ラミレス・ディピエトロ(Ramirez DePietro)はカードセット「レジェンド」で初登場したキャラクターであるが、26年振りの2020年のカードセット「統率者レジェンズ」に幽霊となった姿で収録されることになった。
本記事ではドミナリア次元の伝説の海賊ラミレス・ディピエトロについて解説をしたい。
追記(2022年7月24日):2022年9月9日発売のカードセット「団結のドミナリア」では、「語り継がれる伝説」という特別枠でラミレス・ディピエトロが新バージョン、略奪者、ラミレス・ディピエトロ(Ramirez DePietro, Pillager)として3度目のカード化されることになったため、その旨を新たな節を設けて追記した。また、小トー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)の方にもカード画像を差し替え、更なる解説を加えた。
追記(2023年7月16日):ビジュアルガイドでレジェンドサイクル1と2の年代設定が明確になったため、本記事中の記述を修正した。
ラミレス・ディピエトロの解説
Ramirez DePietro is a most flamboyant pirate. Be careful not to believe his tall tales, especially when you ask his age.
ラミレス・ディピエトロは最もけばけばしい海賊だ。奴のほら話を信じないように気をつけろ。奴の年齢を尋ねたときは特にだ。
引用:ラミレス・ディピエトロ(Ramirez DePietro)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳
ラミレス・ディピエトロ(Ramirez DePietro)はドミナリア次元の伝説的な海賊である。人間男性。
フレイバー・テキストとイラストによると、けばけばしく派手で、ほらを吹聴する人物である。特に年齢に関してのほら話に注意すべきだと言われている。
登場作品を考慮すると、ラミレスの活動はAR34世紀のジャムーラ大陸の南洋からAR36-37世紀頃の香辛料諸島まで確認でき、数世紀の長期に及ぶばかりか世界を半周するほどの広範囲にわたる。(余談だがラミレスに化けた偽者はAR37世紀初頭のマダラ地方にいた。)
「ラミレス」も「ディピエトロ」もスペイン風の名前である。ドミナリアには現実世界の様々な国や地方の名称が存在しているので、それ自体は珍しくはない(例:北欧風の北方大陸、ロシア風のヴォーデイリア、イギリス風のアイケイシア、トルコ風のオネイア、ドイツ風のパルマ、アラビア風のスークアタなど)。だが、スペイン風の名前はほとんど見ないものだ。
ラミレスの出身地はドミナリアのどこか語られていない。ジャムーラ大陸南洋で海賊家業を行っていたがスペイン風の名前から考えると、アフリカ風やアラビア風の支配的なジャムーラ大陸出身とはちょっと考えられない。
ラミレス・ディピエトロの長命
ラミレス・ディピエトロは異なる時代を舞台にした2つの小説シリーズに登場したキャラクターである。1そのせいでラミレスは3世紀にわたり海賊として活動する超人となってしまった。
これに対する一応の回答はレジェンドサイクル1中に存在していた。
小説Hazezonにおいて、ラミレスは「永遠の若さを保つ魔法の水」を飲んだと主張しているが、他者からはほら話と思われている。フレイバー・テキストにある年齢のほら話の件を作中で拾ったものだ。地の文でも「けばけばしい若造」とか「信用ならない相手」として描写されていているので、小説Hazezon時点ではただの「ほら話」として書かれていたと思われる。
だが嘘から出たまこと。作品間の整合性を取ろうとすると、おそらくラミレス本人の述べた通りに永遠の若さが妥当な説明となる。「永遠の若さを保つ魔法の水」と言えば、ドミナリアには同様の経緯で長命となったキャラクターが他にもたくさんいる(ジョイラやジョダーなど)。ラミレス・ディピエトロは図らずもその列に加わったのだ。
ラミレス・ディピエトロの幽霊
ラミレス・ディピエトロの幽霊(Ghost of Ramirez DePietro)はカードセット「統率者レジェンズ」に収録される、死後に幽霊となったラミレス・ディピエトロである。実に26年ぶりのカード再登場である。
イラストに描かれた外見はかなりスタイリッシュにブラッシュアップされている。
公式記事The Legendary Characters of Commander Legends, Part 1(公式和訳版)で明かされた新規設定によると、ラミレス・ディピエトロの幽霊はもう何世紀の間、ジャムーラ沖合に出没している。ラミレスは波の音が呼んでいると感じるたびに、新しい海賊船員として契約を結ぶ。死者に偏見のない海賊仲間の間では人気者である。
ラミレスは幽霊となった後でも相変わらずのおしゃべり好きで、ほらのような話を吹聴している。次のようなものだ。
- クルシアス船長(Captain Crucias)の私掠船悪口号の船員であったという話は今回が初出だ。→詳細はこちらを参照。
- 大トー・ウォーキ(Tor Wauki the Elder)と共にアディラ・ストロングハート率いるロバラン傭兵団と戦い戦死したという話はレジェンドサイクル1でのエピソードが元になっている。
- マダラの再征服の際にエデミ諸島間の輸送船を襲撃していたという話は眉唾だ。レジェンドサイクル2のエピソードと被るがその時のラミレス・ディピエトロは偽者であったはずだ。
- ハーフデイン(Halfdane)に殺された話はレジェンドサイクル2のエピソードだ。
- アーボーグのグウェンドリン・ディー・コアシー(Gwendlyn Di Corci)に打ち負かされた話は今回が初出になる。
レジェンドサイクル2の記述を信じられれば、AR3605年2に香辛料諸島沖でハーフデインに殺害されて幽霊となったことになる。だが、ラミレス本人は嘘か真か何度か殺されていると語っているので、もうどれを信じればいいか分からない。
略奪者、ラミレス・ディピエトロ
略奪者、ラミレス・ディピエトロ(Ramirez DePietro, Pillager)は、カードセット「団結のドミナリア」において「語り継がれる伝説3」という特別枠で収録される新バージョンのカード化である。
今回のラミレス・ディピエトロは生前の姿のリデザインとなっている。青黒という色やパワー/タフネスの数値が同じだが、能力は海賊船長としての雰囲気を強く押し上げるものに入れ替わっている。
ちなみに、「語り継がれる伝説」は全部で20枠あり、カードセット「レジェンド」の伝説のクリーチャー・カードから選ばれた20種類がリデザインの対象となる。初報の現時点では、略奪者、ラミレス・ディピエトロ初め3種類のカードが発表されている。残り17枠が誰になるか非常に気になるところだが、ラミレス・ディピエトロに関わりのある面々にも十分チャンスがあるはずだ。
例えば、レジェンド・サイクル1での相棒、大トー・ウォーキ(Tor Wauki the Elder)とか、レジェンド・サイクル2で命を奪ったとされるハーフデイン(Halfdane)、あるいは、グウェンドリン・ディー・コアシー(Gwendlyn Di Corci)も可能性がある。カードセット「団結のドミナリア」の発売が待ち遠しい。→全カード公開の結果を見ると、小トー・ウォーキとハーフデインはリデザインされたが、グウェンドリンは機会を逃してしまった。
ラミレス・ディピエトロのストーリー
ラミレス・ディピエトロは小説3作品に登場している。それがレジェンドサイクル1三部作の最終作小説Hazezon、そして、レジェンドサイクル2三部作の2作目小説Emperor’s Fistと最終作小説Champion’s Trialだ(ただし、レジェンドサイクル2の方は本人ではなく偽者である)。
レジェンドサイクル1
小説Hazezonに登場したラミレス・ディピエトロは外見はPhil Foglioがイラストに描いたそのままの姿である(髪の色も服装も何もかも)。小説HazezonはAR3336年と計算できる。
海賊船「人魚号(Mermaid)」の船長で、腹心に名射手トー・ウォーキ(Tor Wauki)がいる。自分自身や配下のことを「パイレート(pirate)」でなく気取って「コルセア(corsair)」と名乗るのが好みである(どちらも「海賊」のこと)。
ラミレス・ディピエトロは15歳くらいに見え、大声で軽口を叩きほらを吹き、酒をあおって決闘を行い、口八丁手八丁で相手を騙し女性を口説く。軽率で無軌道な振る舞いをするため、一見すると愚かな若造に思えるが、注意深く観察すると声色や目つきからは年経た風格が垣間見えることがある。真偽は不明ながら、ラミレス・ディピエトロ本人の主張によれば永遠の若さを保つ魔法の水を飲んだという。しかし、日頃の行いから嘘つきの無礼者と思われており、「孔雀のディピエトロ(Peacock DePietro)」4と人は呼ぶ。
作中では、ラミレス・ディピエトロは、アディラ・ストロングハート率いる海賊ロバラン傭兵団がジャムーラの南海のコルトス島(Island of Koltos)に向かう途中、人魚号で追ってきた。ロバラン傭兵団は飛翔船建造に必要なパワーストーンをコルトスにあるアルカーの墳墓(Alchor’s Tomb)から入手するのが目的であった(言葉を飾らずに言えば海賊なので「略奪」である)。
ラミレス・ディピエトロはアディラに張り合うように船を進め、アディラをからかい煽るように熱烈な愛の言葉を贈ってきた。実は、かつてラミレスとアディラは一度だけ組んで海賊業をこなしたことがあった。その時にアディラはラミレスの口説き文句にまんまと騙された苦い経験があり、それ以来ラミレスを嫌っているのだ。
こうして因縁で繋がれた海賊船長2人はアルカーの墳墓のお宝争奪戦を始める。もしラミレスの手にパワーストーンの山が渡ったなら、邪悪な皇帝ヨハン(Johan)に高値で売りつけるに違いない。争奪戦はラミレスが先に墳墓の谷に辿り着いたものの、最終的にはロバラン傭兵団に打ち負かされて、人魚号に積んである金目のものまで根こそぎアディラに奪い取られてしまうのだった。
…といったミニサイドストーリーがラミレス・ディピエトロの出番である。私見であるが、ラミレスやトー・ウォーキらは賑やかし脇役でしかなく、このプロット自体が蛇足で、レジェンドサイクル1の物語に特に貢献していないと感じる(重ねて言うがあくまで私見である)。
ちなみにラミレスの腹心トー・ウォーキはドミナリア史上に同姓同名の人物が複数存在しているキャラクターである(おそらく3人いる)。今作では海賊船「人魚号」の射手である。
レジェンドサイクル2
レジェンドサイクル2三部作の2作目小説Emperor’s Fistと最終作小説Champion’s Trialにラミレス・ディピエトロは登場している。ただし、今シリーズのラミレス・ディピエトロは偽者である。他者の姿に変身できるシェイプシフターのハーフデイン(Halfdane)がラミレスに化けていたのだ。
では本物のラミレス・ディピエトロはどうなのか?小説Emperor’s Fistでラミレス(偽)とジラ・エリアン(Xira Arien)の会話に断片的な情報が見つかる。
ジラ・エリアンは「ラミレスは死んだと聞いていた」と問うと、ラミレス(偽)は「俺は俺自身を2年前に香辛料諸島の沖合で殺したんだよ」と答え、ジラは「くずが。私が南ジャムーラで彼を見てから1年も経ってないぞ」と切り返す流れだ。
この会話に嘘が含まれていないなら、ラミレス(本物)は物語現在AR3607年5の2年前、AR3605年に香辛料諸島でハーフデインに殺されており、ラミレス(偽)が1年以内に南ジャムーラを訪れていたことになる。ただし、ハーフデインも本物に劣らず嘘つきであるし、他者に変身するには必ずしも対象を殺す必要はない、そのことだけは留意しておきたい(この時点で生きていた可能性)。素直に受け取れば、ハーフデインに殺されて幽霊になったのだろうけれど。
ちなみにこのシリーズでも射手のトー・ウォーキ(Tor Wauki)は登場している。今回はラミレス(本物)とは全く関係のない人物である。むしろラミレス(偽)とは直接対決することになるキャラクターだった。
こちらのトー・ウォーキは「後の時代の方・若い方(younger)」という意味を込めて小トー・ウォーキ(Tor Wauki the Younger)と呼称して区別されている。この呼称は小説時点にはなかったもので、カードセット「団結のドミナリア」の「語り継がれる伝説」特別枠でカード化された際に公式に名付けられたものである。ところが、和訳版が「若かりしトー・ウォーキ」となっており、これではトー・ウォーキという人物の若い頃の姿という意味になってしまっている。信じられない酷い誤訳だ。
ラミレス・ディピエトロのトリビア
公式記事The History of Legendsによると、ラミレス・ディピエトロはカードセット「レジェンド」のデザイナーの1人であるRobin HerbertのD&Dのキャラクターが元になっている。レジェンドにはこうした制作者たちのD&Dのキャラクターから発想を膨らませたカードがある程度含まれている。
2008年のエイプリルフール企画で「Duel Decks: Pirates vs. Ninjas」が発売されるとアナウンスされた(該当記事リンク)。もちろんジョークだったが、この時にラミレス・ディピエトロの新イラストカードが作られている。
元のPhil Foglioのイラストに比べて少し薄汚れた現実味のある海賊に変わってしまった。フレイバー・テキストはアメリカの作家マーク・トウェイン作「ミシシッピの生活」からの引用である。せっかくの新規フレイバー・テキストだからストーリーや設定を深掘りする内容であった欲しかったものだ…。
では今回はここまで。
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- ビジュアルガイドでレジェンドサイクル2がAR3607年と定まった。その2年前なのでAR3605年。
- 原文は「Legends Retold」なので、本来は「新たな形で語り直された伝説」くらいの意味合い。「語り継がれる伝説」という和訳はかなり意味がずらされている。
- 「孔雀」を意味する「Peacock」には「見栄っ張り(な男)」という意味がある
- ビジュアルガイドによれば、レジェンドサイクル2の最後でマダラ帝国皇帝ニコル・ボーラスが死亡したのがAR3607年とある。