本記事は「ファイレクシアの沿革」と題して、MTG史上での「ファイレクシア(Phyrexia)」の変遷を時系列に沿って書き出す内容となる。今回は第4回目だ。
前回まででカードセット「基本セット第5版」までの範囲が終わったので、今回からは「ウェザーライト・サーガ」を扱っていく。本記事では最初に「ウェザーライト・サーガ」の概要を説明した後に、カードセット「ウェザーライト」のファイレクシア情報を解説する。
※ もともと個人的な覚書を最低限読めるように記事化したものなので、雑で味気ないのはご容赦ください。
ウェザーライト・サーガ
カードセット「基本セット第5版」の次はいよいよカードセット「ウェザーライト」が登場し、ここから4年間に及ぶ長編ストーリー「ウェザーライト・サーガ」が展開される。飛翔艦ウェザーライト号の主人公たちとファイレクシア陣営との戦いが描かれていく。
明確な主人公と悪役が居て、複数のカードでその言動が描かれてストーリーが語られ、登場人物たちを継承してカードセットを跨いで大きなストーリーアークとして繋がっていく。ウェザーライト・サーガはそれをMTG史上で初めて明確に意識した物語なのだ。
ウェザーライト・サーガの大まかな流れ
ラース・サイクル:カードセット「ウェザーライト」から「テンペスト」、「ストロングホールド」、「エクソダス」までの4セットは、ウェザーライト・サーガの序章「ラース・サイクル」である。
ウルザ・ブロック:その次がウルザ・ブロック1だが、このストーリーは過去の時代を描くもので、主人公はウェザーライト号の面々から一旦、プレインズウォーカーのウルザに交代となる。ウルザとファイレクシアの四千年余りの戦いが語られる。
マスクス・ブロック:そして現代に戻ってマスクス・ブロックだ。ラース・サイクル以後のウェザーライト号を描くと共に、同時期のラースやドミナリアの状況も並行して語る変則的なオムニバス・ストーリーが展開される。
インベイジョン・ブロック:ウェザーライト・サーガの最終章インベイジョン・ブロックでは、全てのストーリーラインが合流する。ファイレクシアがドミナリア侵略戦争を開始し、その終戦を持って大団円を迎えるのである。
ウェザーライト
さて今回はラース・サイクルの最初のカードセット「ウェザーライト」を取り上げる。
ファイレクシアの情報はどれほど見つかるだろうか?ファイレクシアが敵となる長編ストーリーの幕開けだからさぞ大いに違いあるまい、などと期待すると肩透かしを食らうことになる。では実際に確かめようか。
1997年6月、カードセット「ウェザーライト」にはファイレクシア関連と分かるカードが1種類だけ収録されている。それが以下のファイレクシアの炉(Phyrexian Furnace)である。
ファイレクシアの炉
ファイレクシアの炉(Phyrexian Furnace)は抽象的なイラストであるが、赤く燃え盛る炉に歯車などの機械部品を投げ込んでいる様子であろう。Encyclopedia Dominiaの既存情報として、ファイレクシアの第四層には巨大な炉が存在することが分かっているので、このカードはそれと同じものであろうと考えられる。今まで通りの「機械を破壊する地獄ファイレクシア」のイメージを踏襲しているように感じさせるカードである。
カードリストをいくら眺めてもファイレクシアはこれっきりだ。
ウェザーライト期のDuelist誌
カードセット「ウェザーライト」期にはDuelist誌には毎号、ストーリー解説や設定解説、掌編が盛りだくさんであった。
シッセイ艦長の誘拐から物語が始まり、ウェザーライト号の主人公たちのプロフィールや冒険の軌跡が細かく語られていた。敵の方も、ラース次元を支配するヴォルラスとその配下たちや、ヴォルラスの背後に控える謎の「荒廃の王」の存在が雰囲気たっぷりに描かれていた。
ただし敵の正体が「ファイレクシア」であることはどこを見ても読み取れないのだ。
ファイレクシア関係は見かけ上では、収録カードの「ファイレクシアの炉(Phyrexian Furnace)」たった1枚だけなので、当時としては「定番のファイレクシアがまたゲスト出演してるんだな」程度にしか感じられないものだった。
実はファイレクシアンだったカード
実は伝説のクリーチャー・カードとして収録されたガロウブレイド(Gallowbraid)とモリンフェン(Morinfen)というファイレクシアンのコンビがストーリーにも登場していたのだ。
だが、当時の説明はただヴォルラスの配下のみであった。2人がファイレクシアのエージェントだと明言されたのはずっと後のDuelist誌のFAQでである。
それに「ウェザーライト」当時の目で見て、ガロウブレイドとモリンフェンの2人の姿はファイレクシアのデーモンや僧侶、グレムリン、諸々の機械生物と比べて、外見的な特徴に似た部分がない。イラストからファイレクシアンだと推測するのは無理だっただろう。
「ウェザーライト」での一番の強敵として最後に戦うのが、ヴォルラスに雇われたドミナリア出身のケルドのマラクザス(Maraxus of Keld)だったことからも、ファイレクシアのイメージを想起しにくかった理由ではなかったろうか。
ウェザーライトのファイレクシア(ラース)
カードセット「ウェザーライト」時点でのファイレクシアの情報は以下の通りだ。ただし、ラース次元がファイレクシアによって創られた人工次元で、荒廃の王の正体はヨーグモスだと判明するのはもっとずっと先のことだ。
- 荒廃の王(The Lord of the Wastes)は悪の化身である。
- 荒廃の王に仕えるヴォルラス(Volrath)はラース次元の支配者エヴィンカーであり、実はジェラードの義兄弟であるが彼を憎んでいる。
- 「レガシー」と呼ばれる伝説のアーティファクト群だけが荒廃の王を滅ぼせる。
- ウェザーライト号の艦長シッセイは「レガシー」の収集を使命としており、ジェラードを「レガシー」を受け継ぐ者と見做していた。
- ジェラードを誘き寄せるため、ヴォルラスはシッセイを誘拐した。
- スタークはヴォルラスに娘を人質に取られて下僕となったラース人で、シッセイ艦長の誘拐に関与したものの、ウェザーライト号に娘の救出の望みを抱いてジェラードに忠誠を誓った。スタークは普通の人間に見えるため、ラース次元の住人は人間であるかもしれない。
- ガロウブレイドとモリンフェンはヴォルラスの配下だ。ラースの住人にはこの種の怪物的人型種族がいるのかもしれないし、この2人はドミナリア出身かもしれない。
- シッセイ艦長誘拐時には次元門を発生させる魔術か装置が使用されており、またラース人のスタークがドミナリアに送り込まれていることから、ラースにはその種の次元移動の手段と知識がある。
さいごに
個人的な話だが、カードセット「ウェザーライト」はDuelist誌17号の告知段階からテンペスト・ブロックになってからも私はずっと楽しんでいた。でも手放しで満足だったわけではなかった。
これからの主人公として突然出された新キャラクターたち。新たな敵ラース次元の荒廃の王とヴォルラス。ストーリーの最後ではお馴染みのドミナリア次元を離れて、ラース次元に旅立ってしまう(それからほぼ1年間のカードセットは見知らぬ地ラースに居続ける)。
ドミナリアもラバイアもファイレクシアもウルグローサもまだ掘り下げてる途中だったのに、Encyclopedia Dominiaの更新も止まり、RPG版MTGの続報もなくなってしまった。(当時の私は知らなかったが、ウェザーライト・サーガの始動前には、ハーパー・プリズム小説シリーズとアルマダコミック・シリーズの展開も打ち切られていた。)
見知らぬキャラクターが、見知らぬ土地で、全く新しいストーリーのスタートを切った。カードのビジュアルもデザインも刺激的だが、今までの流れを打ち切ったテコ入れ展開みたいで寂しい。それが当時の私が「ウェザーライト」に抱いた印象だった。
しかしまさかファイレクシア尽くし、ウルザ尽くしの4年間の幕開けだったとは……。→次回その5へ。
今回はここまで。