→神霊の支配」の順番で、互いに時期が被らずに発生していた。ところが、神話時代5000年間に出来事が収まり切らずに、何世紀も超過してしまう問題が明らかになった。5000年を300年以上はみ出すことは避けられないし、あるいは1000年かそれ以上の余剰分が出てもおかしくはない。

この余剰分の数世紀を、神話時代の始まりのAR-20000年「頃」という表現に吸収して処理することで解決を図った。神話時代の始まりをAR-20500年頃から-20300年頃と解釈して出来事を時系列順に当てはめたところ、十分な正しさを持つ年表が作成できた。

ウィザーズの意図に沿った「正統」な歴史解釈が行えた、と私には思える。いかがだったろうか?

では今回はここまで。

追録:Magic: The Gathering The Visual Guide

資料集Magic: The Gathering The Visual Guideにおいて、神話時代の時系列のいくつかが明確化された。

第1に、古龍戦争の終結はニコル・ボーラスのプレインズウォーカーの灯が点火し、多元宇宙に旅立った時点である。

第2に、上古族は古龍戦争の後に、エルダー・ドラゴンの子孫の内5体が変貌した存在である。

したがって、神話時代が「古龍戦争→上古族の支配→神霊の支配」の順番で発生していたことが公式に完全に確定されたことになる。

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マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のドミナリア次元の時代区分「神話時代」はAR-20000年頃~AR-15000年の時代のこと。神話時代はエルダー・ドラゴンの誕生から始まり、古龍戦争、上古族ドラゴンの暴政、そして、神霊の支配する時代である。
  1. 原文は「That day happened four or five thousand years ago as humanoids measure time.」で、「あの日は、人型種族の時間単位で言えば四、五千年前になる。」くらいの意味合い
  2. 英語では「circa.」
  3. ただし「古龍戦争→上古族の支配→神霊の支配の順に被らずに発生」という前提自体の解釈を変える全く別の「異端」な発想はあるが……