本記事は「ファイレクシアの沿革」と題して、MTG史上での「ファイレクシア(Phyrexia)」の変遷を時系列に沿って書き出す内容となる。今回は第8回目だ。
前回はラース・サイクルのコミック「Gerrard’s Quest」を扱った。そして今回は短編集Rath and Stormを予定していたが、その前にアートブックを紹介しよう。この順番の方が話をしやすいと考えたのだ。もちろんアートブックにも貴重な情報が記載されている。
※ もともと個人的な覚書を最低限読めるように記事化したものなので、雑で味気ないのはご容赦ください。
設定集アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-
アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-は、ラース・サイクル全般の美術資料・設定集だ。
ラース・サイクルつまりカードセット「ウェザーライト」から「エクソダス」までのキャラクターや飛翔艦、ラース次元と要塞、ラースの種族・生き物について詳細な解説と豊富なイラストが掲載されてある。
詳細な情報が満載で、中にはDuelist誌の特集記事でも取り上げていないような情報も含まれている。だがその反面、Duelist誌にはあるがこっちには載ってない情報もある。
設定集アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-のファイレクシア情報
アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-ではファイレクシアに言及した情報が複数箇所で確認できた。
ラースとファイレクシアの密接な関係を知った現在の目で見ると、この本でのファイレクシアに関する言及内容はあまりにも少なく不明瞭だ。
内容を要約すると以下の通りだ。
- プレデター号とラースの要塞は同時代のファイレクシア製である。
- ファイレクシアンは無から実体ある世界を作り出せる機械、つまり流動石生産プラントそのものである「ラースの要塞」を建造し何世紀も稼働してきた。
- ファイレクシアンはラースの要塞を建造する時に、入り口を1つにして堅牢にするという防御の基本原則に従った。
- ラースのゴブリンである「モグ」はファイレクシアの技術で生み出された例の1つである。
既存の情報もあるがそれと並んで、ちょっと尋常じゃないことがサラッと書かれていた(赤字で強調した部分)。
次の2つの節で個別に取りあげていこう。
その1:人工次元ラース
ラースの要塞とプレデター号が古代のファイレクシア製であることは既出だ。要塞が流動石(Flowstone)と呼ばれる特殊な物質を生産していることもカードやDuelist誌の記事で既に解説されていた。
しかし、要塞の中核である流動石生産プラントが無から実体ある世界を作り出すファイレクシア製機械である、これは驚きの新事実である。
これを踏まえてDuelist誌の記事を改めて確認すれば、ラースの大地は流動石でできており、要塞は何世紀も(あるいは何千年も?)流動石生産を続けて、次元境界のエネルギー・フィールドを押し広げ、ラース次元そのものを拡張してきた、と語られていた。
これらの情報を合わせると、「ラース次元そのものがファイレクシアが創り出した人工次元」であり「ファイレクシアンは何世紀も次元の拡張を実行し続けてきた」という隠された真実が示唆されていたと判明する。
ファイレクシアのテクノロジーは人工的な次元を創り出せる。
MTG世界での「次元(Plane)」は一つの世界そのものを意味する。次元を創るとは天地創造を成し遂げる神の御業のようなものと言える。
旧世代のプレインズウォーカーは神のごとき力を振るえるとされ、その中には次元創造を成し遂げた者たちが存在している。しかし、ラース・サイクル時点では次元創造はまだ未登場だったはずだ。
その次元創造をMTG史上で初めて、しかもテクノロジーによって、成し遂げてしまった勢力ファイレクシアって一体……。いくらMTG初の連続ストーリーの巨悪だからって設定を盛り過ぎじゃなかろうか。
その2:種の改造
モグ(Mogg)はドミナリアの典型的なゴブリンと、牙と鉤爪を持つ未知の生き物から生み出されたラース次元のゴブリンである。この種族の誕生はファイレクシアの技術によるものだという。
ファイレクシアのテクノロジーは種族単位での改造・改良を可能とする。これも新事実である。
これまでの情報では、ファイレクシアン・デーモンは機械と肉体を融合させる秘密のテクノロジーに習熟している。1ヨーグモスの僧侶は有望なアーティファクト・クリーチャーを完璧へと進化を導く。2ファイレクシア産のドラゴン・エンジンは機械と肉からなるクリーチャーである(こういったテクノロジーの産物である可能性)。
以上のように、ファイレクシアのテクノロジーは「機械と肉体の融合」という方向性を示すものだったのだ。
ところが、ラース・サイクルでは機械化によらない品種改良や遺伝的改造を行っているようなのだ。モグはその一例に過ぎない……とすれば、ラース次元に生息する「エヴィンカーの手によって本来の姿から変容させられた奇妙な生物群」はモグ同様にファイレクシアのテクノロジーの産物なのでは?との可能性に行き当たる。それどころかドミナリア人のヴォルラスが異形のシェイプシフターに変身したのもおそらく同じテクノロジーが関与している……!?
ファイレクシアのテクノロジーは「機械と肉体の融合」というサイボーグ的な技術体系だけと思いきや、実は種族の改造・改良のようなバイオテクノロジー系もいける。
次元創造もテクノロジーでこなせるのだから、種の改造くらい朝飯前でしょう?とばかりに、ファイレクシアには新たな大いなる能力が加えられていた。
こうしたラース・サイクルで判明した(付け足された?)テクノロジーの数々は、これまでのファイレクシアという文脈を逸脱していやしなかっただろうか。
さいごに:不徹底な真相隠匿
以上でアートブックの紹介はおしまいだ。
ファイレクシアには「次元創造」と「種の改造」という驚異的な(とんでもない)テクノロジーがあると判明した。異界の地獄、デーモンと謎の魔王、機械生物、次元移動、サイボーグ的技術……これまでだって大概な数々の脅威に加えてさらに強力な要素が盛り込まれた。こうしてインフレ的に設定を盛られ続けて、肥大化していくファイレクシアの姿がいよいよ見えて来た。(個人的にはちょっと無節操だなとゲンナリしてくるけれど)
さて、最後に今回取り上げたアート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-とこれまでの公式ソースを改めて確認しよう。
このアートブックはラース・サイクル全般を包括的に解説する本ではあるのだが、この本においてもラースとファイレクシアをイコールで結びつけるような直接的な表現はされていなかった。
カードセット、専門誌記事、コミック、アートブック……これまでに確認したウィザーズ社の公式ソースはフィレクシアの存在をただ匂わせるのみだ。ラースではファイレクシアンの建造物とテクノロジーを利用している、ハッキリしているのはこれだけであった。
ここまでネタバラシを控えるのは、私にはかなり意外なことに思える。ラース・サイクル当時は「ラース=ファイレクシア」の関係を完全に秘匿していたのか、というと違うからだ。次回の内容を先に話してしまうけれど、短編集Rath and Stormではアッサリとネタバラシをしているのだ(しかも特に重要情報でもないようにサラリと出て来て深入りはされない)。
同時期のストーリー作品で公開してしまっているのに、総合的な資料本の方で隠す意図が分からない。当時のウィザーズ社は何をやりたかったのだろうかと当惑してしまう。
次回こそは短編集Rath and Stormを取り上げてラース・サイクルの範囲を完了できるはずだ……。→次回その9へ
では今回はここまで。
ファイレクシアの沿革の関連記事
- PCゲームBttlemageより。ファイレクシアの沿革その1参照
- Encyclopedia Dominiaより。ファイレクシアの沿革その3参照