大火槌の放火魔(Pyre-Sledge Arsonist)はカードセット「ニューカペナの街角」収録のクリーチャー・カードである。
つい先程まで、このカードの英語名を勘違いしていたのでその辺を記録しておく。つまり今回は個人的な備忘録的な記事となる。
そして記事の後半は、大火槌の放火魔から脱線した「おまけ」となっている(こっちの方が長い)。この「おまけ」は、カード名に「Pyre」が含まれるその他のカードに関するものだ。冗長な話と感じるだろうから、読み飛ばされても仕方ないとは思っている。
大火槌の放火魔の解説
Everything from damaged furniture to inconvenient corpses becomes fuel for Ziatora’s ever-burning foundry.
傷んだ家具から不都合な死体までなんでも、火の絶えないジアトラの鋳造所の燃料になる。
引用:大火槌の放火魔(Pyre-Sledge Arsonist)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
大火槌の放火魔(Pyre-Sledge Arsonist)はニューカペナ次元のヴィーアシーノ1である。
イラストを見るとカード名通りに、左手に携えた大鎚はヘッド部分から炎を吹き出している。この放火魔がいる場所は、フレイバー・テキストから察するにニューカペナの最下層カルダイヤ地区にある土建組一家の鋳造所だ。
土建組一家のボス、ジアトラの火の絶えない鋳造所では「傷んだ家具から不都合な死体までなんでも」燃料として燃やしてしまうのだという。そこで働くこのヴィーアシーノは土建組一家の構成員であろう。
大火槌の放火魔のカード名
このカードの和名は「大火槌の放火魔」、英名は「Pyre-Sledge Arsonist」である。
実は、私はこの「大火槌」という字面から英語のカード名を勘違いしていた。てっきり「Pyro-sledge」と書いてあると思い込んでいたのだが、落ち着いてよく見てみると「Pyre-sledge」だったのだ。「Pyro」と「Pyre」では大違いだ。
「Pyro」は単に「火」や「熱」の意味合いである。MTGでは赤のカード名でしばしば用いられており、「紅蓮」と訳されることが多い。
一方、綴りが似ていても「Pyre」の方は「火葬用に積まれた薪の山」を指した言葉である。MTG和訳史を紐解くと、この言葉は様々に訳されていて、定訳と言えるほどのものはない。「送り火」や「火葬」といった風に「薪の山」の方ではなく「火葬」という用途の方の雰囲気を汲み取った訳例が最も多いようではある。
大火槌の放火魔(Pyre-Sledge Arsonist)のカードには、「火葬用に積まれた薪の山(Pyre)」がそのまま描いているわけではないが、フレイバー・テキストを見ると「不都合な死体」を鋳造所で燃やすとあるので、比喩的な表現であると考えられる。
以上を踏まえ、「火葬大鎚の放火魔」などと解釈した方が、ちょっとだけ元の英語名のニュアンスに近くなるかもしれない。
記事の残りは全部「おまけ」だ。「おまけ」の方が本筋よりも大分長いのでそれはどうかと思うのだが。本当にすまないと思っている。
おまけ:その他の「Pyre」カード
大火槌の放火魔(Pyre-Sledge Arsonist)に興味を惹かれたついでに、過去のカードで「Pyre」が名称に含まれているカードを調べてみた。
紹介するカードが結構多いので一部省略することも考えたが、最終的に該当するカードの画像は全て引用することにした。
「Pyre」に似た綴りの「Pyretic(発熱の)」という単語は、どうやら派生語ではなく語源からして同じではないようだ(ただ綴りが似ているだけ)。したがって、「Pyretic」をカード名に含んだカードは今回は除外した。該当カードは発熱の儀式(Pyretic Ritual)と紅蓮の狩り手(Pyretic Hunter)の2種類。
「燃える」を意味する「Pyric」も綴りが似ている単語だが、「Pyre」との関連が確かめられなかったため除外した。該当は紅蓮のサラマンダー(Pyric Salamander)の1種のみ。
単語の一部に「Pyre」が含まれる「Empyreal」と「Empyrean」は、どちらも「天空」を意味する言葉であり、「Pyre」とは全く関係が無いため除外した。該当カードは崇高な飛行士(Empyreal Voyager)と天穹の鷲(Empyrean Eagle)の2種類。
「火葬」と解釈したカード
火葬のゾンビ(Pyre Zombie)はカードセット「インベイジョン」収録のクリーチャー・カードである。
これがカード名に「Pyre」が登場したMTG史上初めてのカードとなる。
安堵の火葬(Cathartic Pyre)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」収録のインスタント・カードである。
「火葬」と解釈したカードは、以上の「火葬のゾンビ」と「安堵の火葬」の2種類である。
「送り火」と解釈したカード
送り火(Funeral Pyre)はカードセット「ジャッジメント」収録のインスタント・カードである。
カード名の「Funeral Pyre」は英語としては「Pyre」と同じ意味となる(ちなみに似た表現の「Funeral Pile」でも同じ「火葬用に積まれた薪の山」を指す)。
また、MTG和訳で「送り火」と訳されたのはこれが最初となる。
英雄たちの送り火(Pyre of Heroes)はカードセット「カルドハイム」収録のアーティファクト・カードである。
送り火の落とし子(Pyre Spawn)はカードセット「イニストラード:真紅の契り」収録のクリーチャー・カードである。
「送り火」と解釈したカードは、以上の「送り火」と「英雄たちの送り火」、「送り火の落とし子」の3種類である。
「薪」と解釈したカード
薪荒れのシャーマン(Pyrewild Shaman)はカードセット「ドラゴンの迷路」収録のクリーチャー・カードである。このカードでは「Pyrewild」という言葉の一部として「薪」と訳されている。
「Pyre」を「薪」と解釈しているカードは、2022年6月現時点でこれ1種類のみのようだ。
「火」と解釈したカード
「火葬」「送り火」「薪」の以上6種類のカードは、「火葬用に積まれた薪の山」という意味から部分的に言葉を取ってきたことがよく理解できるものであった。
しかし、今度は「Pyre」をただの「火」と置き換えている例を紹介する。「火葬」「送り火」からさらに言葉を簡略化したものだ、と見做せないこともない。だから間違っているとまでは言えないのだが、確実に原語にあったニュアンスは欠落してしまっている。7種類が該当すると考えられる。
火の突撃者(Pyre Charger)はカードセット「シャドウムーア」収録のクリーチャー・カードである。
収穫の火(Harvest Pyre)はカードセット「イニストラード」収録のインスタント・カードである。
火の猟犬(Pyre Hound)はカードセット「イニストラードを覆う影」収録のクリーチャー・カードである。
「Pyre」を単純に「火」と置き換えたカードは以上の3種類だ。以下4種類は少し変化したパターンだ。
カードセット「カルドハイム」には「凍炎(Frostpyre)」という形で単語の一部として「炎」と訳されているものが2種類存在する。凍炎の秘儀術師(Frostpyre Arcanist)とセルトランドの凍炎(Surtland Frostpyre)の2種類である。
血焚きの精霊(Bloodpyre Elemental)はカードセット「アラーラの断片」収録のクリーチャー・カードである。
呪文焚きのフェニックス(Spellpyre Phoenix)はカードセット「イコリア統率者セット」収録のクリーチャー・カードである。
血焚きの精霊と呪文焚きのフェニックスの2種では単語の一部として「焚き」と訳されているが、「火」の解釈に含められると判断した。
「紅蓮」と解釈したカード
紅蓮心の狼(Pyreheart Wolf)はカードセット「闇の隆盛」収録のクリーチャー・カードである。
チャンドラの紅蓮獣(Chandra’s Pyreling)はカードセット「基本セット2021」収録のクリーチャー・カードである。
紅蓮心の狼とチャンドラの紅蓮獣では、なんと「Pyre」が「紅蓮」と訳されている。
「紅蓮」という言葉は、燃え盛る炎の色をたとえて使われることがあり、MTG和訳ではもっぱら「炎・熱」を意味する「Pyro」の訳語に用いられてきた単語である。
MTG和訳の慣例上、「紅蓮」は「Pyro」の定訳なのだ。だから、翻訳陣が「Pyre」を「Pyro」に勘違いした結果じゃないか?その可能性は大いにあると私には思えてならないのだ。
見方を変えれば、「火」解釈の延長上に「紅蓮」解釈があるとの解釈もできようが、MTG和訳に期待を裏切られ続けてきたのでもうそんな風に好意的に受け取ることはちょっとできないのだ。
さいごに
以上にて、大火槌の放火魔から始まった「Pyre」の四方山はおしまいだ。
自分としても話を大いに脱線していって、最後にまとめずに公式への不満を爆発させて〆る流れは大概だと思うんだけどね。
では今回はここまで。
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