エルドレインの森:フォーン

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エルドレイン次元の山羊系人型種族フォーン(Faun)を取り上げる。

追記(2023年9月23日):なぜ絡み架かりが土地カードでは山(Mountain)なのかについて考察を加筆した。

追記(2023年10月9日):フォーンがイラストに描かれたカードとして、手練(Sleight of Hand)を追加し、MTGアリーナのステージに描かれた絡み架かりについての解説を書き足し、その他にリンクなども補完した。

追記(2023年10月10日):カードセット「アルケミー:エルドレイン」の公式カードギャラリーが公開され、フォーンの描かれたイラスト1種類を確認したため、それを追加した。→一番目の子豚(First Little Pig)

本記事は、「エルドレインの森」の各種カードおよび「エルドレインの森ワールドガイド」に基づいて作成したものだ。

ワールドガイドはMTG30周年記念展示で特別公開されていたが撮影不可のため、私は個人的に要点をメモしておいた。メモと記憶に頼っているので、正確さという点では完全とは言えない。あらかじめ了承していただきたい。

エルドレインのフォーンの解説

エルドレインのフォーン
荒々しい三つ子(Gruff Triplets)

フォーン(Faun)カードセット「エルドレインの森」で初登場した種族だ。クリーチャー・タイプはサテュロスに分類される。

フォーンは山羊系人型種族である。

頭部に大きな角を生やし、耳は尖り、両足は山羊の後ろ脚に似ており、尻尾がある。髪の毛や髭もあるがその他に全身には体毛が生えている。髭をたくわえる者にはいわゆる山羊髭もいる。上まぶたと下まぶたの色が青みがかっている者が少なくない。

人間同様に服や防具、外套を身に着け、武器や道具も扱える。ただし、腰回りには腰布程度を巻く者はいても、パンツやズボンの類を穿く姿は(現時点では)確認できない。

メモ:フォーンとサテュロス
英語の「フォーン(Faun)」はローマ神話の「ファウヌス(Faunus)」が語源で、ギリシア神話の半獣半人の「サテュロス(Satyr)」ともしばしば同一視される。MTGでは、フォーンはエルドレイン次元が初出であるが、既存のクリーチャー・タイプ「サテュロス」に分類された。



エルドレインのフォーンの歴史

AR4562年の新ファイレクシア侵略戦争以前、フォーンは結束した家族と共に深い森の中で隠遁生活を好んでいた。他の領域の住人とは滅多に顔を合わせることがなかった。

しかし侵略戦争が勃発すると、フォーンは森を離れて防衛戦に参加し、他のエルドレインの住人たちと力を合わせたのである。

戦争が終結しても、フォーンは共同防衛の精神を持ち続けており、絡み架かり(Tanglespan)を管理することを選んだ。フォーンは裂け目を繋いで渡された、交差する橋の数々を警備し、無防備な通行人を餌食にしようと待ち構えるトロールに対処している。

絡み架かり

山(Mountain)

山(Mountain)
データベースGathererより引用

絡み架かり(Tanglespan)はエルドレイン次元の地名である。

境界地にある幾つもの裂け目が広がる一帯で、巨大な豆の木がそこここに絡みつく断崖絶壁の中、通行するための沢山の橋が渡されている。ここには橋と旅人を守るフォーンと、裂け目の洞窟や橋の下に潜みつつ通りかかる旅人を喰らうトロールがいる。

絡み架かりの裂け目は、AR4562年の新ファイレクシア侵略戦争中に出来た新しいものだ。忌まわしき眠りの魔法がかけられた際、エッジウォールに近い谷間の地面が割け、そこから紫色をした眠りの霧が発生した。

そうした裂け目は王国と僻境の間に広がっており、戦後に橋が架けられて「絡み架かり」と呼ばれるようになった。

余談:「絡み架かり」の誕生
実は、カードセット「機械兵団の進軍」の短編で「絡み架かり」がこっそり登場していたこと、にお気づきだったろうか?

ランクルとトーブラン(Rankle and Torbran)が主役の短編では、忌まわしき眠りの魔法が発現した瞬間、大地の裂け目ができる場面が語られていた。これが後に「絡み架かり」となる地形の最初の誕生であったのだ。

機械兵団の進軍:ランクルとトーブラン
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)の伝説のキャラクター「ランクルとトーブラン(Rankle and Torbran)」を紹介。機械兵団の進軍で収録。エルドレイン次元の異色伝説コンビのストーリーを解説する。

「絡み架かり」の意味と翻訳

「Tanglespan」は単語に分解すると、「tangle」が「(糸や髪などの)もつれ」で、「span」が「橋を架ける」の意味がある。

こういう地名はカタカナ音写表記で「タングルスパン」と和訳されることが多いものだが、今回は「絡み架かり(からみがかり)」と翻訳された。ちなみに、「エルドレインの森」で新たに出た地名には他に、「ダンバロウ」や「デルヴァーホウ」がある。これらも「絡み架かり」のように、「焦げ茶塚」とか「穴掘り谷」みたいな日本語の置き換えることも可能な地名だが、どちらもカタカナ音写になっている。

個人的な意見だが、この「絡み架かり」という字面は地名だと判断しにくいので、余り好ましいとは思えない。「タングルスパン」の方が望ましいのではないか。

フォーンと童話「三びきのやぎのがらがらどん」

エルドレインのフォーンは、童話「三びきのやぎのがらがらどん」の山羊をベースに人型種族に構成し直したデザインと見て取れる。→童話の概要はこちらを参照。

エルドレイン次元の世界構築では、喋る動物という存在はNGという一線を引いてデザインされている。「三びきのやぎのがらがらどん」に出てくる喋る山羊は、そのままではエルドレインには存在しえないのだ。だから、エルドレインでも許容可能なフォーンへと変換して登場させたのであろう。

フォーンに関連するカード

カードセット「エルドレインの森」のカードの中で、フォーンを表すクリーチャー・カードから、フォーンあるいは絡み架かりに言及するカードを取り上げる。

荒々しい三つ子

荒々しい三つ子(Gruff Triplets)

荒々しい三つ子(Gruff Triplets)
データベースGathererより引用

荒々しい三つ子(Gruff Triplets)カードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。

童話「三びきのやぎのがらがらどん」を基にしたデザインである。

まずカード名が意識している。英語のカード名は「Gruff Triplets」であり、童話の方の英語題名「Three Billy Goats Gruff」だ。どちらにも3匹(3人)を意味する言葉があり「Gruff」という同じ単語が使われている。

次にカードのメカニズム。最初は3/3だが、1人斃れると残りは6/6になり、2人目が斃れると最後の1人は12/12となる。「三びきのやぎのがらがらどん」では、1匹目の山羊より、2匹目の方が大きく、3匹目はさらに大きくトロールよりも強かった。それをカードとしてアレンジして落とし込んだのが分かる。

カタカタ橋のトロール(Clackbridge Troll)

カタカタ橋のトロール(Clackbridge Troll)
データベースGathererより引用

それを踏まえた上で、カードセット「エルドレインの王権」カタカタ橋のトロール(Clackbridge Troll)と比較すると、このトロールは8/8だったので1-2人目では太刀打ちできないけれど、3人目のフォーンになれば倒せる数値になっている。これは非常に芸が細かい。

絡み架かりの見張り

“The trolls have your scent, traveler. Hurry on, and let me take care of them.”
「旅人さん、トロールはあんたの匂いを嗅ぎつけてくる。ここは私に任せて、先を急ぎな。」
引用:絡み架かりの見張り(Tanglespan Lookout)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

絡み架かりの見張り(Tanglespan Lookout)

絡み架かりの見張り(Tanglespan Lookout)
データベースGathererより引用

絡み架かりの見張り(Tanglespan Lookout)カードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。

フォーンが絡み架かりの橋の管理者であり、旅人をトロールから護って働いていることがこのカードで十分に理解できる。

壌土造りのフォーン

“Give me just a moment. I need to grow us a new bridge.”
「一瞬だけ待ってくれ。新しい橋を育てる必要がある。」
引用:壌土造りのフォーン(Loamcrafter Faun)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

壌土造りのフォーン(Loamcrafter Faun)

壌土造りのフォーン(Loamcrafter Faun)
データベースGathererより引用

壌土造りのフォーン(Loamcrafter Faun)カードセット「エルドレインの森」の統率者デッキに収録されたクリーチャー・カードである。

イラストでは、フォーンのドルイドは旅人たちとこちら側にいて、分断された橋を挟んで向こうの崖にトロールがいる。

フレイバー・テキストも加味すると、まずフォーンのドルイドが魔法で橋を壊してトロールが渡って来れないようにした。こうして旅人たちの安全を確保した後で、別の新しい橋を魔法で育てて架けるために少し待つように声をかけたのだ。

根乗りのフォーン

“Human feet aren’t inferior to hooves for climbing. It’s their plodding, mistrustful personalities that hold them back.”
「木登りにおいて人間の足は蹄に劣っているわけじゃない。彼らが劣っているのは鈍臭くて疑り深いことさ。」
引用:根乗りのフォーン(Rootrider Faun)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

根乗りのフォーン(Rootrider Faun)

根乗りのフォーン(Rootrider Faun)
データベースGathererより引用

根乗りのフォーン(Rootrider Faun)カードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。

山羊系人型種族らしく、登攀能力においてフォーンは人間よりも優れている。

優雅なる叩き伏せ

The fauns of the Tanglespan are adept at using the precarious environment against larger opponents.
絡み架かりのフォーンは、不安定な地形を生かして大きな敵を相手にすることに長けている。
引用:優雅なる叩き伏せ(Graceful Takedown)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

優雅なる叩き伏せ(Graceful Takedown)

優雅なる叩き伏せ(Graceful Takedown)
データベースGathererより引用

優雅なる叩き伏せ(Graceful Takedown)カードセット「エルドレインの森」に収録されたソーサリー・カードである。

このカードは絡み架かりでのフォーンとトロールの戦いを描くものだ。

イラストでは、橋の上でフォーン3人が連携してトロール1体を圧倒している。

山羊に相当するフォーンが3人、橋、そしてトロール。童話「三びきのやぎのがらがらどん」を意識しているのが伺える。

自然の意志

“The troll took the fauns’ hesitation as fear and roared in triumph. In truth, they’d seen the ledge begin to crack beneath his weight.”
–The Goose Mother and Other Tales
「トロールは、ためらうフォーンたちを怯えていると見て、勝利の雄叫びをあげた。そのフォーンたちは、岩棚がトロールの重さでひび割れつつあるのを見ていた。」
–「ガチョウの母」
引用:自然の意志(Nature’s Will)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

自然の意志(Nature's Will)

自然の意志(Nature’s Will)
データベースGathererより引用

自然の意志(Nature’s Will)カードセット「エルドレインの森」のおとぎ話という特別枠で再録されたエンチャント・カードである。初出はカードセット「神河物語」だ。

イラストとフレイバー・テキストを合わせて読み解いてみる。

絡み架かりでフォーンの射手隊が1人のトロールを岩棚の際まで追い詰めた。遠巻きに囲む槍の穂先も見えている。その上、トロールの身体は蔦に幾重にも巻き付かれており、これはフォーンの魔術師の魔法であろうか。

この状況下で、トロールはためらうフォーンたちを怯えていると誤認し勝利の雄叫びを上げたのだが、彼の足場がひび割れつつあったのだった。間もなく崖下に真っ逆さまであろうとも知らずに……。

自然の意志(Nature's Will)

自然の意志(Nature’s Will)
データベースGathererより引用

こちらはアニメ版特別イラストである。絵のテイストの違いが興味深い。

手練

The farmer was amazed to see the penny vanish into thin air, but the goose knew he’d just slipped it to the faerie.
農夫は銅貨が消えたことに驚いたが、ガチョウはフェアリーにこっそり渡しただけだと知っていた。
引用:手練(Sleight of Hand)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

手練(Sleight of Hand)

手練(Sleight of Hand)
データベースGathererより引用

手練(Sleight of Hand)カードセット「エルドレインの森」に収録されたソーサリー・カードである。カードセット「ポータル・セカンドエイジ」が初出だ。

手練(Sleight of Hand)の一部拡大図

イラストの見物人たちの中を観察すると、画面中央奥にいる角と髭の人物はどうやらフォーンのようだ。

また、見物人たちにはエルフが大勢いることから、ここは人間の王国内ではなく、境界地(Boundary Lands)の街エッジウォールと考えられる。

一番目の子豚

一番目の子豚(First Little Pig)

一番目の子豚(First Little Pig)
公式カードギャラリーより引用

一番目の子豚(First Little Pig)はカードセット「アルケミー:エルドレイン」に収録されたクリーチャー・カードである。

これは童話「三匹の子豚」モチーフのカードであり、詳細は別記事を参照されたい。

ここではイラストの背景には、フォーンの姿が確認できることのみを触れておきたい。

山(Mountain)

山(Mountain)
データベースGathererより引用

カードセット「エルドレインの森」山(Mountain)には絡み架かりの地勢が描かれている。

山(Mountain)

山(Mountain)
データベースGathererより引用

こちらは特別版イラストの山(Mountain)である。

なぜ「山」が絡み架かりなのか?

以上のように、絡み架かりは土地カードとしては赤マナの源である「山」として表されている。

ところが、絡み架かりに関係が深いクリーチャーは、フォーンとトロールであるが、両種族とも赤の要素を含んでいない(フォーンは緑、エルドレインのトロールは黒緑)。生息地との色の不一致があるのは全くMTGらしくはない設定だ。

ここでカードセット「エルドレインの森」の開発記事を調べてみると、フォーンとトロールの元ネタである「3びきのやぎのがらがらどん」は、「赤ずきん」に代わる赤緑アーキタイプの候補として何度も候補に挙げられたのだという。更に、開発中にはカードセット内に様々な変更が何度も加えられたとも証言されている。

ということは、フォーンは開発途中のある時期までは赤緑を想定した種族だったとみていい。それが最終製品版では緑単色の種族に収まったのだ。絡み架かりが赤の地形「山」になったのは、こうした開発中の名残りと考えられる。

設定的な齟齬を正すため、将来のエルドレインでは赤いフォーンやトロールがカードとして出現してくることになるかもしれない。幸いにも、他の次元では赤いサテュロス(テーロス次元)とトロール(ドミナリア次元とカルドハイム次元)は既出の存在なのでゲーム的な問題もないはずだ。

MTGアリーナのステージ

MTGアリーナのエルドレインの森ステージ(右下部分)

これはカードではないが、ついでにここで取り上げておこう。

MTGアリーナには「エルドレインの森」の対戦ステージがある。このステージは、エッジウォールの街を中央に配し、それを取り囲むようにこのセットの各種スポットが描かれている。

絡み架かりはエッジウォールの街の右下に確認できる。大きな裂け目と橋、そして豆の木があり、これは明らかに絡み架かりだ。

豆の木の太い茎を右下へと辿っていくと、雲の上の巨人の国ストームケルドへと至ることになる。これは絡み架かりの豆の木がストームケルドから伸びている証の1つと考えていいだろう。



さいごに

エルドレインのフォーン
荒々しい三つ子(Gruff Triplets)

以上でフォーンに関する諸々の話は打ち止めだ。

喋る山羊が駄目なら、山羊系種族を設定すればいい。これは中々に機転の利いた発想だったと感嘆している。

では、今回はここまで。

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